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024 それは食するためではなく

冒険者様が見てる。いや、冗談だけど。いや、発言が冗談なだけで見てるのは事実なわけだけど。

一体何さー、と思います。彼女、こっちをじっと見てる。じーっと、じーっと。

ってーか、さっきこっち見てがちゃがちゃって繋がってる手枷鳴らしたし。ゴブさんらの反応は!?

うん、まあ、たまにあるのかどうか理由は知らねーっすけど、彼ら来ないっすね。うん。


で、この冒険者さん何用? ってーか、何でスライム見てるの? 洗ってほしいの?

もしくはお腹空いているとか? いやいや、スライムなんて食べないでしょ。

ゴブさんらだって飯くらいは運んでるはず。子を孕ませ産ませるんだから腹満たす必要はあるよね。

うん、まあ、多分自分がスライムだからかな。ゴブさんらは彼女らを生かしているわけだし。

ずっと、ここで、閉じ込められて、陵辱されて、子供孕ませられて、産まされて。

そんな生活なんて彼女らにとっては地獄のようなもんだろうさ。

そりゃ殺してほしい、って思うよね。

そこに何でも食べるスライムが来たら、ああこいつなら情とかなく自分を食って殺してくれるだろう、そう思ってもおかしくはないか。

そうだね、普通のスライムなら遠慮なく全部食べつくすだろうけどさ。

残念ながら自分は普通のスライムではないので、手を出す気はないよ。出さないってば。

出さないからさ……出さないから、そう泣きながら、嬉しそうに笑顔でこっちを見てくるのやめてくれよ。

ずっと、今まで人殺しなんて危険があってもやらなかったってのにさ。

ここで俺にやれって言うわけ?

確かにあんたら、ずっとここで生きてて苦しいかもしれないけど、俺に殺してくれってのはさ……

ああ、もう、だから、そんなに嬉しそうに、泣きながら笑ってんじゃねーよ。






はあ。世の中ってのは残酷なもんだ。

殺したくない相手は殺さなきゃいけないし、殺したい相手は殺せない。

運命ってのは変なもんだな。自分が生まれなきゃ自分がここに来ることもなかった。

自分が狙われなければゴブリンの集落に来ることもなかった。

集落に来て、ここに意識を向けなければここにはこなかった。

何がきっかけで何が原因で、どうなるかなんてーのはわかったもんじゃないね。

彼女らに、彼女に発見されたのも理由なんだろうけど、ああして彼女が泣いて、喜んだから。

ああ、もう、自殺の手助けなんてやりたくなかったのに。

もし彼女らが俺に人間の心根があると知っていたらどうだったかな。

いや、でも人間なら彼女らを殺して、介錯してやるのも一つの役目、意思か。

まあこれで彼女らは死んだ。陵辱されることもないし、子を産まされることもない。

でも、彼女らはこれで終わりなんだよな。


終わりか。転生してきた身の自分としては考えたことがなかったけど、それもいつか訪れるものなんだろう。

自然に死ぬか、誰かに殺されるか。自分は魔物だ。殺されてもおかしくはない。

彼女らも人間で迷宮にもぐりこんだ身だ。こういう結末になることだってあり得たはずだろ。

だったら彼女らがこの結末に落ちたのを受け入れておくべきだったはず。

ああもう! なんというかすっごくむしゃくしゃするってーか、苛つくっていうか、もやっとする!

俺はこういうの嫌いなんだよな! 本当に!

まあ、そういうのも創作内ならうん、まあ、って思うけどさ!

リアルでやられるとすっげーもやもやするんだっての!

彼女らの無念とか、想いとかそういうのがすっごくなんかもやっとくる!

やっぱり彼女らは無事外に出て、生きてここに戻ってきて報復するのが一番だろ!

できるわけもないだろうけど!

だいたい、もう死体、肉の一片すら残ってないんだから!

食ったんだからさ! もうどうしようもないんだよ。

俺が責任を取るべきかっても思うけど、そもそも彼女らを殺した時点で役目は終わり。

ただのスライムさんには不可能なのです。


『ヒュージスライムに進化できます。進化しますか?』


アナウンスさん? ちょっとタイミングが悪すぎ……いや、この場合は良いのか?

なんでこのタイミングで進化するかどうかの項目が来るの? 食べ過ぎ? 人間食ったから?

まあ、理由は知らないけどさ。こっちが復讐を代わりにするのを諦める理由なくなるじゃん。

どんだけタイミングいいのさ。本当に。ああ、もしかしてアナウンスさんの気まぐれ?

女性っぽいもんね。それかもしかしたら彼女らの想念が進化の条件達成に働いたか。

まあそんなはずはないと思うんだけどさ。はあ、何さこれ。

まったく、ここまでタイミングのいいことが起きて条件満たされたらさ、やるしかないじゃん。

アナウンスさん! 進化お願い!


『進化を開始します』











「別に、私が意図的に操作したわけではないのですけど。でも、本当に何といえばいいのでしょうか。運命的……そう、運命という言葉が符合するようなタイミングですね。進化が遅れていたのか、それともここで早まったのか。それとも単にここで人という大きなエネルギーを食らったゆえに条件が満たされたのか。進化の達成要件に人間を食することが含まれていたのか。理由は私にはわかりません。ですが……あなたの決断を、私は好ましいものだと思いますよ」











ふう。まったく。ああ胸焼けがする。食べすぎか。

まあ、胸もないし実際に食べ過ぎて満腹感を得ることもないけど。

はあ、他人の復讐代行はこれで最後です! もう二度とやりません! 多分!

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