老人の呟き
5話目、投稿
いきなりですが、私は今非常に困っています。
何に困っているか?私の身の上を目の前にいる老人、ゼギルさんにどう説明するかです。
どなたか意見のある方は挙手を・・・っているわけないだろ。
考えが纏まらないからって現実逃避してどうする、俺。
とりあえずなんでもいいから思いつたことをまとめよう。
その一、私は異世界からやって来ましたと正直に言う。頭がおかしいと思われる可能性大、ボツ。
その二、遠い所から来ましたと言う。そこはどこだと聞かれたらアウト、ボツ。
その三、記憶喪失を装う。定番だが見破らそう、保留。
その四、親に捨てられました。親の名前や職業を聞かれたボロが出そう、保留。
・・・我ながらロクでもないアイデアばっかだな。どれもあっさりと見破られそうだし、そもそも見ず知らずの俺を保護した上食事まで出してくれた相手に嘘なんてつきたくないのが本音だ。
本当にどうしたものやら。
「考え込んどる所すまんが、幾つか質問させてもらえるかの?」
このままだとラチがあかないと判断したのだろう、ゼギルさんが聞いてきた。
うーむ、これ以上悩んでもいい考えは出そうにないし覚悟を決めて答えるしかないか。
あの後体感時間で15位ゼギルさんの質問に答えた結果、不審者のように見られることはなくなりました。
が、素直に喜べません。
どうやらゼギルさんが質問したことはこの世界の人間なら子供でも答えられるようなモノだったらしく、途中から「なんでこんな事も知らんのだ?」という呆れ混じりの視線に変わり、最終的にはもう可哀相な子を見る目になっておりました。
お願いだからその視線はやめてください、体はともかく精神年齢は25なんで地味に応えるんです、ある意味不審者扱いよりも。
ゼギルさんもこの結果は想定してなかったようで、若干冷や汗をかきながら
「あ~、質問はもう十分じゃから・・・そろそろ休みなさい。」
そういってお開きにした。
ゼギル視点
「わからんのぅ・・・。」
ノブユキと名乗った子が眠りについたのを確認したワシは部屋の外に出ると、そうひとりごちた。
「自分が何故ここにいるかも、リュシオンの事も、一般常識とされとるような事すら知らん。そのくせお礼などはちゃんと言えとるから多少なりとも教育は受けとるようじゃし、どうにもつかめん子じゃ。」
最初は一番近くにあるリュシオンの街の子かとも思ったが、リュシオンの名前どころか存在すら知らん。リュシオンは今世界で最も有名な街といっていい、その存在を知らのは大陸の端で暮らしとる者ぐらいじゃろう。
じゃが、服や体の状態を見る限りそんな遠くからやってきたような様子は微塵も伺えんし、あんな子供が大陸の端からここまで一人で来れるはずもない。
考えれば考えるほどわからなくなってきよる。
「見つけた時はここまで変わった子とは思わんかったからのう。」
そう、あの子を見つけた時は・・・。
昼を回った頃、ワシはこの時期恒例行事となった冒険者時代の仲間、ゲンゴとレイチェルの墓参りに出かけた。
そしていつものように墓に参ったワシが見つけたのが、墓石にもたれて眠るノブユキじゃった。
最初に見た時は驚いた、なにせノブユキの顔にはその墓に眠っておる一人ゲンゴの面影があったからの。
すぐにそんな訳はないと分かったが、気になったのは確かじゃ。
そして食事の後の会話で、その気持ちは一層強くなった。
正直今まで生きてこれたことが不思議なくらいの世間知らずじゃ、ここで放り出したら末路は騙されて売られるか野垂れ死か二つに一つじゃろうな。
「そういう所もゲンゴと似とるな。」
あ奴も何処か抜けとってしょっちゅうトラブルに巻き込まれとったし。
「これも運命というやつかの。」
明日の朝聞いてみるか、空に浮かぶ月を眺めながらワシはそう呟いた。
ちょっとですがブックマークが増えてました。見てくれる人がいるというのはいいものですね。