新しい家族
6話目投稿。
(これからどうしたもんだかねぇ)
目を覚ました俺がベッドに座って考えているのは当然これからの事、昨日はじいさんの質問で結構な精神ダメージもらってそのまま寝ちゃったから今後の身の振りを考える余裕がなかったんだよね。
一晩寝た事でショックも大分抜けたし、今のうちに少しでも考えておかんとな。
まず、昨日のじいさんとの会話で改めて認識したことだが俺はこの世界の事を全くと言っていい程知らない。分かるのはこの世界がペルムリディアスで、ソフィーティア様とアステリオ様が管理している、これだけ。
(まるで赤ん坊だな、こっちの世界にやって来たばかりという意味では確かに赤ん坊と同じだけど)
だが赤ん坊には保護してくれる両親がいるが、俺にはいない。
猛獣がわんさかいるような危険地帯に丸腰でいるようなもので、早急にどうにかしないと命に関わる。
(頼れるのはあのじいさん、ゼギルさんしかいない。けど、こんな怪しい子供に態々力を貸してくれるだろうか?)
見ず知らずの俺を助けてくれるような人だから無下にはされないと思うが、断言は出来ない。
とりあえず頼んでみる事は決めたものの悩みは尽きず、朝食を作ったゼギルさんが呼びに来るまで俺は悩み続ける事となった。
朝食の間中どうやって話を切り出すべきか考えていたため、気が付けば食事はとうに終わり何を食べたのかすら覚えていない状態だった。
それだけ悩んだにも関わらずうまい話し方は思いつかず、話を切り出すことは出来なかった。
いい加減自分の口下手が嫌になる。思えば前世(といっていいのか微妙だが)でもこうだった、挨拶程度なら普通に出来るのに自分の考えを相手に説明する等の場面になると途端に口が回らなくなる。
そんな風に自己嫌悪していた時に
「ちょいと付き合ってくれんか。」
ゼギルさんに声を掛けられた。
(一体何処に行くんだろう)
そう思いながら木々の間にある細い獣道を歩くゼギルさんの後をついていく。
木の根や草に何度も足を取られて転びそうになる俺とは対照的に、ゼギルさんの足取りは平地を歩いているかのごとく軽い。
「着いたぞい。」
慣れない獣道を歩いたことで息の上がり始めた俺にゼギルさんがそう告げたのは、出発してから30分程経った時だった。
そこは木々が切り倒され、ちょとした広場のようになった場所だった。
息を整え、顔を上げた俺の目に入ったのは花の添えられた子供ぐらいの大きさの石だった。
「墓?」
花が添えられていたのでなんとなくそう思ったのだが、間違ってはいなかったらしい。
「仲間の墓じゃよ。」
軽く頷いてゼギルさんは話し始めた。
「ワシは昔冒険者をしとっての、その時パーティを組んどった奴らがここに眠っとる。」
「一人はゲンゴ、ワシの弟子のような奴でよくワシの後をついてまわっとった。もう一人はレイチェル、ゲンゴの恋人で、落ち着きのないゲンゴをよく叱っとったのを覚えとる。」
懐かしそうな目をして、優しく石を撫でながら言葉を続ける。
「冒険者をやめてからこの時期にはいつもここに来ておった。そして昨日、こ奴らの命日にここに来てこの石に寄りかかって眠るお前さんを見つけたんじゃ。」
そして俺に向き直り言葉を続けた。
「最初に見た時は一瞬二人の子供かと思ってしもうた。そんな事がある訳がないのにの。」
「じゃが、お前さんと話しておると何故か思い出すんじゃ。世間知らずで抜けとったアイツの事を。」
そして俺にしっかりと視線を合わせ
「なんとなくではあるが、こうしてワシらが出会ったのは運命ではないかと思っておる。行く宛がないのであればしばらくこの老いぼれに付き合ってくれんか?」
突然の言葉に混乱しながら、なんとか言葉を返す。
「迷惑じゃ・・・ないですか?」
「迷惑ならこんな事は持ち掛けんよ。」
その言葉で張り詰めていた緊張が切れてしまった俺の目から涙が溢れてきた。
涙を拭いながら、どうにか
「よろしくお願いします。」と告げた。
「そう固くならんでもいいわい。これからは家族のようなもんじゃからな。」
そう言って頭を撫でるゼギルさんに
「分かった・・・じいちゃん。」
そう答えると「わるくないのう。」と微笑んだ。
こうして、異世界にきて二日目に、俺に新しい家族ができました。
次の話は少し時間が飛んだ状態で始まる予定です。