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第21節:WHAT I WANT YOU TO WANT

はい。もういうまでもなく遅れました。一ヶ月近い更新です。こんなやつですが応援お願い致します。

季節はジメジメとした夏。7月に入った日本は外に出るだけでなく、じっとしているだけでも汗が出てくる。


そして工場地帯の道路。


あるところは一人の女性の蹴りで、荒れたコンクリートの路面は粉ごなに割られていた。

あるところは一人の女の斬撃で、至るところがえぐれていた。


真夏の暑さで熱せられたコンクリートは無惨にも破壊されつつあった。


「りゃあぁぁああっ!」


ガゴンという音と共にシャキーラのブーツが荒れたコンクリートにめり込み、破壊された路面が蹴りの重さと勢いを如実に物語っていた。

だが馬頭はそれを横にとんで避けていて、デリンジャーを構え、反撃の形を取っていた。


だがシャキーラは半分めりこんだ状態の足をそのまま蹴りあげ、割れたコンクリートの破片を馬頭に放った。


「う…あ…!」


一瞬。刹那の時間の隙が出来た。

だがそれで十分すぎる。馬頭の横腹にシャキーラの全体重をかけた重い蹴りが入った。


「入ったぁぁぁーー!!内臓破裂してぇぇ、血反吐はいてのたうちまわれぇぇ!!」


シャキーラの蹴りの方向に吹き飛ばされそうになったが、なんとか馬頭は自分の横腹に放たれた足首を掴みなんとか体勢をもたせた。


「シャリャァァッ!!」


馬頭は足を捕まれバランスを崩したシャキーラの頭に手を回しそのまま顔面から地面に叩き付けた。

今度は自分の全体重を掌に乗せ、シャキーラの顔を潰しにかかった。


「うぶッ!!」


「っはぁぁぁ〜…!!えふっ!!げほっがっ!!はぁはぁ…。血…。」


シャキーラを叩き付けた馬頭は激しく咳き込み、口に手を当てた。口の中いっぱいに鉄の味が広がり、口に当てた手からは血が滴っている。


(なんつー…蹴りなのよ。一発喰らっただけでもう内臓(なか)がイカれた…)


「モロに入ったんだ…どこかイカれてもおかしかないよ。」


おびただしい鼻血を垂らし、シャキーラは涙目で立ち上がった。

タフだな…。と馬頭は心の中で呟き、睨みつけ刀を握り締めた。


「テ…メェ…!ゴフッ!ウァ…アァ……。」


「無理しないほうがいい。私の蹴りを喰らったんだ。痛いっしょ?逃げてもいいよ。尻尾巻いて背中見せなよ。芋虫のように這いつくばって、のた打ち回って逃げてもいい。私はそれを見逃してあげる。」


「ずいぶんと……優しいじゃん。」


「まぁね。元々アンタたちを『殺す』のは仕事にはいってないんだ。」


シャキーラは鼻血を拭い、嘲るように馬頭を見下ろした。

馬頭は震えながら立ち上がろうとするが足に力が入らず、腹の底からこみ上げる血を飲み込んだ。

脂汗が額を伝い、鼻頭の先から滴として落ちる。


その姿を見ているシャキーラは眉根をひそめ無言で蹴りを繰り出した。


「ウゥ……!」


バシッという肌を叩き付けたような音と共にビリビリとした衝撃が馬頭のももに走り、またも膝をつく形となった。


「何故……何故立ち上がるの?私は今あんたに逃げてもいいと言ったんだ。はいつくばって無様に逃げるンだよ!!立ち上がれとは……言ってない!!」


「逃げる?ふふ……あははははっ!!何?何怒ってンの?私が逃げる逃げないは私の勝手。そうかぁ…あんたにとって私が怖いか?前に私にボロクソにやられてるくせに、私に逃げてもいいだぁ?またやられるのが嫌だから今度は私に『逃げてください』か…?チキンが。」


馬頭は口から流れ出る血をぬぐい、不適に笑いシャキーラを見上げた。

シャキーラは見下ろしている形なのだが、シャキーラにとって今、見下ろしている感覚はなかった。確かに自分で馬頭を膝まつかせた。だがこの女はその立場をなんとも思っていない。それが癪にさわった。


「なんで逃げない!?なんでそんな態度がとれる!!なんであんたは強がるんだ!!あんたなんかホントは弱いくせにさぁぁぁ!!」


シャキーラは渾身の力を込め、馬頭の顔面に蹴りを叩き込んだ。

だが刀でそれをなんなく受け止めた馬頭は足払いをし、シャキーラに馬乗りをして形勢が逆転した状態で見下ろした。

と、同時に刀を抜いてシャキーラの顔の横に刀を突き刺し、動きを封じた

シャキーラの髪が数本、パラパラと切られて力なく地面に落ちる。


「……確かにあたしは弱いよ。弱いくせに戦って、弱いからこそ強く振る舞って強くなろうとした。だけどさ、あんたは一体何だ?」


馬頭がさらに顔を傾け、シャキーラの目の前に近付け唇が触れ合いそうな、互いの鼻頭が付きそうなくらいに近づき質問をした。

馬頭の淡いグリーンの髪がシャキーラの頬をくすぐる。


「あんたは私に何を求める?何をさせたがってる?あんたは私に何をして欲しいんだ?」


真剣な眼差しでどこか不安を抱えた瞳で馬頭は尋ねた。

シャキーラは不愉快極まりない表情で馬頭を睨みつけ吐き捨てるように馬頭の質問に答えた。


「生死を握られた人間が……服従して生きるか抗って死ぬか…その選択が与えたられたら間違いなく生を選ぶ…。誰だってそう。なのにあんたは!!なんであんたはそうやって強がるんだ!!あんたも人間でしょ!?」


「残念。可哀想だけど違う。私は人である前に『暴力』よ。日輪がもつ暴力。だから私は恐れない。だから私は屈しない。だから私は負けるわけにはいかない。暴力が暴力に敗けるとは真の敗北だから。」


あぁそうか、とシャキーラは気付いた。

なぜ自分が馬頭を目の敵にするのか。

それは至極単純かつ明確なもので、シャキーラの人生を否定するような信念を持った馬頭が眩しかったのだ。

だから強いのだ。服従して逃げ回って嘘をついてきた自分の人生。

生き残る為に強くなった。

だが馬頭は強くなるために生きてきた。己が信念の為に強くなった。


「そうか……やっと分かった気がする。」


シャキーラは覚悟を決めた表情(かお)で、決意を秘めた瞳で馬頭を見据えて呟いた。


馬頭を越えるため。自分を淘汰するため。


「やっと…わかった。私はあんたがすっごく嫌いだ。綺麗で、そしてあんたは強くて。でも私はあんたのその生き方を否定しない。私はあんたを倒す。私怨、嫉妬、羨望、諸々含めて私があんたに対するこの感情を清算して私はあんたを淘汰して、自分の生き方を否定する。自分を越えるために…!!」


「うん。いい表情だ。断然いい表情ね…。綺麗…。シャキーラ…あんたメチャクチャ綺麗よ。」


馬頭は愛しいものを見るようにシャキーラを見つめた。

そして地面に刺さった刀を抜いてシャキーラの上からどいた。


「やろう。今ここで決着をつけるのも悪くない。あんたが私を淘汰するように、シャキーラ…私はあんたを凌駕する!!」


カチャリと音を立て、切っ先をシャキーラに向けた形で構えをとった。

後ろ足に体重をのせ、上半身は限りなく脱力する馬頭独特の構えであった。


「母が我が子の額にキスをして我が子の重い荷を下ろしてあげるように、この戦いは私を越えさせてくれる。私の中で何かが燃え上がってる、もう持たないかもしれないけど終わるまで楽しもう。」


シャキーラは紅い半液体状の物体入った小ビンを取りだし中身をのみこんだ。


「……さて、…ここからは私は容赦しない。私は”力”を使ってあんたを粉々にぶっ飛ばす。最後だ。逃げるなら今のうちだよ。」


半脱力状態で右腕をあげた。

おそらくこれがシャキーラのスタイルなのだろう。


「はっ!!逃げる?逃げれば私は私を否定しなきゃならない。敗れたら自分の信念と存在意義を踏みにじられる。勝たねばならない。これはもうただの戦いじゃないンだ。アンタと私、お互いの存亡を賭けた闘争だ。全力で潰してあげる。あんたは私にとって強くなるための障害でしかない。」


互いが相手を認めた闘争は、互いがほぼ同時に地面を蹴り始まった。








馬頭とシャキーラが戦っている工場地帯の道路からかなり離れた工場地帯の一角で牛頭とウァラウァラが交戦していた。


「なんで……俺がお前と戦っているか…わかるか?」


ウァラウァラは不意に口を開いた。

ウァラウァラと戦っていた牛頭は鼻血を拭い、大きくすすると口から血の塊をはきだして呼吸を整えた。


「……それがこの今現在の戦いに関係があるンか?」


「大いにある。俺はお前を殺すなんて仕事は受けてねぇぇ。これはどっちかっつーとな、『私事』だ。シャキーラもな、馬頭を殺すなんて仕事は受けてない。だが個人的な私事を晴らすために今馬頭と戦ってる。つまりはホントは俺もシャキーラもあの天浪琴那を追わなきゃなんねぇのにテメェらとこうやってケンカしてる。」


ウァラウァラは心底楽しそうに笑いながら言い出した。

まるで反抗的なガキが自分でも悪いことをしていると自覚しているにも関わらずそれに満足しているようだった。


「何がいいてぇンだ?テメェはよぉぉぉ?」


牛頭は構えを解き、刀の切っ先を地面に置いた。


「つまり俺はタイラントにそんなに忠実な下僕じゃあねぇってことだよ。もっと言えばだな、俺はハルフォード・エヴァネッセンスをブッ殺そうかなと思ってンだ。」


ウァラウァラのいきなりの告発に牛頭はクスッと笑った。


「くっ…!!それで?殺りゃいいじゃねぇか?歓迎だよ。応援するよ。俺らにとってもハルフォードは邪魔だ。」


「なぁ…牛頭よ……。俺とお前、手を組まねぇか?俺一人でやるよりお前ほどのやつがいてくれりゃあきっと奴の首を取れるンだよ。どうだ?」


ウァラウァラは真剣な眼差しで牛頭を見据える。

本気だった。ウァラウァラは一片の偽りもなく牛頭に話を持ちかけてきたのだ。牛頭自身、それはよく分かった。


「……陽介がな」


牛頭はしばらく考えて口を開いた。


「陽介がよ、お前を殺したがってンだわ。敵討ちっつーふざけた目的でなぁ。あいつはよ、カワイソーなやつなんだよ。俺はあいつの力になってやりたいしあいつに教えなきゃならねぇこともある。お前の誘いもそーとー魅力だったけどよぉぉ、お断りだ。自分でやれ。」


牛頭は冷たく言い放った。牛頭にとってこの相談は組織に対する裏切りではない。だがこれを承諾してしまえば自分の『誇り』への侮辱に等しかった。

ウァラウァラは落胆する様子もなく、かといって憤怒するわけでもなく牛頭の答えに苦笑した。


「クックク…ギャッハッハッハッ!!やっぱりなぁ!!やっぱそうだと思った!まぁ組みたくねぇっつーならよぉぉー、残念だ。やっぱてめぇとマジでやりあうしかねぇなぁぁぁぁ。」


ウァラウァラは鎖を取り出し、本気で牛頭をつぶしにかかる。

牛頭はこれ以上の話し合いは無いと思い、最後に疑問に思ったことをウァラウァラに聞いてみた。それはウァラウァラが敵にとっては信用ならないからこそ、聞き得れるかもしれないものだった。



「『二つ』質問に答えろウァラウァラ。貴様のボス、『ハルフォード・エヴァネッセンス』はなんで天浪琴那を欲しがる?」


「教える訳にはいかんわなぁぁ。でも、ま、正確には天浪の”力”を欲しがっているのは確かだ。」


「答えになってねぇぜウァラウァラ。次の質問に答えなきゃマジで殺るぜ?いいか、なぜ今になって天浪をさらった?時期ならいくらでもあったはずだ。なぜ陽介たちがいるときにさらおうとした…?」


「ふぅ〜…わがままなヤツだなおめぇはよぉぉ〜。ま、お前に免じて一つ教えてやんぜ、天浪と御守地陽介は危険な”力”の持ち主だってことだ。じゃあな。」


ウァラウァラはそれを言うや否や、牛頭の頭に今までにない衝撃が走った。

目の前がチカチカシし、頭が割れるくらいの激痛が牛頭の意識を鈍らせる。

そして視界を遮らんばかりの夥しい、生温かい血が出てきた。


「……ぐ…あ…テメェ…」


牛頭は片膝をついて、意識を失いそうな状態でなんとか力を振り絞って自分を殴り倒した相手を見るべく振り向いた。

だが相手の顔は逆光でよく見えないが、相手が勝ち誇った表情で自分を見下ろしているのは確かだ。


「ち……クソ…」


牛頭の意識は深い闇へと落ちていった。



「いつからいた…?『ダイアナ・ロス』。」


ウァラウァラは特別感情を込めず、淡々とした態度でダイアナ・ロスに質問をした。

牛頭を殴打した相手、ダイアナ・ロスは肩を軽くすくめ、軽い調子で言った。


「ついさっき。あんたと牛頭が話してた最中。」


ダイアナ・ロスは気を失った牛頭を見下ろし、牛頭の頭を軽く蹴った。

完全に意識がないのを確認すると今度はウァラウァラのほうに向き直った。


「ところでウァラウァラ……こいつと何話してた?」


「別になんも。お前には関係ねぇだろ?」


ウァラウァラはそういうと牛頭の体を持ち上げ肩に担いで運びだした。

だがダイアナ・ロスはそれを黙って見送ることはせず、ウァラウァラを呼び止めた。


「関係あるね。私はボスに言われてここに来たんだ。随分あんたを探してさ。それにそいつをどうするつもりさ?ここで殺したほうがいい。そっちのほうがいいだろ?なんでわざわざ連れて行くんだ?」


「だからテメェにゃ関係ねぇっつってんだろぉがよぉぉぉ!!いい加減にしねぇとテメェブチ殺すゾ!?ブチ殺して吊るしてやンぞ!?牛頭をどうしようと関係ねぇンだよ!!こいつは俺のモンだ!!手ぇ出すな。」



一喝、それだけでダイアナ・ロスは気圧されるような感覚に襲われた。

正直に言えば体が動かなかったのだ。


「チッ……。調子に乗ンなよ!?なんなら今ここであんたとやりあってもいいんだ。あたしに命令すンじゃねぇぇぇ!!そいつはここで殺す!!」


「お〜お〜キレろキレろ、勝手にキレてろ。それに俺に命令した上に俺とやり合うだぁ?テメェ付け上がるのも大概にしとけよ。勝てると思ってンのかよ!?なぁ『売られ物』?」


その一言が、ウァラウァラが自分を『売られ物』と蔑んだ呼称で呼んだことにダイアナ・ロスはブチギレた。

誰にでも自分の最も触れられたくない過去は存在する。ウァラウァラが放った言葉はまさにソレであった。


「テメェコラいい加減にしとけよ!!」


ダイアナ・ロスがキレてウァラウァラに襲い掛かろうと身体を、足を動かそうとした瞬間、地面スレスレを鎖が回転しながら飛んできた。

鎖はダイアナ・ロスの両足を絡めとり、鎖はそのまま地面に引っ付いた。これでダイアナ・ロスは動けない。鎖を破壊するか、自分がウァラウァラの”力”の射程距離外に出るしかない。

そしてダイアナ・ロスがこの『束縛』から逃れられるには後者しかなかった。


「ひゃっひゃっひゃ!!ぎゃっはっははっはぁ!!だ、ダッセェェェ〜!!お前、ブチギレといて逆にやられるなんてザコと一緒だなぁオイ!!無様よのぉ〜!!ぎゃははははっ!!腹イッテェ!!」


「く…!!テメェこんなことしてタダで済むと思うなよ!!ハルフォードさんが黙ってると思うのか!?さっさとこの鎖外しやがれ!!」


「いいぜぇぇ〜、解除してやる。ただし俺がお前から逃げた後だ。」


ウァラウァラはそういって手を挙げ適当なタクシーを拾うと、それに牛頭を乗せ、次にウァラウァラが乗って運転手に行き先を告げた。

ダイアナ・ロスは動けないまま、ただただそれを見送ることしか出来なかった。


「お前何しに来たかわかンねぇけどよぉぉ、役には立ったよお前。こいつは俺が貰ってく。お前はさっさと自分の『仕事』でもやってろや。じゃあな。」


ウァラウァラを乗せたタクシーはダイアナ・ロスを意に介さず、ウァラウァラの告げた目的地まで車を走らせた。


一人残されたダイアナ・ロスは力なく地面に崩れ落ちている鎖を掴みあげるとそれを引き千切った。

「……戻ったら絶対潰してやる。潰して殺して……あぁ駄目だ……やっぱくびり殺してやる…!!クソ野郎…!!」


行き場のない憤りを、何かにぶつけることもできず、ダイアナ・ロスは悪態をついてその場から姿を消した。

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