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第5曲:HIT THAT

「ねぇねぇ〜おねえちゃん。陽介どこいったの?あいつ私に素質見てくれって言ったよね?それすっぽかしてどこ行ったの?一発殴りたい。」


繭が社長室に入って来て去蝶にたずねる。

去蝶は茶室で淫らな姿でくつろいでいた。目はとろんと眠たそうな目をして今3秒の時間を上げたら寝る自信がありそうな目だった。


「んん…?あぁ〜陽介?さっき派遣したわ。仕事よ仕事。まぁ龍兵がついていってるから大丈夫だと思うけど。」


去蝶は眠たそうに答えた。

繭は別段、驚く様子はなくため息交じりで頭をかいた。


「はぁ〜先に言えってぇの。せっかく時間つくったのに。まぁいいや、帰ってきたら殴ってやろう。はぁ〜暇だから私もここで寝ていい?なんか落ち着くんだよねぇ〜ここ。」


そういって繭は座布団を枕代わりにして寝転んだ。



「ねぇ繭、なんであなたは陽介がいいと思ったの?」


去蝶は寝転がりながら繭に質問する。繭も眠りに落ちそうな声で去蝶に答える。


「ん〜?わっかんないなぁ。顔がイケメンだからかなぁ?しいて言うなら「眼」かな。眼に惹かれた。お姉ちゃんは?」


「私はね〜性格かなぁ〜〜。あ、でもやっぱり「眼」かもね〜。なんかいいわよ。あの子の眼。ふふ…。」


去蝶はそういうといきなり起き上がった。繭の体がびくっと動く。


「わ!?びっくりした〜。何?」


「忘れてた…!今何時!?」


去蝶は急いで繭に時間を聞いた。


「え、あ、3時…半!!うっわ3時過ぎてんじゃん!?」


繭も時間を見て驚く。去蝶は懐から携帯を取り出すと、手短に用件だけを言う。


「もしもし!大至急社長室に栗ようかん2つ!!3分以内で!!お願いね。」


それだけ言うとと去蝶はお茶を入れ始めた。繭は完全に眼が覚め、懐からトランプを取り出す。


「まぁまぁまぁ落ち着いて。ゆっくりまってゆっくりようかん食べてゆっくり和むのが醍醐味じゃない。ほら、ポーカーやろうよ。イカサマ使わないからさ。」


そういって繭はトランプを切り出す。去蝶は静かに座り、繭からカードを受け取る。


「そうね、ゆっくりしましょうか。それと、何を賭ける?お金?」


「じゃあ今日のおやつのようかんを。」


「ふふ、いいわよ。完膚なきまでに負かすから。」


そういって部屋にようかんが運ばれてきた。鮮やかな茶色に黒が混ざったようかん。それにふんだんに盛り込まれた栗がなんともいえない魅力を出している。


「じゃ始めようか。あとその前にさ、おねえちゃん。一つ聞いていい?栗ようかんは確かに美味しいよ。お姉ちゃんが栗ようかん好きなのもわかるし私も好き。でもさ、なんで抹茶頼まないの?この前は水ようかんだったしぃ。」


繭は頬を膨らませ…てはいないが不機嫌そうに、どうも腑に落ちない気持ちで去蝶にたずね

た。去蝶はカードを確認しながら繭の問いかけに答える。


「ん…?今からお茶飲むのに抹茶ようかん頼んだらなんかやじゃない?お茶飲みながら抹茶食べるみたいで。」


「あ〜なるほどねぇ。分かった。な〜るほどね。まさしくその通りだわ。」


どうやら繭は納得したようだ。去蝶はカードを3枚チェンジした。








「あのよぉぉ。このポテトチップスってあるじゃん?これさ、時々全然開かない時ってあるじゃん?」


マルK(サークルKの意味。筆者の地方ではマルKといいます。)で俺はコンソメパンチのポテチとファンタオレンジを飲み食いしながら龍兵に話しかけた。


「んでさ、別に切り目に沿ったあけ方もあるけど、それって食いづらいし何よりこのポテチの袋に負けた気がするからあんまやんねぇんだけど、こう力任せに袋開けて中身飛ぶときあるじゃん?あれってさ、スッゲーやるせなくない?」


俺のどうでもいい話を龍兵はマジに聞く。マカダミアンナッツをほおばり、雑誌を読みながら龍兵は少し考えてから答える。


「あ〜あれなぁ。うん。俺もやるな、あれ。やるせねぇよ。綿棒を床一面にこぼした時と似たようなやるせなさだよなぁ……。」


しょうもない会話をしていると2人組みの女子高生がマルKに入っていく。

目で追っていた俺と龍兵はおもむろに顔を合わせた。


「…俺は左側の娘だな。」


龍兵は俺にそう囁いた。俺はその意見に反論する。


「俺は右側の娘だな。お前が選んだの、ありゃいかにも頭悪そうだぜ。それよか少し上品な感じのするほうがよくね?」


「おいおいガリ勉好きかよお前?そーゆう女はつまらんぜよ。」


「誰もガリ勉好きだなんて言ってねーだろがよぉ。まぁどうでもいいけど仕事まで時間あるんだろ?どうやって暇潰すんだよ?俺男二人で映画とかデートしたくないよ。」


俺は龍兵の読み終わった雑誌を読みながら龍兵にきく。


「ふふふ…。ここにイケメンの男が二人…手軽にかつ、時間の経つのを忘れる遊びといえば……皆まで言わずとも分かりますでしょう?陽介さん?」


「行きますか?龍兵さん?リラックスしますか?龍兵さん?」


「ええ…ナンパです!!」


そういって俺と龍兵は再びマルKの中へと入っていった。そしてさっきの二人組みの女子高生に声をかける。


「あんのさ、今暇?暇だったらさ、どっか遊びに行こうよ。」


俺ももう一人の女の子に話しかける。


「色々さ、飯食ったりプリクラ取ったりカラオケ行ったり買い物したりさ。」


女の子は二人で眼を合わせた後首を縦に振った。

俺と龍兵は互いに握手をする。





……楽しかった…久しぶりだ…こんなに楽しかったのは。留置所に入ってから今日までこんな楽しいことはなかった。そのあと女の子と別れ車の中で寝てあっという間に夜になった。仕事の時間だ。


「い〜い感じに暇潰しできたな。じゃあ仕事行くか。切り替えていくぞ。」




時間は深夜の1時。仕事の内容は………




坂本組の組長殺害。ルールはなんでもアリ。

車を人目のつかない工場の前に停めていよいよ任務を開始する。入り口には一人、見張りがいるが監視カメラらしきものはない。

俺は龍兵からサイレンサーつきのオートマチックの銃をもらった。


「いいか?これはあくまで自分の身を守るときだけに使え。自分から相手を殺そうと思うな。

銃の扱いには慣れていないだろう?銃はな、落ち着いて心を決めた者にしか使えないんだ。じゃないとすべて弾は外れる。いいか。自分から撃とうとするな。」


十分に念をこめて俺に銃を渡す。俺は黙って頷いた。


「よし…行くか。」


そう言って龍兵の姿は消えた。社長室で見た”力”だ。隠れて見ていると急に見張りの頚椎が180度回転した。

俺は静かに入り口に近寄る。心臓はバクバクとなっている。汗が流れ、胸のところが熱い。


テンパっていると急に目の前に急に龍兵が現れた。


「チキンじゃねぇぜ。お前も組織に入った以上こーゆうことをやっていくんンだからな。汗ふきな。」


そう言われ俺は額の汗を袖でぬぐった。まだ突入もしていないのにぐっしょりしている。


「あぁ…俺は変えると決めたんだ。俺のこれからをな。普通のやつじゃ味わえない人生を歩むんだ。これが第一歩だからな。立ち止まらないよ俺は。」





少し視点を変え、組の建物の中。二人の男がいた。


「んん〜〜、アンバサ、見張りが一人やられたよ。やっぱウァラウァラさんが言った通りだよ。龍兵だ。見張りがやられたの気づかなかった。見えなかったよ。どうしようかね?組長守る?こいつ等と戦う?」


そう言ってるのは目が細い女顔で髪が金髪でさらさらした男だった。

アンバサと呼んだ男のほうを向いている。アンバサと呼ばれたロングヘアーで黒い髪の男はソファーの上でだらしなく寝ている。

ただ奇妙なことはこの部屋から見張りがやられたなど知る術はない。テレビすら置いてないのだから。


「……あのよぉぉ。寝てるうちに俺の眼がおかしくなっちまったのかよ?なぁんにもみえねぇんだ。これがよぉ。どうなってんだぁぁぁ?」


「……そんなときはねアンバサ、アイマスクを外して目を開けてみたらいい。僕の姿が見えるはずだから。」


アンバサはアイマスクを外すと、おぉ!と少し驚いた顔をした。そして口を開く。


「…今何時よ。デクスター?」


デクスターと呼ばれた男は携帯の時計を見る。


「1時かな。そろそろ相手も来たからさ。行こう。」


デクスターは部屋を出ようとするがアンバサが声をかけてそれを止めた。


「チョイ待ち。さっきの質問だけどよぉぉ。俺等は組長さんにこいつ等を殺してくれって言われたんだ。俺を殺すようなやつは返り討ちにしろってな。だからこいつ等は殺るけどよ、組長は守らねぇぇ。もう金ももらってるしな。」


「仕事熱心だね。アンバサは。よし!!それで行こう。僕は龍兵を殺るよ。アンバサにはこの

新入りっぽいやつを任せる。」


「おっけー。楽できそうだ。よし。行こう。」


二人はおかしそうに笑うと部屋を出て行った。






組の建物内部。ほとんど誰もいなかった。ほとんどといったのは2、3人はいたのだが…みんな龍兵が殺したのだ。

喉を裂き、胸を貫き……的確に慣れた手つきで命を奪っていったのだ。

これが殺しのプロなのだろう。


「そういやさ、なんでお前いつも透明じゃないんだ?透明のほうが楽だろ?」


俺は小声で龍兵に尋ねる。曲がり角で向こう側を確認していた龍兵は俺のほうを振り向いた。


「緊張して普通に考えりゃ分かることも分からなくなったか?あのな、もし俺がずっと透明だったらお前が迷子になるじゃねぇか。俺をいちいちお前を探す保護者にするつもりか?それにな、いい能力にはリスクがある。俺の場合5分以上透明になり続けたらそのままなんだ。ずっと透明。しかもだ、俺が透明状態のときはな、触ったものすべてが透明になっちまう。不便この上ない。だからできるだけ透明にはならねぇの。」


「なるほど。んで、部屋は近いか?」


「ん、もうちょいだな。あぁあれだ。ついたついた。あまり人に会わなかったのが幸運だったな。と、その前に…。」


ドアの前には見張りがいた。ひとりだけだ。


「あれ邪魔だよなぁぁぁ。ぜってぇぇ邪魔だ。なぁ龍兵?」


そう俺が言うと龍兵は透明になり相手の首をナイフで掻っ切った。見張りののどから血が噴水のように噴出する。

龍兵はドアの前でしゃがんでドアに人差し指を押し付けた。俺は見張りの代わりに見張りをしている。龍兵の触ったところは透明になっていた。まるで障子につばをつけた指を当てたみたいだ。もっと的確に言うならば、冬の季節に窓に白い息を吹きかけ、そこに指を押し付け向こう側を見る感じだった。


「やばいな。敵は5人。手前に3人、奥に二人だ。俺だけ透明になる。俺は透明になってまわりのやつ等を殺すから落ち着いて、ターゲットだけ殺せ。いいな?」


そういって透明になりドアを蹴破った。


(おいおいまだうんっつってねぇぞ!?)


しかしここで思いもよらぬことが起きた。完全な奇襲のはずだった。


なのに皆すでに銃を構えている。


なぜだ?なんでわかった?


そんな考えが一瞬で頭をよぎったが、今はそれどころではない。

とりあえず撃たなければと俺の本能が思い、混乱する頭の中最初に目に飛び込んだやつを撃った。

だが銃の扱いは初心者である俺だ。

当然のごとく狙いは外れたが、運よく他のやつの脳天に直撃した。


「っしゃ!!結果オーライ!!みたかぁ!!」


そのとき龍兵はもう既にのどをかっ切って二人殺していた。透明状態から普通の状態に戻ると返り血で紅く染まった帽子をとり、髪を掻き揚げ血を払う。服も返り血で紅かった。


「おいおい。何解除してるんだよ!?そのままいきゃよかったじゃんよぉぉ!!」


龍兵はその場から動かなかった。いや、動けなかったのだろうか?

ただ口だけを動かした。


「…こいつ等なぜ俺等が踏み込むのをわかっていた?なにか”力”を持ってるぜ。こいつら。ただもんじゃあねぇ。作戦変更だ、マンツーマンで行くぞ!!」


「え!?ええ!?ちょ待てやぁぁぁ!!俺戦えないっての!!」


そうはいっても最早無駄だった。龍兵はすでに女顔の男に疾走していた。

そんな中あせる俺は長髪の男と目が合った。


「……………やべ!」


俺はとりあえず逃げた。逃げるしかなかったのだ。全力で。

だが男は追いかけてくる。


「アンバサ!!そっちは任せたよ!!」


「おっけぇぇぇぇい。」


追いかけてきた!!

更にスピードを上げる俺。目に入ったのドアが半開きの部屋。

しかし、足が急に熱くなって俺は部屋に倒れこむように入った。


「ウグッ…」


足には銃で撃たれた後があったが幸いかすり傷ですんでいた。だがそれでも初めて襲われる痛み。

回転した弾丸に足の肉を持って行かれたのだ。


「おいおいおいおい。逃げんなよ。俺の仕事に鬼ごっこって内容はないんだ。仕事以外のことはさせるなよ。」


アンバサはそういって小さなライフルを俺の眉間に当てる。


(やばい!!いきなり死ぬのか俺!?)


そう思った瞬間、身体に力がわいてきた。今まで以上に力が湧いてくる感覚が。

俺はライフルを右手で掴み、そのまま放り投げる。アンバサは不意を衝かれた為か、ライフルを放してしまった。俺はアンバサの足を払いマウントを取った。


「ッラ!!ッラァッ!!ダラァ!!」


俺はアンバサの顔に何発もパンチを入れた。だがアンバサはひるむことなく俺に殴り返してくる。


「ウグッ!!」


マウントしていた俺はよろけ、すぐに左足の蹴りによってアンバサの上からどかされる。


「ッフ〜〜〜…殴りすぎだってぇの。イテテテ…おめぇぇぇ、自分の”力”発現させてねーのな。」


アンバサは鼻血をぼたぼたと垂らしながらいう。俺はわき腹を押さえながら立ち上がった。


「…ッツ〜〜…あんた蹴り重過ぎだっての。クソ。俺の”力”はまだ発現してねぇけどよぉ〜。この戦いであんたを殺して俺は強くなって帰るんだ。おめぇに負けはしねぇぇ!!」


そういって俺はアンバサのライフルを走って拾いに行く。アンバサも拾いに行くが、アンバサ

のほうが距離は近い。一手早くアンバサがライフルを手にとった。が俺は既にアンバサに向けて銃を構えていた。


「拾ってもいいぜ?動いてるあんたを狙って撃つなんてこと俺にはまだ出来ねぇからなぁ。拾ったらもうお前は走らないだろ?なら動かねぇってことだ!!」


俺がそう言うやや否やアンバサは銃を撃ったが、狙いを外し弾丸は無情にも俺の脇の下あたりを通っていった。


「心を決めたものしか銃を使えない。その通りだな。あばよ。」


俺は銃の引き金を引いた…






一方龍兵はデクスターと戦っている。


「はは、素手で殴り合おうってかい?いいよきなよ!!返り討ちにしてやる!!」


デクスターは素手の状態で殴りかかり、後手の龍兵も殴りかかった。龍兵のパンチはデクスターにあたらなかったがデクスターの腕からは血が流れている。


「あんたさ、手に道具持ってるね?透明にする”力”でナイフかなんかを透明にして、素手と

見せかける。いいね、結構便利じゃん。その”力”!!」


一瞬。たった一回拳を交えただけで龍兵の力を見抜き、なおかつ見せるその余裕に龍兵は思った。

この男は……手練だと。

龍兵はデクスターに質問をする。


「おいあんた…名前なんていう?」


「デクスターだ。いい名前だろ?オフスプリングのヴォーカルと同じ名前だぜ?」


「ははっ、確かにいい名前だ。うらやましいね。おまえよぉ、なんで俺等が踏み込むタイミングが分かった?お前も持ってんだろ?”力”をさ。」


「ん〜〜そうだよ。一応持ってるね。教えないけど。でもどうして俺がその”力”持ってるって分かったの?二人いたわけじゃん?」


デクスターは不思議そうな顔をしている。


「へっ、お前がよぉ、相方の男にそっちは任せたよ。っていったよなぁ〜。っつーことは相方に協力を求めずわざわざ1対1で俺と勝負するってぇことは俺の”力”の天敵みたいな”力”ってことだろ?ちがうか?」


龍兵もまた手練。相手の心中を的確に見抜いていたのだ。


「うん当たり。おまえを殺せる”力”だよ。僕の力は…さ!!」


言葉尻とともにデクスターは踏み込んでくる。

龍兵はとっさにナイフを構えたが、デクスターは手の平に溜まった自分の血を龍兵の顔面にかけた。


「…っ目潰しかっ…!!」


龍兵は慌てて目を拭いた。幸いあまり血は入っていないが視界が少し悪くなった。


「の野郎!!どこ行きやがったぁ!!」


視界が悪くなったせいか、デクスターの姿が見当たらない。だがいきなり顔面に重い衝撃が加わって、龍兵は吹っ飛んだ。


「ガッ!!てめぇぇぇ!!やりやがったなぁ!!ぶっ殺す!!」


激情する龍兵はそう言うと姿を消した。透明になったのだ。

デクスターが消えた龍兵を探そうとしている中ひたひたとデクスターの背後に回る。


(死ね!!女顔野朗!!テメェの負けだ。)


心の中でそう思いながらナイフで切りつけようとした瞬間、デクスターはこちらを向き、隠し持っていた拳銃を構えた。きっちり標準は龍兵にあてられている。


「……ナッ!?…」


龍兵は身体を捻り寸でのところで弾丸を避けた。

今しがた龍兵のいた場所に弾丸が通過する。


「ちっ、避けられた。」


デクスターは舌打ちをして龍兵を睨んでいる。龍兵はとりあえず姿を現すと無表情でデクスターを見た。


「ん?観念した?死ぬ気になった?」


「テメェの”力”が分からないんでな。だが死ぬ気はねぇ、ここからは俺も覚悟を決める。それだけだ。」


そういって龍兵はものすごいスピードでデクスターとの距離を詰めた。隠された身体的の力を引き出したのだ。右手に持ったナイフを繰り出しながら龍兵は喋った。


「お前の”力”はわかんねぇぇけどよぉぉ。接近戦向きじゃねぇってことと俺の場所が分かるってことがわかった。俺の場所が分かるのはともかく接近戦でも使える”力”なら俺はとっくに死んでるからな。」


「賢いね。確かにそうだよ。接近戦、ていうよりもともと戦い向きの”力”じゃないしね。僕のは。でもアンバサは違う。彼は戦闘向きだから。もう一人のやつ、今頃死んでるよ。」


ナイフの斬撃を右手の銃であしらいながらデクスターは当たり前のように言った。激しい攻撃をしていた龍兵の動きがピタリと止まる。


「はぁはぁ…ンならよォ〜俺がお前を殺して陽介を助けに行く。死なせないように約束したからなぁ〜!」


「無駄だよ。君じゃ僕を倒せないし、彼がアンバサを倒すなんてありえないから。アンバサの”力”は狭いところで戦うほど真価を発揮する。」







「……ッテェ!!て、てめぇ、何しやがったぁぁ!?」


俺は血が流れるわき腹を押さえ、方膝を突いた状態でアンバサを睨んだ。弾丸は確かに狙いを外し、あさってのほうへと飛んでいったはず。

なのにさっきアンバサの撃った弾丸がわき腹をかすっていた。


「なにをしたか?銃を撃ったんだよ。」


なぜだ?さっき弾丸は俺の脇にそれたはずだ。なのになぜ俺に当たる?

俺は後ろを苦痛に顔を歪ませながらも後ろを振り向いた。そこに答えがあった。

跳弾の痕が一つあったのだ。


「まさか…てめぇの”力”……跳弾させる能力か?」


俺はダメ元、アンバサに聞いてみた。意外にもアンバサはその問いにあっさりと答える。


「お〜いえ〜す。そうだ。俺の”力”は跳弾させる”力”だよ。でもまぁただ跳弾させるだけ

じゃあねぇ。そんなん誰でもできるからなぁ。」


「3歳児に跳弾撃たせることはできねぇぞ。」


俺は相手の揚げ足を取ってやった。今せめて俺に出来ることはこのくらいだろう。

アンバサは得意顔から一変、唇をむき出しに激怒した。顔が少し赤い。


「揚げ足取ってンじゃねぇ!!ムカつく餓鬼だな!!おめぇはよぉ〜〜!!」


そういって銃を5・6発乱射する。全弾わきを逸れたが跳弾となって俺へと返ってくる。俺は高く跳躍した。


「こんなんよぉぉ。ジャンプしちまえば問題ないだろぉぉがよぉぉ!!たいしたことないなぁ〜!!てめぇの”力”はよぉぉ!?」


そういって空中で銃を構える。集中力はこれまでになく高まっていた。すべてが遅く見える。

そんな感じだ。


「最初の跳弾を避けたか…。だがな、これで終わるならただの特技にしかならねぇぇぇ。俺の力はこんなんじゃないぜぇぇ!!」


アンバサは薄ら笑いを浮かべながら言う。


「はっ!」


跳弾が二発、俺のところへ飛んできた。俺の左肩と右腿に跳弾が当たる。俺は体制を崩し銃を落としてそのまま落下した。


「いいぃぃっってぇぇぇ!!くっそ、なんで二回も跳弾があるんだよ!?ありえねぇだろ!!チクショウ!!ウゼェェ!!」


俺は受身もとれずに無様に着地した。銃が直撃するなんて初めてだ。めちゃくちゃ痛いくて涙も出てくる。

アンバサが俺のほうに歩み寄ってきた。


「これが俺の”力”だ。永遠に、弾丸は跳弾し続ける。まぁこれで終わりだよ、お前。今からとどめ刺すし。」


俺にはアンバサの声は聞こえなかった。こんなときに頭痛がしたのだ。頭に変な映像が浮かぶ…。






…若い頃の親父がいた。なぜか俺の頭に触っている。他にも誰かいたが、逆行で顔が見えない。なにか言っているようだが何も聞こえない。


吐き気がする。目の前の灰色の床が回っている。体が熱い…。突然頭の中の映像が消えた。それと同時に吐き気も頭痛も体の火照りも消えた。

俺は立ち上がった。腿を撃たれたはずなのに痛みはない。目の前の視界を自分の髪の毛が遮る。しかし髪の毛は紅かった。それは燃えるような赤というより血のように鮮やかで、艶がある、吸い込まれるような紅だった。


「な…んだ……?こりゃ?なんで髪の毛紅いんだよ?」


俺はこのとき殺される恐怖心もなく、この髪の毛にただ驚いているだけだった。アンバサのほうを見るとアンバサも驚いている。


「おいおいおい。お前…”力”が発現したのか!?」


俺はただ無表情でアンバサを見ていた。慌ててアンバサは銃を撃った。俺に向かってだ。

だが確かに俺に向けて放った弾丸は俺には当たらなかった。俺の体は撃つ直前に右脇に逸れていた。さっきまで俺の体があったところに弾丸が通過する。


「え!?え!?なんで避けれるんだおめぇぇ!!?」


今まで以上になく焦っているアンバサは何発も、弾倉の中の弾が切れるまで弾丸を放つも。それは全て俺にはあたらない。跳弾もあたらない。いや、正確にはすべて俺が避けているからだ。

なぜか、どこに弾丸が通過するのか、手に取るように分かるのだ。俺はそれに従い決められたプログラムのように動いて弾丸をかわす。

しかし、男は流石にプロだ。あたらないと分かるや否や、接近戦に持ち込んできた。


「はは、お前に当たらないなら、接近戦で十分だ。お前は今、左肩と右腿が使い物にならない!!そんなんで俺に勝てるわけがねぇんだ!!」


しかし俺は身体を引いた。そして右に二歩動いた。アンバサも身体を捻って逃げる俺を追うように蹴りを入れようとした。しかし繰り出した脚に跳弾が着弾した。


「ウッ…グアァ!!」


アンバサは自分の脚を押さえてその場に倒れこんだ。今、おれ自身、自分でもこの”力”に驚いている。


「いい”眼”だ…。あんたが何をしようとしているのか、今跳弾がどこに着弾するのかが、よく分かる。もう立たない方がいい。あんたは俺に勝てない。」


「餓鬼が…。そんなんで勝ったつもりか?お前に絶対銃弾を撃ち込んでやる。」


アンバサはゆっくりと立ち上がる。

それが意地かどうかは別だとして大したものだ。


「へぇぇ。さすがプロだ、足を撃たれても立ち上がるなんて。でもさぁぁぁ俺さっき言ったよねぇ。立ち上がらないほうがいいって。でも立っちゃったんだあんたは。俺は言った。ん?言ったぜ。あんたの負けだ。」


俺がそういい終わるや否や、アンバサの肩と右腿と腹と腕、それに右胸に弾丸が着弾した。


「うげぇああぁぁぁ!!」


アンバサはその場に崩れるように倒れこんだ。銃弾がいたるところに落ちている。


「だから言ったじゃんよぉぉ。立っちゃダメだって。ん?喋れるか?今から俺の質問に答えてくれれば楽にしてやるからよ。いいな?」


「………。」


アンバサは何も言わなかった。口からは血を流し、傷口からもドクドクと血が流れている。

浅く早く呼吸をしていた。

死が近いはずだ。致命傷と成る傷が何箇所も出来たのだから。


「あんたの相方の”力”を教えろ。」


俺はアンバサの額に銃を突きつけた。アンバサは恐れることもなく、口を開く。


「……餓鬼が…死ね…」



プシュン。




静かな発砲音が一つだけした。アンバサの頭は吹っ飛んでいた。

撃ったあと、静寂が空間を包み込み無言で俺はアンバサの死体の前に跪いた。


「…俺がはじめて戦う相手があんたじゃなけりゃ、俺は死んでたかもしれない。あんたが俺を成長させてくれた。あくまで確率だけどな。その点ではあんたには感謝する。」


そういって俺はその場を離れた。






アンバサの手は組まれ、死体は静かに横たわっていた。



ここでやっとバトルです

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