第3幕 幽霊の王様
第3幕 幽霊の王様
「これはこれは驚きました。まさか本当にカギを手に入れてくるとは・・・」
ゴスジィはカギを手に現れたジローザを見て、驚いた様子でフワフワ浮かんでいます。
「とうぜんだブゥ。オレはやればできる子なんだブゥ!」
「ヒヒヒ、そうでしたか。これは失礼いたしました・・・」
そのようすを見ていた絵の中の婦人が、口を挟んできます。
「オホホホ、やればできる子っていうのは、できない子の言葉だよ。フフフ、アハハハ・・・」
「オバサンは黙ってるんだカァ!」
「キーッ、オバサンオバサンって失礼な子だよ!」
「それでこのカギをどうすれば、魔女のところへ行けるんだカァ?」
「そうでした、そうでした。そのカギを持ってワタクシたち幽霊の王、ゴーストキングに会ってもらいます」
「幽霊の王?なんで王様がこんな所にいるんだカァ」
ゴスジィはふぅと小さくため息をつくと、イチロージの質問に答えます。
「こんな所とはお言葉ですね・・・。もともとここはワタクシたちの住処、そこへ魔女様が部屋借りをなされて住み着いておられるのです」
「それで別館にいるのかブゥ?」
「さようでございます・・・」
「それで王様に会って、どうするんだブゥ?」
「王様に許可をもらうのです。別館への扉を使う許可を」
「めんどくさいんだブゥ」
「ヒヒヒ、仕方ありませんよ。それがワタクシたちのルールですから・・・」
「わかった、王様に会うんだカァ。どこへ行けばいいんだカァ?」
「そうですね案内を呼びましょう。サダキチ、サダキチはどこに?」
ゴスジィがキョロキョロと辺りを見渡しながら、手に持ったランタンをかざしていくと、とつぜん目の前にフワフワと浮かぶ幽霊が現れます。
「ひ~っ、でたブゥ!?」
「うわぁ、プ!」
大きなジローザの叫び声に、現れた幽霊のサダキチもビックリしました。そしてそれをみて絵の中の婦人が笑い転げています。
「この者に王のところへと案内させましょう」
「よろしくだ、プ」
「わかった、そこで許可をもらえばいいんだカァ」
「さようでございます、ヒヒヒ」
三人はボヤボヤしている暇はないと、すぐにその場を離れて王様のもとへ向かいます。
サダキチの案内で屋敷の中を進む三人は、途中でいろんな幽霊たちとすれちがいます。
「ひ~っ、おっかないんだカァ」
「チュウ・・・」
ジローザは緊張のあまり声が出ません。
「大丈夫です。もうすぐ着きます、プ」
「もうすぐ憑きます!?ひ~っ、ブゥ」
「・・・・」
やがてサダキチと三人は、大きな扉のまえにたどり着きました。
「ここです、プ」
ギギギギギ・・・
いやな音を立てる扉を開くと、そこは大広間でした。
何もない広間の奥に一段高くなっている場所があり、そこにポツンと立派なイスが置かれています。
「誰もいないカァ。本当にここでいいのか?」
イチロージがイスのほうに向かってピョンピョン近づくと、イスの上に王冠があるのに気付きました。
「冠が置いてあるカァ」
「なに?どれどれ」
その言葉でバラバラに散らばっていたイチロージとサブローザが集まってきます。
王冠には大きな字で“王”と書かれていました。
「プププ、王ってそのまんまなんだブゥ。そうだ、イタズラしてやれ!」
そう言うとジローザはペンを取りだし、王の文字にテンを付け加えます。
「アハハハ、玉ってカァ・・・」
「チュウ」
「あなたたち王様の冠になんてことを、プ」
そう言いながら、慌てて逃げていくサダキチ。
「あっ、サダキチどこに行くんだカァ!お前がいなくなったら、この後どうすれば!?」
しかしイチロージの心配は、すぐに無駄となります。
なぜならイスの上においてあった王冠がやがてフワフワと浮かび始めたかと思うと、そこに王冠を頭に載せた幽霊の王様が現れたからです。
「だれじゃ、ワシの王冠にイタズラをするものは!」
王様はサダキチと同じ姿かたちで、三人はサダキチが帰ってきてイタズラをしているのではないかと思いました。
「サダキチだブゥ」
「チュウ」
「違う!ワシはサダキチではない。それよりも誰だワシの王冠にイタズラしたのは?」
「とぼけたってムダだカァ。フン、イタズラなんて知らないんだカァ」
「チュウ」
「あくまでシラをきるつもりか、ふんよかろう」
王様がそう言い手をかざすと、どこからか立派な杖が手の中に現れました。
そして杖を三人に向かって振ります。
するとどうでしょう、三人の体がどんどん小さくなっていき、丸い形に変化していきます。
「なんじゃこりゃあ、だブゥ」
「ワシは知っておるぞ、お前たちが嫌われ者の王子だということを。ワシが玉様ならば、お前たちは玉子ということだな」
「早くもとに戻せなんだカァ!」
「そうだブゥ!」
「チュウ」
「早く戻せとはどういうことだ?お前達が自分でその姿を招いたというのに」
「だから知らないんだブゥ!」
「そう言うなら、ワシも知らん。ワシがお前達を玉子に変えたという、証拠もないしな」
「ぐぅ・・・」
そう言いながら王様はゴスジィを呼びます。
「ゴスジィ、ゴスジィはおるか?」
まもなくその声に反応して、どこからかゴスジィが現れます。
「はい、ここに居ります。ヒヒヒ」
「ゴスジィ!助けてくれだブゥ」
しかしジローザの声は、なぜかゴスジィに届きません。
「明日の朝食用に、玉子がないと言っておったな。ほれここに良い玉子が3つもあるぞ」
「本当でございますね、料理長にさっそく渡してきましょう。新鮮なので朝食には、スクランブルエッグなどよろしいですな。ヒヒヒ」
これには三人もおどろきました。
「悪かったブゥ、イタズラしたのはオレだブゥ。だから助けてくれなんだブゥ!」
するとどうでしょう、追い詰められたジローザが思わず漏らした言葉に、とつぜんゴスジィが反応します。
「おや?これは、ジローザさんでしたか。どうしてそんな姿に」
「オレが王様の冠にイタズラして、王を玉にしてしてしまったんだブゥ。だから王子のオレたちは玉子になってしまったんだブゥ」
ジローザの話を聞いていたゴスジィでしたが、今までの優しかった顔から意地悪な顔になって答えます。
「ヒヒヒ、そうでしたか。しかしこのままワタクシたちの朝食になったっていいじゃないですか」
「何を言っているんだカァ!オレたちは元の姿に戻るんだカァ」
「元の姿に戻ってどうされるのですか?」
「決まっている、城に戻るんだカァ!」
「そうですか・・・。残念ですが」
そう言いながら、ゴスジィが窓辺に向かって移動し始めます。
「ん、なんだブゥ?」
「城に戻っても、あなたたちの帰る場所はないかもしれませんよ」
そう言ってゴスジィが窓を開くと、外に広がる森の向こうが赤く染まっています。
それは三人の王子たちが住んでいる、お城の方角でした。
「ヒヒヒ、悪い王様と意地悪な王子たちに怒った民が、城に火を放ったのです。だから帰ったところで、あなたちの居場所はもうないかもしれないのですよ」
「何だって!?たいへんだカァ!」
「チュウ!」
三人はがっくりと肩を落として、静かになります。
「・・・悪かったブゥ」
「はい?何でしょう?」
小さく漏らすかのように言ったジローザの言葉を、ゴスジィが聞き返します。
「オレたちが間違えてたブゥ。早く帰って城の皆にあやまるブゥ」
「残念ですが、もう間に合わないでしょう」
「・・・それでも、オレたちは戻ってあやまらなきゃならないブゥ。だから王様、魔女のいる別館への扉を使わして欲しいんだブゥ!」
「カァ!」
「チュウ!」
三人は王様のほうに向きなおって、心から反省した顔でお願いします。
「・・・いいでしょう」
そう聞こえた声のほうに、三人は慌てて振り返ります。
「えっ、ゴスジィ?なんで?」
「いいの?王様?」
不思議そうな顔の三人をよそに、王様がゴスジィにたずねました。
するとどうでしょう、タキシード姿だったゴスジィの服装が、立派な王様の服に変わっていきます。
「悪い王子のあなたたちを、このままここに閉じ込めておこうかと思っていましたが、今の言葉にウソはないようですから信じましょう」
「あわわわ・・・」
そうです幽霊の王様はゴスジィとして、最初から三人の王子たちを見続けていたのです。
そしてゴスジィだった王様が手に持った杖を振ると、三人の王子たちは玉子からカラスとブタのぬいぐるみとネズミの姿に戻ります。
「あっ、カラスに戻ったカァ」
「ワタシができるのはここまでです。急ぎなさい、魔女様はこの先です」
そう言った王様の示したほうを見ると、イスの後ろの壁に垂れかかった布の後ろから大きな扉が現れました。三人の王子たちは、王様にお礼を言って扉へと走ります。
そして鍵穴にカギを差し込むと、ゆっくりと回しました。
・・・カチッ
そして扉を開くとその先には、狭く暗い通路を上に伸びる階段が見えています。
「王様、ありがとうだカァ」
「ブゥ」
「チュウ」
三人はもういちど王様にお礼を言って、扉の中へと飛び込むのでした・・・。