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「椿ちゃんっ、椿ちゃんっ!」
黒髪の娘に縋りつく彩芽に取り抑えていた衛兵たちも戸惑い動けない。
その衛兵達は後方から来る人物に気付くと次々に道を開け、床で抱きあう彩芽と椿に向かって1本の道が作られた。
その中を壮年の男性が歩いてくる。
白い長いローブの上から掛けられた、金の刺繍が施された紫のストラは神官の最高位を表している。
「これは巫女様、炎帝様、何か御用でもございましたか?」
「何故この娘が神殿にいるのか説明してもらえるのだろうな、神官長。」
「この者は闇の者の詮議をかけられております。それ故、身柄を拘束致しました。」
威圧するキカに臆した様子もなく平然と神官長は答える。
「証拠はあるのか?」
「・・・いえ、未だはっきりとはございません。」
「そうか。」
キカは未だ抱き合う2人に近づき彩芽に椿から離れるよう伝えると椿の身体を抱き上げた。
「この娘の身柄は俺が預かる。」
驚いて足をバタつかせる椿を視線一つで静まらせると神官長に向き直って言いきった。
「炎帝様ともあろうものが秩序を乱すなど感心いたしませんぞ。」
「何かあれば全ての責任は俺が持つ。アヤメ、行くぞ。」
「は、はい!」
踵を返し神殿から出て行くキカを止めようとする者、止められる者は誰もいなかった。