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スラさんの転生先こつこつ生活記  作者: 蒼和考雪
異世界観光旅情
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095 吸血鬼の戦い

 その日吸血鬼は寝床にしている領主館に戻った時、何かの違和感を感じていた。いや、それは戻る前からずっと、その日の前、その日戻って寝る前から感じていたものである。

 吸血鬼は強い存在である。しかし、強者とはただ強ければ強者であると言うわけではなく、危機を感じる能力や相手の強さを把握する能力なども求められる。総合して強くなければ真に強者と呼べる存在ではない。ただ馬鹿みたいに戦いに強ければいいというわけではないのである。吸血鬼は持てる能力を最大限駆使し、魔物ながらもいくらかのスキルを得て強力な存在へとなっていっていた。

 その吸血鬼の勘とも呼べる感は言っていた。何かがおかしい、何か脅威が存在する、と。


「どういうことだ……?」


 自分を殺しに来た冒険者か? それにしては何も報告が上がっていないのはおかしな話である。そもそも、人間であれば察知出来ていてもおかしくはない。血の匂い、生き物の気配、そういった何らかの感があって当然だ。しかし実際吸血鬼が感じているものは薄っすらとした嫌な雰囲気、気配、空気、そして強者の持つような凄味ともいえる気迫。おかしな話だが、存在していないのにまるでそこにいるかのような気配を感じていた。

 もしかしたらそういった物を隠せる存在がいるのかもしれないが、それにしても自身の寝床の付近でその気配を感じるのは変な話である。だが、油断はしてはならない。吸血鬼の感じるそういった何らかの気配、勘ともいえるような感の能力に助けられてきたのは一度や二度ではないのだから。今まで吸血鬼として生きて、冒険者と戦い、迷宮の外へと出て生き延び様々なことを経験し、ようやくこの場所で大きなことを成し遂げた。そこまでできたのは吸血鬼の感じる能力の強さがあったからだ。

 だから、吸血鬼は夜を過ごし、行動できない昼の間眠りにつくわけだが、その眠りを浅く、気配の変化や危機に対応できるようにした。周囲には何かが起きた時すぐに動かせるように部下……と呼べるような使える存在は数人しかいないが、それいがいにもゾンビも置き、いざと言う時への対処をして眠りにつく。


 眠りにつき、日がある程度高くなっただろう頃に、いきなり部屋に気配の変化が生まれた。


「っ!」


 吸血鬼はその気配の変化に置きだし、気配の攻撃を避ける。


「スライムだとっ!!」


 一瞬ふざけるな、何かがおかしいと吸血鬼は感じる。スライムは最弱の魔物、最弱の生物。それが先ほどのような奇襲を行うと? 先ほどのような気配を持ちうると? それを今の今まで隠していただと? ありえない、と吸血鬼は言いたくなる。しかし、目の前のそれは確かに自分にとって圧倒的な脅威となり得るような脅威であることを吸血鬼は本能的に認識している。


「くっ! 来い! 我と共にこ奴を倒すのだっ!」


 外にいるだろう吸血鬼の部下、ゾンビとした配下達に命令する。吸血鬼の声が聞こえていなくとも構わない。ただ吸血鬼が意思を通じさせるだけでいい。テレパシーのようなものだ。吸血鬼が生きている限り、吸血鬼とその部下や配下として吸血鬼に支配された者たちはずっと契約に近い形で繋がりが存在する。それがある限り、声が届かずともある一定の範囲内であれば意志による連絡はつくのである。

 目の前のスライムが跳び上がり、自分へと向かってくる。それをまともに攻撃してはいけない、と本能が訴え、ここに居ては危ないと直感が語る。吸血鬼は全力でスライムから逃げをうち、攻撃を避ける。吸血鬼のいた場所をスライムの体が突き抜ける。伸びたスライムの体はまるで槍のように、人間が槍を突くよりもはるかに高速の一撃が突き抜ける。


「なんだこ奴はっ!!」


 思わず叫ぶ吸血鬼。当然である。今目の前にいる生物、スライムであるだろう謎のスライム生物は下手な人間よりもはるかに強い、冒険者でも上位クラスの強さを持っていてもおかしくないくらいの強さの化け物である。叫びたくもなる。

 スライム、吸血鬼が次の動きを行う前に、扉が開き外からゾンビや吸血鬼の部下が現れる。


「ちょうどいいっ! 我が盾となれ! お前は肉壁として使わせてもらおう。他はそ奴、謎のスライムを襲えっ! 殺せ! 潰せっ! 我が逃げるまで時間を稼ぐのだっ!」


 吸血鬼ですらなわない化け物スライムに自信の部下が勝てるとは思っていない。ちょうどいい所に現れた吸血鬼の部下、その一人を捕まえそれは自身の盾として扱い、それ以外の者にはスライムをどうにかするようにと命令する。別に倒せるとは思っていない。何かの間違いで倒してくれるのならば御の字、そうでなくとも自分が逃げるまでの時間稼ぎになればいいと言う話である。ただ、今の時間的に外に出るのは厳しい。


「地下か……あまりいい手ではないのだがな」


 いざというとき、地下から外へと抜けられるように抜け道は作ってある。その抜け道へと吸血鬼は肉壁として伴っている元人間の吸血鬼を引き連れる。


「…………!」

「む……? ああ、そういえば喋れないようにしていたのだったな。いちいちうるさいから。まだその意志は我に逆らうか。別に構わんがな。あのスライム相手の肉壁になればそれでいい。その肉体、存分に利用させてもらおうか」


 くつくつと、可笑しそうに吸血鬼は笑う。しかし、その笑みもすぐに崩れる。


「なにっ!? 屍どもが全滅だとっ!? いったい何をしたのあのスライムはっ!」


 ゾンビ、吸血鬼とした元人間の配下。あの場に残したスライムの相手をさせていた者が全員消えた。吸血鬼には契約による繋がりがあり、相手が生きている限りその気配を辿ることができる。ゾンビは生きてはいないが、要はその存在が明確に存在できている状態、ゾンビならばゾンビとして行動できる状態であるということで、つまりはスライムはその場にいた吸血鬼とゾンビをまとめて行動不可能な状態になるくらいに損壊させたと言うことである。

 ゾンビを倒す、ということはそこまで難しくはない。心臓、脳、人間にとっても重要な器官のいくらかを破壊すればゾンビも活動は出来ない。あれで一応生命体としてある程度機能している生き物である。弱々しい間でも生命として動くのに必要な物がなければ動けない。四肢をもいでも生きてはいるが、特に頭部は重要である。逆に言えば、それくらいしなければ死なないのである。

 そして、吸血鬼はもっと倒すのが難しい。ここにいる純正の吸血鬼は逃げ出した主人の吸血鬼のみだが、従者として新たに作り出した、運良く生まれた元人間の吸血鬼はそこまで強くはないにしても、それでも吸血鬼の持つ多くの不死性を有する。吸血鬼の持つ獣化や霧化などは出来ないし、血を送り込んで部下や配下を作り出す支配能力こそないが、確かに怪力と死ににくい不死性を有する。それが複数のゾンビもまとめて一瞬だ。

 あのスライムの槍を見ていればスライムがまともな生物よりもはるかに強いのはわかるのだが、だからといって全滅させるほどに強いとは思えない。いや、仮にそれくらい強いにしても、一瞬で全滅させるのはあり得ないだろう。それこそ全部のゾンビと吸血鬼が一直線に並んでおり、その上で心臓と頭を貫いても。それでもゾンビと吸血鬼の死亡タイミングには差が出る者である。吸血鬼は頭部と心臓を貫いてもすぐには死なないゆえに。


「くっ、足止めにもならんかっ! だが、地下に逃げれば……逃げ切れるか?」


 不安は大きい。しかし、地下に何とか逃げ込むくらいしか逃げ道はない。だから肉壁とする部下を引き連れ、吸血鬼は地下へと逃げ込む。日の光の刺さない、中途半端に作られた町の外への道。大雑把な出口しかないゆえに、少し光が差し込みしかしそのおかげで今が昼か夜かは明確にわかる。まあ、吸血鬼の場合時間は吸血鬼の特性で分かるので問題ないのだが。

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