第十四話 もりそばに海苔が乗っているのを、ざるそばという。
リンナ達に倒されたもりそば本人は、自分のキャラクター「もりそば」がリンナ(ハル)に倒され制御不能になってしまったところ、別のキャラクターを使い「もりそば」の行方を追いかけていたという。もりそばとハル(リンナ)らしきキャラは数時間もの間大岡川スラムのバー「スラッシャーズ」で何やらじっとしていたので、早期に見つけられたのは不幸中の幸いといったところであったと後に彼女は語る。
そんな感じで倒れているもりそば本人から、またリンナ達にコメントが来た。
「せっかくなんで、仲間に入れてもらってもいいでしょうか? パーティ組みませんか?」
リンナ達は特に断る理由もなかったし、仲間は多い方がいいと判断。その申し出を了承し、もりそば本人をパーティに迎え入れた。
「ふう、やっとあなた達とマイクで会話できるようになったわ。ありがとう!」
パーティ申請が受け入れられ、もりそば本人の声がリンナ達に届くようになった。もりそば本人は、自身のキャラであったもりそばをチラリと見た。嫌というほど見知ったキャラクラーだが、どこかすでに自分のものではないような感覚があった。もはや他人というべきなのか。特に、リンナと呼ばれるキャラ、これは先程のハルというキャラなのか? また少し雰囲気が違うような……? それにしても、もりそばもこのリンナも、普通のゲームのキャラでない雰囲気を持つことは共通していえることであった。
「おおっ! あなた見た目は男の子?なのに、声は女の人なのね……」
リンナはもりそば本人の声と見かけに少し違和感を感じていた。しかも、キャラクターのネーム表記は“もりそば”ではなく“リリカ”となっている。
「そのもりそばも、最初“男”だと思ったでしょ? 一応このキャラも少年っぽいけど女のキャラなのよ。あっ、一応このキャラの名前は“リリカ”っていうの」
「リリカさんね。そういえば、もりそばも言われてみれば男まさりね……」
リンナはもりそばをチラリと見た。
「アンタが私の元プレイヤーということか? 私の見た目はアンタの趣味でできたようなものなのか……」
もりそばは、少年のような見た目の女児キャラをマジマジと見た。確かに、少年と言われても間違いないようなボーイッシュなショートヘアだが、そこはかとない胸の膨らみは間違いなく「大人の女」として成熟し始めたばかりのそれであった。
「ふっふっふっ、この感覚、分かる人には分かろうて…… さて、これからあなた達は何処へ行くの? 大岡川スラムに戻るように見えたけど……」
もりそば本人“リリカ”はリンナ達に問いかけてきた。リンナ達は、これからクエストを攻略しに「メトロンワールド跡」に行く旨を伝えた。
「ああ、あそこに行くのね。私も、その「もりそば」でプレイしてたときはキングス所属だったから、なんとなくその辺の土地勘はあるから、せっかくだから案内させてもらうわ。それにしても、ちょっと聞くけど…… あなた「もりそば」って名前で呼ばれて大丈夫……?」
「うーん、私は別に名前については何とも思ってないけど、何か本当はネガティブな名前なのか、もりそばって?」
「そういえば、神様がもりそばってジャパニースヌードルのことだって言ってた。私は何のことかわからないけど…… リリカさんは知ってる?」
「リリカって呼んでくれていいわよ。もりそばというのは……ちょっと待ってて」
リリカはタギング機能を使い、その辺の壁にもりそばの画像を貼ってみせた。もりそばとリンナはいわゆる本物のもりそばというものを初めて見た。
「ふむふむ、これがジャパニーズヌードル……」
リンナは画像に釘付けとなっている。
「ちなみに、ざるそばというのもあって、もりそばに海苔が乗っているのをいうそうよ」
リリカは二人には通じないだろうとは思ったが、一応ざるそばともりそばの違いを説明した。
「海苔!? もりそばは“海苔の無いざるそば”のことなのね! もりそば、あなたの名前“海苔のないざるそば”っていう意味らしいわよ。名前に意味があるって素晴らしいわ!」
「ちなみに、ざるそばに乗っているのは刻み海苔というもので、他の料理にも海苔は使われているわ」
リリカは、ついでにざるそばの画像や、おにぎりやお茶漬け、和風パスタなどの海苔が使われている料理の画像をタギングしてみせた。
「おおっ、海苔! 料理! 私クッキングスキルが全くないみたいだから、一度料理というのを作って食べてみたいわ」
「じゃあ、ここからメトロンワールそ跡まではそんなに遠くはないけど、道中一度でキャンプしましょうか? 海苔はないけど、その時私のクッキングスキルで料理したものをごちそうしてあげるわ」
「わーい、やった! さっきまで戦闘して得た経験値はレベルが上がったら、今後クッキングスキルにふろうかしら?」
リリカとリンナは、二人で料理についての話でもちきりになっている。あまつさえリンナは、今後「料理人」のスキルを高めるつもりにもなってきている。
「あのー……スミマセン、やっぱり改名してもよろしいでしょうか……」
もりそばは料理の「もりそば」を見て、改名を決心したのであった。