第29節:極東から中東へ
最近お世話になっていたサイトが閉鎖ってのがあったんですけど、心に穴があいた感じですっごく寂しかった。
でも会わなければもっと寂しかったと思うし、今の自分はない。
だから出会いってのはすっごく大事で、別れってのはその人が自分にとってどれだけ大きい存在だったかってのを気付かせてくれるものだと思う。
悲しいけど、別れってのは大事なんだなぁってひしひし思った。
『生きる』ということは真に不自由なことである。
多かれ少なかれ大同小異、人は必ず何かに縛られている。
それは会社、社会、人間関係、因縁、因果……それぞれあれど生きているならば、必ず人は縛られている。
そして、縛られているのは人間だけではない。
生きている物、則ち生物は全て縛られているといってもいい。
ライオンから蟻まで、全ての生物は『運命』という見えない鎖に縛られて生きている。
では運命の鎖は一体何を繋いでいるのか?
運命によって決められた生物の人生。どのように抗こうが、もがこうが、結果はそのようにしかならない。
それが運命。それが生きている者の定め。
だが、もう一つ運命が縛り付けるもの…それこそが人と人とを縛り付けるもの。
運命によって決められた因果…。
それが『出会い』。
これは、偶然か必然か、はたまた出会うべくして出会ったのか、そんなものたちの話である……
「ここにいたのか。ウァラウァラ…。何してる?」
季節は秋、暑さがなくなり幾分か過ごしやすくなった季節、ハスカー・ドゥは喫茶店の中の一角を陣取るウァラウァラに声をかけた。
まだ時間は昼、朝と比べ喫茶店にくる客足は大分途絶えたが昼の休憩ではOLたちが昼食を食べに喫茶店を利用していた。
「……コーヒー飲みに来たンだよ。あとは…なんとなくだ…な。」
ウァラウァラは無言でチラリとハスカー・ドゥを一瞥したあとまた開いていた雑誌に目を落とし、ページを捲った。
ハスカー・ドゥは机を挟んでウァラウァラの向かい側に座った。
「いらっしゃいませ!ご注文はお決まりでしょうか?」
かつぜつの良い、元気なウェイトレスがハスカー・ドゥに尋ねた。
「ン…そだな…カプチーノ。あとは…いいワ。」
ウェイトレスを見上げた時にさらりとした黒髪が揺れる。
その表情は穏和そのもので、とても闇の世界の住人とは、『食人鬼』とは思えさせないなんとも優しい表情だった。
「…ハスカー・ドゥ。お前はコーヒー飲みに来た訳じゃあないンだろ?何か用か?俺は今日休みだと決めて、ゆっくりするつもりなんだ。」
ウァラウァラがコーヒーカップに手をのばし、一口すすってカチャリと受け皿に置いた。
「フッフッ…まぁな。察しの通り、全く以て察しの通りだ。実はな、仕事が入った。1ヶ月ほど前から娘たちが拉致される事件が多発し始めた…。しかもこの短期間ですでに7人はやられている…。」
「……つい最近じゃ、双子の姉妹もさらわれた。それで?俺らに北朝鮮にでも渡って暴れてこいってか?俺はヤだぜ。」
ウァラウァラは相変わらずハスカー・ドゥには見向きもせずに雑誌を読みながら話を一蹴した。
「カプチーノお待たせしました!ごゆっくりどうぞ〜!」
途中、先程注文を受けたウェイトレスがかつぜつ良く、そして元気よくテーブルにカプチーノを置いた。
ハスカー・ドゥはカプチーノを一口すすり、雑誌を読んでいるウァラウァラに再度話しかけた。
「……犯人等の目星は大体付いている…。警察の捜査ではな、犯人はアラブ系…中東の奴らじゃねぇかと踏んでいる。目撃者もいるしな。」
「つまり俺らによォォォ〜、中東行けってことなんだよなァァ?……ハァァァァ〜〜〜〜…バッカじゃねぇの!?大体なんでタイラントがンなことすンだ?」
ウァラウァラは付き合ってられんという表情でショウウィンドウの外を眺めはじめた。
昼時の都心部ではどうやら休憩という言葉とは無縁らしく、せかせかと歩く人達でごった返している。
「これは上からのお達しだ。ハルフォードから、そしてその上からのな。」
「お偉方からか?そりゃまたなんで?」
「オメェがよ、さっき言った北朝鮮あるだろ?あれと同じだ。あんな事件にしたくねぇから秘密裏に俺らに動けとよ。メンドクセェとか言ってる場合じゃねぇ。動くだろ?」
ハスカー・ドゥはカプチーノのカップに乗っていたスプーンで中をかき混ぜる。
渦はやがて小さくなり、カプチーノには揺らぎが消えた。
「メンドクセ…誰が行くんだよ?俺とお前?」
「行くのは俺とお前と、新入りのジェイデッドだ。日時は明日の10時空港で。」
それだけ言うとハスカー・ドゥは席を立ち上がり、伝票を手に取った。
「ところでだ…ここの持ちだが…俺か?それともお前か?」
ヒラヒラと伝票をなびかせながら言う。
ウァラウァラも席を立ち、首をボキボキ鳴らし、体をほぐした。
しばらく座っていた体はだるさすら感じたが伸びによって、それは解消された。
「頼むわ。」
すれ違い様にハスカー・ドゥの肩をポンと叩き、ウァラウァラは喫茶店を出て行った。
「ンの野郎……。あ、ウェイトレスさん会計して。釣りはいいから。」
ハスカー・ドゥは一万円札をレジに置いて喫茶店を後にした。
外にはウァラウァラが日の光を浴びて、気持ちよさそうに伸びと欠伸をしていた。
「ン〜…ンァァアァ!ハァッ…。2時間位いたからよ、体がダリィ。」
「フン。とりあえず帰ンぞ。ハルフォードから詳しい内容聞いとかなきゃならんからな。」
スタスタと歩き出したハスカー・ドゥはごった返した人混みの中に消えてしまった。
「…寝てェなァ……。またもう一度…。」
ウァラウァラは晴れた空を仰ぎ、そう呟くと前を向いて歩き出した。
――中東…それは狭義の地域概念では、インド以西のアフガニスタンを除く西アジアとアフリカ北東部の総称。
日本における中東の概念は、イスラム教の戒律と慣習に基づく文化領域の概念として極めて広域に用いられることが一般的である。
アメリカの中東戦略の介入によりイスラム原理主義勢力はアメリカに対する憎悪を深め、2001年にアメリカ同時多発テロ事件が勃発、アメリカの富の象徴、ニューヨーク・マンハッタンの世界貿易センタービル、並びにアメリカの国防機関の中枢、国防総省へのテロが発生し、時のジョージ・W・ブッシュ大統領は、このテロを「新しい戦争」と呼び、ますます中東への介入を強めた。
「本当に……こらへんにあるんですかね?敵のアジトってのは。無かったらコレ、即ギレモンっすよ。」
俺こと陽介は額からにじみ出る汗を拭き、牛頭を見て呟いた。
今、俺たちはアフガニスタンにある首都カーブル州にいる。
もちろん俺だけではない。俺に加えて牛頭、のと、阿防もいるのだ。
こんな4人を使うほどの今回の任務。
去蝶の口から告げられた任務内容は生半のことではなかった。
―『新型小型核兵器、アイソマー爆弾を奪還せよ。』
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話は少しさかのぼるが日本にある日輪本部の社長室に今回の任務のために俺と牛頭と阿防のとは集められたいた。
一度にコレだけ収拾されたのは去蝶が本格的に日本と戦うと言ったとき以来だったので、なにかしら大きな仕事だということは読める。
「で、今回の任務は…?一度に集めるってことは、やはりデカいンですよね?」
牛頭が社長室にある茶室に座り、去蝶の向かい側に座って尋ねた。
凛とした姿勢で話を聞く牛頭は、風格もちろん涼やかさすら感じられる雰囲気を出していた。
のとはずっと外を見ているし、阿防はソファーに腰掛け大麻の巻きタバコを作っていた。
「そう。デカイ。これはかなりデカイ。超が付くほどね。アメリカの『ウィンチェスター』から連絡が入ったの。米国防総省で秘密裏に開発されていた『アイソマー爆弾』が…盗まれたの。」
「な…!?マジっすか!?まさか!?『アレ』を作ったんですか!?」
一人驚く牛頭と去蝶以外は頭に?マークを浮かべて話を聞いていた。
「あの…スイマセン。なんすかアイソマー爆弾って?」
恐る恐る俺は代表として聞いてみた。
知らないから恥ずかしいが俺だけではないので聞くには何の抵抗も無かった。
「……別名『ハフ二ウム爆弾』とも言うんだが、平たく言やぁ、…『核』だ。原子核が持つ莫大なエネルギーを利用し,手榴弾サイズでTNT火薬キロトン級の爆発力を生むとも言われている。」
「ただ異性核を使う兵器のアイデアは数十年前から存在するのに対し、実現するには至らなかったの。にもかかわらず,米国の政府機関ではこうした「非主流」科学プロジェクトが長年にわたってはびこり、軍部は諦めずにこのアイデアを真面目に検討し続けたわ。米国防総省はこれまでにハフニウム爆弾だけで1000万ドル以上を投じていたの。まさに日本以上の税金の無駄遣い。でもね…この狂気の産物は無数の失敗と実験の果てに…ついに完成してしまった。」
博識な牛頭と去蝶は説明をし、少し間を置いてまた語りだした。
「もちろん……完成したなんて極秘中の極秘。誰も知りうることはなかった。だけどつい最近、試作品であったアイソマー爆弾3つが紛失された。もちろんアメリカは焦ったわよ。曲がりなりにも核を持ち出されたんだからね。で、兵器開発に一枚噛んでいたアメリカ最大の銃製造会社であるウィンチェスターが私に連絡したの。裏切り者が国内にいるのなら国外の信頼しえる者に依頼しようってことでね。」
それだけ言うと去蝶は口を紡ぎ黙りこくってしまった。
それは事の重大さを物語っており、核がまた使われれば第三次世界大戦の引き金にすらなりうる。
つまり日本の、日輪に対する重圧はかなりのものだ。
もちろんアメリカにもその責任はある。
全員が黙りこくった中大麻を吸っていた阿防はそれを灰皿に押し付けた。
「それで?あたし達は動くンだよね?いいじゃない。アメリカのこいたヘタ…日輪が尻拭いしてやりゃあ、クソバカデカい恩義を作ることが出来るじゃん。」
「確かに……な。天浪琴那の件で今の日輪には、はっきりいってバックがついてねぇ。ここでアメリカを味方に出来るってのはデカい。」
のとは少し考え、去蝶の方へと振り向いた。
「ならば、危険を覚悟で行けるかしら?行ってくれる?」
去蝶はフフフッと微笑み、4枚の航空券を懐から取り出した。
「成功のあかつきには望むものを出すわ。」
牛頭は無言でチケットを受け取ると、それを眺めた。
何の変哲もないただの航空券。
だが牛頭は行き先を見るや一言呟いた。
「中東…か。」
「YES。アメリカは……今回の相手がアフガニスタンのテロリストだと踏んでいる。というよりほぼ確定なんだけどね。多数の目撃情報もあるし。」
「…………で、内容は?」
「アイソマー爆弾の奪還……。及び敵組織の壊滅。」
ニヤリと笑う去蝶に釣られて牛頭も笑った。
最近はトレーニングばかりだったので丁度いいだろう。
実力を試すにはもってこいの任務だった。
「暴れてきなさい徹底的に。慈悲をかけるな、日輪の『暴力』を……示してきなさい。」
「「「「応ッ!」」」」
俺たち4人は席を立ち、任務に必要な経費を受け取った。
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その後羽田からカブール空港へとたどり着き、今に至る。
銃や刀は税関があり持ち込むことは不可能なので、独自のルートであとから送られてくるらしい。
「でもまぁ、アフガニスタンってのは、メチャクチャ貧しい国の一つでな。経済は近年の内戦や、ソ連軍の侵攻やタリバンとアメリカ軍を中心とした多国籍軍との戦闘などの社会的な混乱、干ばつにより大打撃を受けている。しかも国民の3分の2は、1日2ドル以下で生活しているっつぅ、まぁ治安が悪い国なんだ。この国のどこかにいることは間違いねぇわな。」
「やっぱ博識っすねぇ牛頭さん……。」
「こんぐらいは覚えとけよお前よォ……。」
牛頭は感心する俺を見て、ため息交じりで呆れた口調で笑った。
阿防もクスクス笑いながら付け加えるように言った。
「あとね陽介、アフガニスタンは世界最悪のアヘン生産国なんだよ?世界の87%を同国で生産してンだよ。」
「マジで!?ますますソレっぽいじゃんかアフガン!!なぁのと?」
「まぁなぁ……。確かにソレっぽい……。つぅかさ……、敵がここにいるのは分かったとして……、情報収集はしなきゃなんねぇンだよね?」
のとは垂れる汗を拭き、下をだらしなく出しながらたずねた。
元、狼ののとは発汗作用という人間としての機能が働いているだろうが、舌を出すのは狼のときの名残だろう。
「そうだな……。聞き込みからだな。アフガンには……昔の馴染みも居るしな。」
「あぁ……居たね…そんな臆病者が一人……。」
牛頭の呟いた一言に阿防は思い出したように頷いた。
のとは少し考えているが、暑さで思考がままならない状態なので多分思い出すことはないだろう。
その人物が気になった俺は、牛頭にたずねてみた。
「それって……誰なンすか?…強いンすか?」
「さぁな……置かれた環境で人は強くなる……。『すくな』は日輪にいることに耐えられなかったのか……それとも去蝶を見限ったのか……。どちらにせよこのアフガニスタンであいつは変わったはずだ。」
どことなく悲しそうな表情を見せた牛頭を見て、俺はこれ以上質問が出来なかった。
「確か…すくなの奴は今このアフガニスタンで人身売買の仕事に興じてるはずだよ。元日輪のメンバーも……堕ちたもんね。」
阿防はシボッという音を立て、ジッポのライターで大麻に火を着けながら毒づいて話を締めた。
「まぁ生きるのにも大変ってことだよ。」
簡単に話を纏めた俺は、伸びをして空を見た。
「で、とりあえずどうすンだ……これから……?ここ暑いし、ホテルかどっか行きたいンだけど……。」
のとはもうとにかく休みたいという一心で、リーダーである牛頭に尋ねた。
「…情報収集した方がいいンじゃねぇかやっぱ。時間はあんまねぇしよ。」
185cmはある牛頭は腰に手を当て、のとを覗き込む。
だが、牛頭がのとに構ったその瞬間、牛頭のケツポケットに入っていた長財布が子供にスられた。
そこにいた全員が全員、起こった出来事に驚き硬直した。
「オイオイ……スゲェなアフガン。いきなりスリにあったぜ。」
「しかもあン餓鬼、足かなり速くないスカ?俺があのガキと同い年の時でもあんなに早くなかったっすよ。」
俺と牛頭は必死に逃げる少年を見送りながら、呑気に話し合った。
少年は疾走し、直ぐに裏路地に消えて行方をくらましてしまった。
「ナニ呑気こいてンのよ二人とも!?逃げられたらどーすンのよ!?」
加えていた大麻を吐き捨て、阿防は俺と牛頭を一喝するが、牛頭はポケットに手を突っ込みながらのとを見る。
「ン……。そうだな。のと、出番だ。お前の鼻ならあのガキすぐに追い付けるだろ?」
「あのガキ、ゼッテェあんま風呂入ってねぇな。臭いがはっきりと残ってやがる。つぅーかよォォォ、ガキごときに財布奪られてんじゃねぇよ。牛頭ともあろうもんがよォォォォ。めんどくせぇ!」
ブチブチと文句を垂れつつも、のとは少年の臭いを嗅ぎつ少年の通った道を歩き続ける。
少年の行き先の路地裏はまるで迷路のように入り組んだスラムで、そこの住人は俺たちを奇異の目で見ていた。
「どう、のと?近い?」
じとりとした視線で見られ続けるのに耐えきれなくなった阿防は先頭をきるのとに尋ねた。
「……あぁ、近い。臭いは……この家で途切れてやがる。」
のとが顎でくいっと指し示した家は、スラム街の中ではなかなか大きく、まともな造りではあった。
「恐らく…あのガキは単独犯じゃねぇな。」
「でしょうね。スラムにこんだけの住処を構えてンだから、貧しい家族を養うためってわけでもないでしょうに。」
牛頭の予想に俺が付け加えたように説明をする。
「恐らくは……ここいら一体をシマとする組織化されたスリの窃盗団……。ってとこかな。」
阿防も大麻に火を着けながら言った。
牛頭は無言でサインをし、阿防とのとを裏手に回し裏口からの侵入を促した。
俺は牛頭の少し後ろで牛頭の様子を見ていた。
ちなみに今武器はないので殺すことはないだろう。
少なくとも俺はだが。
牛頭は木製のドアを二回、コンッコンッと叩き、中からの対応を待つ。
程なくしてドアが開き、中から40近いアラブ系の男が出てきた。
「ナンノ用ダ…?」
「あ〜えっとぉ……なに言ってンか分かンねぇけどちょっと邪魔すンぜ?」
俺と牛頭が中を覗くとそこには5人の男たちとさっきの少年が俺と牛頭を見ていた。
「居たぞテメェ!観念しろやぁ!」
牛頭が叫び、少年が逃げ出すと同時に、先程ドアを開けた男が牛頭に銃を突きつけようとしていた。
「グッギャァ アァ!」
男は銃を持った手を捻られ、首を捕まれていた。
男は牛頭の射程圏内で銃を取り出すという愚行を犯したのだ。
当然の結果と言える。
「当たりだぜ。ここはよォォ。陽介!銃奪れ!!」
「言わずもがな!」
俺は銃を奪い取り、中の奴らに向けて発砲した。
「ガァッ!」
一発、一番近くにいた男の足に撃ち込み動きを封じた。
「JESUS!!」
何か叫んだが聞き取れなかった俺は、構わず次の標的に狙いを定める。
バシャァーー…ン!
相手の背後にあった窓が割れ、阿防とのとが中に侵入してきた。
「………ッ〜!?」
男たちは俺か、それとも新たに侵入してきた二人のどちらかを攻撃するか一瞬、戸惑っていた。
一方の二人は、躊躇することなく、残りの4人を攻撃に移る。
「ガゥアッ!」
のとが一番近くにいた男に勢いを付けた蹴りをいれ、低い体勢のまま近づき、もう一人の男の顔を掴んで床に叩きつけた。
阿防は、二人の男の間に入ると的確に横腹に掌底を入れて吹き飛ばした。
阿防の方は『力』を使ったのだろう。
「楽に片付いたな。」
男の首根っこを掴みながら牛頭が入ってきた。
牛頭はその掴んでいた男を部屋の中央に放り投げ、俺達はその周りを囲む。
「た…助け……止めてクレ……。」
驚いたことに片言だが日本語を喋った男を、牛頭は眺めていた。
「さて、こいつらどうすンのさ?殺す?それとも現地の警察に突き出すの?」
「いや、殺さないし警察にも突き出さない。コイツが協力してくれるンならな。日本語喋れる犯罪者って、かなり便利じゃねぇかよ。」
牛頭はグッと膝を曲げ、男の顔を覗き込む。
「聞いた通りだ。ちょっと協力してくれや。もちろんおまえ等を殺しはしないし金も払う。ウマイ話だろ?」
「ナ……ナニをすれバいいンだよ?」
「先ずはホテルの手配。あとは……このアフガニスタンの裏の情報が集まる所を教えろ。」
「そ…それダケか?」
「あぁ。約束する。だが人質として、ここにいる仲間をとらせてもらう。さぁ、早く行け。10分やる。」
牛頭は立ち上がり、男に出ていくように促した。
「運がいいよね……アタシらさ。」
阿防は椅子に座り、頬杖をつきながら俺に言った。
「日頃の行いだって。」
「なわけねぇだろ。」
のとは地べたに座り、壁にもたれかかった。
限界が近いらしい。
しょうもない会話をしていると先程の男が帰ってきた。
「ホテル……手配してキタゾ。」
男の迅速な行動に感嘆しつつ、俺達はホテルへと向かった。
同時期、同国。
カーブル空港に3人の男が降り立った。
ひとりは黒髪短髪で目の下に隈があり、頬には大きく『4』と彫られた男。
もうひとりは牛頭以上の長身で、サラサラの黒髪に露出の多い上着を着た男。
そして髪も瞳も蒼い、黒いラバー製のコートを羽織った青年。
狂気の代名詞とも言えるウァラウァラ、ハスカー・ドゥ、ジェイデッドがアフガニスタンの大地を踏みしめた。
バトルは頑張ります!