お祝いの準備
投稿が遅くなってしまいすみません
ゴブリンギガントを倒した俺たちは、ユウナさんとシェリルさんの魔力を回復する為その場で休憩をとることにした。といっても俺は魔力の回復なんて縁がないので、2人が魔力の回復速度を上げるマナポーションを飲んで休憩している間ゴブリンギガントの解体をすることにした。
しかし皮が硬く、解体用のナイフにありったけの気を込めた上で体重をかけてようやく刃が刺さる状態なので解体のスピードはかなり遅い。
(阿修羅使ったほうがいいかな、でも能力低下がなぁ)
転生前に遊んだことのあるゲームでもそうだったが、強力だが能力低下等のデメリットがある技の使用はどうしても二の足を踏んでしまう。そのせいでゴブリンギガントとの戦いでも使いどころが分からず、ロクに撹乱の役目も果たせないまま戦いが終わってしまった。シェリルさんは秘密にしていたはずの魔法をあっさりと明かして戦いに挑んだというのに。
(俺、足でまといだよな)
実力もそうだが、とっさの判断力や機転といったものが2人に比べて劣っている以上このままパーティを組んだら足を引っ張るのは間違いないだろう。
(断った方がいい)
本音を言えば一緒にパーティを組みたい。けれど俺の噂を知った上で誘ってくれた相手の迷惑になるのは嫌だった。
「手伝いますよ。」
そんな事を考えながら解体をしてたせいで声をかけられるまでユウナさんが近づいてきた事に気がつかなかった。
「もう大丈夫なんですか?」
「私はシェリルさんほど魔力が多くないですから。」
そういってユウナさんも解体作業に加わった。シェリルさんはまだ回復が十分ではないらしく、近くで座ったままだ。
「今日はありがとうございます。お2人が手伝ってくれたおかげでゴブリンギガントを倒せました。」
「気にしなくていいですよ、私たちも助かりましたから。」
「ユウナの言う通りよ、特に最後のアレはすごかったわ。ところで中身はなんだったのか聞いてもいい?」
離れた位置にいるシェリルさんにも聞こえるように大きめの声で言うと、ユウナさんはひまわりのような笑顔で答え、シェリルさんは瓶の中身が気になっていたようで質問してきた。
「あれはカレムの実を粉にして酒に混ぜた物です。」
そう答えると2人とも顔が引きつったが無理もない。カレムの実というのは地球でいう唐辛子にあたるもので、当然ながら凄まじく辛い。それをアルコール度数の高い酒にぶち込んだんだから、目に入った場合の激痛は推して知るべし。最悪の場合そのまま失明、なんて可能性もあるので迂闊には使えない代物だ。
「うわぁ・・・。」
「悲鳴を上げるわけだわ。」
解体が終わったゴブリンギガントをそれぞれの鞄にしまってから、シェリルさんがギルドで購入した転移石を使って迷宮の入口まで戻ってきた。後は街に戻ってギルドで報告と買取を済ませればこの2人ともお別れだ。
「今日の探索はこれでおしまい、ということで返事を聞かせてくれるかしら。」
楽しげな顔で俺の返事を待っている2人を見ているとどうにも断りにくいが、言わないわけにもいかない。
1度深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、二人とは実力に差があり足を引っ張りたくないのでパーティを組むという話はなかったことにして欲しいと告げたのだが。
「却下よ。」
俺の意見はバッサリと切り捨てられた。何故に?
「私達の事が嫌いってわけじゃないでしょ?」
当たり前だ、嫌いなら一緒に探索に行ったりしない。そもそも俺の噂を知った上で誘ってくれた相手を嫌えるわけがない。
「なら問題ないわ。第一貴方に足を引っ張られたくらいでどうにかなるほど私達はやわじゃないからね。」
「それに私もシェリルさんも貴方に仲間になってなって欲しいと思ってるんです。だから大丈夫ですよ。」
正直そんな風に考えてくれているとは思わなかった。そしてここまで言ってくれる事に心が揺らぐ。
「年長者の好意は素直に受けておきなさい。」
その迷いを見透かしたようなタイミングで言われたシェリルさんの言葉で、じいちゃんに誘われた時を思い出した。
「分かったよ。足を引っ張らないように頑張るから、これからもよろしくお願いします。」
「ええ、歓迎するわ。」
「よろしくお願いします!」
そして街に向かって歩きだした。
冒険者ギルドでゴブリンギガントの発見と討伐の報告、そして買取を済ませてさっさと出ていく。騒ぎになったりすると面倒だし。そしてギルドを出て歩きながら今後の相談を始める。
「俺は穴熊亭に戻って今日の報告をするつもりですけど、2人はどうします?」
「私達も一緒に行きますよ。」
「挨拶は必要だし、今日の宿も決まってないからね。」
あっさりと方針は決まり、そのまま穴熊亭へ向かうことになった。
「ただいま。」
「お帰り。おや、アンタは昨日の。今日は泊まりに来たのかい?」
穴熊亭の扉を開けながら声をかけると、ちょうどカウンターにいたアンナさんが俺の後ろにいる2人に気づいて声を返してきた。アンナさんは昨日ユウナさんと会ってるから顔を覚えてて当然か。
「この人はシェリルさん、ユウナさんの仲間の冒険者だよ。今日から俺とパーティを組む事になったから挨拶に来たんだ。あと空きがあれば泊まりたいって」
「初めまして、シェリルと言います。どうぞよろしく。」
「これはどうもご丁寧に。ここの女将をしているアンナさ。一階の奥の2人部屋が空いてるけど、そこで構わないかい?」
「はい、それで構いません。ユウナもいいわよね。」
「もちろんですよ。」
料金を受け取ったアンナさんは「ガラムに知らせてくる。夕食を楽しみにしときな。」と言って厨房に向かっていった。




