070 幽霊からの贈り物
いやー、水中はいいね。外で生活するのもいいけど、水はこちらの得意フィールドなのかな?
ふっふーん。街でも思ったけど、水の中は自分の体を広げても問題ないからやりやすいぜ。
普段圧縮しているけど、本来ならこのでっかい体を解放するのがまともなんだよね。
あっちの方が強いけど。
なんでわざわざこんなことしているかって?
スライムの体を湖中に広げれば探し物なんて楽だからだよ!
たーだーしー。もちろんだけど、体に取り込んだものは消化の危険があるのです。
なのでそれは控えます。
一応、体内に取り込むこと自体は消化とは別にできるのよ?
そうするメリットがないからやらないだけで。
っと、ここ一応生物とかもいるのか。
本来なら生物とかは取り込まない方がいいんだろうけど……環境破壊。
まあ、生態系が破壊されようと気にすることはないよね! だから何って話だもの!
そもそもスライムがそんなこと気にしてどーすんの? って話もんなー。
まあ、ちょっとは気にするけど。
っと、これか。これだけは消化せずに確保っと。
見つけたよー。
『い、いきなり水に飛び込んだからどうしたものかと……え? 見つけた?』
これじゃないの?
『っ! はい、そ、それです! スライムさん……すごいのですね』
ふっふーん。これでも迷宮の最下層、迷宮の主に会ってきたような超絶スライムですからね。
進化も何度もしていますし、スキルも持っておりますですよ? 褒めれ褒めれ。
『はい、凄いです。迷宮の主に? それが本当なら……冒険者でも相当な上位と同じくらい凄いと言うことですよ』
へえ。そこまで行くのかー。
まあ、冒険者と戦ったことは一回くらいしかないんだけども。弱いときにね。
『そうなんですか?』
うん。まあ、そんなことより。はい。
『ああ…………失くしたものが帰って来たのですね』
探してたんでしょ? いや、探せなかったのかもしれないけど、心残りだったものでしょ。
『はい……見つけて下さりありがとうございました』
うーん……美人に泣かれると……いや、悲し涙ではないのはわかるんだけどさー。
こう、なんかなー。って? あれ? 透けてるのにこう、プルプル光って消えてってない?
『私は幽霊です。この世に残した心残りが無くなれば、天へと還る。そういうものですよ?』
ああ、そっか。
なんというか迷宮産のゴーストばっかがイメージにあるせいで本来の幽霊のことをすっかり。
ってーか、これがやっぱ心残りだったのかー。
しかし、このまま消えちゃうとこれどうする? 残っちゃうよね。
『一緒に持っていくことはできません。そもそもそれはこの世界に残された物。今はあなたが見つけ拾いました。私の失くし物ですが、そもそも私も形を失い死んでしまった者。であれば、それを得たあなたの物ということになるでしょう』
ええー……いやいや、スラさん指輪なんて手に入れても困るのですが?
指もないし装備できるわけでもないし。
そもそもスライム、金属も食べられるのですが。
ずっと抱えていたらいつかお食事してしまうかもしれませんよ?
『それならそれで構いません。それもあなたがそうすることを選んだということなのですから』
うーん、でもさー……
『それに……』
それに?
『私は持っていくことはできない以上、あなたがそれを要らないと言うのであれば、この場にそれが残されることになります。そうなるくらいなら、いっそこの世界から無くなったほうが決まりがいいとは思いませんか?』
う、ううむ……まあ、所有者がいなくなった指輪がぽつんと残されても困る話か?
『ええ、そうです…………もう私は逝きます。会話もこれで最後となるでしょう。最後に』
ああ、もういっちゃうのか……なんか残念だなあ。
『私の指輪を見つけて下さり、ありがとうございました』
……ああ、消えちゃった。名前くらい聞いておくべきだったかなー。
さて、幽霊さんがいなくなったのは別に構わないのですが!
ここに残った指輪の扱いをどうしましょう!
幽霊さんは別に無くなってもいいって言ってたけど、こっちとしては単純にそうしづらいのよね。
そりゃあ幽霊さんの心残りだった大切な物だったわけでしょ?
多分恋人さんからのもらい物でしょ?
それをさー。もう心残りはない、未練はない、残していても仕方がない……
だから消化しちゃってもいいってわけには。
うーむ。しかし、ならばどうすると言う話になるのよね。
うむむ、どうせなら持っておきたいのだけどなー。
体内に保管は一応できないわけではないのです。
問題はその維持よ。なんだかんだで異物が体の中に残留するわけなのですからね。
なにかいいスキルでもないものか……アナウンスさん!




