069 森林湖畔の幽霊
ふう……ぐっちょり。オーク共は退治しましたよー。まあ、もう彼らどこかに行っちゃったけど。
逃げてくれてよかったと思うべきか、助けたことにお礼がないことを悲しむべきか。
まあ助けられたところにスライム死ねって襲い掛かられたらそっちの方がショックだったからいいかな。
流石にそこまで恩知らずとは思わぬが、しかし魔物は魔物。敵である以上殲滅するのは道理。
それにオークと戦って弱ったところだと思われれば倒しやすいと考えられるかもしれぬ。
まあ、オーク如きで弱るってことはないんだけどなー。
そも、オーク相手に負けてるのにそれはないよね。
オーク八体相手に無傷で倒せる魔物相手にオーク相手に勝てそうにない冒険者で勝てるかって?
無理っしょ。逃げ打って正解ってところかな? 逃げた先が安全とは限らんのだがね。
さーてー。森の奥の方に行きましょうかなー。実はちょっと開けた所を見つけたのです。
樹々がない、水場があったような感じの場所をねー。だからちょっと寄ってみましょう。
何かあれば面白いし、何もなくともあまり他では見かけない光景なら観光名所なのです。
いやいや、名所でもなんでもないよね? ただの森の中にある場所なだけだからね?
さあ、やってきました水際!
どうやら開けた場所にあったのは水場、池というかでっかい湖だったよ!
おいおい、上から見て水場とか適当なこと言ってるんじゃねーぞ自分? でけーじゃん。
池ですらない湖だったじゃねーか。まったくー。
まあ、橋とか船とかもないし、人の来ない場所なのかね?
しっかし、人が来ないと言う割には人がいますねおひとりさん。それもご婦人じゃないですかー。
いやいや、あれはもしかしたら冒険者?
いいえ、そうは見えませんね。ワンピース姿のお綺麗なご婦人です。
年齢的には……多分、若い方。二十は超えてるだろうけど、四十は行ってないかな?
そもそも自分人の年齢換算は苦手な方なのでかなり大雑把な区分です。
しかしお若い。そして綺麗な白い肌、白い服、まるで透けて見えるようなお綺麗さ!
ってーか透けてんじゃねーか! あれ幽霊とかそういうんだろおっ!?
いやはや、迷宮内に出てくるのとは違うゴースト、ガチの幽霊に会えるとは思いませんでした。
いや、会うとか言ってるけど単に見かけただけですからね?
それに向こうさんはこちらに気づいてない。
ずーっと泣いているのよねー。なんで泣いているのかしら?
まあ、幽霊だから。死因とか心残りとか?
なんなんだろーね。近づいてみよか?
『ス、スライム!? ち、近づいて来ないで!』
おおう!? 近づいたらいきなりなんか言われた!
ってーかあんた死んでるのに物理的接触気にしてどーすんねん!
あれ? ってーか、なんか声が聞こえた? あれ? おかしーな。
『……スライム? スライムなのに、言葉が分かるの?』
ああ、これって念話かそれに近いものか?
そっか、そうだよね。言葉わかんないのに言っていることの意味が分かるわけないか。
それに相手は幽霊。よくよく考えれば声を発することはできないはずなのよね。
『……言葉が分かるのですね』
おうよ。ってーか、なんでそんなに驚いてるの?
『今まで話の出来る人はいませんでした。私のことを見ることができる人も。スライムであるあなたが私に気づいた初めての人なのです』
人ではないんですけどねー。しかし、そうか、見えない存在だったかー。
まあ、幽霊だしそんなものか。
ところでさー。なんで泣いてんの? わっちが近づいたのはそれが気になったからなのですが。
『……聞いてくれますか?』
はい。まあ、聞くくらいならいくらでも。
『この湖は広いですよね。私は昔、この場所に恋人と来たことがあるのです。その時、魔物に襲われました。あの人は魔物と勇敢に戦ってくれたのです。とても、とても格好よかった…………』
なんかすっごい恍惚な感じに! ってかのろけ話ですかな!?
こっちは恋人がいたことねーんだぞ糞やろー!
『ああ、すみません……その時なのですが、襲われた時に驚いた拍子に転んでしまいまして。あの人はそれを見て余計に魔物相手に苛烈になったのです。ああ、そこは重要ではないですね、ごめんなさい。その時なのですが、私はこの湖に当時私が持っていた指輪を落としてしまったのです。それを見つけようにも、この森はそれなりに魔物がいる上に、湖も深い。水中を自由に行動できるスキルを持つ人を探すのも大変で、その上水中に落ちた指輪を探すのももまた難しい。そういうこともあり、今もまだ見つかってはいないのです。今の私には探しようもなく……』
それでここにいるのかー。いつの話なのやら。ってーか、スキルで探し物できないの?
『できないことはありません。ただ、その感知できる範囲の問題もあるでしょう。水の中は探りにくいというのもよく言われています』
ふーん。ちょいまってー。
『はい』
どっぼーん! 水に入りまーす!
『えっ』




