112 魔王扱いのスライム
魔王級。魔物の等級はその進化系、強さの基準で下級中級上級にわけられている。基本的には第二までが下級、第四までが中級、それ以上が上級。まあ、この基準はあくまでおおよその基準であり、例えば竜種ならば最低レベルの竜種でも下級と言うことはないだろう。もっともこの場合はどこまで竜種とするか、そもそも竜種の最低段階はどこなのかを論議する必要が出てくる。今まで魔物が進化するところを見たことのある者はほぼおらず、せいぜいがスライムがビッグスライムになるのを観察できるくらいだ。魔物を飼いやすくなったため、飼える魔物の中には進化するのを見ることもあるかもしれない。
さて、現在話した等級はあくまで上中下についての話である。魔物の等級は一般的には上中下、これは最終進化とされる種であっても強さ的にはあくまで上級区分と言う扱いになる。しかし、魔物の進化にはごく一部の例外が存在する。魔物の一般進化から外れる特殊な進化、進化と言える者かは不明だが、魔物の中でも最強種ともいえる存在、迷宮に存在する最奥の迷宮の格を守る迷宮の主たる魔物、迷宮主である。
迷宮の主、これは普通の進化の体系から外れた存在であり極めて特殊な存在と言える。さらに言えば、その強さも並み居る魔物超える圧倒的強さを持ち、また特色として迷宮主は人間ともまともに会話をできるほど頭のいい魔物ばかりである。迷宮主だから頭がいいのか、頭がいいから迷宮主となるのか。不明な点は多いが、迷宮主はその魔物としての存在の格は普通の魔物から跳び抜けている。
とはいっても、普通は迷宮の主である魔物が迷宮の外に出ることはない。迷宮の主は迷宮を自分の住みよいように自由にできるし、その大きさも迷宮から出にくいことも多い。また、下手に外に出て争いになるよりは迷宮の奥で優雅に暮らすのもいいだろう。頭がいい迷宮の主と言う存在であるゆえに、そういう理性的な判断ができてしかるべきである。
だが実際に迷宮主が外に出た事例がある。迷宮の主も迷宮の生活をしつづけていると、退屈し外に出て遊びたいと思う物なのだろう。本能的な魔物ならばまだ迷宮に留まる選択肢を選ぶところでも、意思があるゆえに精神的な疲労、退屈という感情的なもので別の選択をする。そうして出てきた迷宮の主の魔物についての記録が残っている。それゆえに迷宮の主の魔物の等級として魔王級というものが残っているのである。
さて、その魔王級とやらが何をしているかと言うと……
おー。大分近くなってきたなー。でかいぜ……まじででかいぜー。
しかし、大分近づいてきたけど大丈夫だろうか?
そろそろ馬車から降りたほうがいいのでは? この馬車あの建物に向かっているんじゃない?
仮に大聖堂とかそういう宗教的施設なら危険度高くね? ほら、ファンタジーにおける宗教だもん。
んー? いや、ファンタジーにおける宗教はそこまで魔物にとって危険だったかな?
特定種族、もしくは神に関しての方が色々と多いような?
もしかしたそこまで危険視はされないかも?
いや、さすがにねーな。魔物ってだけで十分討伐対象だって話ですね。
やっぱ降りるかな、そろそろ。
んー、しかし現在住宅地の中よ? 多分住宅地の中よ?
流石に人のいる中でぽーんと降りるわけにもいかんなあ。
どこか人のいない所で降りないとあかんなあ。
馬車の上で次にどうするべきかをのんびりと考えている。そんなことをしている間に、馬車は聖堂へと向かい続ける。
上位の冒険者、聖堂を守る騎士、対魔のために存在する騎士達は魔王級の魔物を探すために奔走している。時々引っかかることもあるのだが、それを追う前に感知外に逃れることが多く、彼らは何処に魔物がいるのかを発見できていない。恐らくは魔物自体が移動して範囲外に出ているのと、擬態や隠蔽などの探知系スキルを妨害するスキルのせいでうまく機能しないのと両方があるのかもしれない。
基本的に魔王級とされる魔物は危険で強い魔物である。しかし、そんな魔物がでたというのならばそれ相応に騒ぎになっているはず。でかいにしろ、見た目が化け物にしろ、すぐにわかるはずだ。しかし実際には全くと言って騒ぎになっていない。ということは魔王級の魔物は隠れている、姿を隠している、もしくは人間に近い姿に化けている、その醜い己の姿を服や帽子で隠しているなどが考えられる。その推測を元に彼らはその存在を探している。もっとも見つかっていないが。
実際彼らの推測、探知スキルに引っかかるうえでの推測であれば、恐らくは魔物は高速移動をしていると推測できる。しかし走っている何者かの報告は来ていない。それらの情報を集めても見かけた報告すら存在しない。一体魔物は何処に行ったというのか、どのような姿でどこに隠れ何処に向かいどう移動していると言うのか。彼等にはわからない。まさか魔物が見た目だけで言えばただのスライムと同じ姿をしているなんて言うことを、彼らはわからない。
「む?」
「どうしたんですか?」
「あれを見ろ」
聖堂の見張りの騎士。その一人がある馬車を指さす。
「……馬車ですけど」
「その上だ」
「上? 何もない…………んー? 出っ張ってる?」
「スライムだ。どうやら天井に化けているようだな」
「スライム? ありえませんよ、それ。スライムならすぐにわかりますって」
スライムは最弱の魔物である。馬車の天井に化けるなんて言う技術は持たないはずだ。そもそも、馬車の天井に化けていると言うことは見た目を変えるスキル、幻術や変化、擬態のスキルなどを有していると言うことである。スライムにそれはありえない。
「まったく、私は看破スキルを持っているからわかるんだ。あれはスライムだ」
「でもー」
「でもじゃない。まったく、魔物の侵入は良くないことだろうに」
そう言って騎士は弓を構える。見張りの場所から馬車上のスライムを射るつもりだ。
「後で怒られますよ?」
「魔物を放っておくほうが問題だ」
そう言って、彼女は矢を射った。
よくよく考えればわかるはずである。この国、聖国には結界がある。魔物を寄せ付けない結界、魔物を排除する結界。その結界があるかぎりスライムは侵入できない。つまり、彼女の見ているスライムは特殊なスライムであるはずである。少なくとも第三、すなわちヒュージ以上の。それが普通のスライムと同じ姿をしていると言うことがどれだけ異常か、彼女にはわかっていない。




