穴熊亭
10話目、投稿。
先ほど買って貰った刀を腰に差した俺は、傍から見てもわかるほどの浮かれっぷりで本日の宿となる予定のガラムさんの宿屋へと向かっていた。
「気持ちは分かるがちと落ち着け。周りの人にぶつかったりしたらいかんからな。」
おっと、言われるまで周りへの注意をすっかり忘れてた。気を付けないと。
そして再び歩き出した時に少し気になった事があった。
(エルフとか魔族がいない?)
落ち着いて周りを見れるようになったおかげで気づいたのだが、見える範囲には人族と獣人族しかいないのだ。龍族がいないのは分かる。彼らはこの世界で最強と言われるほどの強さと1000年とも言われる寿命を持つが個体数が少なく、自分達の領土であるアルタールから滅多に出てこないからだ。
しかし、エルフを初めとした妖精族や鬼、吸血鬼等の魔族はそれなりに人口も多いし他種族とも割と関わっているはずなのだ。まして大陸の中心に位置し、5種族の領地全てと隣接するこのリュシオンで姿を見かけないというのはどうにも気になる。
(まさか人族との関係が悪化するような事が起こったりはしてないよな?)
そんな事が起こってたら非常に困る。俺は獣人も好きだがエルフやサキュバスにも会いたいのだ。
逢いたい理由?言わなくても大体分かるだろう。・・・いいじゃないか夢見たって。
「いらっしゃい。おや、ゼギルさんにノブユキちゃんじゃないか。よく来てくれたね。」
「こんにちは。」
「久しぶりじゃの。」
考え事をしながら扉をくぐった俺とじいさんを出迎えたのは、ガラムさんの妻でありこの穴熊亭の女将でもあるアンナさんだった。肩にかかる位の茶色い髪を紐で短くまとめ、快活に笑う姿は30代といっても通用するぐらい若々しい。ちなみに年齢は知らない、地雷を踏みたくはないし。
「泊まりたいんじゃが、部屋はあるかの?」
「空きはあるから大丈夫だよ、お祝いかい?」
泊まりたいという言葉に一瞬驚いたようだが返事は直ぐに返ってきた。
「よく分かったのう。」
「普段は話だけで帰るゼギルさんが泊まるなんて言う、そしてノブユキちゃんの腰の刀。予想ぐらいはできるさ。夕食はいるかい?」
「ああ、頼むよ。」
そう言ってじいさんが差し出した銀貨1枚を受け取り、銅貨10枚を返す。
「夕食はもうすぐ出せるから席に座って待っててくれるかい?」
「うむ、行こうかノブユキ。」
そう言って歩き出したじいさんを追って俺も空いているテーブルに向かった。
壁の近くのテーブルに座った俺は、食事が来るまでの暇潰しに食事をしている冒険者らしき人達をながめていた。そしてそのうちの一人が目にとまった。
「じいちゃん、あの人鬼族だよね?」
「ん?ああ、そのとおりじゃな。何か気になる事でもあったかの?」
俺は宿に向かう途中で考えていたことをじいさんに伝えた。
「ノブユキ。お前が心配しとるような事は起こっとらんから安心せい。」
そう言われてほっとしたが、ではなぜ姿を見かけないのだろう。
「妖精族も魔族も人や獣人程数が多くないから領地以外で姿を見る機会というのはあまりないんじゃよ。
特にエルフは森から出ようと考える者がすくないからの。」
となるとエルフに会うのは難しそうだ、などと考えていたら
「お待たせしました。」
料理を乗せたお盆を持った俺と同い年位の獣人少女がやって来た。
「すまんの、カシェルちゃん。ノブユキ、この子はガラムとアンナの娘のカシェルちゃんじゃ。挨拶しなさい。」
「初めまして、カシェルです。」
料理をテーブルに置いたカシェルちゃんは、そう言って礼儀正しく頭を下げた。
「ご丁寧にどうも、俺はノブユキといいます。今日はよろしくお願いします、カシェルちゃん。」
緊張した様子で頭を下げた俺が可笑しかったのか、クスリと笑って「呼び捨てでいいですよ。」
と言ってきた。
(初対面の相手を呼び捨てにするのはどうもな・・・)と考えていると
「カシェル、ご挨拶は済んだかい?」
2メートル近い身長の赤髪の熊の獣人、ガラムさんがやって来た。
「はい、ちゃんとできましたよ。」
「そうかい、それは良かった。ノブユキくん、今日はよく来てくれたね。」
「いえ、俺もここに泊まれて嬉しいですから。それにしてももう親の手伝いしてるなんて、すごいですねカシェルちゃんは。」
「ああ、私達には勿体無いくらい良い子だよ。」
嬉しそうに言ってカシェルちゃんの頭を撫でたガラムさんは、カシェルちゃんと一緒に厨房へと戻っていった。
その後はじいちゃんと話しながらのんびりと食事を楽しみ、ガラムさん達と互の近況を報告し合ってから
床についた。
うん、楽しい一日だった。
エルフ、サキュバス、獣人。会えるものなら会いたいです。
あと、主人公のスキルを載せときます。
固有:限界突破
下級:嵐刃一刀流・雨天、嵐刃一刀流・雷天
今はこのくらいです。




