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スラさんの転生先こつこつ生活記  作者: 蒼和考雪
再来旅路神成活
118/132

118 スラさんの悔想

 盗賊たちは去った。しかしその場に残る冒険者と商人たちの脅威は消えない。それはなぜか? なぜならスライムが残っているからである。

 スライム、それは盗賊たちを追い払う最大の要因にして、今その場に残っている盗賊の多くを殺した存在。その体や頭に取り付き、くしゃりと頭を潰してトマトみたいに真っ赤な塊にする。そんなことをたった一瞬でやってのける恐ろしく強大な化け物。本来はそんなものはあり得ないはずなのに、実際にここには存在する。世界最強のスライムと言っても過言ではないような異常存在。いや、少し言いすぎか。

 ただ、その見た目は普通のスライムにしか見えない。実際見た目だけで言えば普通のスライムたちに紛れてしまっていたら全く分からないと言うくらいに見た目に違いはない。ただ、その動きや攻撃したときの反応、あるいはそのスライムの行動を見ていればわかるだろう。まあ、そういうことは今回の状況には関係ない。冒険者や商人たちにはスライムが脅威の存在であり、そこに存在すると言うことが厄介なのである。


「…………」


 無言でスライムと対峙する冒険者たち。スライムに動きはない。普通であれば周りにある物を種別生死関係なく食らいつくす食欲の王者、あらゆるものを食らいつくす災害生命。大層な呼び方をされるが、大繁殖したときの被害はその名にふさわしい存在である。もっともその防御能力の低さや核という弱点が見える場所にあることから比較的倒しやすくはある。

 だが、彼らが対峙するスライムはその名そのものを受けてもいい程に強力な存在である。しかし、何も食べる様子はない。時間が止まったように全くと言って動きを見せないのである。これには冒険者たちも困った様子だ。攻撃してくるにしろ、逃げるにしろ、周りの物を食べるにしろ、次の動きがないとどうにも対処しづらい。


「っ!」


 そんな折、スライムは動きを見せる。その場から退き、冒険者たちの方を見向きもせず、倒された盗賊たちに手を出すようなこともせず去ったのである。それはスライムとしてはあり得ない行動だが、そもそもからしてスライムとしてはあり得ない行動だったので気にする必要はない。

 そのままスライムは冒険者たちの目の前から姿を消す。


「はあっ…………」


 大きく息を吐く冒険者。彼等では絶対に倒せないような強力無比なスライム、それを前にしての緊張感はたまらなく重かった。ましてや、後ろにいる商人を守らなければならない。それを果たせるかどうか、スライムに勝てるかどうか、わずかな時間を稼ぐことすらできるかどうか怪しいくらいにスライムの行動は早く強かった。少なくとも盗賊をあっさり倒していたのを間近で見ているのだからそれがわからないはずもない。


「なんだったんだ……」


 スライムの存在、その行動、それらに疑問を覚えつつも、彼らは盗賊がいなくなり、スライムもいなくなった、脅威が去ったことを喜んだ。そして盗賊の持ち物から幾らか使えそうな物、売れそうな物を簡単に見て、盗賊たちの死体はその場において彼らはすぐにその場から移動した。もしかしたらスライムや盗賊が戻ってくるかもしれない。そうでなくとも死体の存在が他の獣を呼び寄せる。死体を持っていく、と言うわけにもいかない。人間の死体は大きな荷物だからだ。

 盗賊は懸賞がかかっていることもあるが、構成員ではあまりお金にならないことが多いし、壊滅させたわけでもなく、また単に死体だけ持ってこられてもそれが盗賊かどうかの判別もつきにくい。そういうこともあり普通の盗賊は金になる要素はない。なので放っていくしかないのである。

 そうして彼らはその場からいなくなった。その場には死体が残るのみであった。






はあ……人殺しちゃったよー。まあ、彼等盗賊っぽかったし?

襲ってたのを倒したのだから悪いはずもないんだけども。

それでもやっぱり人殺しっていうのはあんまり気分よくないよ。自分スライムだけど、それでもさ。

元人間、その意識に引っ張られちゃってるだねー。

えっと、自分人殺しは初めて…………じゃないね。

忘れちゃあかん、三階層で食べ殺したあの子らを。

それがあの子らの、最期の望みだったとしてもさ、まともじゃないけどさ。

それでもやっぱりあの子ら殺したのは自分、殺して食べたのは自分なんだから忘れちゃあかんよ。

はあ…………やっぱり気落ちするなー。もうちょっと何かやりようはなかったのかねえ。

っていうか、あそこで自分の姿を見せたのは結構な失敗だったかも?

盗賊はともかく、冒険者いたもんね。

つまり下手をすれば指名手配スライムになる危険性が!?

うぉんちゅー……違う、うぉんてっどー!

まあ、多分大丈夫だとは思うけど……まあ、報告はされるだろうけど、まあ多分大丈夫だよね?

大丈夫だって言って! ううー、いきなり不安だよー。

やっぱり前にも人助けしたことあったけど、あの時はぶん殴られたんだっけ?

一番人助け的に良かったのはあれか、クルシェさんだね。

慕われて、敬われて。まあ、クルシェさんは人じゃなくて吸血鬼だけど?

うん、まあ元人だから…………っていうか、やっぱりクルシェさんとこ行く? 時計塔の街。

そういえばそのつもりだったような。盗賊相手とその衝撃で色々忘れてるぜ。

つい先日のことだよね? 健忘症かな?

つーか足がないのよ足が! スライムにはもともと足ないけど!

アシでもないぞ! 車だ車、馬車!

それに乗っていたところを盗賊に襲われたんだっつーの、もー!

はあ…………まあ、歩いていこう。足はないけど。うん、足ないもんね。

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