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スラさんの転生先こつこつ生活記  作者: 蒼和考雪
異世界観光旅情
85/132

085 危機とスライムの本性

 馬車は街へと向かう。街から街へ、それが馬車の旅の基本。街に着いてからは冒険者はギルドに向かい報告し、仕事を終える。商人はまた新しく冒険者を求め依頼を出す。そしてギルドが内容に合致する冒険者を見繕っている間に商人は持ってきた商品を売る。基本的には彼らの旅商売はそのサイクルである。ただ、今回はいつもと違い一緒にスライムがいることを内容に含んでいる。

 シエラの従魔スキルは調査の結果実際に存在することが判明した。しかし、スライムの従魔としての登録は行っていない。少女の年齢ではスキルを得るにも、魔物を従えている俗にいうテイマーとしての能力も問題が多いからである。幼い内から力を得る、鍛えると言うのは別に珍しいことではない。それで実際スキルを得ている例もある。しかし、果たしてスキルを得たばかりの幼子の実力はいかほどか。従魔スキルをもっているからといって、魔物にどれほど命令ができる? 戦いに参加できるのか? いざというときに魔物を制御できるのか? 様々な点を考えれば、従魔として登録し、テイマーとしてカウントされるのは問題が多い。

 ゆえにシエラの従魔スキルの確認はされてもスライムの従魔登録はされていない。彼女のことを考えた配慮である。だから依頼内容に存在するスライムが一緒と言うことに関しては従魔ではないという扱いである。実際にあくまで対外的に彼らはそうしているつもりだが、スライム側は従魔ではないのは事実であるので嘘ではないと言うのもまた面倒な話である。


 さて、そうして街で商売をし、別の冒険者を雇い、馬車に街で購入したものを載せ、次の街へと馬車は旅立つ。

 新しい冒険者、そのリーダーはシエラの持つスライムを面白そうに見る。理由は色々あるが、まずスライムに危険がないこと。シエラが抱きしめているのにスライムがシエラを害する様子がない。その割にシエラの言うことをスライムは聞く。その時点で恐らく従魔であることは推測がつくわけである。また、そうでないにしてもシエラがスライムに命令しなくとも、スライムが何もしないことにも興味があるし、食料を得ても大きくならないこと、それに魔物の気配を感知するスキル持ちには妙にスライムの気配が大きく感じることなど、様々な点が理由にある。

 さらに言うのならば、このリーダーの持っているスキルの一つに直感的に物を感じるものがあるが、それによりこのスライムは恐ろしいくらいに強いとも感じているのである。一体このスライムは何なのか、彼はそう感じている。

 もっともスライムはシエラに抱かれ極めて大人しい。たとえなにかあるにしても、今まで何もしてこなかったことから恐らくはこれからも何もしないだろうとなんとなく感じている。それもまた直感的なものであり、スキルの恩恵である。


 そんな風に旅をつづける馬車。しかしある日雇われた冒険者のリーダーは何か嫌な予感を感じる。


「……なあ」

「どうしました?」

「何かあるかもしれん。注意しておいてくれないか?」

「……何かあるとは?」

「わからん。盗賊か、魔物か……少なくともそれは何らかの危険である可能性は高い。俺のスキル、直感で物を感じ取るスキルがそう感じている」

「……わかりました」

「頼む。こっちも仲間に伝えておく」


 他の冒険者の仲間にも彼の感じたものを伝え、警戒しながら馬車は道を行く。ずっと進んでいると、唐突に馬車の前に獣の群れが立ちはだかる。それにより馬車は停止する。馬で突っ切るには数が多すぎるし、危険度も高い。それ以上に、群れ自体が奇妙だ。


「……なんだあれ? 木が生えている?」


 群れの魔物背中に木が生えている。


「寄生樹だ! 魔物の群れに寄生してやがる!」

「寄生樹?」

「名前の通り、生き物に寄生して繁殖する樹だ! 殺されれば樹の栄養、生きてりゃ樹の苗床、寄生したやつが死んでも栄養にできるから損がない、実に嫌で面倒な奴だ! お前ら、樹の方を狙え! 寄生している魔物の方を狙っても意味ねえぞ!」


 大声で後ろの馬車に伝えるリーダー。それを聞いてすぐに動き出す冒険者。前に群れが現れ、戻るにも後ろにもいつの間にか群れが現れ囲まれた状態である。


「ちっ! 狙ってやがったな!」


 一方は海、一方は森。逃げるにしても馬車を捨てなければ逃げられない。また、逃げるには困難な道。明らかに知性のある、知能のあるやり口であると考えられる。おかしい。群れについている寄生樹にはそれほどの脅威を持つものはない。それほどの脅威を持つものはそれなりにおおきな寄生樹でなければならない。

 そういう風にリーダーが観察していると……森の方からメキメキと樹が折れて倒れる音がする。


「……マジかっ!」


 森から巨大な寄生樹と、それを背中から生やしたトライホーンジャイアントベアーが現れた。






 馬車の中、その中で商人とその妻、そして娘であるシエラが震えている。外からは冒険者の戦う声、そして大きな足音、樹々を倒す音、咆哮の音。トライホーンジャイアントベアーの出現の音が聞こえている。


「ひっ……」

「大丈夫、大丈夫だ……」


 怯える妻をなだめる商人。本人も怖いだろうが、馬車内で恐怖に染まり暴れてしまっても困る。自分たちが馬車から出ようが出まいが、状況は変わりない。娘であるシエラもスライムを抱きしめたまま、怯えている。


「怖いよ…………」


 商人は妻を宥めるのに必死で娘の方はあまり相手をしていない。普段からあまり相手をしないが、別に娘のことが嫌いではない。ただ、優先度合が低いだけなのだろう。親としてどうかとも思うのだが、そのあたり旅商人としての彼の事情か、それとも社会観としてまだ三歳の娘にそこまで期待を持てないのか、理由は知らないが……まあ、こういう場合でも娘一人にするのはどうだろう。


「助けて……」


 怖い。助けて。誰も聞き届けない、少女の言葉。


「きゃあっ!?」

「シエラ!?」

「ひいっ!?」


 唐突に、シエラの抱いているスライムが巨大化する。シエラの抱きしめる力ではそれを抑えこむことは出来ず、そのまま抱きしめる手は大きく開かれ、スライムの自由を許すこととなった。一瞬大きくなったスライムはすぐに小さくなり、そのまま馬車の外へと出ていく。


「すらむー!」

「あ! 外に出たらだめだ!」


 流石に外に出そうになったシエラを止める商人。しかし、妻の恐怖の声も響く中、どちらを優先すべきか、どちらを抑えるべきか、どう行動するべきか。その選択に迷いがあったためか、シエラが外へと出ていく。


「すらむー!」


 わずかな時間、スライムが馬車から出て、シエラが抑えられ馬車から出るのに少し遅れたそのわずかな時間に、スライムは巨大化してトライホーンジャイアントベアーに纏わりついていた。

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