8歳になりました
「それじゃパムおばさん、森に行ってきます」
「魔物が出たらすぐ逃げるんだよ」
「はーい」
3歳くらいだったと思う。母親のルモモが村にたまに来ていた商人の男と駆け落ちして出ていった。
男手一人では幼い子供の面倒は見れないだろうと村長の息子の家に嫁いでいたタモサクの姉のパムおばさんの所に俺は預けられるようになっていた。
ルモモがいなくなった当初のタモサクはやばかった。
死ねばいいのにと思っていた俺でさえ同情するくらいの落ち込み具合だった。
というか俺自身もやばかった。母親だった女がタモサクを捨てたことはまだいい。
問題は、タモサクの子供が俺しかいなかったことだ。
このままだとなあなあで農家を継がされるのだと思ったからだ。
預けられたパムおばさんのとこはそれまでの環境より快適だった。
村長の家と言うだけあって書物があったからだ。
農村では文字の読み書きができる者は少ない。親から農地を受け継いでしまったら一生村を出ることなく、ただ家畜のように畑を耕し、ただ家畜のように子供を産んで老いて死んでいくからだ。
文字の読み書きなど領主とやりとりする村長か村に滞在している兵士くらいしか覚える必要が無いのだ。
3歳の俺が村長に文字を教えて欲しいと言うと村長はパムおばさんの子供、つまり従兄であるピーマともうひとりの従姉であるミゥに教えるついでだと教えてくれるようになった。
精神年齢30歳以上の俺が文字を教わることは正直苦痛だったが、村長の家にある書物を読みたいと言う欲求が勝ったのか。1年も掛からずに書物を読めるようになった。
数年ぶりに書物を読むという行為はそれだけで楽しかった。
そんな俺の姿を見ていた村長は俺にこう言った。
「お前は大きくなったら村を出たほうがいいかもな」
―――
魔力を数値化できるということは当然この世界には魔法というものが存在する。
が、残念ながら俺は!まだ<・・>魔法は使えない。
何故なら俺は魔術師のクラスを持っていないからだ。
ちなみに俺の現在の個人情報はこんな感じだ
名前:レイタ(8歳)
クラス:生霊使い
HP:11/11
MP:11351/12525
技能:生霊術Ⅴ 投擲Ⅱ
『ドッペルゲンガー!半径200mの地図情報を表示。本体を数字の0、生霊を1以降の数字で表記、動物は青の♦マークと名前で表記、魔物は赤の♦マークと名前で表記。索敵範囲に魔物がいる場合は警戒曲を演奏せよ!』
レイタの生霊視覚域に地図が表示される。
「うーん、ネズミくらいしかいないな、もう少し奥に入ってみるか」
少し奥に進んだところで俺の脳内に音楽が流れ出す。地図情報を確認すると赤い♦マークが表示されていた。
「ちっ、ゴブリンか」
俺はポケットから2つ石を取り出し両手で一つずつ握った。
『この石に宿れ!ドッペルゲンガー!』
脳内に視覚域が2つ追加される。俺はゴブリンに気づかれないよう近づいてみたがそこにはゴブリンは何故かいなかった。
(うん?どういうことだ?あ、そうか、もしかすると・・)
俺は左手に持っていたドッペルゲンガーを憑依させていた石の視覚域を使い地図上にあるゴブリンの方を見るとそこには杖を持ったゴブリンがいた。
『対象の識別情報をパターンBで表記』
種族:ゴブリン
クラス:幻術士
HP:16/16
MP:96/101
状態:健康
技能:幻術Ⅱ
(クラス持ちか、にしても幻術士ってなんだ?そんなクラスもあるんだな)
俺は左手の石を一旦浮かせて右手に持った石を思いっきりゴブリンに向かって思い切りぶん投げた。
『ぶちかませ!ドッペルゲンガー!』
その命令によりドッペルゲンガーを憑依させた石は俺の魔力を消費して一気に加速する。
しかし、投げる際に少し音を立ててしまったため、ゴブリンに気づかれる。ゴブリンはこちらを見て腰を落として避けようとする動作をした。
普通ならそのまま避けられるわけだが俺の投げた石は普通じゃない。ドッペルゲンガーを憑依させていることにより俺の意志で操作できるのである。
軌道修正した石はもちろんゴブリンの頭部に命中し陥没させた。
警戒曲が止んだ。つまりこのゴブリンは死んだ。
ゴブリンは魔物である。つまり動物と違い体内に魔石を持っている。ゴブリンの肉は正直まずいので食えたもんじゃない。
俺はゴブリンの体内から魔石を取り出そうと思い。ゴブリンの死体にナイフを入れようとした。
その瞬間、ゴブリンの体が光りだす。
「な・・まさか生きてる?」
実は殺してなくて、なんかの幻術をかけられていたいたかと考え、俺はゴブリンの体から飛び退き、嫌な汗を流した。
警戒曲は流れていないが俺は臨戦体制に入る。
『手元に戻れ!ドッペルゲンガー!』
両手に2つの石を握りしめ俺はあたりを見回した。
しかし敵に襲われることもなく、光が止んだ後にゴブリンの体があった所に少し大きな石が現れただけだった。