噂の暗殺者
次は3人で迷宮探検
(いい暇つぶしになりそうね)
目の前で鼻の下を伸ばしている男を見ながらそんな事を考える。女の身で冒険者をやっているとこういう手合いに絡まれるなんて日常茶飯事だし、今更うろたえるなんてありえない。
そもそもツリ目がちできつい印象はあるけれど整った顔立ちに、平均は軽く超えている胸と引き締まってはいるけれど女性らしい柔らかさを残した腰周りと手足という、幼い頃からの努力で培った体は冒険者になる前から異性の目を引いていたのでこういう手合いの扱いは得意中の得意だ。
「いいえ、受ける方よ。これでも冒険者だから。」
依頼に来たと思い話しかけてきた男に笑顔でそう返す。すると予想通りに顔をにやけさせてさらに話しかけてくる。
「お前さんも冒険者なのかい、しかし見たとこ仲間はいないみてえだが一人じゃ色々大変だろう。」
「いるわよ?ちょっと別行動してるけどね。」
笑顔を崩さぬままそう返すと途端にテンションが下がる。仲間が男だなんて言ってないのにね。
「だが、ここに来るって事は迷宮目当てだろ。2人じゃ厳しいんじゃねえか。」
あら、食い下がってきた。
「ええ、出来れば新しい仲間は欲しいわ。心当たりはないかしら?」
「じゃあ俺達はどうだい?これでも全員ランクDだぜ。」
売り込んできている所悪いけど、答えは決まってるのよね。
「どうせなら他の冒険者についても知ってから決めたいわね。特にまだパーティを組んでない人について。」
「そりゃどうしてだい。」
断られそうな雰囲気を察したのか、少し不機嫌そうだけど気にせず言葉を続ける。
「よそのパーティに加入だと序列とかで色々と面倒なのよ。まだパーティを組んでない人ならそういう面倒もないでしょう?」
「まあ、お前さん美人だしそういうトラブルを避けたいってのも当然か。」
どうやら納得してくれたようだ、もう少し絡んでくるかとも思ったけど楽だしいいか。
「パーティを組んでない奴だが、1人だけ知ってる。でもコイツはあんまりオススメできねぞ。」
「そこは私が判断するから、とりあえず聞かせてくれる?」
渋る男を促すと、口を開く。
「名前はノブユキ。3ヶ月位前にここで登録を済ました新人だ。」
新人、ね。確かに登録して間もないならパーティを組んでいなくても不思議じゃない。
「歳は分かるかしら。」
「15歳だって話だ。」
なるほど。
「私みたいな女は子供のお守りでもしてろと言いたいのかしら。」
確かに条件には合ってる、けどよりによって成人したての新米を勧めるなんて私を馬鹿にしているとしか思えない。視線と声に怒りを滲ませて目の前の男に静かにぶつける。
向けられた私の怒りで多少は実力の差を感じとったのだろう、顔を青ざめさせながら弁明しだした。
ソイツ以外に1人で活動している奴を知らないだの、ランクDだから足でまといにはならないだの・・・ランクD?
「ちょっと待って。そのノブユキって子はDランクなの?」
「ああ、この前昇格の場に居合わせたんだ。一人でゴブリンジェネラルの群れを全滅させたのを見た奴らも多い。」
(それが本当ならDランクでもおかしくない。でも何故パーティを組んでないの?)
「何かその子に問題でもあるの?」
「暗殺者みたいな戦い方する上に素性が分からないんで敬遠されてるんだよ。噂じゃどこかの貴族のお抱えか裏の住人だったって言われてるな。」
なるほど、面倒事に巻き込まれたくないって訳ね。その後はいくつかのパーティについて聞いたが、特に収穫と言える情報はなかった。
「シェリルさーん、お待たせしました!」
情報収集も一通り済んだのでギルドを後にすると、ちょうどユウナがやって来たところだった。
「ちゃんと送り届けた?」
「はい!正直に話したら宿の女将さんが信じてくれました!」
「・・・良かったわね。」
正直よく信じてもらえたものだ。私が言うのもなんだけど、その女将さん大丈夫かしら。
「まあいいわ、それじゃ今日の宿を探しましょう。」
「でしたら穴熊亭に「却下よ」しません・・・か。」
ユウナの言葉を途中でバッサリと切り捨てる。さっきそこで世話になってる子を気絶させたばかりなのに行けるわけないでしょうが。
「それについたばかりで財布にもあまり余裕がないわ。諦めなさい。」
「はい・・・。」
しょんぼりしてしまったユウナは22歳とは思えないほど可愛い。もう少しいじりたくなるがここは我慢して。
「夕食はまかせてもいいかしら?」
そう言った途端元気になった。本当にコロコロ表情が変わって見てて飽きない。
「お待たせしました。スープができましたよ。」
その後私達は食事の用意されない木賃宿へ泊まることにした。多少手間ではあるが私とユウナ、どちらも調理はできるから問題はない。ちなみに今日の当番はユウナだ。
「ありがとう。」
ユウナからスープを受け取り、日持ちするように固く焼締めたパンとで夕食にする。そのまま食べるには硬いのでスープにつけて柔らかくしてから食べる。
「美味しいわね。」
材料自体はありふれたものばかりだが、ユウナの腕がいいためかなり美味しく仕上がっている。私もそこそこの腕ではあるのだけど、料理が趣味のユウナにはどうしてもかなわない。
「どういたしまして。」
嬉しそうに返すユウナとたわい無い話をしながら夕食を終えた。
夕食を終え、私はユウナと今後について話し始める。
「迷宮に潜るにしても、私達2人では浅い階層までしか行けそうにない。どうにかして仲間を増やさないといけないわ。」
「シェリルさん、やっぱりどこかのパーティに入れてもらいませんか?」
「貴方が言い寄ってくる男を追い払えるならそれでもいいんだけどね。」
ジト目で言ってやるとシュンとしてしまった。以前あるパーティに加わった際、しつこく言い寄ってきた相手をぶっ飛ばしてしまった事を思い出したのだろう。正直あれはユウナに無理強いしたアイツが悪いと思うけど、骨が何本か折れるような怪我をさせてしまったため私たちの方が悪者扱いされてパーティを追い出された。
「ソロで活動してる人を誘うのが一番いいでしょうね。ただ、ここ街にいるのは1人だけ。しかも暗殺者って噂なのよね。」
「暗殺者ですか!?」
「あくまで噂だけどね。ちなみに歳は15でDランク、名前はノブユキっていうそうよ。」
そう言った途端目を丸くしてしまった。驚くようなことでもあったかしら?
「あの~、シェリルさん。昼間のあの子なんですけど、あの子もノブユキって名前だそうです。」
は?野菜と睨めっこして、ユウナのメイスで気絶したあの子が?暗殺者?
「別人じゃないの?」
「女将さんに聞いた話だと宿の手伝いをしながら冒険者をやってるそうです。年も15歳くらいだって。」
少し考えてみるが、答えは浮かびそうもない。
「とりあえず、明日ギルドに行ってあの子に直接確認したほうがいいわ。仲間云々はその後ね。」
「そうしましょう。」
今日は早く書き上がったので予約投稿を試してみました




