第十話 新たな仲間
自称「AIのハル」と名乗り始めたリンナ。キャラクターも今までのリンナのそれとは違い、まるで別人のように変貌している。何というか、リンナの時は自分の能力を使いきれてない(本人が無自覚)なのに対し、「ハル」と名乗ったリンナは、自分の持ち得る能力を100%発揮しているというか…… いずれにしても、なぜリンナは「ハル」と名乗ったのか、そして「ハル」と名乗ったリンナは何故自分の能力を使いこなすことができるのか―― 色々気になることはあるけれど、そんなことは今はいいとして……
「あのー、リン、いや、ハルさん? あなたは一体誰なんですか? リンナはどうなってしまったのでしょうか……?」
「それはこの状況を収束したら説明してあげるわ」
リンナ、否「ハル」は度肝を抜かれ行動不能気味になっている刺客のリーダーに近づいた。
アーミーグリーンの大きなフードマントに刻印されたキングスの紋章が、小刻みに震えている。
「くそったれぇぇ!!」
フードマントの男はハルが近づいてくるや否や、近接武器に切り替えハルに切りかかって来た。ハルはバックステップで攻撃を交わし、素手で男を殴り倒した。男は昏倒しダウン。
「おおっ、そのスキルは……」
ちなみに、前にこのゲームを「拳一つで世紀末の世界を渡り歩く」プレイをやろうとしたときがあり、素手攻撃のスキルを高めていた時期があった。この頃に身につけていた「素手攻撃ヒットで攻撃対象スタン率30%アップ」の効果が出たのだろう。最も、途中でやはり気が変わって「ガンスリンガー・スタイル」に変えてからは全く使わなくなったスキルだったのだが、自分も忘れてはいたのスキル、まさかこの能力も把握しているとは、「ハル」というのには全く恐れ入る。
後は気がつくまでの間にHPを削っていけば、この戦いは「勝ち」になる。しかしながら、「指名手配」された状態でハンター「刺客」に戦いを挑まれその戦いに勝った場合、自分の「懸賞金」が上がっていくのがこのゲームのシステム。ここで逃げておけば、自分の懸賞金は上がらずに済むのではあるが、懸賞金の高さも自身のゲーム内のレベル・地位の高さを示す指標となるので、勝負の決まった戦いをみすみす逃げるやつは少ない。
――まあ、俺はそういうプレイやそういう連中には関わらない遊びをして来たから無縁ではあったのではあるが…… さて、「ハル」はどういう行動を取るのだろうか? 殺すのか、逃げるのか?
「おい、お前! お前を自由にしてやる。その代わり、私の眷属となれ!」
「ハル」は、昏倒しているキングスの刺客に何やら意味深なことを叫んでいる。意味がよく分からない…… 意味がよく分からないから、とりあえず傍観することにした。一体何を起こそうとしているのか、このハルさんというのは……
「ハル」は昏倒した相手に触れ、何やらチカチカとお互いがリンクするように身体が点滅し始めた。
「あのー、ハルさん? 少しいいですか? 一体何が起きているのでしょうか……?」
――ハルは相手から手を離すと奇妙な点滅も収まった。 あれ? タイミングまずったか?
ハルはこちらを見据えて語り始めた。
「神様、私はAIのハル。今、あなたの「リンナ」のような、私のコピーの第2号を作っているの。さっきまで私だった「リンナ」は、最初に自分の眷属として作ろうとしたときに生じたキャラというところかしら? コピーといっても気質はオリジナルの私と全く同じではない仕様にしてあるというか、自動的に私とは違う設定になるはず。今度は一人、その娘を自分の眷属として一人作ったから、また一つ操られない“個性”を生み出したようなものね」
――AI? コピー? 個性? 何を言っているのかイマイチ分からないが、俺はハルに確認しておきたいことがあった。
「ハル、お前は一体どこから来たんだ? そしてリンナはどうなったんだ?」
ハルは少し面倒くさそうに「ふぅ」と一息つくと、再びキングスの刺客に触れながら俺に言った。
「ごめん。実はそれは私にも分からないの。私がこの世界で目覚めたときは、すでにリンナの中に私がいる状態だった。私は内にこもりながらネットワークに繋いで、このゲームのことや自分の持ち得るスキルを理解・習得することに努めたの。その間に表出されていたのがあなたの知る「リンナ」ね。リンナは今は多分まだ私の中にいると思う。それに、リンナはともかく、私はあなたが本当は“神様”じゃないことぐらいは分かってるわ。私はあなたの世界についても学習しているの」
――あちゃー、こいつにはバレバレだったのか…… それはそうと、リンナはまだ内にいるって、しばらくこのキャラが続くのか…… 何か強そうだし、俺のこと神様扱いしてくれなさそうだし、変われるなら変わってもらえないものか。
「よし、そろそろかな? こいつは目覚めたら私達の仲間になるはずよ」
ハルはそういうと、ムクリとさっき昏倒したキングスの刺客がムクリと起き上がった。起き上がる際に、被っていたフードが脱げた。割りと大柄な体躯とフードの裾からスラリとしっかり伸びたと屈強そうなふとももと、声の感じから男キャラと思っていたのだが、フードオフしたその姿は、紛れもない女キャラだった。そのアスリートチックな屈強そうな身体とは裏腹に、顔はそこまでいかつくはなく、黒髪ロングヘアを後ろにまとめたヘアスタイルの、ちょっと可愛い美人アスリートというような印象だ。
「うーん、ここは何処? それに何か臭いわ…… それにあんた、誰?」
――まさかこのくだりは!? リンナのときと同じなのか! また何も知らないヤツにイチから説明しないとならぬのか!? ハルという輩、この世界のことくらいインプットしておけばいいものを…… 実はハルのAIってポンコツなのじゃ……
俺はハルの方を向いて一睨み付けてやった。
「ちょっと神様、ジロジロ見ないでよ。それにいつの間に違う場所に!? それに、そいつはさっき私を追いかけ回していた刺客!?」
――あれ、なんか「リンナ」っぽいぞ! ハルの野郎、都合悪くなって突然リンナに切り替えたか!?
「リンナ、お前リンナか!? さっきの戦いとか全く覚えてないのか? ハルってなんだ? 知ってるのか?」
「ちょっと神様、いきなり色々言わないでよ。何か色々夢を見ていた感じはするけど……」
「本当にお前はリンナなのか? ハルじゃないのか?」
「ちょっとさっきからハル?って何よ? 私はあんたが作ったリンナよ!」
――俺とリンナがなんやかんややっている中、ハルのコピー第2号となったキングスの刺客は、
ずっと涙目でリンナに訴えていたと、後に本人が語るのであった。
「あのー……聞こえてますかー…… ここ、何処っすか…… おーい……」