098 吸血鬼生存指南
『見返り……ですか?』
ああ、別に心配しなくてもいいよ。見返りって言っても大したことないから。
ぶっちゃけ言葉覚えさせてーだし。
『……言葉? 今話しているのは』
これは念話だからね。実際にスラさんが念話無しで会話することは不可能。
相手の言葉も聞き取れません。
しかーし! 念話で意思が分かるのならば、言葉を話してもらい、その言葉の音を理解できれば!
その振動を感知しどれが何に適合するかさえわかれば言葉を覚えられるのです! 便利!
『覚える必要があるんですか?』
だって覚えないと何言ってるかわからなしい。
今回も吸血鬼が何言ってたかわかったら対処できたかも?
まあ、別に後からでも全く問題はなかったけど、それでも事前にわかってるのとわかってないのじゃ話が違う。
それに関してはまあ、いいのよね。とりあえず、どう生きていけばいいか、かな?
『はい……』
まず、君さんは吸血鬼やね。えっと、この世界……実際に吸血鬼がどういう性質を持つかは知らないけど、日光に弱い。
『はい』
つまり、外には出れないし出るにしても夜にしか出れない。えっと、あの主の吸血鬼がしてたことはできるの?
『……恐らくは。ただ、あの吸血鬼ほどの力が出せるかと言われると……』
まあ、そのあたりはしゃーねーかなーって思います。
主の吸血鬼がいなくなっただろうし、洗脳による支配は無効化されてる?
魅了の魔眼、吸血による精神操作……まあ、下手すりゃそれらが全解けするとかなり危険かなあ。
そう考えると一度街から出たほうがいいのかもしれないけど、でも吸血鬼なのよねえ……やっぱり血液必要よね?
『あの吸血鬼は一日に一度吸っていました。私たちは……三日に一度、それほど多くは必要とはしなかったです』
ふうむ……まあ、それほど必要ないってならいいんだけど。
でもなー。あれかー。生きるための維持に必要な分はそれでいいのか。
でも、強くなる、上位の存在を目指すなら大量に必要になるのかも?
スラさん成長のために大量に魔物食べたし。
『……それは必要なんですか?』
ただ生きたいと言うだけなら必要ないかもね。
だけど、例えば何か危険が迫った時、対処できるのとできないのでは出来るほうがいい。
そのためには力が必要。だからできるだけ力をため込んで強くなった方がいいって話。
日光に弱い吸血鬼も、成長すれば日の下に出れるかも。
『そ、それはすごく魅力的な話ですね……』
まあ、あくまで仮定な話だし。
問題があるとすれば、やっぱり吸血する必要があるってことだねえ……支配、洗脳、魅了の魔眼。
様々な物を利用して吸血をごまかす必然性があるし、そもそも成長するだけの血を集める手法の問題もある。
主の吸血鬼がいなくなって残党狩りもこれから行われるかもと思うと、この街には居づらいんじゃないかな。
ならば外に出るしかないが、しかしそうすると今度は吸血の問題が出てくる。
生命維持、食事のための吸血はどうするべきか。
『ではどうすると言うのですか?』
うーん、そのあたりは難しいんだけど……あんたさん、スキルはある?
もしくはスキルに余裕はある?
『そ、そんなことを言われても……スキルは普通の人はあまりたくさんは持ってないですよ?』
ううむ、そうなのかあ。まあ空きがあるなら洗脳、支配、催眠、その他誤魔化す系統の能力、擬態とかそういうのもありかなあとおもうんだけど。
まず、人間社会内で過ごすようにした方がいいんじゃないかな。
ばれないように、静かに静かに潜伏して。
そういえば、この地下って他に誰か知っている人はいるの?
『この場所は……恐らくは誰も知っていないはずです。私達あの吸血鬼の部下だった仲間だけで作っていたので……』
まあ、自分が逃げるための道だったろうしなあ……
つまり、この場所は隠れ家として十分な場所と言うことだね。
ならこの場所に隠れ、人の往来存在を確認し、この場所をばれないようにしながら外に出て吸血、頻度を多くして貧血にならないように。
そうしてばれないようにここで生活しながら人間を洗脳、支配、魅了、催眠して隠れ潜む生活をする。
ある程度強くなったなら外に出てもいいかもね。
でも安全を重視するならやっぱり隠れて過ごすのが一番だね。
『……ばれた場合は?』
夜なら逃げればいいんじゃない? 昼だとどうしようもないかも。
生きたいなら、なんとか襲い来る相手を倒すしかないね。
まあ、個人的にはあまり人間とは敵対してほしくはないけれど。
それでも自分が生きるために必要なら仕方がないね。
『……そうですか』
別に人間と敵対する必要はないわけだし、頑張って人間らしい生活が吸血鬼でもできるように努力する。
不可能なら不可能で、なんとか可能な限り自分の望む生活をする。それでいいんじゃないかな?
とりあえず、しばらくはそちらさんの状況が安定するまでは一緒に暮らしてもいいからさ。
その保護の代わりに見返り、言葉を覚えるのを手伝ってくださいな。選択肢はないのよね?
『……はい。よろしくお願いします』
ういっす。よろしくお願いします。




