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星なき夜に
濃紺の空には星ひとつなく漆黒が全てを覆っていた。
肌を通り抜ける風も冷気を含んでいる。
椿は空の見える露台が気に入っており、よくここで晩酌を共にしていた。
他愛もないことを話し、触れ合う。
賑やかだったこの場所も、今は虫の声すらせず耳が痛いほどの静寂で包まれている。
キカは猪口の酒を一気に煽る。
(ここだけじゃない―――)
椿のいない火の宮は明るさを失ってしまった。
寒々とした空気が流れ、昼でもひっそりとして廃墟のようにも感じられる。
実際には椿の身体はある。
しかし、笑う事も話す事もない。
椿であるはずなのに、椿が感じられない。
使役にすることを選んだのは世界を救うためでもあるが、キカ自身が椿を失う事に耐えられなかった。
きっと椿が闇の巫女ではなくてもキカは同じ事をしただろう。
自身で選んだ道のはずなのに後悔と虚しさが絶え間なく押し寄せてくる。
それをかき消すようにキカは再び酒を煽った。
「―――そんな飲み方しちゃダメだよ。」




