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第36節:セクスミス


一日に最低一人、世界中で誰かが死んでいく。


一日、一日と人は死に近づいていき。

一人、また一人と、『人類』は死に近づいていく。


でもそれが途絶えることはなく、人が死ねば生まれ。

死に近づけば人類はまた延命される。


しかし人の寿命は延命されない。

一歩一歩踏み出すことが出来るから、終わりへと向かうことが出来る。

そー考えると人の終わりはあるが人類の終わりはあるのだろうか?と考えるようになった。

外から何か影響を与えなければならないのか?

それとも恐竜のように突然滅びるのか?


多分人類には自然な滅亡なんて用意されないのかもなぁ……。




「そうか……奴らは……動いたか。」


『えぇハルフォード。陽介と龍兵はアメリカへ向かいました。』


「ならば……とるしかあるまい。マートゥリサイドを動かす。お前は引き続き日輪を監視しろ、『ダイアナ・ロス』。」


『分かりました。』


















「おっつ〜!!久しぶりにアメリカ来たぜ〜!!」


高く高くそびえ立つビル群。見上げれば吸い込まれそうなくらいの青空。

そしてその青空に突き刺さりそうなくらいの高さのビルが、下から見上げれば倒れてきそうなくらいの高さのビルがそこらかしこにそびえ立っている。


ここニューヨークの都心部であるマンハッタン。

事実上ニューヨークの経済の中心である。


周りには前回来たときと同様、変わらずに忙しく動きまわる人混みでごった返していた。

気を抜けばその人波に飲まれそうになるくらいの多さ。


「ふわぁ〜!!すッげェ人の数!!これは無いわ!!」


「はぐれンなよ繭。オメェよォォォ、絶対ェェェェ迷子になりそうだからな。」


「あ、ぅん。ハイハイ!!」


物珍しげに周りを観ていた繭はガキのようにニッコリと微笑みを浮かべると龍兵の手を握る。


「コレで問題ないじゃん?」


「……まァな。」


龍兵は照れくさそうに笑い俺と目を合わせる。

くくくっと笑いを堪えていた俺を見て、少し顔をひきつらせた龍兵は話題を切り換えるように話を振ってきた。


「そいやぁよ、陽介前にウィンチェスター社に行ったンだろ?早く行こう。」


「いや、ここのカフェで待ってりゃ向こうから迎えが来るらしいってさ。だからさ、ゆっくり待っとこうや。」


溢れかえる人混みの川と道路の向かい側にはテラスが望めるコジャレたカフェが構えてある。


「天浪、行こうか。」


「うん。」


俺がそう言うも天浪は一緒に歩を進めようとはしない。

しかし突然、少し切なそうに、だが思い切ったかのような勢いで俺の袖をクイッと掴んだ。



メチャクチャ可愛い。

スッゲェヤベェくらいに可愛い!


心の中でそう叫び、胸が熱くなる感覚を覚える。


「…………。」


無言で天浪の袖を掴む手を握り、俺が握り返す。

力強くではないが、それでもしっかりと天浪の存在を確かめるように。


天浪の存在を肌で感じるように。


「ンフフ……!!陽介、手大きいね?」


「お前がちっちゃいンだよ。」


微笑む天浪は顔を少し紅潮させ、俺の手を強く握り返してきた。

俺はそれがとても嬉しくて、周りの人混みの存在が希薄に感じるくらい天浪を見ていた。


「おい陽介何やってンだよ!!早くこっちにこい!!」


既に向かい側にあるカフェの一角を陣取っていた龍兵が、人混みの中に取り残された俺と天浪を呼ぶ。


「……行くか?」


「うん。」


人混みに流されまいと上手くかわしつつ、向かい側にあるカフェへと一緒に歩いた。














「さて……二人とも……。」


アメリカとの時差がある日本の日輪本部。

外は既に暗闇が広がり、昼の明るさをネオンの光で補うかの様に町は人工的な明かりで満たされている。

その町を臨める社長室には去蝶とのとの他に二人の男女が集められていた。


一人は長い黒髪をオールバックにし、髪を結いスーツに身を包んだ男・牛頭。

もう一人は淡い黄緑の長髪を流すように伸ばし、黒のチャイナドレスで身を飾る女・馬頭。


日輪の保有する2トップの戦力にして最凶の暴力である。


「陽介と龍兵が……Xデーに備えて己を磨きにアメリカへと飛んだ。いくら二人が強いとも言えど、流石に有森大臣を殺すのには骨が折れる仕事。そこで!!二人にもやはり訓練をしてもらいます。」


まるでこうなることが解っていたかのように、馬頭はコクリと頷いた。

牛頭は腕を組んで深く腰掛けて話を黙って聞いている。


「やり方は二人に任せるから。その分任務もナシ。だから……最初の任務が『有森大臣の抹殺』ということになります。」


「そりゃまた……!!素敵な任務だこと。」


皮肉ったような言い方をする牛頭のわき腹を軽く馬頭は小突き、軽く咳払いをすると初めて馬頭から話を切り出した。


「それで……大体どの位の期間がありますか?」


「さぁ……?とりま、一ヶ月はあると思うから。安心しなさいな。」


「一ヶ月……か。」


普通に一ヶ月と聞いて一体何が出来るのだろうか?

あまりにも時間は短い。



だがそんな一般論はやはり一般人にしか通用しないもので。


「じゃ行くか。特別キツイのをヨ?」


「もう行く?場所はちゃんとホテルとかある場所がいいンだけど。」


日輪の主戦力にして、2トップには十分すぎるような時間だった。

そも二人は既に体力・精神力はほぼ完璧な域まで達しており、百戦錬磨の牛頭馬頭には最早鍛えるところなど皆無に等しい。

もとより二人を鍛えれる相手すらそう居ない。



ならばどうするのか?どうやってより高みへと上るのか?




死力を尽くして闘うほかない。



いつも行っている戦闘訓練が稚戯(ちぎ)に等しくなるくらいの血反吐を吐くような訓練を。


「では、期待してるわよ?」


去蝶は二人一緒に社長室から出て行くのを眺め、クスクスと笑いながら見送った。


「仲のいいことね。」


パタンと閉じられた扉を見て一言そう呟いた。


「ところで去蝶、俺はどうすンの?俺は訓練なしか?」


同じ部屋に居たにもかかわらず、ただただ話を聞いていたのとはたまらなくなって去蝶に質問をした。


「俺は去蝶、アンタに従うしあんたについていくけど……俺は戦いはしないンか?俺だって去蝶の役に立ちたいし、去蝶のために闘うよ!!」


「なら今にでも。」


去蝶は着崩しながら着ていた着物を全て脱ぎ捨てると、ジャージにタンクトップの姿へと着替え長い、艶やかな黒髪を三つ編みにした。

いつもの妖艶な姿ではなく、動きやすさ重視の服装。


「今から、のと……下の訓練施設にある道場に行きます。私は実戦の勘を取り戻す。のとは鍛えるため。そこでのとは私と戦います。『私のために』戦ってもらいます。OK?」


「マ……ジで?俺が本気で闘うのか?」


「別に手加減してもいいけど私は怒るわよ?それに……」


去蝶はのとの頬にかかる髪をすっと払いのけて自分の元へと引き寄せる。


「手加減?私を舐めるな?牙も爪も届く前にド頭から落としてあげる。」


ビクッとのとの体が跳ねた。

言葉の圧力のせいか?それとも耳元で囁かれたせいか?

とにもかくにものとが今、得体も知れぬ悪い感覚を覚えたのには変わりはない。


去蝶はそのままのとの脇を通り過ぎ、先に社長室を後にした。


「は……ハハ…………ハハハ、ハハ!!とンでもねェ人だ。お望み通り叩き伏せてやる。その身体に爪痕残してやンぜェェェ!!」


去蝶の言葉に恐怖を覚えたはずののとは逆に勇み、去蝶の後を追って、訓練施設へと向かった。


















待ち合わせのカフェの一角で、俺と龍兵と天浪と繭はケーキやコーヒーを片手に話に花を咲かせていた。


「ところでさァァァ、知ってるかよ。鏡に向かってよ、鏡に写った自分を見ながら『お前は誰だ?お前は誰だ?』って言い続けンだよ。」


「言い続けたらどうなるんですか?」


ウマい具合に話を区切った龍兵の話に食い付いた天浪が続きを話すように求める。


「したらよ、何日か続けている内になんか精神が崩壊とかしちまうらしいンだと。」


「ウッソー?龍兵それマジ!?」


「マジマジ!!危険だから絶対ェェやらないで下さいって書いてあったンだぜ?」


まぁ確かにそんな話は聞いたことがあるが。

それでもそんなことをする時点で十分精神が病んでいるのではないだろうか?


だが一方で誰か試して欲しいという願望もある。


「なぁ陽介、一回ウソかどーかお前試してみねェェ?」


「ふざけろ。龍兵がやれよ、ンなことよォォォ!!」


その時カフェで談笑していた俺達に、一人の男性が話しかけてきた。


「すみません、紅い髪……と金髪……御守地陽介サンと島津龍兵サンですね?」


「えぇ。日本語上手いンですね。」


急に話しかけてきた男に俺は握手の手を差し出した。

ウィンチェスターの所の使いだろうか、てっきりガービッジが来るものかと思っていた俺は少し驚きはしたものの直ぐに愛想良く対応をした。


「ナイストゥミートゥ。自己紹介を……させてもらいます。私はヌーノ。ヌーノ・セクスミスと申す者です。」


「あ〜アンタかァ?確か前来た時に空港に迎えにきた……?」


「え?なに龍兵この人と知り合い?」


「前アメリカに来たときに迎えに来てもらったンだよ。いや、久しぶりだワ。」


龍兵は笑いながらヌーノと握手を交わす。

既に面識があったとは、これまた驚きだ。


「お久しぶりです龍兵サン。そして……もう一度ナイストゥミートゥ、ミスター御守地。」


「ナイストゥミートゥトゥ。陽介でいいよ。」


差し出された手を握り、挨拶を交わした。


「お連れ様のレディにも。ナイストゥミートゥ。」


ヌーノは俺と挨拶を交わした後、後ろにいた天浪と繭にも挨拶をし、俺と龍兵の方へと向き直った。


「さて……連絡は承っております。我が国アメリカに来た理由……強くなるためと。」


「えぇ。どれだけ滞在するかは分かりませんが……。」


ヌーノと一番親しい龍兵が話を進める。

俺と天浪と繭は話を聞いているだけだった。


「我らが社長、『ケイティ・R・ウィンチェスター』並びにアメリカは協力を惜しみません。アイソマー爆弾での一件、ウィンチェスター社は日輪に尽力を惜しまないつもりです。」


「感謝の、極み。」




軽く話した後は、ヌーノの用意した車に乗り込み、まずは最初の目的地であるウィンチェスター社へと向かった。


直ぐにでも訓練を開始してもよかったのだが、ウィンチェスターが俺達に会いたいと言ったのでまずは挨拶を兼ねて会いに行くこととなったのだ。


「ところで、景気はどうですか?その……ウィンチェスター社の?」


「えぇ。相変わらず好調です。社長共々我々もね。まぁ……その分武器が回るということですが。」


ハハッと皮肉ったような笑いをし、車のハンドルをきる。


「まぁ……あまり良いことではありませんね。そういえば密輸人(ブローカー)に頼んで送ったわが社の銃、どうでしたか?」


「あ〜あれ使ってたのは牛頭さんだから。俺じゃないっス。でも……スゲェ銃でしたよ。使ってた牛頭さんが言ってました。『化け物』だと。」


実際に戦闘では多くの敵を屠殺していたが、あれは牛頭だからこそ使えた代物ではないのだろうか?


「そうですか……。それは何より。」


話が終った。

喋ることもなくなった俺とヌーノはお互い黙り、ヌーノは前を、俺は車の外を見る。

隣には天浪がいたがやはり天浪も何も喋らず外を見ていた。


「天浪……。」


「……ン?」


「アメリカって初めて?」


「ウン。初めてだね。どして?」


「どっか行きたいとことかあるのかなぁって。」


何でこんなことを聞いたのか、俺自身にもわからない。

何も喋ることもなく、なんか自分の好かない空気になったからただ天浪に話を振っただけかもしれない。


「行きたい所……ないなぁ。」


「お前さ、何しにアメリカ来たンだよ?」


「多分……一人じゃ寂しかったんだと思う。陽介と一緒にいたかったのかも。」


ドクンと胸が踊った。

みるみる俺の顔が熱くなるのが解る。



天浪のあの笑顔……。


白い髪に比例するかのように屈託のない、無垢の笑顔。


しかしどこか切なそうに、いや空っぽと形容すべきか、とにかく元気が抜けているような笑顔が俺はたまらなく好きだった。


でもそれ以上にいい笑顔が出来るはずだと俺は思う。

天浪の本来の笑みを俺は見たい。


「そっか。ウン。そっか……。ハハ……つぅかお前よくそんなこと言えるな?恥ずいって。」


「そうかな?」


「そうだよ。」


俺と天浪はハハッと笑い合う。


「お二方、忙しいところ申し訳ありませんが。」


と、突然運転をしていたヌーノがバックミラーを覗きながら口を開いた。


「いやまぁ忙しいとこじゃないスけど……どうしたンすか?」


「いえ、思った以上に渋滞でしたので、今からウィンチェスター社まで飛びます。」


「はっ……?飛ぶ?」


いきなり何を言い出すのだろうか?

窓から外を覗けば確かに進む兆しはない。

周りには黄色一色のタクシーがごまんと並んでいた。

こんなに車があるから大気汚染とか地球温暖化とかになるんだな。


「えぇ、龍兵サンと繭サンを起こしてください。少々……荒旅ですので。」


俺は後ろの席で眠りについていた龍兵と繭を揺すって起こした。

元々車では深い眠りにつけないため、龍兵と繭は直ぐに目を覚ました。


「なんだ……着いたンか?」


「いや、まだだよ。なんかよォォ、ヌーノさん曰わく『飛ぶ』らしいから。」


「ハァ?飛ぶだァ?」


ヌーノと面識のあった龍兵ですら知らないこと。

飛ぶとは物理的に飛ぶと言うことだろうか?

それとも……まさか″力″?



「では……。素敵な旅に……。」


ヌーノの右手がハンドルを強く叩いた。



途端に目の前が暗転し、上下左右前後の区別すら出来なくなった。

頭が下にいくような、足が浮くような感覚。

目まぐるしく変化する状態に酷く気分が悪くなってきた。


喋ろうにも喋ることも出来ない。

夢の中で早く走れないのと同じように、喋ることが酷く難しい。



早く……終わってくれ。



「着きました。お疲れさまです、そしてようこそウィンチェスター社へ。」



暗転していた視界が、やがて平衡を取り戻し、気持ち悪さも軽くなってきた。

しかし酷い車酔いになったような感覚はある。

気付いたらそこは地下駐車場だった。


「あの……着いたンすか?ウィンチェスター社に?」


「はい。」


顔色の悪い龍兵がヌーノに質問する。

時間にして一分程の『旅』だっただろう。


確かに早く着いたが、代償が酷くツラい。


「どうやって……?こんな早く?」


しかし気持ちが悪いな。


比較的まだ俺より症状の軽い龍兵は続けざまにヌーノに質問をした。


「説明は……少し面倒ですが、我々の『存在』を限りなく希薄にし、分解しました。違う次元を通った我々はなんの滞りもなく、ウィンチェスター社へと『飛んだ』という訳です。分かりましたか?」


「つまり……テレポートみたいなもんか?」


「まぁ……そんなところですかね。それにもう一つ……”力”はありますから。」


ヌーノは車から降りて後ろの席を開ける。

俺達はそれに従うように車から降りた。


「ッあ゛ァァ〜気持ち悪ッ!!」


俺は車から降りるや否や、大きく伸びをし体をほぐした。


「天浪、大丈夫か?」


「結構……厳しいかな。」


「うぇ〜……龍兵気持ち悪い〜……。」


さすがに鍛えてはいない女性陣にはそうとうこたえたらしい。

繭はだれるように龍兵に力なくしがみつき、天浪はフラフラと危うい足取りで俺の肩に手を置いた。


「皆さん大丈夫ですか?」


「まぁ俺と龍兵はなんとか我慢できますが……この二人は全然一般人ですからね。」


天浪と繭は相変わらず「ん〜」やら「む〜」と唸っている。


「すいません。でも……あの”力”は慣れないとツラいものですから。慣れれば結構便利ですよ?」


「でしょうね。」


ハリー・ポッターの魔法使いの使う呪文のようなものだ。

勝手にそう納得し、龍兵と俺は女性陣を心配しつつヌーノの後に続いて社長室へと向かった。







しかし前来たときも思ったが迷いそうなくらい複雑で広い。

どこをどういったのか解らないが、とにもかくにも社長室にたどり着くことが出来た。


「ここです。中で社長がお待ちですのでお入りください。」


ヌーノは扉を開けて、俺達を中に入るように促す。

俺と龍兵と天浪と繭は失礼しますと小声で呟き、部屋の中へと通された。


「ようこそ。お久しぶりですね陽介。」


「えぇ、お久しぶりですウィンチェスターさん。そして……ガービッジも。」


「うん、元気でしたか?」


高級感溢れる、しかし静かな雰囲気を感じさせる内装。

マンハッタンが一望できるウィンドウの社長室にウィンチェスターはいた。

脇にはやはり前回会ったときと同様、ガービッジが立っておりコートの端には無数の髑髏がカタカタと音を立て吊るされていた。

ヌーノのときと同じ様にウィンチェスターとガービッジに握手を交わし龍兵たちをウィンチェスターに紹介した。


「そして……今回お世話になる俺の同僚です。」


「どうも。お初目にかかりますウィンチェスター。それに……あなたがガービッジですか。」


「タメ口で結構ですよ龍兵さん。」


にっこりと青白い顔で微笑むガービッジに握手をし、続いてウィンチェスターとも握手をする。


「どうも。去蝶の妹の繭です。」


「あらあら、あの人の妹?似てるわね……雰囲気が。それに美人だしね?」


クスクスと笑いウィンチェスターが繭と握手を交わす。


「ど、ど、どうも!!あの、天浪琴那です。初めまして!!」


どもりながらも自分の自己紹介を済ます天浪。

やはり相手が大物だと緊張するのだろう。

元々最初は全然一般人だったんだからな。


「あら?アナタが……!?そう、アナタがタイラントの狙う予知能力者……ね?」


「え?あ、はい。」


「よろしくお二方、私はケイティ・R・ウィンチェスター。で、こっちがガービッジ。」


「どうもよろしく。」


一通り挨拶を済ました俺達はウィンチェスターの勧めた来客用のソファーに腰掛けた。

透明な机を挟んだ向かい側にウィンチェスターが腰掛け、ガービッジが巾着袋のように斜め後ろに立つ。

ヌーノはいつの間にか消えていた。


「話は聞いてるわ。『あなた達を鍛えるよう』にと。」


「そうです。出来れば短かに、一気にパワーアップするのがいいんですが。濃い内容にしてほしいですね。」


何を言い出すのか、出来るわけがない。

龍兵の無茶な提案にウィンチェスターは口元を押さえてクスクスと笑う。


「クク……アハハハハ!!分かったわ、それを用意しましょう。メニューはこちらで決めても?一応彼女からはどういう風に鍛えるかは承っているしね。」


ウィンチェスターはガービッジを呼び、屈んだガービッジに何か耳打ちをした。


ガービッジは表情一つ変えず、ウィンチェスターから言われたことを了承するとそのまま部屋を出て行ってしまった。


「えっと……龍兵……だったわね?アナタには元グリーンベレーとの訓練に取り組んでもらいます。」


「グリーンベレー!?」


アメリカの情勢に疎い俺でもグリーンベレーは知っている。


米陸軍の歩兵200人に相当する戦力を、グリーンベレーの隊員一人が保有しているとされ、アメリカの世界軍事戦略に応じて、極東のみならずアジア・中東にまで出動する精鋭揃いの超エリート部隊だ。


「マジかよ、なんか本格的じゃね?陽介!?」


「あぁ、死なない程度にがんばれよ。」


グリーンベレーは流石に厳しいだろう。

ということは俺にはどーいう訓練が待っているのか?


「陽介……あなたには狙撃訓練が待っていますよ?それにテコンドーの訓練もね……?」


中々ハードな内容になることは間違いないだろうな。

なんせ内容が濃いのだから。

濃くしたのだから。



龍兵が!!


「期限は大体一ヶ月ほど。それまでここマンハッタンを離れノースカロライナ州のフォート・ブラッグ陸軍基地へと移動してもらいます。そして……時間はないので……二人をヌーノに送ってもらいます。お連れの二人の女性陣はこっちでしっかりと面倒を見ますので。」


今……なんて言った?

ヌーノに……送ってもらうだ?


「おい龍兵!!どーすンだよお前が濃い内容って言うから!!」


「うるせぇな!!俺だってまさかこーなるなんてよ、思ってなかったっつぅの!!」


俺が龍兵にキレると、あろうことか今度は逆ギレしだした。

理不尽にも程がある。

言い争う俺と龍兵にガービッジはどこ吹く風で話かけてきた。


「ではお二人とも、ヌーノが用意を済ませたので準備が出来たら声をかけてください。」


またあの素敵な旅が始まるのか……。

1ヶ月の訓練よりも、血反吐を吐くかもしれない訓練よりも、今は目先にある最悪で素敵な旅に頭を抱えることとなった。





アメリカ編大2弾です!!

久しぶりの登場ですウィンチェスターとガービッジ!!

結構好きなキャラなんで、この話を書くのは面白いです^^

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