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マーメイド  作者: 井口
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ポートレート

僕のこの気持ちは、知らなくて、いい。



5月の風が吹いて、君の髪と本のページを弄んでいても

僕の心は決して揺るがないだろう。



君の指先が、必死に物語を追う。

その仕草ですら、僕の脳裏から離れなくなる。

君は苦笑いで周囲を見渡す。僕だけが、見逃さない。

苦しくも、可笑しい。



そして、悲しい。




君が他の誰かと話していても、僕にそれを止める権利はない。

ただ、後ろ向きの君の頭を『ぽん』と叩くだけだ。




振り返る君の



その笑顔を、僕は一生忘れない。






何気ないその姿を

僕は脳裏に焼き付ける。





壊さない様に、優しく。

溢れない様に、繊細に。





僕の気持ちなんて、誰も知らない。

知らなくて、いい。





ただ、時が過ぎるのを待つだけだ。

君が『過去の人』になるまで。

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