表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/39

第24節:未来を観る眼・過去を掴む手

やっとカーチェイス編が終わりますね。

パンッ――……



誠也に向けて俺が撃った『サイレントマジョリティ』が今度は俺めがけて銃弾を放った。

もちろん撃ったのは俺だ。紛れもなく『俺』だった。

過去の俺が…今の俺に向けて手にした銃で俺を撃ったのだ。


「ぐ…!!」


銃で撃たれるのはこれで何度目だ?

恩羅に傷は治してもらえるが完全に傷跡は消えるわけではないので俺の体はまるでヤクザの組長のように弾痕が増えていく。


「外したか…。やはり…。『過去のお前』がただ撃つだけではどうにもズレが生じてしまうな…。致し方の無いことだが…。」


誠也は無表情な顔に合う凍りつくような眼で俺を一瞥した。


「これで十分。」


「ガキがぁぁぁぁ〜!!」


今の銃弾は俺の右肩に着弾した。

上がらない…。どうやら最悪なことに上手い具合に肩の間接部分に弾丸が食い込んだようだ。

しかも最悪なことにこちらは利き手だ。


「『過去の再生』…人は誰しも必ず過去がある。何をしたのか?誰といたのか?いつドコで何を…俺はそのすべてを再生できるようになった。今のようにね…。」


誠也は肩を抑えている俺の満身創痍の姿を見てフフフッとイヤに微笑んだ。


「俺がお前の車を破壊したとき…運転していたのは過去のお前か…だから…俺らのことを追跡できたのか…。その過去を…俺がお前から逃げた過去を再生してソレを追跡してきた…。ンで、俺の銃弾を防いだのは…。」


「そう…。ほんのコンマ1秒くらい前の自分自身がそれを防いだって訳。なんだ…バカに産まれたからって脳みそが無いわけじゃあないんだな…。」


俺の後の言葉を誠也が拾い続きを話した。

ここまで話を聞いて俺はいくつか頭の中で考えた。



こいつを、誠也を今倒すのはそう難しいことではない。なぜならば満身創痍の俺でも銃と刀では勝負は火を見るよりも明らか。

誠也は『この世界』に関わってからまだ2ヶ月ほどしか経っていないはずだ。

ウァラウァラや牛頭に比べれば戦闘経験ははるかに少ない。

そして、今倒さなければこいつはドコまでも追跡してくるだろう。追跡されながら逃げるのはかなりしんどいし、警察の眼もある。

それに天浪琴那もこの緊張状態ではいつまで持つかわからない。




ここまで考えて俺の頭の中で答えはまとまっていた。



今ここでこいつを殺すしかない。

完全に、抹殺するしかない。



俺はすぐさまサイレントマジョリティを構え誠也に向けて発砲した。

長期戦になれば俺の方が不利だ。

弾薬がなくなれば誠也に決定打を与えることが出来なくなる。


「おいおいおい…ヤル気かよォォ…?エ?お前はこう考えているはずだ…。『こいつはまだ戦闘経験が浅い。今のこいつなら十分殺せる』ってなァァァ…?」


誠也は喋りながら銃弾を避け、刀を抜いた。

地面は雨のせいか、それとも工場からの排水のせいか少し濡れている。


「でもよ、お前甘いぜ。確かに俺は戦闘経験が浅いが……獲物の違いだろ?最後に結果を言うのはさぁ?長期戦なら俺の勝ちだなんぜぇぇぇー!?」


互いに距離をとり、けん制しあいながら相手の出方を伺っていた。

俺は決して天浪から遠くに離れないようにし、かといって天浪に攻撃の被害が及ばない場所にいた。


「天浪…ちょーっと待ってろよ?あいつの頭と心臓ふっ飛ばすからよォォッ!!」


「ふざけろ…。テメェこそ、胴体と最後のお別れでもしてろ。もうすぐ飛ぶんだからよ…!!」


俺はフールとサイレントマジョリティを構え、サイレントマジョリティだけ連射した。

右肩を撃たれ、今使えるのは左手だけなので利き手ではない左手では狙いを合わせにくい。


誠也もソレを周知しているのか、弾丸を恐れずに俺に突っ込んできた。

その度胸だけには感服だが度胸だけではどうにもならない。


誠也はバシャッと足元の泥の混じった水溜りをはじき、一刀の間合いに入ったと同時に刀を振るった。

だが所詮2ヶ月余りの浅い経験。付け焼刃の剣術は牛頭や馬頭には程遠い。

俺はノックバックし、誠也の間合いから出て一番いいタイミング、即ち誠也が攻撃した直後を見計らってサイレントマジョリティを撃った。流石にこの距離ならば当てられる。


「どこに当たろうと、クソいってぇぞ?もがいて、べそかいて、苦痛に顔を歪めて死んでいけ!!」


「チィッ!!」


誠也はすぐに自分の”力”を発現させ俺の攻撃を防いだ。

やはりというべきか。

俺は撃ったと同時に誠也との間を空け、未来を予知し誠也の移動する軌跡を読んでサイレントマジョリティを撃った。


だが攻撃はすべて『誠也の過去』によって防がれてしまう。

さらに驚くべき事実は、誠也が俺の過去を『的確に再生させている。』ということだ。

俺に向けて『過去の俺』が発砲してくる。


この戦闘中、的確にピンポイントにそのときの俺を再生させている誠也。

一ついえることはあいつは戦闘の天才だと言うことだ。

そして、あいつは過去の再生を自由に操作できるということもわかった。


「な…!!」


俺の目の前に今まさに刀を振るう誠也が現れたのだ。

俺はすぐにソレを避けた。


「ちぃっ…上手く避けたか。しつっけぇなぁオメェ…。早く殺されてくんね…?」


「タコが…!!俺がテメェに殺られてたまっか。つーか…なんで加奈が死んでテメェが生きてンだよ。クソッタレが。」


俺は悪態をつきながら誠也に銃口を向け、照準を合わせた。

妙な動きをすれば弾く。

指先には力が入り、あと数百gでも力を入れれば銃弾が跳ぶだろう。


「なんで姉ちゃんが死んだか…?教えてやンよ。俺が殺した。」



ダンッッ――…


誠也が言葉を放った瞬間、俺はサイレントマジョリティを発砲していた。

弾は誠也の右上腕に着弾し、誠也は相変わらず無表情だったが腕はダランと下げていた。


今の俺は気持ちが落ち着いている。いや、落ち着かせている、と言ったほうがいい。


「そーかよそりゃ好都合だ。目の前に加奈の仇がいンだからよォォォ!!楽には殺さんぜ?まぁ色々と質問すっからよぉ。フザケタこと言うんじゃねぇぜ?」


「カカカッ…!!シスコンが。ンなに会いてぇなら死んでこいや。」



ダンッッ――…


「誰が余計な口きいていいっつった?俺が質問する時以外喋んなチンカス野郎がッ!俺は潔癖症だからな、あんまお前と喋りたくねぇンだ。じゃ聞く。ウァラウァラは加奈を犯したか?」


今度は誠也の右肩を撃ち抜き、質問をした。

だが誠也は痛みで顔をゆがめるどころか、笑いながら挑発気味に俺の質問に答えた。

昔からこいつといるがこいつが笑うのは珍しい。よほど面白いことを見つけたときくらいにしか笑わないのだ。


「ウクックックックッ…!!イッテェ…。なんだ…やっぱ加奈のことかよ…。あぁ…犯してた。処女奪われて…押し黙って泣いてたよ。」


「なんで…助けなかった?いや…なんで見ていた?」


「助ける必要が無かった。」


「……お前が加奈を殺したのか?」


「殺した。」


淡々とした態度を取っている誠也に段々と俺は腹がたってきていた。

声が荒々しくなり冷静さを欠いているのが自分でも分かる。


落ち着かなければならない。冷静さを欠くな。


自分にそう言い聞かせ質問を続けるが俺の自制心はすでに限界に近づいていた。


「どうして殺した!?」


「どうして言わなきゃイカン?」


「…OK。もういい。もうしゃべらなくていい。クソウジが、死ね!!」


「質問しといてキレンのかよ…?ククッ!だが、こっちももう『出来上がっている』」


誠也の一言で冷静になり周りを見渡したがもう間に合わない。

そこら中に『誠也の過去』が俺を囲んで刀を抜いていたのだ。

抜け出すことは無理だろう。


「便利だろう…?つーか…変な気分だろ?周りがよォォォ、みぃ〜〜んな同じ姿の同じヤツ、なんてなぁ。」


「ククク…お前さ、バカ?みぃんな同じ動きなら…避けるのなんて簡単だろォォがよォ〜〜!!」


未来を予知するまでも無い。

すべて同じ攻撃ならば、気をつけていれば何も恐れるものは無い。


「簡単だよ?お前が避けるのはな…?じゃあ、あの女は?」






今この瞬間、誠也の言葉が悪魔の囁きに聞こえた。

周囲の音が全く聞こえない。森羅万象全ての動きがゆっくりに感じる。


「ヤメロ…。」


情けないが声が出ない。

天浪のすぐ目の前に誠也が現れ刀を抜いていた。


「テメェェッ!!ヤメロォォォッ!!」


「クカカハハハハッ!!悲しいかよぉ…?悔しいかよぉ…?いいぜ、存分に泣け。

あの女を見看ってやれ。」



ズグッ。



「ただし。お前も苦しみながらだ。」


「ゴボッ!ウグゥッ…。」



俺の横腹辺りに耐えがたい激痛が走った。

誠也の刀が後ろから刺さったのだ。

見下ろすと切っ先が俺の横腹から飛び出ていた。


「ブフッ…!!」


ズリュッという音と共に刀が抜かれ、俺は同時に膝を着いた。


また……守れないのか…?


加那を守れなかった時のように、また護ることができないのか?


傷口からはまるで熱湯のように熱い血が流れ出てくる。

口からは今までになく紅く、そしてとめどなく血が流れ出てきて呼吸をするのを妨げる。

眼からは涙を流し、激痛からではなく悔しさと歯がゆさから頬を濡らしていた。


「ちくしょう…畜生……チクショウッ…!!」


「人体の重量の13分の1は血液だ。その内の3分の1が失われると人は血圧降下のために生命維持機能が不調になり、2分の1が失われると心臓は停止する。苦しいだろ…?見ろ。もうすぐあの女はあの白い髪を自分の血で真っ赤に染めながら死んでいくんだ。お前も…なぁ陽介?苦しみながらあの女が死んでいくのを見るんだ。」


誠也が俺の耳元で囁くように喋り、天浪を指差していた。


あぁ…クソ!やめろ!!殺すな…。頼む…。


「ヤ…ダ…!!助けて…ッ!」


今まさに『誠也の過去』が刀で震える天浪に切りつけようとしている。


「ガバッ…!!ごふっ!天浪ィィッ!!」


「助けて…!!陽介ェェェッ!!」



ザンッ!!



俺は目をつむっていた。

見たくなかった。怖かった。


自分の力のなさを悔やんだ。

また……守れずに…殺してしまった。


ドッという肉の塊が地面に落ちる鈍い音がした。


「なぁ…間一髪って言葉よォォォ、こーいう時に使えばいいンだよな?」


「そうだよ。良くできました。」


いきなり誠也ではない声が聞こえた俺は驚いて目を開けた。

そこにはのと、恩羅、そして去蝶がいた。


ゆっくりと、天浪の方を見ると天浪は無事で天浪を斬ろうとしていた『誠也の過去』の片腕は刀を握ったまま地面に転がっていた。


「去蝶…さん…?」


「ハァイハイハイッ。間に合ったわね陽介ェェ。言いたいことは沢山あるけど取り合えず今は自分の傷の心配してなさい。恩羅ッ!!のとッ!!」


「任されました。」


「ッシャ!!わかった!」


恩羅は鞄の中から包帯とあの赤黒い粘土のようなものを取り出した。


のとはというとバカでかい刀を肩に乗せて俺を救出するため誠也へと疾走した。


「ちぃっ…。こんな時に助っ人かい…。」


誠也は今右腕が使えない状態だ。まともにのとと殺り合えばまず勝てないだろう。

加えて去蝶もいる。


「へっ…諦めろ…!お前はここで死ぬんだよ…。」


「テメぇもなッ!!」


誠也は左腕で刀を持ち、先程のように過去の自分を、先程よりも沢山再生させた。

色々な動きをする過去の誠也がのとの行く手を阻み、のとは足を止めた。


「ンだぁっ!?コリャアッ!!」




「カカッ!!さよならだ陽介!!生きていればまた会うかもなぁ!?そして次会うときはぶっ殺す!!」


笑いながら逃げる誠也を俺は追うことが出来なかった。

体に力が入らず、もはや喋ることもままならない。目がかすみ体の力が抜けていき寒気まで感じる。


「チィッ!!逃がしたか…。追いますか去蝶!?」


「いえ。いいわ。まずは陽介の処置が先。恩羅!!準備を!!」


恩羅が急いで俺に駆け寄り、メスで俺の服を切り裂いた。


「左内側広筋を除く左大腿四頭筋の切断。坐骨神経も傷付いているわね。そして中は…右腎臓および小腸の貫通。外腹斜筋の裂傷か。重傷ね。」


恩羅は俺の傷の状態をすぐさま読み取り口からあの赤黒い粘土のようなものを取り出し、俺の傷口に当てた。

これは恩羅曰く、治療が早くなる方法で恩羅の唾液の成分が傷口を塞ぐ作用の助けるらしいのだ。




ただし、自身の細胞の活動が活発になりすぎるため急激な体力の低下を伴うらしい。


「ゴフッ…ハァ…エフッ!なぁ…恩羅さん、俺ァ死ぬかな…?」


「ヤバイかな…。いや、ウソウソウソウソ。ンなわけないでしょう!!」


恩羅は笑いながら俺の傷口に粘土を塗り込み、包帯を巻いた。


「なぁ…天浪は無事か…。」


「大丈夫よ陽介。ちゃんと生きてる。天浪さん。こっちに来てくれる?」


去蝶が天浪の名を呼び、俺に恐る恐る天浪が近付いてきた。


「陽介ッ!陽介ッッ!!大丈夫ッ!?生きてるよね!!?」


天浪は泣きそうな声で俺の顔をのぞきこんでいた。

だが俺は今まぶたが重く、目を半開きにすることが精一杯だった。


「ゲホッ…ンな簡単に死ぬかよ…。つーか死んでたまるか。」


「よかった…。ホントに…!!」


あぁ…泣いてるな天浪のやつ。

涙が天浪の頬を伝い、滴となって落ちて俺の頬を伝う。


俺は静かに目を閉じ、疲労と痛みと安堵感から深い眠りに着いた。








あぁ…またあの夢だ…。


暗闇の中で泣く一人の少女。

昔から知っているようなこの不思議な感覚。


俺はあの少女に微笑みをあげることは出来るだろうか。


なぁ…天浪。


これからは一人にしない。

お前を一人にしない。


絶対にお前を孤独と付き合わせはしない。


どこか懐かしい感じがする。

やっとわかった。


夢の中でしか会えない少女。

俺の中の遥か昔の埋もれた記憶。


だけども今でも忘れ去られてはいない錆びれぬ記憶。



泣いてたのは…お前だったんだな…天浪…。




ごめんな。







「あ…。泣いて…る…?」





陽介が眠りに落ちたあと、ずっと顔を覗いていた天浪は陽介が涙を流したのに気付いた。

まるでコップから水が静かに溢れるように、陽介の目からも涙が一筋、頬を伝い、天浪の涙と合わさって滴となって落ちる。


「ありがとう…陽介…。」


今は届くことない天浪の囁き声。

今はまだ先のことを考えている余裕はない。

天浪はただただ陽介の寝顔を見ていた。







―紙の花の野原で、飴玉の雲が流れ、私はそこで横たわっていた。

広がる紫の空を、ずっと眺め、私は待っていたのだ。あなたを…陽介を―






「壊れやすいこの世界…人が生きている限り必ず軋む。その中であの紅と白は交わった。歯車は噛み合い、世界は動き出す。」



去蝶は陽介と天浪を見つめながら、意味深に呟いた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ