114 スライムさん聖国逃亡篇
うおおおおおおい!? 矢が飛んできたよっ!? まあ、刺さっても核には届かないんですけどね。
驚いたけど、しかし別に危険なものではないので大丈夫です。
だって効かないんだもん届かないんだもん。
だが、この事実はある大きな事実に繋がる! それは! 私が見つかったと言うことですねー。
うん、こりゃやばいか? 流石に存在バレしたら厄介よな。
ということなので、逃げさせていただきますね。
とりあずまずはこの馬車を降りて、えっと、どこかいい感じの逃亡場所はあるかね?
馬車上からの観光中なのでまたなんとも言えないのですが。
まあ、下水でもなんでも逃げられればいいや。
ということで馬車から降りて建物の影。っていうか、基本的にスライムって強いよね、隙間さえあれば。
軟体生物、液状生物の特徴はその体を隠せること、わずかな隙間を抜けられること。
まあ、スライムさんには核があるので残念ながら限度があるのですが。
まあ、圧縮で核を小さくは出来る。
とはいっても、我が体の大きさの限度は最初期、一番最初の大きさなんだけどなー。
何でか知らないけど、あの時の体以上に小さくはできない。
圧縮スキルはどんどん強くなってると思うのに。
もしかしたら生物的な限界とかそういう所なのかなあ? もしくはスキルの限界?
なんにせよ、大きさ小さくできる源はあるので仕方がないですね。
もっとも……その大きさでも十分なんだけど。
しかし、外の様子を探っているとわかるんだけど、どたばた街を探しているみたい。
うーん、スライム一匹にそれほど重大な対応をするべき? いや、でもなあ。魔物は魔物か。
それに彼らにとっては矢で撃ったのに死ななかったスライムだもの。
警戒に値するものなのかもしれない。
うん、スライムは最弱って言うのは一般的見解だものね。
その最弱の魔物が攻撃防いだってなると、うん。
そだね、スラさん絶対危険視されてるよね。
っていうか、狙ってきたのってあそこにいた騎士さんだったか?
あの遺跡っぽい建物。いや、歴史的に今現存している建物だから遺跡じゃないですけど?
なんというか、自分的にはああいう建物は遺跡的なんだよねえ。古代の建築物。
いや、でも現代でももしかしてああいう建築様式はあったんだろうか? 住んでいたところの問題?
むう? 自分何処に住んでいたかなあ? なんとなくの記憶は思い出せるような気もするんだけど。
うーん? 国の名前も都市の名前も街の名前も家の名前も家族の名前も思い出せぬ。
まあ、もう昔のことだもんなあ。今こっちにきてスライム生活して何年目?
冬眠みたいに眠ってたし、色々と影響はあるんだろうな。
まあ、そもそも戻りたくても戻れないだろうから仕方ないとは思うし。
ならむしろ完全に忘れて気にしない方がいいくらいじゃないでしょうか。
まあ、なんでもいいですけど。
さて、現状の問題だ。どうしよう? 結構あっちこっち人の行き来が激しくて出にくい。
そのうえ、恐らく自分のいる場所がどのあたりかと言うのは多分なんとなーくばれている。
だって人が殆どあっちこっちいかないからね。
何? さっき言っていることと矛盾している? 異議あり?
いや、あっちこっち一キロ範囲とあっちこっち百メートル範囲的な?
特定範囲内でうろうろしている感じ。
まあ、恐らくは感知系のスキル持ちか何かなんだろうね。
それでおおよその場所が分かっているから。一応こちらもそれなりに移動していますが。
しかし、やはりあまり移動できないしねえ。うーん、どうしよう?
人に見つからず襲われずに逃げられる場所……ああ、うん、あそこくらいだな。
というわけで、今私は水の中。しかしゆっくりゆっくり移動しています。
前みたいに川の流れに乗るのにもいかぬ。
まあ、人間側も水の中にいる存在をどうにかするのは難しいっしょ。
なのでとりあえず上か下か……上に行こう。
海はやだもん。前に流され流され流されたから上に行きます。
そういえば、前もここ見たことあるようなないような?
まあ、なんでもいいです。
「……見つからなかった、と?」
「はい……」
聖国、その中心の大聖堂のような建物。国の中心であり王宮のようなものであり、聖国の宗教、そして各地に散ったその宗教の中心地、聖地のような場所。その中心で聖女が苛立ったように話を聞いている。
「一度騎士によって馬車の上にいたスライムを発見、矢を射かけたようですが防がれました。この国にスライムが入り込む余地は存在しません。つまりそのスライムは普通のスライムではないと言うこと。そして、そのスライムは逃亡。この時点でまともなスライムとは違った存在であるのは間違いありません。意思があるとみていいでしょう」
「ええ。そして、恐らくは……」
「はい、そのスライムが感知された魔王級の魔物であったと推測できます」
現実的に考えれば小さなスライムが魔王級の強さを持っていたとは考えづらい所だが、しかしそれ以外に出せる解答はない。消去法からそういう結論となる。
「そして、その魔王級の反応は結界に触れ消失。恐らくはこの国から出て行ったものかと」
「はあ……ただでさえ吸血鬼のことがあるというのに」
聖国としても現状吸血鬼が支配していると言われている……そんな噂、伝説のある街が存在する。その街に騎士の派遣を行い様々な調査、捜索を行っているが、今のところ見つからない。いや、その兆候と言うか使い魔的な存在に騎士がぼこぼこにされて帰っては来るのだが。一応そういった実害はあるが、死者はいない。不幸中の幸い……というには、意図的すぎる。恐らくは見逃されていると言うこと。魔物に舐められる聖国というのは大問題である。
「とりあえず魔王級のそのスライムに関しては現状放置、何か事がおきたらその報告に都度対応、場合によっては騎士の派遣、それこそ本当に村一つ、街一つの実害がなければこちらとしても動きにくいわ……」
「……何もないといいのですが」
彼らの心配していることはあり得ないことである。なので何も問題ないのだが、彼らは相手のことを知らないがゆえに相手の行動を心配している。その被害を。それが取り越し苦労であるとしるのはいつの日になるのか。多分ずっとわからないかもしれない。




