仮パーティ結成
予定より進みが遅くて探索まで行かなかった
朝の手伝いを終えた俺は、中庭で木刀を振るう。切り下ろしからの横薙ぎ、(瞬歩)で移動してからの突き、体を半回転させて背後への切り上げと動きが止まらないように注意しながら木刀を振るい続ける。
途中からは(風踏)も交え地上と空中を動き回りながら30分ほど木刀を振った頃、パンパンと手を鳴らす音が聞こえてきた。手を止めそちらを振り向くと
「そろそろ休憩しないかい?」
そう言って水の入ったコップとタオルを差し出すガラムさんがいた。
「その様子なら心配はいらなそうだね。」
タオルで汗を拭い、水を飲む俺を見ながらガラムさんは言った。じいちゃんやアンナさんはともかく、ガラムさんとカシェルちゃんは倒れた俺を随分心配していたからな。こうしていつも通りに鍛錬ができているのを見てようやく安心出来たのだろう。
俺自身は穴熊亭で目覚めた時には打ったはずの頭にコブどころか痛みすらなかったので大げさだとは思ったが、こうして心配してくれるのはありがたかった。
「心配をかけてすいません。」
「気にしなくていいよ。こうして元気な姿を見せてくれたことだしね。ところで、今日はどうするんだい?」
「ギルドに行って、ゴブリンキングの討伐が終わったか確認してみます。終わっていたらそのまま迷宮に行って探索、続いていたら街中で出来る依頼でもうけようかなって。」
相手はゴブリンとはいえ500体はいるそうだし、一日で終わるか分からないので確認は必要だろう。
「分かった。アンナたちにも伝えておくよ。」
そうしてガラムさんと別れた俺は支度を済ませて冒険者ギルドへと向かうのだった。
冒険者ギルドに着き中に入ろうとした時に気づいたのだが、随分と騒がしい。声を聞く限りだとかなりの人数がいるようだ。この時間にそれだけの人がいる事は滅多にないので少し戸惑ったが、ゴブリンキングの討伐に参加したパーティ達が報酬の受け取りがてら打ち上げでもやってるんだろうと思い、さっさと中に入ることにした。
中に入ると予想通りというか、そこかしこのテーブルで酒と料理にがっついてる男たちの姿が見受けられた。普段なら俺が入った直後は視線を向けられて居心地の悪い思いをするんだが、今日はほとんどの奴らが料理などに気を取られているようで向けられる視線は驚く程少ない。
それを幸いとカウンターへ向かい、ゴブリンキングの討伐がどうなったか尋ねた。
「ゴブリンキングは無事に討伐され、ジェネラル及びゴブリンも9割方討伐されたのを確認しております。」
迷宮に行っても問題なさそうだと判断し、受付嬢のお姉さんにお礼を言ってギルドを後にした。
「あの~。」
ギルドを出て迷宮へ向かおうとした矢先に声を掛けられた。って、この声聞き覚えがあるな。
振り返った先にいたのはやはり、昨日俺が気絶する原因を作ったらしい二人組の女性だった。
「昨日会った方ですよね?」
念のため聞いてみると鬼族の女性が頷き、勢いがつかないようにしながら深々と頭を下げ、隣にいる女性も同じように頭を下げてくる。
「はい、そうです。あの、昨日は本当にすみませんでした。」
「私からも謝罪します。ユウナが迷惑をかけてごめんなさい。」
(そんな風に頭を下げられても困るんだけどな)
そもそも目を覚ました時にアンナさんから謝罪の言葉は伝えられているから、これ以上謝られても今度はこちらが困ってしまう。
「二人共顔を上げてください。俺は別に怒っていませんから。」
一応顔を上げてはくれたが、ユウナさんの方はまだ不安そうだしもう一人も納得していないように見える。
「謝罪はアンナさんから聞いてますし、わざとじゃない事もわかってます。それに傷の手当てをした上に宿まで送ってくれましたよね。そこまでしてくれた相手に怒ったりはできませんよ。」
そう言うとようやく二人共笑ってくれた。
「ありがとうございます!」
「そう言って貰えて良かったわ。」
「改めて自己紹介するわね。私はシェリル、そしてこちらがユウナ。二人共冒険者よ。」
「ご丁寧にどうも。俺はノブユキと言います。」
そう名乗ると二人が難しい顔をして黙ってしまった。急にどうしたんだろう。
「少し聞いていいかしら?もちろん言いたくないなら言わなくていいわ。」
「何でしょうか?」
「昨日ギルドで新しい仲間を探していたのだけど、その時一人で迷宮に挑んでいる少年がいると聞いたわ。噂では暗殺者らしいって。」
面と向かって言われるのは久しぶりだな。
「やっぱり、貴方なの?」
「・・・俺のことで間違いないよ。けど俺は暗殺者じゃない、周りが勝手に言ってるだけだ。」
「一人で迷宮に挑むのも?」
「噂のせいで組んでくれる人がいないから、ソロでやってるだけだよ。」
そう言うとシェリルさんとユウナさんは顔を見合わせて小声で話しだした。話は直ぐに終わったようでシェリルさんは再び俺に向き直る。
「ノブユキ、良ければ私達とパーティを組む気はない?」
え?
「俺とパーティを組む?なんで?」
「私達は迷宮に挑むためにこの街に来たけど、2人だと厳しいと思ったから。」
「それだったら俺より他のパーティに声をかけた方がいいんじゃないか?」
「確かにその方が戦力の増強になるわ。でも、そうなると序列や色事でトラブルになることも多い。リーダーそしてそれは歓迎できないの。」
真っ直ぐに俺の目を見て言ってくる。
「けど・・・。」
「怖いの?」
「っ!!」
「例の噂のせいでパーティを組めず、いつの間にか他人と接するのが怖くなった。もしくはどうせ出来やしないと諦めてしまった。違う?」
「・・・そうだよ。アンタたちだってきっと」
「見くびらないで。私達は貴方の噂を知った上で言ってるのよ。それに貴方は自分でいったじゃない、暗殺者じゃないって。」
「私、昨日穴熊亭でアンナさんに聞きました。ノブユキさんがいい子だって。だから大丈夫ですよ。」
噂を知って、その上でなお俺を誘ってくれる。それが分かった途端目頭がどうしようもなく熱くなり、こぼれそうになる涙を腕で乱暴に拭った。
どうにか涙が収まった俺は、赤くなっているであろう目を隠すようにうつむきながら
「・・・そこまで言ってくれるなら、1度一緒に迷宮に行くよ。組むかどうかはその後でいいか?」
言った。
「ええ、それでいいわ。」
「よろしくお願いしますね!」
顔は見えなかったが、返ってきた言葉はどちらもとても楽しそうでしばらく耳から離れなかった。
次こそ探索




