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スラさんの転生先こつこつ生活記  作者: 蒼和考雪
再来旅路神成活
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129 聖国襲撃、ただし安全第一

 聖国、昼。その日普段通りの生活を行っていた聖国は突如現れた蝙蝠の大群、およびそれに乗って来た一人と一匹に大混乱の状態だった。


「主様、そのスキルとんでもなくないですか?」


(これ軽々投げるクルシェさんの方がとんでもないと思うのですが?)


 大岩を生み出すスライム、それをぽんぽんと街に投げ込む人間らしき存在。魔族か、魔物の一種か、いや吸血鬼である。それが吸血鬼であると言うことに聖国の人間たちが気づくのは後だが、しかし気づいた時はむしろ逆に恐ろしい事態である。吸血鬼は夜にしか現れない、夜にしか移動できない、日の光に弱い彼らは昼には絶対現れないと思われていたからである。迷宮内であるならばまだ話は違うかもしれないが、こんな正々堂々昼間に吸血鬼が現れるのは異常事態である。少なくとも普通の吸血鬼が進化した存在であると推測されるだろう。

 そして恐ろしいことに生み出した大岩を街へと投げ込んでいる。今のところそれが落ちているのは人通りの少ない場所、噴水、冒険者ギルド、建物の屋上、水路など人的被害の少ない所であるが、岩をポンポン投げ込まれればそこにいる人間にとっては厳しいことになる。撤去はそれなりに大変だし、物を破壊されれば直すのも大変、新しく購入するにもお金がかかる。実に面倒な話である。

 さらに言えば、吸血鬼とスライムは聖国の外から攻撃してきているのである。聖国内部に入り込めば吸血鬼もスライムもどちらも弱体化するのが見込めるのだが、外から攻撃されている現状では意味がない。聖国の持つ対魔の結界も内部にしか作用しないという地味な欠点があるのである。せめてそれが魔物の持つ特性的な攻撃や、魔法の類ならまだ弱体化を見込める可能性は…………あるかもしれないが、今回やっているのは吸血鬼が力任せに大岩を投げ込んでくるだけ。行動は物理的なものであり、大岩自体はただの自然物。つまり対魔の結界で防ぐことはできないのである。

 この状況に、たった一人と一匹とはいえ聖国に対する宣戦布告的に魔物が攻撃してきたと言うことで、冒険者ギルドおよび聖国の騎士達の多く、ほとんどが出張ってくる。もっともその多くは吸血鬼の投げ込む大岩に阻まれ、また彼らを運んできた使い魔や眷属の類である蝙蝠たちもまた聖国の人間たちを襲っている。軽装備の人間、肌を多く見せている人間は一気に血を吸われ貧血状態になり、重装備であれば岩に巻き込まれる。そのどちらにも対処できる冒険者や騎士がいるものの、たくさん出てきた彼らの多くは上位者のみが残るようにと選別されていった。


(うーん、結構数が減って来たけど、まだまだいるなあ)


「そうですね……まあ、単純な攻撃なので対処できる人も多いはずです」


(ういうい、では同化で持ってた大岩を残していくので、クルシェさん、空高く投げてくださいな)


「……私に主様を投げろと!? いえ、事前に聞いて居ましたけど、やはり少し……戸惑いますね」


(はよなげろやアホ従者)


「はい。主様の仰せのままに」


 スライムから一気にどしゃっと大きな音がして大量の大岩が出てくる。そしてそれを生み出したスライムは吸血鬼に掴み上げられ、大岩を投げるように、天高く投げ上げられる。いくらかの冒険者はそのスライムを睨みつけ、遠距離攻撃のスキル、魔法、弓、投擲など様々な攻撃を投げかける。彼らの中には吸血鬼よりもスライムの方が脅威であると、その持ち得るスキルで判断したものも多かった。

 スライムに向けて放たれた攻撃がスライムへと直撃するが、全くと言ってスライムにはダメージがなかった。スライムは防御のスキルを持ち、そのスキルにより攻撃を防いだからだ。通常の防御スキルでは防ぎきれないような攻撃も防ぐとんでもない強さのスキルである。鍛えに鍛えたスライムのスキルの一つ。そして、スライムの持つスキルはそれだけではない。


(そーれ! 圧縮解除!)


 空に投げられたスライムが、花開くように、堤防が決壊しあふれ出す水のように、膨らむ風船のように、膨大なスライムの体が広がり、その場にある全てを飲み込んだ。それは冒険者、聖国の騎士、吸血鬼、大岩、蝙蝠、そこにあるあらゆる全てを。ついでにスライムの体は聖国に迫る程に伸びたが、流石に結界では遮られるようにじわりとスライムの体が弱化、消滅していく。スライムはそれを感知し聖国の結界から先には伸びないように自分の体を調整する。

 スライムの体に飲み込まれた人間たちは、じわりと消化されていく……ことはなく、その装備のみを消化され、残った人体はぽーんとスライムの体の外にはじき出されていった。なお、装備というのは武器、防具、装飾品、そしてその下に着こんでいる服や下着も含まれる。つまりは真っ裸で放り出されたわけである。流石にこの衆目の中裸は女性の人間にはつらいだろう。即刻逃げ出す。もしこの時点で蝙蝠が飲み込まれていなければそのまま吸血され貧血で倒れていただろう。

 そして騎士、冒険者たちを文字通り丸裸にし安全を確保、なお、飲み込まれていた蝙蝠たちも無事、吸血鬼も服を溶かされかけボロボロだったがこちらは流石にスライムも気付いたのか、無事だった。


「主様、そういう趣味があったんですか?」


(のーのー! みす、みすだからー! スラさん紳士よー!?)


 スライムの気持ちはともかく、これ以上の攻撃は必要ないと吸血鬼、スライムは判断。蝙蝠たちと共に、また元の場所へと戻っていく。






 聖国吸血鬼襲撃事件、それは聖国の敗北の結果で終わった。一応記録としては、聖国の結界は確かな強さを持つとされ、その結界に対する信頼は高まったのだが、強力な魔物を相手に聖国にいる騎士や冒険者では対抗できなかったと言う結果となっている。もしもこのとき聖女が出張っていたならば結果は変わったかもしれないが、仮にあのスライムに聖女がいても勝つことは出来なかっただろう。その点においては少々幸運と言えた。なお、この事件により聖国は結界による守りは確かに盤石であるということがわかったが、逆に結界の外にいる存在に対応する手段が脆弱であると言う点が分かった。結界に頼りすぎな結果、ともいえるのかもしれない。そして新たな聖国の防衛機構、対魔の仕組みの制作に取り掛かるようだが、それができるのはまたいつの日になるかわからない。暫くは聖国は他所に干渉できるほどの動きは出来なくなるだろう。

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