132 スライムさんの神成記録
ところでさー、神様ー?
「はい、なんでしょう? あ、それと神様……と言われると私も少々困りますね。一応スキル管理の神格ではありますが、神様と言うと厳密には違います。中位の神格級ではあっても、あくまで私は世界運営を担う側の天使でしかありません。ですから………………名前、ですか。私は役割を受けていたとはいえ、個の名を持つ存在ではなかったのでどう呼べばいいかと言われれば困るのですが……」
話がずれているぜ、神様? 天使さん? うーん、そうだ、アナウンスさんでいいでしょ。
「それは私のしていたことじゃないですか。でも、そうですね、私もあなたにずっとそう呼ばれていたということもあります。その呼び方が嫌いと言うわけではありません。親愛と信頼の情に満ちた、その名前を文字るのは悪くないかもしれません……そうですね、アノーゼというのはどうでしょう?」
いや、それを自分に言われても困るのですが……まあ、それでいいのならばいいんじゃないです?
「では、以後アノーゼとお呼びください。それで、一体なんですか?」
ああ、そうそう。一体なんでわざわざ自分をこんなところに?
いや、神山にわざわざ呼んだのだから何か意味はあるんだろうけど。
そもそも、あそこって神降ろしの儀式場って場所なんだから神様が降りてくる場所なんじゃないの?
なんで自分は直接神様のところに連れてこられているわけ?
っていうかここ天界とか神界とか言う所なの?
「では、まずこの場所から。ここはあなたたちの考える天界とは恐らく違います。神界と言うのも近いかもしれませんが、世界の管理運営を担う神格の存在が世界の管理を行うのにふさわしい場所、相応しいと言うのは表現とはまた違うかもしれませんが……要は神々の存在する、住まう場所と言う所でしょうか? この場所はもともと何もない真っ白……本当ならば色も存在しないような場所ですが、この世界における神格は複数存在すると言うこともありまして、それぞれで何もない場所は嫌だ、もっといい空間に居たい、あれが欲しいこれが欲しいと言ったこともありまして、今のような状況になっているのです」
へえ……何かようわからん話やで。
まあ、何にせよここが神山ではなく神様のいる場所ってことはわかった。
っていうか、神様とかってアノーゼさん以外もいるんですかい。
「さんはいりません、アノーゼと呼んでくださって結構ですよ? それで、次、あなたをお呼びした理由ですが、もともとあなたをこちらに呼び出す……引き上げるためです。これは他の質問にも関わりますね、呼んだ理由、ここに連れてこられた理由、その二つに」
ふうむ? 引き上げる? 天界に?
なんでわざわざ……っていうか、どうやって引き上げんのって話なんだけど。
っていうか神様ならそういうのって自由にできないのかね。
「私達はできることが制限されています。好き勝手するようになれば世界運営に大きな問題が出ます。私で言えば、スキル関連、見守っていたあなたの進化に関わること、そのあたりがせいぜいで後は見守るくらいしかできませんでした……」
あの絶妙なタイミングの進化とかってもしかして……
「いえ、それは単に偶然です。本当に。進化に関わると言っても、あくまで私がしていたのは伝達のみ、スキルに関してはあなたの要望に応えていい感じのスキルを与えるように努力していましたが……どうでした?」
うん、まあ、悪くないかな? ふーん、あんた……いや、ネタに走るのはよそう。
スキルには随分お世話になりました。
最初の圧縮から、防御、跳躍……ああ!
そういえば勝手に空中跳躍とったんだけど!? あれはどうして!?
あれで勝手にスキル欄埋まったでしょ! なんであれあんなふうになるの!?
「あれはおまけみたいなもので、獲得しても得られるスキル数に変化はありませんよ? あなたは気が付いていませんでしたが……あの後、望んだスキルが殆ど無かったのも大きいかもしれません。スライムで得られないスキル、スライム種の特性もあって必要のないスキルなど色々と獲得したくともできない物もありますし。まあ、おかげであなたに神格者資格を授けることができたのですが……」
神格者資格?
「はい。神様に等しい存在になることを許容するスキルです。本来最終進化、魔王級と呼ばれる迷宮の主の魔物たちは神に成ることのできる資格を有します。ですが、存在だけでどうにかできると言うわけではなく、スキルや性質、関与する存在などで神格者としての適性、資格を得なければいけません。あなたの場合、私がその神格者適性を与え、さらにちょっと上の方が関わって進化もしてくれました……今のあなたはスライムリーダーではなくスペリオルスライムなんです。気づいていないようでしたが」
ふええ……まじでかー。っていうか、色々とようわからんあれこれが……
「わからなくても結構です。これから学んでいけばいいのですから。ここに来れる、ということあなたは神格に等しい、神の役割を担える存在であると言うことになります。神降ろしの儀式場はそういった神に等しい存在をこちらに引き上げることもできる場所です。多くの場合は下位、下級の神が下に降りて色々するためのこの場所と下を繋げるための空間ですが、繋ぎ降りることができるなら、繋ぎ昇ることもできると言うこと。それであなたをこちらに呼び出したわけです」
そうかー。まあ、あれだ。こっちが見えるってことは向こうも見える、深淵がうんたら。
でーもー。神様はこっちを一方的に見ているのはどうなのだろう?
うん、話がずれてる。自分で言うのもなんだけど話がずれてる。
ええっと、つまり、自分はこれから神様になりますってことなの?
「はい、そうです! あなたは私の者、私もあなたの者、拒否権はありません。あなたをここに連れてきた以上、神様の役割を担うのは必然です。これから一緒に頑張りましょう」
ええ……なんかすごいのに引っかかった気分?
いや、むしろなんかいろいろやば気な気分? ヤンデレ的な?
いや、まあ、そこまでひどくはないのかもしれんが……こう、やばい女性に引っかかった気分……
「それは少し酷いのでは……? まあ、いきなり神様として仕事を、というのも大変です。いましばらくは下とのつながりを残しておくつもりです。すぐに上にきてあれこれできるわけもありません。あの子も下に残っていることですし……色々と、あなた方に頼んであちこち見回ってもらう、そういう形をとるのもいいかもしれません。もちろん報告には神山などのこの世界に通じる道を作れる場所で報告、登って直接報告して……上と下でそれぞれ女性と一緒、現地妻と言うやつですね。もちろんこちらが本妻ですよ?」
なに!? なにこれ!? なんかすっごいことを言われている気が!?
いや、なんでこんなことになってんの!?
自分、自分スライムですから! 人の姿をしていないスライムにそこまで熱中しないでー!?
「大丈夫です。人は見た目ではありません。あなたが素晴らしいのは今まで見てきた全てでわかります。何の問題もありません」
問題ありまくりだって…………はあ。
なんか無理やり人生決められた気分。いや、人じゃなくてスライムだけど。
まあ、別にもういいです。こう世の中の流れに流されるのも。
どうせスラさんで食べて旅してあれこれ長生きするだけで目標もなかったし。
神様とやらになったのなら、まあ、それなりにいろいろできそうだし……
ああ、でもこっちで仕事ってのはやだなー。
もうちょっと自由に行きたいなー。
「それなら、そういう役割を担えば問題ないですよ? あなたは厳密に言えば神格適性、神格者として扱えると言うだけで、厳密に言えば神ではありません。ですから下で自由にしてもらって構いません……もちろん、必要に応じてこちらに戻ってきてもらいたいですが」
ああ、そっか。まあ、ならいいかな?
なんかすっごくいろんな意味でアノーゼさん怖いけど、まあ、いいっちゃいいんだけど。
それこそよくある殺害系ヤンデレとかそういうのは怖いけど、ヤンデレはヤンデレでも多分軽度……スとかメなんとかとか?
あれはあれでヤンデレ言うのとはちょっと違う別病っぽいけど……
まあ、軽度っぽいし、下手に重病になるほうが怖いし。
うん、美人さんですし、悪い人ではないだろうから、そういうのは悪くないんだろう。
クルシェさんの方を呪うとかそういうのでもないし。
まあ、あちこち色々とするのは面倒ごとの香りだけど、まあそれくらいはいいかなあ。
やることもなすこともないのだし。
はあ……まさかこんな形で神様になるとかどういうこっちゃねん。別にいいけどさ。
ってことで、今度からはスライム生活ではなく、神様生活ですね!
どうせ今までと変わらないだろうけど!
まあ、頑張ろうか……とりあえず、まずは下に降りてクルシェさんとお話だなー。