108 魔物の店
冒険者から逃げるように飛び降りた街は一つ前の普通の街と大差はそんなにない。
まあ、こっちの方が活気があるけどね。
冒険者も多いし……まあ、あんまり強いのはいないかな?
ちょっと覗いてみるけど。まあ、来た人らがいるんだけどさ。
街を見回ってみるのもいいけど、昼間はあんまり動けないと言うか動きづらいと言うか。
一応擬態のスキルはあるけど擬態スキルでどれほどまでに相手をごまかせるか……あんまりわかんないんだよね。
迷宮から出るとき目の前通っていったけどわかんなかった、とかあったけど、それでもやっぱり不安は不安。
だいたいあそこみたいにたった一人が見張っていると言うだけの場所と違ってここは視線が多い。
冒険者も多くて視線も多くて気配の感知能力や擬態とかの迷彩感知ができる人間がいるかもしれない。
そう考えるとあんまり見て回るのは安全じゃないのよな。
ならば夜を待てばいい、って話なんだけど。
でもさ、見て回るならやっぱり人が生きて動いている昼の時間じゃない? 明るいし。
スラさん振動感知という極めて便利な特殊視界能力があるけど、だからって昼間の視界の方が見目はいいのよ。
光を感知するのは以前からあるけどね。
っていうか、光があって見える点からして昼間の方が見えやすい。
だって光の感知による視界と振動感知による視界の二重の視界なのよ? 見えやすいの当たり前。
さて、そんなこんなで貴族向けの馬車に乗るのは後まわし。
機会があればにしてこの街を見て回るのです。
観光気分でうろうろとてとて。とてとて歩いていないからうろうろずりずり?
うろうろっていうのは擬音的にどうなの?
いやあ、やっぱり生で武器とか鎧とかを見るのはいいなあ。ほら、リアルじゃ見れないし?
って、今はここがリアルだよ!
まあ、別に武器とか鎧とか完全に見たことがないってわけではない。
これでも迷宮にいたし、そもそも財宝引き上げで手に入れた剣は今も有しているのよ?
まあ、でもさ、武器屋とかで直でおいてある物を見るのとか、鍛冶屋とかで出来たばっかのを見るとか。
そういうのって全然違うよね? やっぱり生でそういうのを見るとわくわくするよ。
まあ、あんまり見れないんだけどさー。
ちくせう。スライムの体が恨めしいぜ、今まですごく便利だったけど。
こういう時は人間って便利だよなー。なんかそういう風に考えるのもどうかとはおもうけどねー。
おう? なんだろう、あの看板。狼の顔? あんなの昔あったっけ? んー、入ってみるか?
狼の顔……ペットショップ? そういうのってあったかなあ……憶えてないや。
店の名前も書いてあるけど読めない。
そういえば振動で音声は一応わかるようになったけど文字は学んだ覚えがないような……
魔物屋『シェラブ』。かつて魔物と仲良くなった結果<従魔>スキルを得たある少女が成長し、商人となり、その本人の意思、昔の経験からたくさんの人に魔物と仲良くなって自分のように<従魔>スキルを獲得してほしいと言う願いの結果、<従魔>スキルにより従え調教された魔物を販売するようになったのである。
当然の話だが魔物を売ると言うことからその行動、行為、そもそも魔物を従えると言うこと自体を問題視される。特に聖国においては宗教的に魔物を従える、飼うということに対し否定的であり、そういった関係各所から色々と店舗経営に対する干渉があったが、今では特定の国、特定の街などかなり限定的な個所でその販売を行うことにして限定的な店となっている。
しかし、やはり<従魔>スキルを確実に得ることのできる魔物を得られること、<従魔>スキルを得た後従えることのできる魔物を購入できる点などからかなりの利点があるとされ、現在でもその店は経営されている。もっとも規模は開店当時、経営当時からはそれなりに縮小されているが。
ちなみにこの魔物屋『シェラブ』、この店名に関してはこの店を始めた少女、女性の名前が使われていると言う話である。また、その女性からある魔物に関する情報が伝わっている。そのことからその魔物を探すように『シェラブ』経営者は言われている。まあ、一応探してはいるがあくまでついでに近いものとなっているが。
「……はあ」
店の経営自体はそれなりに上手く行っている。しかし、その全てが上手く行っているわけではない。確保できる魔物も年々少なくなり、また人気のある魔物の確保も難しくなってきている。そもそも<従魔>スキルを欲しがる人間も増えたり減ったりで安定しない。
「まったく、スライムばかり……簡単に捕まえて増やせるが、スキルでも調教が難しいってのに」
スライム系の魔物は増やしやすい、扱いやすい、利用価値が高い。スキルさえあればゴミ掃除に利用しやすい。場合によっては下水などのゴミ掃除に使われることもある。もちろん増加するスライムへの対策などは必須になるわけだが。
「意思のあるスライムなんているわけないだろ……あの頼みごとのせいでスライムばっかり捕まえる羽目になってなあ……はあ」
スライムは餌やり自体は楽だが、スキルの影響下から外れるとすぐに逃げ出す危険性がある。おかげでその管理が極めて大変である。まあ、倒しやすいということもあってそこまで面倒なことにはならないこともあるが、しかしどこか下水などの餌も多く見つけにくい場所に逃げられれば危険すぎる。そんなこともあって色々と面倒なのである。
「……おい!」
「なんですか?」
「あそこにスライム逃げてるぞ! ちゃんと管理しろ!」
スライムの檻……というか籠、返しもついて逃げ出しにくい構造になっている籠から逃げ出したスライム。一応スライムは何でも食べるしなんでも融かすが、弱いスライムは金属を溶かしにくいことから金属製の籠を使うことが多い。また、魔物が干渉できない素材を用いればほぼ完全に閉じ込めることもできるが、流石にそれは高いのでほぼ使われない。
そんなスライムを入れている籠の前にスライムがいるのが見える。
「え? いや、あそこには何もいませんよ?」
「なに?」
二人の男性、同じ場所を見ていても同じものが見えているわけではない。一人の目には見えているが、もう一人には見えていない。それはなぜか?」
「……スキル? <擬態>スキルか!?」
スライムがスキルを使う。ありえないことではないが、相当珍しいことである。
「捕まえるぞ……って、そういえば見えないんだったか」
もう一人の男にスライムを捕まえることを手伝わせたいが、残念ながら<擬態>スキルを<看破>することはできないようだ。しかたないので男性は一人でスライムを捕まえようとする。




