067 馬車の旅(下)
「…………………………」
「どうした? そんな仏頂面して」
幌馬車の中、六人ほどの客がいる。そんな彼等の中に冒険者が二人乗っている。彼らはこの馬車の護衛も兼ねた客だ。もちろん客であることには変わりないのだが、何かあったときに戦力として動くことで乗車料金を割り引いてもらっている。ちなみにこの割引に関しては何も起きなくても割引が効く。
そんな二人の内弓矢を持つ狩人のようなスタイルのアーチャー、弓使いがしかめ面になっている。
「……確証はないんだが」
「ああ」
「魔物が近くにいる」
「何? どこに?」
「わからん」
「はあ?」
弓使いは魔物の気配の察知能力が高い。遠距離にいる魔物を狙うスタイルや、元々狩人として獣を追ったり気配に敏感な性質が高いからか。理由は色々とあるのだろう。スキルの関係性もある。かなり感知能力が高い。
その彼がわからない、というとなると困りものだ。何故わからないのか。
「どういうことだ?」
「近くにいるのは確かだ。だが、ずっとその気配は同じ距離、同じ位置にいる」
「ついてきてるってことか?」
「恐らくはそういうことになるはずなんだが……」
「退治するか、追っ払うかすればいいだけだろ? 何か問題あるのか?」
魔物がついてきているのであれば、追い払えばいいだけだ。しかし、弓使いが今まで言わなかったのには理由がある。
「……ここに居る気配がする」
「はい?」
「この馬車にいるんだ。魔物が」
「……客の中ってことか?」
「いや、それはないだろう。この魔物気配が妙で……全く動こうとはしていないんだ。そもそも、この馬車に乗った当初から感じているんだ。その間全く何もしようとしてこない。しかし、気配はずっと感じている……よくわからない。魔物がいるのかどうかも、見える範囲にいるようには見えないしな」
「うーん……どういうことだ?」
「わからん。だから確証はないと言った」
気配は感じるが、見える位置には存在しない。魔物はずっとそこにいるかのようであるというのに、実際には存在していない。もはや幽霊か何かだと思いたくなるが、死者の気配とはまた違う。だからこそ、弓使いはわからない、確証がないと言っている。ちなみに同乗している客に化けているなどの可能性は今のところない。人間に化ける魔物もいるが、それならば流石に弓使いはわかる。彼の仲間である冒険者もわかる。
「まあ、襲ってこないなら放置でいいか」
「……そうだな」
危険さえなければ魔物を早急に倒す必要性はない。もちろん見つければ倒すし、襲われれば対処する。それが彼らの役割である。
さすがに幌の上に乗っかったりしたらバレそうだったので、馬車の下にへばりついてみました。
まあ、揺れる揺れる。おかげでしっかり掴まってないと落ちそうで怖かったよ!
そりゃー舗装されていない道とかを走るなら揺れるのはしゃーないんかなー?
よくありがちなサスとかもないし、ゴムタイヤでもないんよね? そりゃがたがた揺れるわね。
なんだかんだで近世における文化的代物は革命的なものか。
中世ファンタジーと言うが、技術的な問題かね。
まあ産業革命は多分起きてないよね。いや、どうなんだろう? 起きている可能性もあるのかな?
でもそもそもスキルとか魔法とかあるような社会観での文化発展ってどうなんだろう。
化学的発展を遂げてくれるのか謎である。まあ、今も馬車な時点でお察し?
でもそもそも馬車であるってこと自体は悪いことではないのかしら? 動力の問題なだけだし。
しっかし……本当は幌の上に乗りたかったなー。
馬車の旅とは言え、外を見られるのはありがたいことなのに。
まあ一番いいのは中に入ってゆっくりできることだけどね。流石に中にいるとバレそうだわ。
だからこんな面倒なことをしているわけですが。うーん、またちょっとやり方は考えよう。
さすがにずーっとへばりついたままって退屈すぎる。暇は人を殺せるんですよ! スライムだけど!
ふう……流石に街から街へと移動し続けるわけじゃないか。
野宿もあるけど、宿場町みたいなところで休むのもありか。
ちょっとここらへんでルート外れよーっと。この世界の街ばかり見回るのもどうかと思うしね?
他の迷宮を見たり、森に侵入したり、山に行ってみたり。
川だって街の中にある川以外も行ってみたり。
どうせなら他の種族も見てみたいかな。エルフとか、獣人とか?
いるのかはよー知らんですけどねー。
あと、魔物も迷宮産の魔物ではなく外に住んでいる魔物はどうなんだろう。
迷宮内にいる魔物しかいないってことはないよね。
独自の発展を見せていたっておかしくはないはず!
そういうのは街ばかりに行っても見れないよね。
だからルート外れましょかー。
まあ、ずっと歩くのはそれはそれで……疲れないけど精神的に疲れるんだけどさ。
まあ、馬車にへばりついてただ移動するだけってのもつまらんですし。色々やってみましょうか。




