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『で、鍵締めたか?』

 玄関ドアの鍵を確認しながらその言葉を聞いて、小さく「うん」とつぶやく。

 スマホを耳にあてたまま、警備保障をセットしてパンプスを脱いでほっと一息をつくと、通話中のスマホからため息が聞こえる。

「ありがとう、優斗。」

 タイマーで管理されている照明は、あたかも家族が住んでいるかのように煌々としている。

 そんな玄関先で、杏樹は座り込んだ。

『あのさ、身元引受人として、陽斗が来たんだろ?何で家まで送ってもらわない?』

 呆れるような声色に、杏樹は返す言葉を探す。

 義従姉妹の手伝いをしに行った先でストーカー事件に巻き込まれて、警察に連行された後。

 当然の如く、義従姉妹に迎えを頼んだのだがやって来たのは、面倒事に一番巻き込みたくなかった義兄の陽斗で。

 仕事を邪魔してしまっていたらしい事を、引合された警察署で聞いてしまえば。

 これ以上迷惑をかけないためにはどうしたら良いのかだけに頭は回転してしまい。

 自分の恐怖心は二の次になってしまったのである。

「そうだね・・・・。」

 その通り。

 警察署から最寄りの駅に着いたときに、時計をすごく気にしていたから。

 時間に不規則な仕事も覚えていたし、こんな時間にフラフラしていた事を咎められている様な視線に耐えられなくて。

 ついつい、「ここで大丈夫」と言ってしまったのだ。

「優斗の時間も考えずに、ごめんなさい。」

 カリフォルニアに研修中の優斗についつい縋ってしまったのだが冷静に考えれば、それも迷惑極まりない話だ。

 眠れない夜に相手にしてもらうのとは時間帯が違いすぎる。

『起きてる時間だから大丈夫だし、頼られると嬉しい、っていつも言ってると思うけど。』

 ぶっきらぼうな口調でそう言われて、杏樹は目頭が熱くなるのを感じる。

『だからさ、誰も居ない所で泣かれるのは困るんだけど。』

 母親の再婚当初から、何かと世話を焼いてくれた優斗には、ちょっとした変化もすぐにばれてしまう。

 泣いてなんかいないと、威勢よく言い返したい所だが、涙は勝手にあふれてくるし、口を開けば嗚咽交じりの言葉になってしまいそうで言葉が出せない。

 スカイプじゃなくてよかった・・・と杏樹が思ったところで、来客を伝えるインターホンが鳴った。

「え・・・。」

 通話を切っていなかった事に安堵しつつ、急いでリビングのモニターへと移動する。

『誰?警備保障につなげようか?』

 心配性の優斗は、留学中でも自宅の来客がわかるようにとネット回線でモニターをつなげていたのだが、画面を見てため息をつく。

『杏樹、陽斗だ。しかも、かなりご立腹らしい。』

 杏樹がモニターにたどり着く前にそう伝えられて、恐る恐る画面を覗き込むとそこには険しい顔をした陽斗が写っている。

 確かに、ご立腹の様子。

「えっと・・・優斗、どうしよう。」

 スマホを持つ手が震えるのを感じながら、杏樹は玄関へと向かう。

 庭先の門まで、出迎えなければ陽斗は敷地に入ってくる事は出来ない。

 それは、この家が新しくなってから一度も来たことがない陽斗でも、警備保障のステッカーで気づいているだろう。

『あのさ、杏樹。もしかして、一人暮らしを陽斗に言ってないの?』

 図星を指されて、玄関ドアの前で立ち止まる。

『杏樹、自分で言うって言ったんだよね。親父と杏奈さんが向こうに移るのは、伝えておくって。通りで陽斗、マンション引き上げてない訳だ・・・。』

 呆れた声に、小さくごめんなさいと返してみるが、続いた言葉は容赦なかった。

『杏樹、これは庇ってあげることできないよ。自業自得だと思って、陽斗の怒りを鎮めてね。後は、杏樹が何とかして?』

 玄関ドアから門扉まで車が2台並ぶ程度だから平気でしょ、とあっけなく通話を終了されて杏樹は呆然とスマホの画面を見つめる。

 数回なっていたチャイムが静かになったのは、優斗がネット回線を使って陽斗に対応したからだろうか。

 渋々ドアを潜ると、人感センサーで照らされた門の横に、陽斗が立っていた。



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