進化
想像したら結構グロかった
「ユウナ、どう思う?」
シェリルさんがそう聞いてきたのはノブユキくんがシックルテールと呼ばれる蛇との戦いを終えた時でした。シックルテールは尻尾部分が鎌のように鋭くなった全長3メートル程の蛇で、毒のある牙と鋭い尻尾を使って襲って来ます。牙に気を取られて尻尾で足や手を斬られる、もしくは尻尾を防いだらそのまま絡みつかれて牙で噛み付かれる等で駆け出しの冒険者が殺される事は結構あるんです。
私も初めて遭遇したときは毒牙に気を取られて尻尾の攻撃を受けてしまいました。幸い他人より頑丈な体とシェリルさんの治療のおかげで大事には至りませんでしたけど。
「ちょっと、聞いてるの?」
いけない、昔の思い出に気を取られてシェリルさんの言葉を無視してしまうところでした。
シェリルさんの質問に答えるべく先ほどの戦いの様子を思い出します。
私が2匹のクロスパンサーを撃退してからしばらく歩いた頃、またノブユキくんが立ち止まり敵がいることを伝えてきました。普段は一人で迷宮に来ているからか彼の(気配感知)は相当なもので、シェリルさんより早く敵の気配に気づいています。私も一応魔力を使って敵の気配を探ることはできますが、あまり精度が高くないので正直羨ましいです。
「今度は貴方の番だけど大丈夫?」
「多分大丈夫だと思う。」
そう言って気配の向かってくる方向へと向き直るノブユキくん、そして茂みを揺らしながら出てきたのはシックルテールです。
互いの姿を確認し、シックルテールは鎌首をもたげ、ノブユキくんは僅かに腰を落とし左手で鞘をつかみ右手を柄に添えてにらみ合いました。
そしてシックルテールが僅かに身を引いた瞬間、ノブユキくんの右手が反応したのを見て。
「あぶ・・」
今私が見たあの蛇の動作は、私が初めてシックルテールと遭遇した時に見た動作と全く同じでした。このままだと尻尾の攻撃を受けてしまうと思った私は、思わず声をあげ・・・。
(え?)
次の瞬間に目に入った光景は、いつの間にか刀を振り抜いた姿勢になっているノブユキくんと、尻尾を切り落とされて呆然としている蛇。そして蛇が痛みに悶える時間すら与えず、続く袈裟懸けの一閃が蛇の首をはねていました。
「その、すごいと思います。速すぎて刀を抜いたところが見えませんでした。」
先ほどの光景を思い出しながらシェリルさんに言葉を返す。シェリルさんもそう思っていたのか一つ頷いて言葉を続けました。
「確かに速かったわ。それにフェイントに引っかかったフリして尻尾の攻撃を誘ったようだし、頭も悪くないみたい。」
あれはフリだったんですか、気づかずに声を上げてしまった事が恥ずかしくなってきました。
「思った以上にいい拾い物だったかもね。」
シェリルさん、背後に舌なめずりする大蛇の幻が見えるんですけど・・・。
「無理強いしちゃダメですよ?」
「そんな無粋な真似するわけがないでしょう。それとも、ユウナは彼を仲間に入れるのは反対?それなら考えるけど。」
その返しはずるいと思います。私自身彼が仲間になってくれたら嬉しいと思ってるんですから。
「無理強いだけはしないでくださいね。」
「当然よ。」
ため息混じりの言葉への返事には、とびきりの笑顔もついてきました。
シックルテールを倒した後は特に敵と出くわすこともなく、順調に地下4階まで進んでこれた。シェリルさんは迷宮に入ってから一度もゴブリンと遭遇してない事が不満そうだが、俺としては探索の邪魔が減って有難い。あいつらの叫び声は耳障りだし。
そんなことを考えているうちに地下5階へ降りる階段へたどり着いた。いよいよ未知のエリア、今までと大きく変わってはいないはずだが慎重に行こう。
階段を下りて地下5階についた時、(気配感知)が異様な気配を捉えた。それは2人も同じようで表情が険しくなっている。
「何がいるかわかる?」
「いや、初めて感じる気配だ。ゴブリンに似てるけどあれよりずっと気配が強いし、なんて言うか 禍々しい。」
もしかすると地下6階以降、第二階層と呼ばれるところから上がってきた奴かも知れない。だとすると最低でもあのプレンドリフトくらいの強さはあるだろう。今の状態なら勝てなくはないだろうが危険なことに変わりはない。
「どんな相手か確認してギルドに報告するべきだと思うけど、どうかな?」
とりあえず(気配感知)で分かった事を伝えた上で意見を述べてみる。
「それでいいと思います。確認は必要ですし。」
「私も異論はないわ。けど、戦闘になる可能性もあるから持ち物の確認をしてから向かいましょう。」
2人はしばらく考え込んでいたが俺の意見に賛成してくれた。
そして気配のする方へ向かい、木陰に身を潜めた俺たちが見たものは。
「「「・・・。」」」
仲間であるはずのゴブリンの死体を貪り食う1匹のゴブリンジェネラルの姿だった。
何でだ?何でジェネラルが死体とはいえ仲間のゴブリンを食ってるんだ?口をついて出そうになる言葉を必死で押さえ込み、頭を落ち着かせようとする。
「ノブユキ、虚獣同士は例え種族が違ってもほとんど争わないはずよね・・・?」
シェリルさんも多少は虚獣について知っているだけに目の前の光景が信じられないようだ。
「そのはずだけど・・・。」
「!見てください。大きくなってます。」
なんだって!?慌てて目を向けるとゴブリンジェネラルは体中から骨の軋む音を響かせながらどんどん大きくなっている。もはやその大きさは俺の倍以上に膨れ上がり、細かった手足も丸太のような太さになっている。そこいたのは最早ゴブリンジェネラルではない。
「ゴブリン ギガント。」
生まれる条件すら未だ判明していない、ゴブリンの亜種が目の前にいた。そしてゴブリンギガントは立ち上がると凄まじい咆哮を上げ、こちらへ視線を向けてきた。
「気づかれてる。」
「逃げるのは、無理でしょうか。」
「追いつかれて食われるでしょうね。」
つまり、戦って勝つしか生き残る道はない。俺たちは武器を構えてゴブリンギガントと相対した。
戦闘開始




