期待と不安
13話目投稿です。
「今日、ギルドに行ったとき登録を勧められたんです。」
年齢的に言えば今の俺は15歳、この世界では成人とみなされ仕事に就くことも可能な状態だ。
そしてじいさんの指導もあり冒険者を名乗れる最低限の実力は身についている、だからこそ受付にいた人は俺に登録勧めてきたのだろう。
「でも俺は断りました。今は登録する気はないって。」
「・・・断ったことを後悔してるってことかい?」
アンナさんが腑に落ちないといった様子で聞いてくる。登録自体は15歳以上であれば誰でもできるし、1度断ったからといって登録できなくなるわけでもない。だからなぜ俺が悩むのかわからないのだろう。
冒険者になりたくない、というわけではない。冒険者になれば様々な国に出入りすることが出来るし、実力次第では計り知れない富や名声を得ることも可能だろう。それ以外にもギルドに所属しているから得られるものは数多い。
けれど、今の生活を捨ててまでそれを得たいかと聞かれると答えられないのだ。
じいさんから様々なことを教わり、狩った獣を売り、ガラムさん達と話す。今の俺が送っているのはそんなささやかな生活だ。血の沸き立つような戦いもなく、未知のものと出会う高揚もない。けれど穏やかで、命の危険も滅多にない。
「そんな生活を捨ててまで冒険者になりたいかって聞かれると即答できないんですよね、仮に冒険者になったとしても大成出来るとは限らないし。」
どこぞのおとぎ話の主人公のように無敵の能力でもあるならとにかく、俺が持ってるのは鍛えればその分強くなるというだけの(限界突破)。強くなる前に死ぬ可能性の方が高いし、そもそも死の危険が有るようなところなんて近づきたくないというのが本音だ。
「まあそんな感じで踏ん切りがなかなかつかな・・・。」
いかん、ガラムさん達のことを忘れて一方的に喋り倒してしまった。しかし全然反応がないのはどういうことだろう。
何故かアンナさんが机みたいなポーズで床にうずくまり、ガラムさんといつの間にか来ていたカシェルちゃんがそのアンナさんを慰めていた。
「アンナさん何やってんの?」
「ノブユキちゃん!!」
「うおっ!」
声をかけた途端にガバッと立ち上がり大声を出したアンナさんにびっくりして固まってしまった。
そんな俺をよそに今度はアンナさんが「考えが年寄りみたい」だの「その年でそんなに枯れててどうするんだい」だのとえらい勢いで喋り始めるのだった。
アンナさんが正気に戻るまで大体15分はかかったんじゃなかろうか。今はすっかり落ち着きを取り戻し、普段通りに見える(顔が少し赤いけど)。
「私もアンナも割と衝動的に実家を飛び出して冒険者になった口だからねぇ。若い頃の自分がいかに考えなしだったか思い知らされたような気分なんだよ。」
と苦笑いするガラムさん。俺が知ってる二人はとてもしっかりしてるので正直意外だった。
「ノブユキくん、君の考えは理解したよ。存分に悩んで、一番いいと思える道を選ぶといい。成人したからといってすぐに行く末を決めなければいけないわけではないからね。」
その言葉で少し安心した。
「ありがとうございます、帰ったらじいさんとも話してみます。」
そう言って席を立とうとした瞬間、初めて聴く音がリュシオン中に響き渡った。
ストックが減ってきたので今後は投稿が不定期になるかもしれません。2,3日に一話はあげるつもりではいますが。




