127 吸血鬼の事情
ところでさ?
「はい、なんですか?」
窓、開いているけど大丈夫なの? 光入ってきて焼かれない?
「ああ、吸血鬼は光に弱いですからね……」
迷宮内なら日光とか入ってこないから自由に行動できそうだけど、こういう普通の街とかそういう場所だと危ないよね。
前の吸血鬼野郎も地下に逃げ道作っていたし、外に自由に逃げられるならそんなのつくるってこともないだろうし。
で、大丈夫なの?
「はい、ふふ、実際に見てみるのが早いですね」
おおう……そっちは、そっちは窓だ! 光に触れると吸血鬼は灰になるんだぜー!!
おおおっ!? な、なんだと!?
クルシェさんの背後から光が、日光が入ってきているのにクルシェさんが生きている!?
一体どういうことなんだー!?
「……わざわざ大げさに反応して盛らなくてもいいのですが」
あい、ごめりんちょ。で、実際どうして光が大丈夫になったのさ?
早く人間になりたーい的に人間になったの?
吸血鬼から人間に逆戻りできる方法があるとは正直思えないんですけどね。
「いえ、私は吸血鬼のままです……主様は知っていると思いますが、魔物は進化をします」
ふむ……まあ、スラさんは進化して今の状態だしね。
ってことは、クルシェさんも進化した……ということ?
「はい、そういうことです」
へえ……で、何回進化したのですか?
「え? いえ、一回だけですけど……」
い、一回!? ハイデイライトウォーカーに進化するのにたった一回の進化だけでいいのです!?
「はいでい……? えっと、何ですかそれ?」
ハイデイライトウォーカー、もしくはデイライトウォーカーだったかな?
日の下を歩く者、つまりは日光平気な吸血鬼の事だと思います。
吸血鬼って言っても作品によっては色々な種類があって、真祖とかの設定があったり、ゾンビとか屍者とかいたりするし。
場合によっては蝙蝠から吸血鬼に進化よーってこともあるかもしれないです。
「…………そう、なんですか?」
さあ?
「もう、主様、適当なことばかり言わないでくださいな……」
スラさんは記憶で物を言っているだけです。
記憶? スラさんは記憶喪失なのよ? 今のは知識だから忘れていないだけなのよ?
うう、スラさんは記憶を失ったかわいそうな子なのです。いい子いい子してください。
「主様のお願いであれば、存分に……」
まあ、それは冗談として。
「それ、酷くありませんか!? 主様を抱きしめられると思いましたのに!?」
それを期待する従者というのはどうなのでしょう……? まあ、別にいいですけど。
ぶっちゃけさ、クルシェさんに会いに来たはいいけど。
別にこっちとしてはやることがないのでどうしたらいいのかわかんないのよね。
クルシェさんも主様、とか言ってくれるのはいいんだけど。
そもそもクルシェさんに何かを要求するわけでもなし、主の勤めがあるわけでもなし。
そもそもスラさんはスライムだからどこでも生きていけるしなんでも食べられるけど、クルシェさんは吸血鬼なわけで。
そっちは血をどうしても確保する必要があるのでしょう?
どちらにせよ、同じ生活は難しいのではない?
「そうですか? 主様なら別にどこでも問題はないでしょう? 一緒に過ごすくらい、何ら問題ではないでしょう?」
その光のない眼を止めて下さい。ヤンデレ怖いです。
「実は今の私はしばらく血は要りません。必要なら、街一つを襲って全滅させて血を確保してもいいくらいですし」
わりと容赦ないね君!? 元人間としての仲間意識とかはないの!?
「冗談です。やるのは構いませんが、私自身は人殺しを好んでいるわけではないですよ? まあ、街一つを襲って各人から血を確保するのはありでしょうけど。今の私は使い魔、眷属の蝙蝠たちに吸血させても食事ができますので。ついでに言えば、人間に限る必要も既に無いんです」
一進化吸血鬼凄えな!?
「それと、実は私は主様に一つの伝言を預かっていまして……」
伝言? っていうか、それ誰からの伝言?
「神託、つまりは神様です」
ええええ!? 神様!? 神様!? あいええって言いたくなった!
えっと、マジでどういうことなのです?
「それは…………と、語らせてもらう前に。私の方から主様に、一つ頼みたいことがありまして……」
ちょっとー!? 出鼻挫くなしー!
「ご、ごめんなさい……こう、主様と話していると、色々話がころころ転がって、そのせいで伝えたいことや重要な事とか横に行っちゃうことも多くて……」
人のせいにしない!
「はい! ごめんなさい!」
うん、土下座ごめんね……ちょっと言いすぎました。
まあ、そうだね、スラさん適当言ってるから話それるね。ごめんね。
で、結局どういう話なの? 話自体は聞くよ? 頼まれるかどうかは別として。
まあ、主だからちょっとは頑張るかもしれないけど。
「ありがとうございます……私、クルシェは主様の気持ちに感激しています……」
う、うん、ガチ泣きしない、ガチ泣きしない……ほら、とりあえず話してみ。