078 海中戦
結構遠くまで来てるけど、大丈夫なん?
『ん? だって近くに魔物がいたらもう襲われてるか、こっちから攻撃してるよ?』
むい? うーん、まあそれもそうか? 近くに魔物いる状態でじゃあ悠長に戦力準備とはならんね。
ってことは自分の住んでいる所よりも遠くに入るが早急な危険はない。
しかし、放置しているといつかこっちまで来て襲ってくるだろうってことかね。
なかなかに面倒な話。
『そうだね……でも、皆で挑めば勝てるよ』
今はこの二人だけだけどなー。
『ううっ、長老様は何を考えてるんだろう……』
厄介払いか。いや、まああんたさんは多分巻き込まれただけに近いだろうけどね。
そのあたりはこっちとしても悪いとは思うけど。
『厄介払い? あなた、強いのは事実でしょ?』
見もせず言えるほど強さの感知能力が高くないだろうしねえ。
人間とか、人に近い存在はそういう物。
直接見たそっちはともかく、全く見てないのに強い弱いはわからんよ。
ただ、知性のある訳の分からないスライム。連れてきた人魚が言うには魔物を倒せるくらい強い。
じゃあスライムをその魔物にぶち当てれば、強くても弱くてもどっちか殺せる。
自分たちに被害なし。
『……それは酷いね』
まあ、人なんてそんなもんだよ。魔物の人魚だろうと、普通に人間だろうとね。
さて。多分あれだろ。
『っ! すっごく多くない!?』
なーに、あの程度の数にゃ苦戦せんですよ。ワイバーンよりも余裕あるわな。
『ワイバーン!? 海じゃ見ないけど、竜じゃない!?』
翼竜程度を竜と言うとは。せめて海竜レベルの竜でないと竜呼びは微妙じゃろし。
『海竜!?』
なあに、そちらさんは近づいていきなされ。じわっと体にスラさんまとわりつくけど我慢な。
それ、一応そちらを護る鎧。
私の体の一部なので防御も適用されるし、反応型圧縮解除棘もできるからさ。
『わけわかんないよ!?』
私は長老様に言われてスライムを連れて魔物の群れに向かう。このスライムに出会ってからなんか変なことばかり。スライムが言うにはスライムの厄介払いに私が巻き込まれたって……私達人魚がそんなことをするなんてひどい。でも、スライムの言う通りそういうことをするのが人、人間も人魚も変わらないって……そうなのかなあ。
スライムの言っていることはよくわからないし、本当にそうなのかと思う所はある。でも、私のやることは変わらない。このままスライムを置いて戻っても怒られないとは思うけど、かといって魔物たちの脅威が変わるわけでもない。このスライムの強さは私が知っている。あれ? でも、あの時って……うーん、ちょっと不安かも。確かに魔物に対抗できるくらいの強さはあるんだろうけど……
そんな事を思っていると、スライムから驚きの言葉が! ワイバーンとか海竜とか、そういうのが話に出てきた。え? このスライム海竜やワイバーンをものともしないくらい強いの!? しかも言っていることもよくわからないけど……私を守る?
スライムの言葉通り、私の体に何かが這う感触が。スライムの体が伸びてきている。体を何かが這う感触はあまり気分がいいとは言えないけど……嫌な感じはしなかった。スライムの体は私の体の全身を覆う。いや、完全に全部ではないけど、それでも体の露出している所とか、攻撃が当たると危ない部分の多くはスライムに覆われた。これ、もしスライムが敵だったら私食べられちゃうんじゃないの? って思うけど、でも……なんとなく、このスライムはそういうことはしないと思う。ただの勘だけど、確信に近いと思う。
そうして私たちは魔物に近づく。スライムは自由に移動できないから、私がスライムを運ぶ形で。うん、私も危険だねこれ。
魔物たちは近づく私に反応する。魔物の動きは私より遅い。魔物は上半身が魚、下半身が人間の魚人、つまり私達とは逆の生き物。頭は鮫とか凶暴で危険な生物の物。恐らくはその影響が強くて他の生き物を積極的に襲うんだと思う。彼らは私よりも遅い、人魚よりも遅いのは恐らく理解している。だから私を発見してすぐに分散した。そのまま私の周りを周回するように……囲んできたのっ!?
一気に魔物たちは私に襲い掛かってくる。全方位から、同時に。これは避けられない!? と、思ったら。スライムが弾けるように広がった。その体が触手のように伸びる。そのまま勢いで伸びて、魔物に当たって、そのまま魔物を掴む。え? こんなに簡単に魔物を倒せるの? いや、まだ倒れてないけど……魔物の頭、顔、体が触れた部分からボロボロになっていく。魔物たちは暴れるけど……だめ、スライムを振りほどけていない。そのままボロボロになって、途中で一気にスライムに飲み込まれて体が消えていった。ああ、消化されたんだなって……
それを見て、少しぞっとする。私の体も今はスライムに包まれいる。スライムがその気なら、今の魔物と同じようになったかもしれないんだって。でも、スライムにその気はないみたいだから……一応は安心。でも怖いことには変わりない。
そんなことを考えつつ、気がつけば魔物の姿はほとんどない。残りは他の魔物に指示を出していたのではないかと思う。スライムに言われてその残った魔物に近づく。あれを倒せば終わり……これで全部かはわからないけど、指揮官、指示者、頭のいい魔物を倒せばそれで終わり。そういうことだって。言われて一気に近づいて、あとはスライムが魔物につかみかかって……え? これで魔物との戦いは終わり? 何かすごくあっさりしているような……




