088 襲われスライム
「あれか?」
「里に近づくスライム自体ほぼいない。あれで恐らくは間違いないだろう」
エルフたちの里には結界が張られており、それにより近づく魔物は強力な魔物以外は近づけない。結界自体も魔物を防ぐ役目があり、そのおかげでエルフたちの住んでいる里はかなり安全なのである。もちろん正面入り口から向かってこられるとつらいところだが。まあ、そうならないように多くのエルフが森に出て見回りや魔物を追い払ったりとしているわけである。
「ただのスライムじゃないか」
「全く、フィリスはあれにびびったのか?」
「矢が通らなかったと言う話だが、自分の腕が悪いからだろう?」
スライムに関しての報告がエルフの里でされる。もちろんその報告主はスライムと出会い、矢を放ったが通らなかったエルフの女性。しかし、当然ながらスライムという存在は最弱の認識がされている魔物であり、そういう報告があったとしても冗談としかとれないようなものである。エルフたちもその話自体笑い話、冗談の一種としてしか受け取らなかった。しかし、そのエルフの女性、フィリスが声高に主張し、何とかしなければならない、恐ろしい存在であると警告したのが今回のスライムの確認、退治の発端である。
もっとも、それほどまでに主張されていても、彼らの中では半信半疑……というよりはその言葉に対する疑いの方が強い。報告主であるフィリスはエルフの中でもあまり修行しない、修練しない、自分の腕を磨こうとしないエルフだったからである。エルフの持つ弓の技術、魔法の技術などは彼らの長い寿命により培われたものであり、まだ若いフィリスは修行する必要もないだろうと修行をさぼりがちであることはエルフの仲間に知られていた。まあ、子供のすることを親の世代はよく見ていると言うことである。エルフと言う種族がコミュニティとして閉鎖的であり、その仲間の数自体もあまり多くないと言うのも理由だろう。
そういった事情もあり、フィリスの言葉はどちらかというと、フィリスの腕が悪いことをごまかすための作り話、と言う認識が強い。だからスライムの危険性、強さに関しての報告をされてもそのことが本当に真実であると言う認識は彼等には薄い。それに、相手はスライムである。多少強かろうと、腕がよく実力のある自分たちには敵わない。弓矢が通らなくとも魔法で倒すことも可能だ、フィリスも逃げずに魔法を使い倒せばよかっただろうと思っている。人数も六人いるし、ちょっと強くても何とでもなると彼等は思っている。
「いや。油断はするな」
「リッジ? どうした? ただのスライムだろ?」
「……多分、そのはずなんだが」
リッジと呼ばれた一人のエルフが難しい顔をする。彼もスライム自体にあまり危険な雰囲気を感じているわけではない。ただ、妙な感覚を感じている。
「ま、リッジがいうなら用心はしておくか」
「スライム如きに必要ないと思うがな」
彼等もそれなりに実力のあるエルフ、人数もそろっておりスライム一匹如きに負ける道理はない。フィリスの伝えた通りの実力があろうと問題ない。ただ、リッジの感じている妙な感覚については彼らも怪しいと思う部分だ。まあ、それを理解しているのはリッジのみ、彼の持つスキルと実力故なのだが。
「よし、全員で弓矢による一斉攻撃、もしフィリスの言っていた通り矢が通じなければ各自魔法を使い撃退、それでいいな?」
「もちろん」
「魔法使うまでもないだろうけどな!」
彼らもエルフの狩人として一流の実力を持つ者たち、自分の実力には自信がある。相手の見た目がスライムというのも彼らにとっては良くなかっただろう。スライムというのは最弱の生物であると言う認識があるのだから。せめて亜種系統のスライムならば、属性などの様々な特性や要素を持つスライムであったのならば、進化種のビッグスライム程度でも大きくなっていれば、まだ彼らも見誤ることはなかったはずだろう。
「行くぞ!」
そうして、彼らの下から矢が放たれた。
エルフさんがたくさんきたなー。そして、前に来た子みたいに矢を放ってきたでよ。
でーもー? 残念! 我が体を突きとおすことはできないようだなっ! ふはははは!
やるなら巨鳥人くらいのやってこい! これでもヒュドラ相手に何日も戦った実力者なんやで!
どぅぇっ!? 矢の次は魔法かいな! 竜巻? 風の刃? 氷の雨?
舐めんなし! その程度に負けるかー! 防御スキルを使って防ぐでよ!
ふっふーん。今ではこの防御スキルも使いなれそれなりの性能を持ってるもんだ。
多少の魔法程度相手に……うん、まだまだ持つね。完全防御、効かないね。今度は凍らせてきたか。
まあ、凍ったとしても薄皮一枚程度だと思うけど。この圧縮された体舐めんな。
おお? 逃げた? ふーん? 一方的に攻撃して、効かないと分かると逃げるか。
思い知らせてやらんとねー。
いや、まあ、別に彼らをぶっ潰してーとか思ってるわけではないのだけど。
こう、やられたらやり返す的な。
もう二度と手出してくんなし的な。いや、こっちから手を出すわけにもいかないんですけどね。
誰か念話持ちプリーズ!




