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貴方にとっての財宝って何ですか?

レイタが倒れた日から1週間後、神からの神託を受けた一人の男がやってきた。

彼の名はアズール。「財宝を集めるなら人間になったほうがよくね?」そんな理由で暗黒竜から転生した男である。

しかし彼は人間に転生して困惑した。あれ?家の中に財宝が何もないんだが、と

そう、彼は転生後、財宝なんかとは一生縁の無い農民の子供に転生したのである。


元々、彼が暗黒竜の頃に手に入れた財宝は力づくでねじ伏せた魔物たちに集めさせた物なのだった。

貢物を持ってきた魔物たちは彼にいつもこう言っていた。


「人間から手に入れてきました」


彼はその言葉をいつも聞いていたので、人間は財宝を持つ生き物だと認識していたのである。だから彼は人間に転生した。なのに、自分の家には何ひとつ財宝が無いのだ。

魂の声を聴くことができる者がいるとすれば、きっと嘆きの歌声が聴こえてきただろう。


暗黒竜として数千年生きてきた彼にとって人間の12年など短い。

だが彼にとってその12年間は暗黒竜として生きてきた数千年より遥かに長く感じられるものだった。

彼は12歳になると村を出て、大きな街で冒険者見習いとなった。

冒険者見習いの仕事は街の雑用や薬草集め、迷宮奥に入る冒険者の荷物持ちなどだ。

正規の冒険者に言わせれば、そんなもん冒険じゃねーぞと言いそうな仕事だったがアズールは嬉しそうにそういう仕事をこなしていた。

何故なら働けばお金(財宝)が手に入るからだ。彼は報酬をもらう時、いつも満面の笑みを浮かべていた。


最初のうちは田舎から出てきた働き者の少年という評判だった。だが、1ヶ月もすると周りからの彼の評価は変っていた。

その原因は彼がお金を一切使わないからだ。


お金が無くて宿屋に泊まれないならともかく彼はお金があるのに泊まらないのだ。

彼は食事にすら金を使わない。

夜になると町の外に出て野宿をし、川で体を洗い、雑草や昆虫を食べていた。

そんな食生活で腹を満たせるわけもなく彼は冒険者ギルドで受けた見習い用の仕事中、よく腹の音を鳴らしていた。時には倒れたこともある。

彼の持っていた財布用の袋が満杯になろうという頃、とある少年が彼に声を掛けてきた。


「やぁやぁ、君が噂の宝箱君かい?」


「なんだそれは、俺の宝箱なんて名前じゃないぞ。俺の名前はアズールだ」


少年はアズールに小声で耳打ちした。


「君の財布を狙っている奴らがいる」


「な、なんだと!俺の財宝を狙っている奴がいるだと!ふざけるな!」


「声がでかい!逃げるぞ」


少年がアズールの手を取り走り出すと物陰から男たちが出てきて舌打ちした。


「くそ、逃げられた!おい、宝箱を追いかけろ」


ちょっとした逃走劇が終わり、少年が息を切らしならアズールにある提案をする。


「ぜーぜー、ちかれた・・、ちょっとあの店に入ろう」


カランコロンカラン


「注文はお決まりでしょうか?」


「野うさぎのリゾットとリンゴジュースで」


「水で・・」


「「え?!」」


「ああ、うん、いいよ。僕が払うから好きなだけ注文しなよ」


「な?いいのか、じゃあ、これとこれ、あとこれも、それとそれと」


アズールはたらふく食った。実家の農家を出て以来まともな食事だった。

アズールの見事な食いっぷりに彼の食べているエビフライがとても美味しそうに見えたので既に腹いっぱいだったが少年もそのエビフライを食べたくなった。


「アズール君、エビフライ一匹貰ってもいいかな?」


「・・お、おう。お前の金で食べるのだから、くっ・・」


少年はエビフライを食べるとまだがつがつと食事しているアズールに幾つか質問した。


「借金?別にないぞ」「宿?泊まると財宝が減る」「食事?店で食べると財宝が減る」「欲しいもの?財宝が欲しい」


アズールの話を聞いて少年は財布から小銅貨1枚を取り出しアズールに渡した。


「な?いいのか?これはお前の財宝だろ。本当に貰ってもいいのか?」


「さっき、君からエビフライを貰っただろ。だからその御礼だよ。だから僕は君に僕の財宝をあげるんだ」


「お、おう」


「ねー、アズール。僕は思うんだけど財宝は貯めてるだけじゃだめだよ。ちゃんと使わないと」


「それは嫌だ。財宝が減る」


「うん、でもこのままだと君は誰かに財宝を取られちゃうよ。さっきはなんとか逃げられたけど、これから何度も狙われるよ」


「俺の財宝は渡さない!ぶっ倒してやる」


「無理だよ。相手は複数だし。僕たちはまだ子供で相手は大人だって出てくることもあるんだよ。そして君は弱い。武器も持っていないし、いつも腹を減らしていて仕事中何度か倒れてる。一部の奴が君のことをなんて言ってるか知ってるかい?《罠のない宝箱》それが君のあだ名だよ」


「・・・」


少年は諭した。財宝を守るために財宝を使うこと。財宝を増やすために財宝を使うこと。

その後、店を出て武器や防具を手に入れたり、リュックに着替え、非常食。少年はアズールに最低限必要なものを買わせていった。

最初は店でお金を使う行為に対して財宝が減ると嫌悪感を示すアズールだったが


「財宝が減ると思うから駄目なんだよ。財宝を与えていると思うんだ!」


そう言われて何故か全身に電流でも流れてくるような衝撃を受けた。

この日、アズールは人間として当たり前のお金を使うという行為を覚えた。


アズールを諭した少年の名前はアルベルト。生まれながらに錬金術師のクラスを持つ少年だった。

アルベルトは最初、彼の噂を聞いても何とも思っていなかった。だがたまたま冒険者ギルドで同じ雑用の仕事を受けた時にアズールの姿を見た瞬間にアルベルトの中で何かがざわついたのである。それは錬金術師としての勘だった。暗黒竜の転生体であるアズールの体からはわずかだが竜としての気配を発していたのだ。

錬金術師にとって竜は最高の素材の一つである。


―――


「やぁアズール。財宝好きなのは別にかまわないけど。さすがにリュックいっぱいにお金を詰め込んで歩いてるのはどうかと思うよ。さすがにそれは重いだろ、ギルドに預けた方がいいんじゃないかい」


「一応、ギルドにも預けてある。これはアレだ。体を鍛えるためにだなー」


アルベルトとアズール。二人はあれ以来つるむようになった。アルベルトのアドバイスで槍士のクラスを手に入れて二人はパーティを組んで冒険者としての資格も手にれていた。


「ただ単に持ち歩きたいだけだろ。そんなに持ち歩きたいんだったら君は空間使いのクラスを手に入れたほうがいいかもね」


「わかった。俺は空間使いになる。俺はどうすればいい?」


「残念ながら空間使いは生まれつきの空間使いしかいなくてクラスストーンは存在しないんだ。だから無理だと言いたいところだけど、噂では迷宮奥深くにあるダンジョンコア。それを壊した者は望んだクラスを手にいれられるらしい。あくまでも噂だけどね」


「わかった。ダンジョンコアぶっ壊そう。行くぞアルベルト」


「ああ、待つんだ。準備、準備しないと駄目だよ」


数年後、二人はダンジョンコアを壊すことに成功する。その瞬間アズールの意識は何処かに飛ばされた。よくわからない空間である。


ダンジョンコアを壊し者よ。汝に力を与えよう。汝は何を求める。


意識が朦朧としていたものもアズールはその頭の中から響くような声に答えた。


「空間使いに俺はなる!」


―――


迷宮討伐者となったアルベルトとアズールは3ヶ月近く会っていなかった。

壊れたダンジョンコアを手に取ったアルベルトの中で錬金術師としての勘がざわついた。


「これがあれば賢者の石が作れる」


そう言ってアズールの空間倉庫に入れて持ち帰らせたダンジョンコアをアルベルトの工房で研究し始めたからだ。

アズールは親友に会えない寂しさをせつなく思っていたが、長い付き合いの中でアルベルトが工房にこもることは過去に何度か会ったのである。

早く賢者の石が完成すればいいなと思うアズールだった。


ある日、アズールは妙な胸騒ぎを感じた。

アルベルトはアズールが工房に篭ったら彼に会いに行くことは無かった。何故なら研究中のアルベルトは性格が豹変するからだ。だから行かないようにしていたのだが今すぐアルベルトに会いに行かねばと思ったのだ。


暗闇の中、血の臭いがした。それはアルベルトのものだと本能で感じた。

血の臭いのする方に向かうと血だらけのアルベルトが何かから逃げるように歩いてきた。


「アルベルトおおおおおお」


その声にアルベルトも気づいたが、彼は一瞬こちらを見た瞬間、崩れ落ちるように倒れた。

アズールがアルベルトの元にたどり着いた時、ああ、ダメだと思った。もうアルベルトは助からないとただ感じた。

今にも力尽きようとしている親友が本当に途切れそうな声で何か言っている。


「ア・・ズール・・・僕の・・財宝を・・・君に・・託」


親友の手には何か石のようなものが握られていた。


「おい、貴様。動くな。その石は王国の物だ!」


気がつくと見知らぬ男たちに囲まれていた。


「この石はアルベルトが独自に作っていたものだ。王国の物なわけが無いだろ」


「お前はそれが何なのかわかっているのか賢者の石だぞ。冒険者風情が持っていていいものじゃない」


「何故、これが冒険者の石だとお前は知っている?その事は俺とアルベルトしか知らないはずだぞ」


「ふん、いいだろ、冥途の土産に教えてやろう。宮廷の占術師がそこの奴が賢者の石を完成させると占っていたのだ。だから完成するという日に取りにきたのだ。賢者の石があれば我が王国は他国を支配する力を手に入れられるだろう。我が王国は永遠に栄えるのだ。ふはははは」


不快な笑い声に怒りで狂いそうになった。その時後ろから男が剣で切りかかってきた。だがアズールの体に触れると剣を握っていたはずの腕は肘から先が吹き飛んでいた。


「許・・さん。俺は俺から友達(財宝)を奪ったお前たちを決して許さん!」


アズールの体からあふれる何かによってアズールを囲んでいた男たちは動けなくなっていた。

人間の姿を捨てた黒いオーラを放つ黒い竜人がそこに立っていた。

アズールは動けない手下どもをまずは黒いオーラで掻き消すように殺すと恐怖で失禁した頭と思われる男の足を槍で払って砕き離した。倒れて動けないその男を何度も何度もただ刺し続けた。

男の原型が亡くなるとアズールはアルベルトの遺体を空間倉庫に入れ暗黒竜へと姿を変えて王都に向かって飛び立った。王都に着いた暗黒竜はたった一夜で王都を滅ぼした。


黒い竜人はかつて暗黒竜が寝床にしていた廃墟にいた。もう何日も寝ていなかった。止まらかった涙もとっくに枯れていた。力尽きて眠ると彼は夢を見た。


『やぁやぁ、君が噂の暗黒竜君かい?』


「あるべるどおおお」


『なんだいその面は王都を滅ぼした災厄がそんな情けない顔するんじゃないよ。にしても君。竜だったんだね。もし生前に気づいていたら君の体からいっぱい素材取り出してあんなもんやこんなもんが作れていたのに本当に残念だよ』


「あるべるどおおお」


『アズール、落ち着け。いいから僕の話を聞くんだ。』


「うん、わかった話聞く」


『僕は念願の賢者の石を作ったけど残念ながらそれを使うことなく死んでしまった。それはもう大変心残りだ』


「うん」


『君のことだから、僕の体と賢者の石、ちゃんと保管してあるよね?賢者の石の所有権はもう君に渡してある。だから君にはやって欲しいことがある』


「うん、わかった」


『まずは目が覚めたらだね「うん」。僕の体を賢者の石に吸収させるんだ、そして―――「うん」――――――――――――「うん」――――――――――――――――――――――「うん」――――――――――「うん」――――――――――――――――――――「うん」―――――――「うん」――――』


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