侍の村-1
レインは上空を飛んでいた、それでも上を見上げると雲一つない夜空にキラキラと輝く星がある。そのどれもが酷くなってきている公害に侵された地球では見れることができないものだ。
ステータス、アイテムボックスを画面として見ることができるが、ログアウトも課金ガチャなどもない本当の異世界に来たのだ実感させられる。困ることといえばゲーム時代のお金が使えるかどうかだが、それを今確かめることはできない。
異能を発動させる、〈予知〉がゲーム時代では考えられないほどより高性能のものへと進化しているのがわかり、自分の体を動かすように使える。
技を発動させる。その中でも被害が出ないように〈一刀両断〉を使うと、ゲーム時代と変わらずといったところだが、自分が動いたという感覚がある。
魔法を発動させる。〈原初の力〉を発動させると、自分の魔力が減っていく感覚、身体から力が湧いて出来るような不思議な感覚がレインを刺激する。
「無詠唱でも使えますか。異世界、俺たちが居るという事はもしかしたら他のプレイヤーも来てるかもしれませんね。特に三バカには来ていてほしいですが、まずは情報ですね」
スピードを上げて飛んでいく、それでも空気抵抗なく――風は吹いてないためわからないが――それだけでも魔法の素晴らしさが自分の中で何段階も変わっていくのがわかるほどだ。そして、この格好では目立ってしまうと今着ている装備を軽装備に変えていく、その上に革製のローブを纏う、刀も普通の鉄のものへ変えて今着ているものはアイテムボックスにしまう。
レインが山頂から〈飛行〉で飛んでいき、上空を飛んでいる間に時間も経ち日の出が見えてきていた。飛んでいて気が付いたら、次の日常が始まる。そんな神秘的な光景は心が躍ってしまうだろう。
「眩しいですね」
左腕で太陽から放たれる日光を防ぐが、それでも夜の暗さに慣れていたため目を開けるのに数秒掛かる。そして、慣れてきた目を開くと絶景としか言いようがないほど輝いていた。
「こんなに綺麗だったんですね、日の出とは」
丸く金色に輝く日の光は、辺りを照らし、輝いて出てきていた。それは公害に侵されてしまったため見れなくなった綺麗な太陽だった。いや、レインの世界の太陽は何も変化はなく、雲のせいで見えなくなっていたのだがレインは知らなかった。
レインはそれを少しの時間眺め終えると〈飛行〉で飛んで行く。飛行も慣れてきた頃に森に隠れるように作られていた集落、村のようなものを見つける。驚かせないために少し離れた森で降りると、腰に手を伸ばし背筋を伸ばす。
「ふぅ、さて行きますか」
レインが森の中を歩くこと数分、金属と何かの衝突音や力のこもった攻撃による音が聞こえてきた。
レインが駆け出して行く先はやはり戦闘中である場所だ、レインはその戦闘をしている者戦闘達を助けるつもりでいた。その方が恩を売れて話を聞きやすくなるだろうという考えのもとでだが。
「此処ですか……」
大鬼と四人の男が戦闘を繰り返していた。その四人は和服を着てその上に鉄の装備を装着して、手には刀を持っていた。対する大鬼は棍棒だけだが、四人の方が押されているようだった。それでも魔物とのステータスが開いているが、四人で持ちこたえているのは凄いことだろう。
大鬼が棍棒を振り回すと、四人はそれを避けて攻撃しようとするが大鬼の左腕の強烈なパンチが一人の顔に当たる。大鬼の力は人間の何倍もあるため殴られた男は後方へと吹き飛ばされる。
「草明!」
殴り飛ばされた男の名前だろうを叫んだ男にも、後ろから大鬼の棍棒で殴られると一瞬で意識を刈り取られて気絶してしまう。そして、残り二人を見つめるとオーガは勝ち誇った笑みを見せてジリジリと接近して行く。それに気が付かれないように少しだけ近づくと、大鬼へと走っていく。
「援護しますよ!」
レインはすぐに走り出すと、刀を大鬼の左足の関節へと突き刺す。バランスを崩した大鬼が倒れこむが、その人外の腕力ですぐに起き上がろうとする。そのため刀が折れないようにすぐに抜き取ると、後ろに後退する。
「今のうちに攻撃するぞ!」
隙を突いた二人の攻撃が大鬼の頭に入るが、硬い頭蓋骨によって血が出るだけで止まってしまう。
レインも次は右足の関節に刀を突き刺すと捻る、それによって届かなかった筋肉にまで刀の攻撃が通る。大鬼の捻られた皮が裂けてそこから血がドクドクと出始める。
「グォォォ」
痛くても叫ばなかった大鬼が雄叫びのような声が森を木霊する。痛みに耐えれなかった大鬼はそれでも動き出そうとするが、前にいた二人が頭に技の〈一閃〉を叩き込んで絶命させる。
(一閃ですね、ん?)
レインは自分が自分ではない気がした。昔の自分とは違い感情の抑圧、枷が取り払われたような気分。
この力があるからなのか大鬼を怖いとも思わず、殺してもそれが当然だという言葉が頭の中で浮かび上がる。レインは初めて自分の損失を感じ取れた、損失したのは感情だけではない通常の人間だった頃の力などもそうだ。だが強大な力とはそれだけで人を酔わせる。
(もうすでに人の力は超えてしまいましたか、ですが面白いですね。この力でもっと遊んでみましょうか)
「助かった、すまない」
「あ、いえ、別に偶然通りかかっただけですから」
一人がレインに話しかけてくる。残りの一人は他の二人の状態を見ていた。一人は気を失っているだけだが、もう一人は回復させないと動けないだろう。
だが、ここはあえてあの男がどう動くのかをレインは知りたくなった。これで一般常識の一つが学べるだろう。
「どうかしたか?」
「いえ、この辺りに村があるんですか?」
「知らないで来たのか?」
「旅の途中でして、だから偶然戦っている時に遭遇したんですよ」
旅という言葉で本当に偶然現れたということに信憑性を持たせることでその言葉が本当だと思わせ、自分が旅のせいで何のアイテムを持っていないように見せる。
「そうか……なら、村まで案内しようか?」
「良いんですか?」
「助けてもらった礼だ、付いて来くれ」
二人がかりで頭を打たれた男の両手を肩にのせて引きずるように連れて行こうとしていた。
レインは驚いた怪我人にこんな扱いをしても良いのかと。いや、これがこの世界では当たり前なのだ、直すものや怪我人を運ぶ台車のようなものが無ければ引きずってでも連れ帰る。
(下位ポーションでも渡せばよかったでしょうか……)
怪我人を運んでいたせいで少しだけ時間が長引いてしまったが、村に着いたようだった。
村を囲んである柵の門だろう場所には何人もの人集りが出来ており、着いた瞬間に誰かを呼びに行く者、こっちへと来る者がいた。
「勝手に行くなんて何考えてんだ!」
四十代くらいの男が和服を揺らしながら叫んでいた。腰には名刀だろう刀を差し、顎髭を伸ばしたダンディなという言葉が似合いそうな男、髪をボサボサにしておりその目は歴戦のそれを感じるものがある。彼が着ている和服には龍の刺繍が縫われてあった。
「すいません」
「でも、見てください。これを」
怒られた男の布でできた袋を開けると赤い花を出していた。レインは見たことはないが、周りの反応から見ると凄いものだろうと予測する。
その話も終わったのか、怒っていた男がレインを見る。それは敵を見る目では無いものの観察されているような嫌な感じ、自分の奥底を見られた視線というべきものを感じた。
「なぜ、仮面を付けているのだ?」
レインは言われて気付いた仮面の存在を、目の前に何も無いかのようなフィット感だったため付けていることさえ忘れていたのだ。今仮面のことを誤魔化せば余計に怪しまれて情報どころではなくなってしまうだろう。
「火事……や戦いの傷でボロボロになっていて、人に見せれるものじゃないんですよ」
咄嗟に出てきた言葉、これで怪しまれることも無いと思い安心する。それと同時ににこんな言葉が出てきた自分に褒めてやりたいくらいだと自画自賛する。
「そうか、それはすまない事を聞いた」
「いえ、別に慣れましたから」
「誰かこの人に村を案内してやってくれ」
男が後ろを振り向き言うと、十六くらいの少女がレインの前まで来た。しっかりとした顔立ちで腰のは木刀を下げており、和服は着ているが筋肉があるのが分かる。さっきまで自分を鍛えていたのか汗を掻いており、その汗を手に持っていた手ぬぐいで拭いていた。黒髪、黒目で髪は短く切っており、どんな修行をしていても邪魔にならないようにしていた。
その少女はレインを怪しんでいるのか、レインの強さを図っているのかジロジロと見ていた。
「こっちに来な」
「レインと申します」
「私は朱鳥って言うわ。別に村を案内するんだけだから、そんなに畏まらなくても良いのよ?」
「畏まっているわけでは無いんですが、色んな事をしているとこの喋り方が慣れてくるんですよ」
それだけ言い終わると朱鳥が、そうなのかと言い村の方へと歩き出した。それと同じくらいに他の人が動き出して自分達の村の中へと帰ろうとしていた。
何人かは柵の周りを見て周り魔物が来ていないかを調べるために残っていた。いくら柵が有っても魔物が来たらあまり意味をなさないためらしい。
それを聴こえているのはレインの人外的なステータスや異能にあった。レインの異能はこの世界でも上位の存在も持っていない異能もたくさんあった。
「ここら辺は旅人もいなかったしね、空き家になるけどそこで良いなら貸せることが出来るけど、どうする?」
「俺はそこで構いませんよ」
「そう。なら、此処よ」
もう長年も使っていない古小屋のような家、以前は一人暮らししていた老人が居たそうだが、五年前に死んでからは誰も使っていないらしい。家具などはそのままにしているから使っていいらしい。
「食事ができる場所はありますか?実は食べ物が此処に来るまでに少なくなってしまいまして……」
「ん?顔見られて良いの?」
「え……あ、個別の部屋とかは無いんですか?」
「そんなの無いわよ。前までは冒険者が来てたんだけど、ここ遠いからもう来てないし、貴族も此処らには居ないしね」
「そうですか」
レインは自分の考えた設定を忘れかけていた。それでも、なんとか誤魔化すことができた。人間適当に考えたものにはボロが出やすいと言うが、まさにそれだった。
レインは元々運が悪い方だったため、大切な時に失敗したりするのが多かった、それでも持ち前の営業能力で持ち直してきた。それもレインが過ごしてきた日々のブラックな毎日がレインの能力を伸ばしてきたとも言えるだろう。
「あの空き家で食べれますか?」
「女将に聞いてみる。中で座って待ってて」
食堂のドアを開けると何人か人がおり、カウンターには筋肉質な女将が立って居た。ニコニコとは笑っているが、朱鳥が女将に話しかけると柔らかな笑みになっているため初めのが営業スマイルだというのが分かった。
レインはその女将を見ながら昔の自分を思い出していた。
(昔は俺もあんなんでしたっけ)
「おう!あんた旅人だってな、分からない事があったらなんでも聞けよ」
レインが考えていた時にさっきまで居た男が話しかけてきた。持っていた水の入れた木で出来たジョッキを机の上に置いた。
聞くとレインが助けた男達は普段巫女と言われている女性と一緒に森へと探索している事、その巫女が病に倒れて治すにはあの赤い花が必要だったことが分かった。他にも此処には自分を鍛えるための道場なのがあるらしい。
今案内して貰っている朱鳥はあのダンディな男の娘さんだというのも分かった。
「ありがとうございます。勉強になりました、後気になることと言えば忍者って知っていますか?」
「なんだそりゃ?聞いた事がないな」
「そうですか……それとあなたは武士ではないのですか?」
「それは私達で、その人は農夫」
話終わったのか、手には何かが包まれた風呂敷と朱鳥がつまらなさそうに話掛けてきた。レインからしてみればどちらも強くなさそうなのだが、彼女達には力の差があるのだろう。そう思い〈看破〉でステータスを覗き込んだが、それほど強いとは思わなかった。
それが終わるとだいだいは案内し終わったと言って帰っていこうとしたら、村の道の方が騒がしくなってきた。まるで村人達が何かを見たくて集まっているような、そんな感じで円の中心に村人達が群がっていた。
「巫女様が治られたらしいぞ」
それが聞こえた時に朱鳥がその場所へと駆けて行った。それに着いて行ったら白い和服を着た少女、その髪色は金とここの村の人ではなさそうだったが、朱鳥と同じ年齢ぐらいだろうとは思えた。その少女から魔力のようなものを感じ取った。それはレインがこの世界に慣れてきたため感じ取ったのかもしれないが、似たようなものを魔王達が居た山でも感じていた。
(ここの村人は全員が黒髪、黒目だからおかしいですね。捨て子かなんかでしょうか?だとしたら彼女はこの村には少ない魔法使いなのかもしれませんね)
正確には魔法使いはこの村には一人しか居らず、その彼女も魔法使いではなく巫女と呼ばれていた。
その後は何もなく、日が降りているだけになった。空き家に戻ると貰った食事を食べて、机があった場所の近くの椅子に腰をかける。〈地図〉を開くと此処までに来た道のりからこの村まで載っていた。それは魔法で展開しなくても記録されていたことを表していた。
「能力など見たいですね。〈看破〉で見るだけなく道場って場所も行ってみたいですね」
辺りに気配がないことから警戒はしていないが、油断をしているわけではないので大丈夫だが、レインは一つの聞いた話を思い出して考え込んでいた。それはあの農夫から聞いた忍者についての事だった。
道場に何人かが集まって来て話合いをしていた。そこにはお酒と明かりを置いており、集まってきた者は座布団の上に胡座をかいて座っていた。老人に、レインに門で話しかけてきたダンディな男、朝から酒を飲んでいた男と様々だった。
その誰もが異常なほどに空気を張り詰めている様は戦場を知っている戦士。それも度を超えた死戦を潜り抜けてきたような覇気があった。
「お主達はあの旅人についてどう思う?」
「親父、俺は別にどう思ってもいないが?」
髭を伸ばしきった老人がレインに案内役を遣わした男に睨みつけた。それは熟練の兵士、武将の気迫にも似たそれを帯びていた。すると、それに臆することなくレインに話しかけてきた男が喋り出した。
「そのレインだったか、忍者の事を聞いてきてたな。俺が上手く誤魔化したが多少のことは知っているようだったな。うちの長も気にかけていたな」
「そうか……なら、あの旅人が此処を出て行くまではバレないように気をつけるんじゃよ?」
「分かっていますよ」
「俺は巫女様の方が気になるが……」
「それについてはわしに任せておけ」
この話合いはすぐに終わったが、飲み会としては朝まで続いたそうだ。その後にそこで飲んでいた三人組は村の女衆にずっと怒られたそうだが、レインの耳に届くことはなかった。