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第28節:サイドストーリー・賭け師とイカサマ師

30話目ですね。一年かかってやっとここまで来ました。

これも皆様のおかげです。厚く御礼を申し上げます。



さて、この小説紅い剣と白い華、主に史実や時事問題を使い、脚色をしたりするんだけど、思うにこーいう世界って黒いんだけど、鮮やかに黒い世界ってのを想像したりする。

政治家の汚職をどす黒いとするなら、裏社会では仁義とか、掟とかあるんじゃないかって思って書いている。

きれいごとだけどこーいうケジメみたいなものはやっぱり必要だと思う。


まぁ、下らない前書きなどお気になさらず紅い剣と白い華をお楽しみ下さいませ。




人には不幸のどん底にはまる人と、そうでない人がいる。


大概の人は不幸を味わえど、どん底にまで落ちる人は少ない。

なぜならば人はどん底に落ちた場合でも必死に手を伸ばし崖をよじ登るかのように、あるいは暗闇で糸を手繰り寄せるかのように成功へとたどり着く場合が多いからだ。

それは成功への、もしくは生きる為の執念がそうさせるのだ。




だが時にはそのどん底というものを歩き続けるものもいる。

手繰り寄せることもよじ登る力すら奪われるほどにどん底をさまよい続ける人間が……。








「お客さん……賭け金すべて…回収させていただきます。」


一見目立つことのない建物。

そこは知る人ぞ知る違法賭博の建物で、外の外装とは打って変わり、豪華とはいえないが中はとても外の外装からは想像できない雰囲気を醸し出していた。。


そしてその賭博場の一角でポーカーをしている一人の少女と男が二人いた。

片方の男は若く、年齢層が高めのここでは青年の部類に入る。

その青年はキャップを被り黙々とポーカーに興じ、もう片方の男はいかにもスジモンの雰囲気を漂わせている。


テーブルにはチップが置かれ、少女の手元には8とジョーカーを含めた5カードが置かれていた。

少女はポーカーフェイスで賭け金を手にし、男はその賭け金であるチップを恨めしそうに見送りその目を繭に向ける。


「イ……サマ…だ…!」

男はぶつぶつと呟き、少女を睨みつける。

だが少女はポーカーフェイスを崩さず、淡々とカードを片付けている。


「どうしましたか…?」


「イカサマだっ!!そうだろう!!小娘がぁ!!」


男は逆上し、少女に掴みかかろうとした。

男の叫び声で店内の客の眼のほとんどが少女達に向けられる。

だが男は隣で一緒にポーカーをしていたキャップを被った男に首ねっこを掴まれ持ち上げられた。


「くっ…かっ…ぁ…!」


「おっさんよぉぉ、勝つ人がいりゃあよぉぉ、負けるやつもいる。勝利は敗北と同じようなもんだ。あんたは『偶々(たまたま)』負けたんだ。」


そういうと青年は今度は男をテーブルに叩きつけ、首元にナイフを突きつけた。

テーブルの上にあったチップはバラバラと飛び散り、床を転がっている。


「次は勝てるかもしンねェンだからよォォ、金と一緒に男も墜としてんじゃねぇよ。」


キャップを被った男はそう言うと手を離した。


「くっ…ゲホッ!!ガッ!!ク、クソがァ!」


逆上した男はむせながら慌てて店を出ていった。


「またのお越しを。」


少女は店を出る男の後ろ姿に感情を込めずにそう言い放った。

騒動は起きたが店内では、いつものことのように捉え、皆また賭け事に投じた。










「アリガト。龍兵。」


少女は店を閉めた店内で先程のキャップを被った男、龍兵に微笑んだ。

静かになった店内には、誰も居ない。


「まぁ時々居るよなぁ。あーやって逆上して、『繭がイカサマしている』って考えるやつがよォォ。」


「まぁぶっちゃけイカサマしてんだけどね。おっさんも困るわ。あーゆうこと言ってもらっちゃあさぁ。」


繭はふぅっとため息を吐いて、龍兵の方を見た。


「あ?何?」


「ン?ふふ…別に何もないよ。さ、帰ろ。」


意味深で、だがどこか幸せそうな表情を含んだ笑み。

龍兵もその笑みに釣られ笑い、繭と店を出た。




「じゃ俺少し陽介に用があっから。」


龍兵は日輪の中に入るやそう言って一人先にエレベーターに乗った。

繭はふぅっとため息をついて自室へと向かった。


「9時…か。」


携帯の時計を見ると、既に9時を少し過ぎている。

朝の9時をだ。

賭博場を経営する時間は都合上、どうしても深夜になってしまう。

繭は上着を脱ぎ、一糸纏わぬ格好になると、仕事の垢を取るためシャワーを浴びた。



顔を打ちつけるシャワーは少し熱めで、サッパリとした気分にさせてくれる。


「ン…ふぅ…。」


体全体の汗を疲れとともに洗い流し、キュッと音を立て、シャワーの栓を捻った。


頭、体、の順にタオルで顔を拭き、相変わらず一糸纏わぬ格好でビールを取り出した。


「ンハァ!美味いッ!一仕事の後っていいねぇ。」


オヤジ臭いようなことを言い、大きく伸びをした。

体が引き伸ばされ、それと共に急に強烈な睡魔に襲われた。酔いが回った訳ではないし、繭自体はそんなに酔いやすい体質ではない。

ということは徹夜の無理が祟ったのか、体が休息を求めていた。


「ちょっと…無理しすぎたかな…?寝よう…か、な。」


繭は体を纏っていたタオルを取り払い、そのまま何も着ることなくベッドに沈むように眠りに落ちた。





この時、まだ繭は自らの変化に気付くことはなかった。


多くの力をもつ者と関わり、自らも目覚めつつあることを…。








―三日後、いつもと同じように賭博場で『仕事』をしていると、繭の視界に一人の男が目に入った。


その男は賭事に興じることもなく、かと言って帰ることもせず、隅のバーで酒をチビチビ飲んでは皆が賭事をしているのを恨めしそうに見ていた。

更に気になったのはその男の雰囲気だ。

どうにも、勝つような気がしない、およそ賭博場には無縁そうな雰囲気を出していたのだ。


繭は適当にポーカーを終えると席を立ち男に近寄った。


「お隣…よろしいですか?」


グラスを片手に近寄り、繭は男に話しかけた。

男は気が弱そうで、無言で頷いた。


「ここがどーいう所か知っておいでですかね?」


「と、賭博場…。」


「そう。賭事をする所です。でも何故?なんで何もしないの?別にここは警察の介入などない。安心して賭事を出来ますよ?」


繭は促すように男に聞くが、男は口数少なそうに答えた。


「違う…そんなんじゃあない…。違うんだ…。」


どこか怯えるような口調。

繭は黙って話しを聞き、男は続きを話し始めた。


「勝てないんだ…俺は…。なにをやっても…ダメになる…。勝つことが出来ないんだ…。これまで…そしてこれからも……!」


「それはそれは…大変ですね…。もし、時間がありましたなら、閉店まで待っていてください。少し…気になりますから。」


繭はほくそ笑み、席を立った。


繭がその男から離れた所で龍兵が繭に声をかける。


「なに話してた?あの男と。」


「何ナニ?心配してくれンの?」


繭がニヤニヤして下から龍兵を見上げながら言った。

龍兵は顔を少し赤くし、顔を背けた。


「ちげぇって!ただよぉ、お前がなんであんなヤツに話しかけたンかなぁって思ってさぁぁぁ。」


「だいじょぶだって。少し面白い素質だなぁって思っただけ。だからさ、龍兵今日も閉店まで待っててね。」


繭はニコッと微笑んで龍兵の頬に軽く口づけをして、その場から去っていった。

龍兵は遠目から男を見てみるが、別段危険は感じられなかったので、龍兵も酒を飲みながら待つことにした。













「面白い…。」


午前8時。

朝、社長室へと案内された男は去蝶の前にいた。

相も変わらずはだけた着方をしている去蝶はくつろぎながら男を見ている。


「名前は…山口俊也やまぐちしゅんや。通称『グッチ』。身長180cm、体重71kg、好きな音楽はメロコア。OK?」


「はぁ…。そうですが。」


山口ことグッチはおずおずと去蝶を見ながら答えた。

去蝶の美貌に見とれる。大概の男は去蝶の前では前かがみなのだが、グッチはそれ以上に去蝶の神々しいまでの何かを感じていた。


「面白い…。本当に…面白い男。」


話を聞いていた去蝶は隣にいた繭を見た。


「アタリね。ある意味面白い逸材よ繭。」


「でしょ?だからお姉ちゃんならなんとかなると思ってさ。」


「オッズ1、2倍の馬券すら一回も当たったことがない。これはこれは…不運の塊、なんという、稀にみる人物。丁半サイコロも勝った試しがない。」


去蝶はゆっくり立ち上がり、グッチを見下ろした。


「転がり落ちる人生、どん底を歩き続ける生涯。変えたい?アナタは変わりたいかしら?」


「か…変わりたい…です……。で、で、出来るなら…。」


「聞き入れた。よろしい。叶えましょう。」


去蝶はグッチの心臓付近をさするとそっと手を置いた。



トクン―トクン―と生命の鼓動が手から伝わる。



去蝶は手のひらでトン…とグッチの胸を軽く押した。

グッチの体もそれに従うように後ろに揺れる。


「OK。たった今、あなたの人生は変わった。あなたの不幸さを『覆した』わ。あなたは今までの不幸分、幸せになるでしょう。そして、これからは月300万、日輪に納めなさい。」


「さ、さ…300万円…!?」


グッチは途方もない金額に目を丸くした。


「大丈夫。これからアナタが稼ぐ金額に比べれば安いもんだし。頑張って。ネ?」


繭がグッチの両肩に手を置いて微笑んだ。

グッチはとり憑かれたようにフラフラと危なっかしく立ち上がり社長室から出て行った。










「どう思うお姉ちゃん?グッチダイジョブかな?」


「本人次第よ。今までの話が本当なら覆した彼の運勢は途方もないほどのバカヅキ。でもね、私にはそれだけしか出来ない。欲を制御するのは彼。欲に飲まれずに居られるかね。」


去蝶はそういうと重い腰をあげ、窓に歩み寄って外の様子を見下ろした。


「どちらにせよ…グッチは繭の御眼鏡に(かな)ったのだから、何かあるはずよ。」


丁度そのとき、グッチが日輪の建物から出てくるのが見え、去はそれを社長室の窓から見下ろしていた。

グッチは目の前にある横断歩道を渡ろうとしていたが、靴紐がほどけていたのに気付き、その場にうずくまって靴紐を直していた。


そして…その数秒も経たない内にグッチの渡ろうとしていた横断歩道でグッチの目の前で人身事故が起きた。

もし、グッチがそのまま靴紐に気付かずに歩き続けていたのなら、グッチも事故に巻き込まれていただろう。まさに偶然の出来事であった。


「あとは…本人次第…。」


去蝶はそういうと、窓から離れ、茶席で寝るようにくつろぎ始めた。

繭は無言で部屋を出ると、そのまま決められたかのように日輪のトレーニングルームへと向かった。





トレーニングルームには牛頭と龍兵が、去蝶の任務『Xデー』のためにトレーニングをしているところだった。


牛頭はとにかくシャドウボクシングを10kgのダンベルを持って行い、龍兵は機動力と瞬発力を高める為かスクワットと縄跳びを交互にやっている。

二人とも黙々と、汗を流しトレーニングに勤しんでいた。


「龍〜兵。頑張ってンね?」


「繭か…。まぁ…それなりにな。」


龍兵はそういうと縄跳びを無造作に椅子の上において、汗を拭き、アクエリアスで水分補給をする。


「任務はキツいからな。これからはもっとキツいやつにメニューを変える。」


龍兵は疲れた顔でため息を吐いた。

そして、ゴムで留めていた髪を解くと、椅子に深く腰掛、休憩を取った。


「ねぇ…龍兵、今夜空いてる?」


「ン?また店か?」


「違うよ。今夜…私の部屋に来て…。ね…?いいでしょ?」


繭は小声で囁き、それだけいうとさっさとトレーニングルームを後にした。

牛頭はダンベルを置いて十分に腕をほぐした後、タオルで体を拭きながら龍兵に近づいた。



「相変わらずお前ら仲イイな。」


「ははっ!まぁ、…付き合って4ヶ月も続いてますからね。セックスするくらいの仲にはなりますよ。」


汗でしっとりと濡れた長い金髪をタオルで拭いた。


「陽介はどこにいます?」


「射撃場だと思うが…。あいつのメニューは俺らと、ちと違うからな。」


「そすか。じゃちょっと行ってきますわ。」


そう言うと龍兵もトレーニングルームから出て行ってしまった。


「……ッ。」


一人残った牛頭はサンドバッグに右手を置いて黙っていた。サンドバッグは天井から吊り下げられ静止しているが、かなりの重みと強度があるのが触ってみてわかる。


そして徐に手を離すと牛頭は右ストレートを放った。

サンドバッグは裂けるような音と砂が流れ落ちる音を立て、牛頭のパンチによって粉々に吹っ飛んでいた。


「やるッ。なかなかどうして相変わらずスゴい拳ね。」


「馬頭…。」


牛頭が振り向くと入り口にパチパチと拍手しながら馬頭が立っていた。


「牛頭さァァァ、ヒマなら私の相手…してくれる?」


「なんだ?お前も欲求不満か?さかってンのか?」


「バーカ。ンなこと言ってないでしょうが。ほら。」


馬頭はそういうと持ってきた木刀を牛頭に放り投げた。


カランカランと音を立て、木刀はトレーニングルームの床を転がり牛頭の足元で止まった。


牛頭はそれを拾い上げ、肩でポンポンと跳ねさせる。



「やるならよ、手加減ナシなんだよなァァ?面ァ…潰されても文句言うンじゃねぇぞ?」


「決まってンじゃんよ。てゆうかさ、手加減して勝ってみなよ。玉潰されても文句いうんじゃねぇよ?」


「玉言うなボケ。」


スッと刀を構え、身体を深く沈めながら牛頭は言った。

馬頭も身体の力を抜きつつ、構えだけを取る。




場所などは関係ない。


自分達は『暴力』なのだ。


道場や試合会場やリングの上で紳士的に戦うわけではないし、自分達は紳士的に戦うつもりはないし、そんなに礼儀正しくない。


相手がいれば暴れるだけ。それ以上でもそれ以下でもない。

生き残ること、勝つことしか考えていない。純粋な闘争者なのだ。

だから場所など逆に言えばそれすらも邪魔になる。戦いにふさわしい場所などないのだ。

闘うことさえできれば、あとはなにもいらないのだ。


「もう…始まってるぞ?来ねぇのか?何を使ってもいいぞ?」


「始まってるのは分かってる。じゃあ牛頭、あんたが来なよ。」






空気が緊張し互いが同時に息をゆったりと吐いた。



そして、互いが同時に床を蹴り、距離を詰め刀を交えた………。






ドン−−−




「スゴッ…。」


銃を撃つ陽介の隣で天浪が感嘆の声をあげていた。

陽介は一心不乱にサイレントマジョリティを的に向かって撃っていた。

火薬の爆ぜる音がし、それに続いてキンキンと薬莢(やっきょう)が床に落ちた軽い金属音がする。


「まぁ…俺の才能だからな。」


陽介はマガジンに残った最後の一発をシルエットの的の頭部に着弾させ、銃を置いた。


「私にも……出来るかな?」


唐突に、天浪は先ほど穿たれた的をみながらうわごとのように呟いた。


「…練習…するしかないンじゃね?ここによぉ、射撃用の銃があるからやってみ。」


陽介はそういってリボルバータイプの拳銃を渡した。

反動が少なく、威力も並みだが素人ならばそれで十分すぎるくらいだ。


「構えて…そう…慌てるな。慎重に照準をあわせるんだ。しっかりと持って脇を締めろ。そして…狙ったところの少し下を狙うんだ。撃った瞬間、銃は反動で上に持ち上がる。それで狙いが外れるんだ。」


「わかった。」


陽介は天浪の後ろに立ち、銃で狙いを定めるのを見ていた。

だが、やはり素人だ。手が震え、力が入っていないのが分かる。


「もっと…しっかりと。」


陽介は後ろから包み込むように天浪の手を握り、天浪のすぐ横に顔を出した。

すぐ横には天浪の顔があり、緊張のせいか息を押し殺しているようだ。


「怖がるな。慎重に、焦るな。俺が持っててやるから、お前は引き金を引け。」


すっ…と照準を的に持っていき、ピタリと止めた。

天浪の指に微量の―(もっとも天浪にとってはとてつもなく力を入れているつもりなのだが)―力がかかり、引き金を引いた。





パンッ――


乾いた火薬音をたて、弾丸はシルエットの狙ったところの僅かに右に着弾した。

銃口からは硝煙が昇り、火薬の臭いが鼻をついた。


「…ン〜まぁまぁだな。俺が支えて、手伝ってやったのを差し引いてもよォ。」


「いやいやいや!!上出来でしょ?初めてでも当てれたんだからさ?」


天浪は少し顔を赤くし、すぐ後ろにいる陽介に笑いながら振り向いた。


「つぅかお前等…何やってンの?」


「「うぉぉわぁ!!」」


後ろから龍兵の声がし陽介と天浪は同時に素っ頓狂な声を上げて離れた。


「いや、…ちょっ…待て待て…!!ちが…つぅかお前なんで!?ここ射撃訓練場だぞ!?」


「俺がドコに来ようとよォォ〜それは俺の勝手だろうがよ。それで、お前さ…。」


龍兵はニタニタと薄ら笑いを浮かべながら陽介の顔を覗き込んだ。


「ンだぁ…?」


「ケケケケッ!!おいおいおい、陽介お前顔赤いじゃん?ン〜?照れてンの?悪ぃねぇ、いいとこなのにお邪魔しちゃって〜!!琴那ちゃんもゴメンね〜?こいつ滅多に照れることねぇからさァァァ。多分琴那ちゃんのことゼッテェ意識してンぜェェ〜。こりゃぁぁッ!!」


「ェ…ッ!?陽介マジ!?」


「オイコラ!!フカシこいてンじゃあねぇぞ龍兵!!」


天浪も顔を赤くし、陽介も顔を赤くして龍兵に掴みかかった。

だがそれでも龍兵はニタニタとした笑いを消すことなく、むしろ今度は笑いを押し殺しているような笑みを浮かべた。


「否定するってぇことは、やっぱそうなんだろ〜?認めちまえよ〜?」


「ブッ飛ばす!!」


「お〜お〜!!やってみろ!!恋のパワーで俺に勝ってみろ!」


龍兵のからかいに耐えられなかった陽介は殴りかかろうとするが、龍兵はそれをなんなくかわし、バックステップをしてドアのところまで下がった。

「ちょッ…陽介も龍兵さんもヤメテよ…!!ケンカしないで…」


天浪は制止しようとするがこれはいつものことだということをまだ知らない天浪はおろおろするしかなかった。


「おい龍兵ェェ〜…やるか?」


「お〜やろうや。こいよ、ダウンさせてやッイダッ!!」


丁度喋り終えようとするところにドアの側に居た龍兵は後ろからの何者かの攻撃で、会話は遮られた。

龍兵が振り向くとそこには繭が腕組みをしながら立っていたので、多分龍兵には蹴りを入れたのがわかる。


「あんた捜してここまで来たのに入り口塞いでンじゃないわよ。それに陽介イジメないの。」


「いや、イジメてねぇし。」


「俺もイジメられてねぇし。」


龍兵は蹴られた背中をさすり、繭のために道を開けた。

繭は一直線に天浪に歩み寄り、まじまじと顔を見た。


「へぇ…ホントに白いンだ……スゴいね。私は繭っていうの。初めましてだね琴那。」


「あ!?どーも。初めまして。」


天浪は会釈をした。


「うん。よろしく。分からないことあったらさ、何でも聞いて。」


繭はにこやかに笑い、天浪の頭をクシャクシャと撫で、繭は今度は龍兵の方へと歩み寄った。

天浪の髪は少しボサッとなったが、すぐにそれは直された。




「繭さんってカワイイよね。なんていうか、ホントにカワイイ高校生って感じじゃない?」


天浪は少し嬉しそうな表情で陽介に語りかけた。


陽介は射撃台に座っていたが、そこから降りると『サイレントマジョリティ』に弾を込め始めた。


「年齢なら俺らより一つ上だからな。ま、天浪もかわいいよ。」


陽介は顔を少し赤らめ、それだけ言うと再びサイレントマジョリティを構えた。


「……ウフフ…!アリガトー陽介。」


天浪は先程よりも数倍嬉しそうな表情で陽介を横から見ていた。







「ハハッ!ノロケてら。若いねぇ。で、わざわざ捜すってことはよォォ、なんか重大なことかよ?」


ドアの方で陽介たちを見ていた龍兵は繭の方を見ながら聞いた。


射撃場には発砲音が響き、会話をするには不適切な場所なのだが移動がめんどくさいのか、繭はそのまま語り出した。


「龍兵、これ見てみて。」


「……ッ?」


繭が取り出したのは三つのサイコロだった。

腕組みをしていた龍兵はそれを解いて、サイコロを受け取る。


「なんの…変哲もないな。ただのサイコロに見えるけど…コレがなんかあンのか?」


「いや、サイコロには別に何もない。ただの普通のサイコロだよ。」


繭は龍兵が差し出したサイコロを受け取りながら言った。


「でも、これ見てみ。」


繭は今度はプラスチック製のコップを取り出すと、サイコロをその中に入れた。

カラコロとプラスチック同士がぶつかる渇いた音がし、中でサイコロをシェイクするように回した後、逆さにして地面に叩きつけた。


中のサイコロは今なんの目か、確認する術はない。



「コップの中の目なんじゃろな〜?」


繭がコップに手をつきながら龍兵を見上げた。

龍兵は口をとがらせ、少し唸った後無言で首を振った。

分からない、というサインだろう。


「私はね、多分これが『ゾロ目』だと思う。ピンゾロか、オーメンかは分からないけど……。」


ゆっくりとコップをどかすとサイコロが『1』を上にして地面に転がっていた。


「繭…まさか……お前…。」


「…私もそうだと思うよ。まだ確信はないけど。でもそうだと思うよ。」


繭はサイコロを拾うと立ち上がりドアに手をかけた。


「あ、そーそー。今日夜ちゃんと私の部屋に来てよね。絶対だよ?」


「わぁってるって。……何日ぶりだったっけ?」


「さぁ?覚えてない。でも安全日だから大丈夫だよ。」


繭はそのままドアを開け部屋を出て行った。

龍兵は陽介と天浪を見て、ふぅっと軽く息を吐いた。


「しゃあねぇ…。どっかで暇潰すか。」


龍兵は発砲音が鳴り響く射撃訓練場を後にし、そのままあてもなく日輪から出て行った。








天浪を保護してから三週間ほど経ったある夜、事件は起こった。



その日はちょうど雨で、いつものように賭博場での『仕事』を終えた繭は、帰り支度をしていた。

龍兵も店内のバーでカクテルを飲みながら繭が出てくるのを待っていた。




ガチャッ…




ドアの開く音がした。だがそれは繭のいる店の奥からではなく、店の入り口からだった。


つまり誰か入ってきたのだ。

その人物は歩く度にピチャピチャと音を立て龍兵に近付いてきた。


「誰だ?もう店は終わったぜ。今日は帰った方がいい。」


相手の歩く音が消えた。

雨に打たれたのだろう、歩くと水気のある音がし、水が滴る音がした。


龍兵は振り返ることもせず、グラスに入った酒を飲み干した。


「じゃああんたはなんでまだ居るンだ?あの人を…呼んでくれ…。」


「ア゛ッ?誰だオメェ−?」


振り向くとそこには全身ずぶ濡れの男が立っていた。

髪は雨で前に垂れ下がり、暗い表情をしている。

少しやせ細ったように見える顔は目だけが異様に開かれ血走っているようにも見えた。

この男には見覚えがある…。


「グッチ…か…?」


「そうだ…。早く…あの女を出してくれ…!!頼む…!」


懐からリボルバーを取り出し、龍兵に向けた。

余程切羽詰まっているのだろうか、手はカタカタと震え、顔色も蒼白だった。


「OK、わかった。とりあえず落ち着け。ンで銃をしまえ。」


龍兵は両手を上げ、敵意のないことを示すと、グッチは腕の力を抜いて銃を下げた。


「……で、何しに来たんだ?」


「あの女に…会いたい…。会いに来たんだ…。」


「繭のことか?だがあいにく今日はもう店は終わった。また今度来いよ。」


「ダメ…なんだよ…今じゃないと…!」


ゆらりとした動きで歩み寄り、途中置いてあった椅子に腰掛けた。


「早く…俺は殺される…!早くしねぇとアンタを殺してでもあの女に会うぞ…!」


「やってみろ。早く帰らねぇーならよォォ、お前を殺してでも追い返すぞ?」


龍兵は立ち上がり袖の中に隠してあったナイフを取り出した。

だが、いざ殺そうという時に繭が店の奥から出てきた。

帰り支度を整えた繭の服は、黒い長袖とスカートというラフな格好であった。


「ストップ。龍兵ソレしまって。この賭博場、来るものは拒まないわ。」


「繭…。」


言われるがまま、龍兵は握っていたナイフをバーのテーブルに突き刺し、グッチの方を睨んだ。


繭はそのままグッチに歩み寄り、ポーカー用のテーブルに腰掛けた。


「久しぶりねグッチ。その後の調子はどうよ?順調?好調?」


片膝を抱え込み、繭はフフフッと含み笑いを浮かべた。


「あんたらのおかげで…勝ち組になれると思った…。」


「それはそれは結構なことですね。」


グッチは俯いたまま生気の感じられない声で静かに喋り出した。濡れた髪の毛は雨によって幾本にも束ねられ、その先から水滴が一定の感覚で落ちていた。


「だが!勝っても、勝てば勝つほど今度は命を狙われる!イカサマをしたとか言われてよォォ!!稼いでも金はあんたらに納めなきゃならねぇ…!ウンザリだ。」


グッチは喋るうちに段々と熱くなり、仕舞にはキレ出した。

そして握っていた先程の銃を構えると、その銃口を繭に向けた。


「テメェ!グッチ、やめろコラァ!」


「落ち着いて龍兵。」


繭は今まさに立ち上がろうとする龍兵を手をかざして静止させた。


「一流の賭け師はポーカーフェイスを崩さない。超一流の賭け師は決して焦らない。グッチ、あなたは一流ですらない。」


無表情で、むしろ余裕すら見て取れる繭の態度に、龍兵もグッチも固まったままだった。


「アンタはここに何しに来た?私の頭をぶっ放しにきたのか?違うね。アンタにそんな覚悟はない。なら勝負する覚悟は在るはずだ。ここは賭博場だからね。」


繭はテーブルから降りて椅子に座った。



龍兵は思った。

銃口を向けられいつ発砲するか分からない相手に臆せず、挑発までするその豪胆さ。

もし繭が撃たれていたなら龍兵が動くことは確実、それを見通しての繭の行動に龍兵は感服した。


そして、改めて認識した。



やはり繭は去蝶の妹だということを。




「で、何で勝負する?ポーカー?もし勝ったなら、あなたの『上納金』を破棄してあげる。」


繭はトランプを取り出すが、グッチは見向きもせず銃倉から弾丸を一発抜き取った。


「『コレ』で決める。」


「ロシアンルーレットか…。」


グッチは5発中6発入ったリボルバーを繭に手渡した。


「ふざけンなァッ!!テメェどんだけ有利に…!」


「慌てないで龍兵!私は超一流の賭け師よ?信じてなよ。……グッチ、ルールは?」


繭はリボルバーの銃倉を回転させながら質問した。


「ルールは簡単、『何が起ころうと引き金を引くこと』だ。つまりあんたが生き残ればあんたの勝ちだな。俺が勝ったら…上納金はなしにしてくれ。あんたが勝ったら…」




バシンッーー!




鉄をはじくような音がした。

繭は自分のこめかみに銃口を突きつけた状態で既に引き金を引いていたのだ。


グッチはもちろんのこと、龍兵すらも目を見開いたまま、固まっていた。


「あ、ああ危ねぇぇ!!いきなりやンのかよ繭!」


「だから信じろって言ったじゃん龍兵。生き残れる確率があるならば、私は生き残れるよ。」


ふぅっと静かに息を吐いて、銃をグッチに手渡した。

繭の額には汗が滲んでいた。


「ちなみに、ルーレットってのは哲学者パスカルが発明したんだけど、実際にギャンブルに応用したのはフランソワ・ブランらしいわ。牢獄の中で罪を悔いるよりも、ギャンブルゲームを考えていた彼のしたたかさ…グッチにもそれがあればここに来ることも無かったのだろうにね。」


「ルールは…『何があっても引き金を引くこと』…さぁグッチ、受け取れ。」


繭が手渡した銃を震える手で受け取るのを見ながら龍兵は言い放った。

グッチの顔からは脂汗が滲み出、浅く早く息をしている。


「早くしろグッチ。何があっても引き金を引くンだろーがァ!」


「ハァハァハァ…ッハァ……ハァ…!」


グッチはゆっくりとこめかみに銃を突きつけ、目をつむった。


「弾けやがれ、クソが。」


龍兵と繭が見守る中グッチは引き金を引いた。










バシンッーー!




火薬の爆ぜるような音ではなく繭の時と同じ、鉄を弾いたような音がした。

グッチはゆっくりと目を開き、口元を緩めて笑い出した。


「は…ははっ!生き残った!勝った!不発だ!俺の勝ちだ!ヒャハハハハィ−−!」


「な、…なんで……だ?あの野郎…!?」


龍兵は怒りやらなにやらの感情よりもまず分からないという思いが頭を駆け巡った。




――なぜ、グッチは生き残ることが出来たのか…?


その答えはグッチの用意した銃弾の数だった。

グッチの用意した弾丸は4発!

初めに抜き取った弾丸の右一つ隣の弾丸は作りものとして最初から入れておく。(この時グッチにしか分からない程度に細工をしておく。)


つまりこの時点で既に二発の余裕が在るのだ。


そして、最初から龍兵に銃を見せ付けるなど、あたかも脅しの為に用意したと思い込ませる。


更には店に入ったとき焦っている様子を見せ、切羽詰まったグッチがロシアンルーレットに行き着いたと思わせた。(ちなみにこの時グッチは何をしようと最終的にはロシアンルーレットに持ち込むようにしていた)



繭がイカサマ師だということを見抜いていたグッチは、必ず空の一発を引き当てると分かっていた為、繭に先攻させた。



そして自分の番であたかも不発が出たような素振りを見せた。


全てはグッチの迫真の演技のなせることだったのだ。グッチは繭以上にしたたかな男だったのだ!






「死刑執行において…絞首刑でだが…もしも死刑執行中にロープが切れた場合、刑は執行された扱いになるという。さぁ…俺の番は終わりだ。」


グッチはゴトリと拳銃をテーブルの上に置いた。

繭はその拳銃を見つめ沈黙がその場を支配していった。

聞こえる音は外の雨の音と、ときおり水溜りをはねる車の音だけ。

拳銃に込められたいるのはまごうことなき死の弾丸。


「どうした…?早くやれよ。言っとくが俺は引きたくない。人殺しは勘弁だからなァァァ。


「どの口がほざいてンだテメェェよォォォ!!イカサマしたンだろうがァァ!!」


龍兵がグッチの胸倉を掴み、壁に叩きつけた。

椅子は倒れ、激しく叩きつけられたグッチは不敵にも笑っている。


「俺がそんなことした素振りを見せたか!?あの女の目を盗んで仕掛ける暇があったのか!?否!!仮に俺がイカサマをしていたとしてもそれは分からなかったお前等が悪い!!」


「ッだとテメェ!!上等だ今すぐブッ殺…!!」



ガン―!!



「もう…いい…。龍兵…手を離しなよ。確かにイカサマをしたと思う。でも私はソレを見抜けなかったしグッチは引き金を引いた。これはゲームであり、戦いだ。私とグッチの…。終るまで…やり続ける…。」


繭は蹴り飛ばした椅子を見つめながら力なくうなだれた。


「は…?お前…なに…言って…?」


龍兵はグッチから手を離して繭のほうを見た。

グッチは胸元の乱れを直し、無言のまま繭を見続けていた。


「そう…ゲームはまだ続いている。」


「やめろ…!!お前の負けでいいじゃねぇか!!命張ってまでやることか!?」


繭はすっと拳銃に手を伸ばすと、それを掴み、こめかみに銃口を向けた。


「もし…私が死んでも龍兵…これは『私』と『グッチ』の勝負。グッチには手を出さないで。」


「ご立派だな。賭け師のプライドってヤツか…?」


「テメェは黙ってろォォォ!!!」


龍兵の怒号で、グッチの身体はビクンとはねた。

気圧されたグッチは相変わらず無表情で龍兵の焦り具合を傍観している。


「龍兵…さっきも言ったじゃん?『私を信じろ』って。だからさ、アンタは祈ってて。」


繭は目を閉じ、息を吐くと人差し指の先に徐々に力が込められていった。

それはゆっくりと、そして確実に死へと向かっていく。


「ほくそ笑んでンじゃねぇよグッチ。一つ言っておくけどさ、私の命あんたに並ぶほどそんな安かねぇぞ!?」


「やめてくれ繭……ヤメロォォォォォォォォォッ!!!」





















静寂が支配した。聞こえる音は外の雨の音だけだった。


「さて…終った…。『次は』アンタの番だよ『グッチ』?」


ゴトリと置かれた拳銃。

弾丸は放たれることなく、ゲームはまだ続いていた。


「ありえねぇ!!ありえねぇ!!なんでだ!?ありぇねぇだろ!?」


「ありえない?はたして本当にそうだと思う?アンタだってさ、弾丸が当たらんかった。アタシにしてみればそれもありえないってことになるじゃん。」


「クッ…!!」


グッチは青ざめた顔で拳銃を見下ろした。


「アンタに引き金を引く覚悟はある…?ないでしょ?アンタは『弾丸が当たる運命を回避』した。私は…『弾丸が当たる運命を乗り越えた。』もう分かっているはずだ。あんたがいくら強運でも、アンタじゃ運命を乗り越えることは出来ない。私に勝つことは出来ないと分かっているはずだ。」


先ほどまでは見ているだけだったグッチは今度は自分に迫り来る確実な死に恐怖していた。


「ウグッ!!」


グッチは拳銃を掴み、銃口を繭に向けた。

手は振るえ、息は荒く、今度こそこれは演技ではないということが分かる。


「…どんなことがあっても…引き金は引いてやる!!ただし女!!お前に…だァァァ!!」



ゴドッ―



「こっからは…ゲームじゃない。少なくともお前が弾くまでな。」


落ちたのは拳銃と、その拳銃を握っていたグッチの手首だった。

あまりの速さで切り下ろされたため、綺麗に手は落ち、拳銃を握った状態でビクビクと小さく動いていた。


「手…て…?手ェェェ…!?俺の…ッテェェエェ!?手がぁぁ!!」


手首からは噴水のように血が吹き出て、床を、テーブルを、そして繭を赤く染めた。

繭は無表情で落ちた腕を拾い上げ手をこじあけると、血でベットリとぬれた銃を握り締めた。


「今更よォォォ、腕の一本や二本でガタガタ騒ぐなや。どうせ死ぬンだからよォォ。なぁ?」


ダンッとナイフをテーブルに突き刺し、龍兵はグッチの足を払った。

既に痛みのほうに意識を持っていかれていたグッチは受身も取れずにそのまま無様にコケ、出血する手首を押さえていた。


「気分はどーよ?最悪?不調?その手じゃ…引き金引けないかな?最後に教えてあげようか?何故私が不発だったか?私にはね、不思議な”力”があるの。『確率が少ないほど、ソレを引き当てることが出来、確率を操作できる』。ロイヤルストレートフラッシュでもオーメンでも、なんでも出せるわよ?ちなみにね、不発の確率ってのは何億分の一らしいわ。」


「う…く…ハッハァ……」


グッチは出血で薄れゆく意識の、自分を見下ろす繭を眺めていた。

その顔は自分の血で赤く、だが目だけは青さすら感じられるように冷たかった。


「限界ね。口をあけてグッチ。なるべく大きくね。ゲームオーバーのときだよ。夢から覚めるときだよグッチ。大丈夫、私は人殺しになってもいいから。安心して…死んで…。」


「や…やめ……あぐ…。」


グッチの半開きの口に銃身がねじ込まれた。

繭は半開きの眼でグッチを見下ろし、片足でグッチの身体を押さえつけた。


「お眠りあそばせ。」







ダン―ダン―ダン―





バシン―バシン―バシン―バシン―バシン―…



空になっても繭は撃ち続けた。

グッチの口からは赤い血があふれ出し、口の中では池のように血が溜まっている。

龍兵も、繭も、その死体を見つめているだけだった。


「人…殺したンは初めてか?」


「そうね…初めてかな。多分っつーか今日は寝れない。」


繭は銃身をグッチの口から引き抜くと、ソレをゴミ箱へと放り投げた。

拳銃はガゴンと鈍い音を立て、ゴミ箱の中へと吸い込まれるように収まった。


「面倒な後片付けだな。つぅか繭、どうしてお前グッチを殺そうと思ったんだ?わざわざ自分の手まで汚してよォォ?」


「あぁソレ?…言ったとおり、これは私とグッチの勝負だった。だから終らせるには私かグッチか、どちらかが終らせなければならなかった。つまり、私しか決めれないから、私がグッチを殺したってワケよ。罪悪感はない。たかがゲームだしね。あ〜あ、血で汚れちゃったよ。ゴメン、も一回着替えてくンね!待ってて。」


繭はそういってすぐに店の奥に引っ込んで言った。


繭が奥に消えた後、龍兵は血を吐いたグッチの死体を見ていた。


「……『超一流の賭け師は決して焦らない』…去蝶さんよ、あんたの妹にはしっかりとあんたの血が流れてンぜ。」


龍兵はそう呟いて刺さったナイフを引き抜いた。

ナプキンで濡れた血を拭き取り、汚れがないことを確認する。


極限まで研ぎ澄まされたナイフは鋭い切れ味とは裏腹に薄暗い賭博場の中でも鈍い光を放っていた。



「全く以て可愛くねぇ。だが…あんたに似てメチャクチャいい女だ。」



龍兵は繭の中にある去蝶に似た魅力に戸惑いながらも更に好きになった自分の感情に、複雑に思いながら苦笑した。




多分一番長い話だと思います。

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