061 竜迷宮の王者
お、おお? なんか雰囲気ちがうなー。なんというか、これまでの迷宮と違う。
ってーか、迷宮のタイプはラビリンス系な雰囲気。だけど、こう、厳かな感じ?
道も真っ直ぐ一直線で、こう最終ステージ的な……え、つまりこの先ラスボス注意ってことです?
なんというか……魔物も何もいないのよねー。灯りはある。松明的な。
そもそも迷宮に灯りがあるのは疑問なんですけど? まあ、多分元から設置されてるんだろう。
迷宮内部にある設備は色々と謎ですよね。砂漠とか雪の積もるエリアもあることですし。
さてさて……一直線の先、部屋があるね。暗いけどー暗いけどー、中が見えないこともないー。
あそこにいるのは……竜人? いや、人のような姿をしているからと言って人扱いは違うか。
っていうか座ってるのってあれ玉座的な物かな? 薄暗いながら、綺麗な部屋。
うん、あれだ、ここボス部屋だ。ラスボス部屋だわ確実に。この先に行く必要はないよね?
そもそも自分は実力を得るために来たものですから。ラスボス手前のボスを倒せれば十分。
さて、戻りますかー。
『そこにいる者よ姿を見せよ。我が前に来てこそこそしているのは無粋であろう?』
ぴぅっ!? な、なんか音が!? いや、声が!? スラさんですよ!?
スライムに声は聞こえないんだよ!? っていうか、それ以前にこっちの言語しらねーって!
でも声が、内容の分かる声が来てるんだけどー!?
『姿を見せぬか? よかろう。逃げ道もない通路で焼き尽くしてやろう』
ま、待って! 出るから、現れるから!
『……スライムだと? ふむ……しかし、弱いものではないようだな』
ふええ……慎重に戦力判断されてるよう……じろじろ見られて怖いよう……
『聞こえているぞ? その駄々洩れの意思を少しは抑えてはどうだ?』
あー……もしかして心の声聞こえてます? ああ、そもそも何で声がわかるの?
スラさんの自分、こちらの人間の話す言語を理解できるわけがないし……そもそも竜ですし。
『念話だ。言葉で会話をしているわけではない。我が意思をそちらに伝えている』
あー! そっか、念話かー! あー、それがあればもしかしたら人間相手に会話できたかも!?
でもまあ、生きるために戦闘できるスキル優先だったしなー。そも、人間を頼るのも怖いし。
『生きるためか。そもそもお前はこんなところまでわざわざ何のために来た?』
え? うーんと、言っても怒りません?
『理由次第と言っておこう。黙ると容赦なく焼き尽くすが』
はい、えっと、外に出るために頑張ってました。人間が侵入してきますよね?
人間にもいろいろ強さがあって、自分スライムでこんななりですんで、外出たくても不安で。
だから滅茶苦茶色々頑張って強くなって、ラスト、最後の迷宮の奥手前までこれれば十分かなって。
それでいろいろやっててここまで来ました。
『ふむ。確かにここの前に配置しておいた巨竜を倒せるのであれば外に出るには十分に過ぎような』
おっし! 迷宮の主っぽい人のお墨付き! ってーか、この人は迷宮の主か何かなんです?
『思考が駄々洩れだとさっき言ったと思うのだが……ずっとそのままで行くつもりか?』
はうっ! 失礼的な思考でした!
『まあいい。確かに我はこの迷宮の主である。名は持たぬが……そうだな、竜王とでも呼ぶがいい』
竜王……確かにまあ、竜の姿、人の形を取ってはいるけど竜なのよね。この迷宮的にも竜多めだし。
そっか、迷宮の主が竜だったからそんな感じなのね。ここの前、第十三もドラゴンパラダイスだし。
竜王……ひらがなでりゅうおうだとあれを思い出すなー。
あれは変身後じゃないと竜っぽくないけど。
『なんとも思考の喧しい奴だな……』
あ、はい、ごめんなさい。でも私そう言う人種なんで。今スライムですけど。
『……お前の言っていることはよくわからぬが、お前がここに来た理由はあくまで力試しか?』
はい、そうです。
『ならば我と力試しをしてみようではないか』
えっ!? いやいやいやいやいや!? 無理ですから!? 勝てないからー!?
『何を言っている。この手前にいる巨竜に勝ったのであれば、少しは相手になろう?』
あれと全然強さちがいますよねー!? だって、迷宮の主でしょ!?
『確かに我は神に匹敵する強さ。外では魔王とも呼ばれることもあろう』
マジすか!? 無理ゲー過ぎるって!
ヒュドラを何日もかけて弱らせてからようやく倒せるのよ?
スラさんの無限体力眠気無し疲れ無しの超絶身体能力あってこその結果なのにー!?
『またそれは面白い手法だな。時間をかけて、か。疲労や睡眠の必要のないスライムだからこそか』
はい……なので私はあなたの相手をまともにできる実力はありませんです。ごめんなさい。
『しかし、ここまで入り込んできた者を大人しく返すのも、迷宮の主の矜持としてはな……』
うぐ……そう言われるとなー。
『ふむ、何か面白いものや珍しいものでも見せればそれを代価にするのもありだがな……』
お、面白いものかあ……な、なんかない!? なんもない!? 何かありゃ苦労しないっての!?
『カイザースライムに進化できます。進化しますか?』
このタイミングで進化ですとーっ!?




