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侍の村-2

 レインの寝ていたベットの上に付いてある木と木の隙間から太陽の日差しが差し込んでいた。その差し込んでいた日の光がレインの顔を照らしていた。寝ているときは流石に邪魔になるため仮面や装備などはしていないため、布団を除けてしまえばズボン一枚だけ履いている状態になっていた。

 日の光で目が覚めたレインは両目を擦って起き上がる。昔のレインには無かった筋肉が伸ばされて分かったが、世間一般で細マッチョと言われる筋肉だ。


「ふわぁ〜。今は何時でしょうか?五時に起きないと仕事に間に合いませんよ」


 現在の時刻はこの世界で朝の六時。レインは起きて早々寝ぼけていた。いや、現実世界でのブラック生活が長かった事と異世界に来た日数が短かったせいで一時的にだが異世界に来た事を忘れさせていたのだ。

 だが、それもすぐに現実に引き戻されるがレインはいったて冷静だった。アイテムボックスの中にしまってあった装備品を一瞬のうちに装備する。これは異世界に来てもテラセルドと何も変わってはいなかったものだ。アイテムだった〈竜の干し肉〉を口に放り込むと仮面を付けて立ち上がった。


「……美味しいですね」


 テラセルドでは味の再現は不可能だったため、味が分からなかったが今食べてみると〈竜の干し肉〉はレインが今まで食べてきた中で上位の美味しさに組み込められるだろうと思うほど、それは美味しかった。

 その余韻を楽しみながら家のドアを開けて外へと出た。こんなに朝早くだというのにこの村は昨日の昼のように賑わっていた。この村には人数が多いというわけではない、せいぜい三百人くらいの村だろうがその一人一人に仕事があり休むことなく働いていたのだ。それはレインにとっては共感さえ出来る。

 レインを見ると村の人達は嫌な顔せず挨拶をしてくれる。そんな挨拶にレインもつい喜んでしまい少し大きな声で挨拶をしてしまう。少し恥ずかしいと思ったが気分が良いのですぐにそんなことは忘れてしまう。


「あれは朱鳥さんでしょうか?こんな朝早くから走って自分を鍛えているのでしょうか……他にも走っている人がいますが、あれはいったい何でしょうか?」


「あれは道場で鍛えている捜索隊の新入りだよ」


「聞こえてましたか?」


「そりゃもちろんさ!ハッハハハハハ」


 レインが呟いていたことに反応して答えてくれたのは、昨日の店で女将と呼ばれていた女性だった。近くにいたのかレインの呟きを聞いてた、それにレインはなぜ近くに居るのに気配を掴めなかったのかっと疑問に思う。その理由は異能スキルに慣れていないためだった。


「朱鳥さんは女性なのに頑張っているなと思いまして」


「……あの子は可哀そうな子なんだよ」


「可哀そう……ですか?」


「そうなんだよ。幼い頃に母親が目の前で魔物に殺されて、今じゃ本当に心を開いてくれるのは似たような境遇に合った巫女様だけなんだよ」


(やはりこの世界での命は軽いのでしょうね。巫女……の使える魔法は知っておきたいですが、今聞けば怪しまれる可能性がありますね)


「じゃあ私は仕事があるから何か知りたいことがあるなら、この先を真っ直ぐ行った所に道場があるからね」


 そう言い残すと女将は自分の店の中に入って行った。

 レインはする事も無かったので女将に言われていた道場に行こうとしたら、後ろから声がかかり振り向いて見るとこの前助けた男と巫女、老人が来ていた。レインは会ったことのなかった老人の方に目が行ってしまったが別に敵対心が一切感じなかったため待ってみた。その感じていない敵対心だってレインが強すぎるために敵意を敵意と感じていないのかも知れないが。


「ふむ。すまんな、こんな朝から話しかけってしまっての。助けてもらった礼を言いたかったんじゃが……昨日は何かと忙しがったんじゃ」


 その老人はボサボサな髪と髭を伸ばしており、顔には長く生きた証のしわが大量に作られてあった。それでも目は鋭く鍛えられた戦士の目だ。和服は少しだけ使い古された老人のようになったボロボロの和服で、腰には普通の刀ではなく皮で飾っていない聖柄の太刀を架掛けていた。この世界では聖刀老白と名高い刀だが、レインはそれを知らない。いつでもレインを攻撃できるように腰を落としていたが、それにはレインは気づいていた。だからこそ、レインは何もしない。


「いえいえ礼なんて良いですよ。それに村に案内しただけで結構ですのに」


「何を言うんだよ!仲間があんたのおかげで助かったんだ、案内だけじゃこっちの気がすまねぇ」


「その通りです。私は病に倒れていましたが、この人達が持ってきてくれた花がなければ多分ですが……死んでいました。それに私の隊を助けてくれたお礼をさせてください」


 遠くで見た時には分からなかったが、まだまだ幼さも残る顔つきで黄金の髪に黄金の目は片方が紫色に煌めいていた。唇はふっくらとしており、昨日会った朱鳥とはまた別の顔立ち、魅力というものがそこにはあった。黄金の髪を腰の辺りまで伸ばしており、胸はその少女の年齢には似合わないほどに膨らんでいた。そんな少女に纏わりつくような巨大な魔力は職業で特定の魔法職一つだけだということが分かる。

 隣りについている男はこれも戦士の顔つきではあるが、目の前にいる老人には歯向かうこともできずに倒されてしまう差があったが、それでも巫女の隣に居るという事はこの村ではそこそこの強さなのだろう。助けた時にリーダー的存在だったのは、この男だったからで予測したに過ぎないが。


「俺は別に助けましたが、お礼をされるようなことはしていませんよ。それにこの村に着いてこれただけで満足していますから」


「そうか……しかし、こちらもお主に話したいことがあるんじゃが……良いじゃろうか?」


「食事してないので、その時なら」


「そうか、そうか。ならわしの家で食べながら話をするとしよう」


 三人が連れてきた場所は道場のすぐ隣にある老人の家だった。朱鳥、その父とこの老人が住んでおり、その他にはお手伝いさんが家事をしてくれているそうだ。男はこれから自警があるそうで帰って行ったが、巫女様の方は自警の方には行かなかった。

 巫女はレインの仮面の中を覗き込むように見ていたが、個室まで入って行くと何もなかったかのように椅子に座っていった。老人は刀を机で支えるように置いて、すぐに抜けるようにしていた。

 それに対してレインは堂々の構えといった感じで、刀の持ち手を老人の方に向けて机の上に置いた。それを見た老人の眉間がピクリと動いたが、他には何も起こらなかった。


「遅れてしもうたが、わしの名前は竜牙と申す、旅人殿に話しかけられた男の父親じゃな」


「私はフールと申します」


「俺の名前はレインと言います。この世界を旅している者と思っていただけたら幸いです」


 その言葉を言った時にレインを見る目がより怪しい視線を向けているのが強くなったのが分かった。そして、もう一つの視線は殺気にも似た視線を巫女が向けていたのがレインには気が付いた。

 竜牙も気付いてそれを止めようとしたが、それよりもレインの方が喋るのが早かった。


「俺に殺気を向けるのを止めてもらえませんか?」


「その耳に付けているマジックアイテムに私は見覚えがあるんです!それを何処で手に入れたんですか?」


 まるで人が変わったような急激な変化だった。

 レインは仮面と同様にピアスをアイテムボックスに入れ忘れていたことに気がついたが、巫女が言った言葉の意味が分からなかった。いや、完全に分からなかったわけではない、朝に話しかけられた時に「似た境遇にあった」と言っていた事から誰かの形見に似ていたのだろう。それでレインのことを聞かずに言うのは不快に思うだろう。


「残念ながら俺の持っているのはダンジョンで手に入れた物です。勝手に自分の物にするのは良いですけど、それを口に出さない方が良いですよ?」


「そ、その証拠はあるんですか!!」


 竜牙はこの行いをすぐに止めようとしたが、それよりも早くにレインが机の上に下位回復ポーションをアイテムボックスから叩きつけるように出した。


「これで信じてまらえましたか?」


「そう……ですか……」


「フール、助けてもらった旅人殿に対してそのような口を訊きおって、一度外に出て頭を冷やして来なさい」


 そのポーションを見て虚ろになったフールを竜牙が無理やりに部屋から出した。とぼとぼと――何か魂が抜けた抜け殻のように――フールが歩いて部屋から出ていった。

 二人の空気は最悪といった方が良いのだろうか、レインが話をしなければこの空気を脱することはできないだろう。


「すまない。そのような高価な物まで出したくはなかったではあろう。彼女はわしらの仲間、つまりは当時捜索隊だった、裏切り者が彼女の両親を殺して逃げて行きおったのだ。あれはわしらの恥だ、そして、あのような口を訊いたのはわしらの責任じゃ、だから彼女が行ったことを許してほしい」


 竜牙はその年老いた身体に鞭を打つように立ち上がり額を床につける。それは土下座と言われる最上級の誤りと言っていいほどのものだった。その目には大粒の涙をこらえていた。

 それを見たレインは昔の自分と掛け合わせてしまい、同情という言葉が頭の中を過ってしまい、少しだけレインはほくそ笑んだ。


「大丈夫ですよ。そこまで怒っていませんし、頭を上げてください」


「すまない、本当にすまない」


 竜牙が頭を上げた時くらいに部屋のドアをノックする音が聞こえた。入ることを許可すると、入ってきたのはお盆の上におにぎりを置いた物をフールが持ってきていた。

 レインと目があうと、小さく――ペコリという音が合いそうな――お辞儀をすると、それを机の上に置いた。


「これは小屋の方で食べても良いですか?」


「あ、はい。あの先ほどはすいませんでした。勝手な判断でレイン様の物を自分の物って言ってしまい……。それにその指輪や回復ポーションなんかも、その高価なマジックアイテムを見ればレイン様が手に入れたなんて分かりますからね。あの何処かの貴族の出なのでしょうか?」


 ここまで言われたレインは自分の恥ずかしさでいっぱいになった。旅人が高価な指輪にピアス、仮面とするわけがないだろうと、この世界での常識を知らないのなら全ての装備を外せばいいのだが、それを忘れてしまうのは老化――そこまで年を取っているわけではないが――のせいだろうと考えてしまった。ただ単に馬鹿なだけかもしれないが。

 しかし、そこまで考えたらレインは一つの言葉が気になった。


「そうではないですけど、マジックアイテムとは何ですか?」


「ん?マジックアイテムとはですね、普通のアイテムなどに魔力を含んだその辺では簡単に手に入らないような希少アイテムなんです。特に凄いのが王国にある三宝と呼ばれるマジックアイテムでッ!」


 フールはそこまで言うと顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。それを見た竜牙とレインが笑ってしまい、より一層フールの顔が真っ赤になっていくのが分かった。

 その後は一般的な話をしたりと三人の仲は深まっていった。その話の中にはレインの旅の話もあったが、それは一人キャンプの話なんかで誤魔化したりしていた。その話の中でアイテムの話も聞いていたた。


(まさかアイテムなんかの質がゲームの時よりも落ちているとは、あまりゲーム時代のアイテムなんかは出さない方が良いですね。特に俺がいつも装備してるやつなんかは出さないで正解でしたね。彼女のように魔力が見える人間には気づかれますからね)


 レインはこの村を出てから何をするかの順位などを考え込んでいる内にすでに夕方くらいになっており、貰ったおにぎりを食べていた。その時には夜になっており、いつもの装備にしてバレないように魔法の〈飛行フライ〉を使って飛んだ。上空を飛んでいる間に雲を越えて月の全体が見えている場所まで飛んで浮かぶ。パタパタとレインの装備が風になびかせていた。


「魔力、魔力ですか……」


 そんな言葉をレインが言ったその時だった。レインの異能スキルが〈魔力操作〉で大きくして暴走に近いことをさせてみたが、まるで自身の魔力に入った圏内は自在に動かせそうな気分になった。いや、事実やろうとすればレインなら出来るだろう。ただし、この世界でこの力が使えるのは魔法師団級、冒険者で言うところのBランク冒険者ができる芸当だった。

 しかし、レインの魔力は普通の量ではなく一万を超えているため、その莫大な魔力がSランク冒険者でも出せないものがそこにはあった。

 その自身の魔力に気にしていたレインはその遥か上空を飛んでいた豪炎龍(アストラルフレイム・ドラゴン)に気付くことはなかった。

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