白い華
だいぶ間が空いてしまいました!スミマセン!!物語としては今回はくぎりのようなものです。第二部と考えてもらってもいいです。
私には過去の…小さい頃の記憶がない。
五歳から前の記憶はぷっつりと消え、まるで五歳から私の人生が始まったような感じだ。
もちろんアルバムなどの思い出はあるにはある。
だが、見たとしても何一つ思い出せた試しがない。
しかし別に生きていく上ではなんの支障はなく、ただみんなと少し違うということなので時間が経つにつれだんだんと気にすることはなくなっただ。
そんな私が他の皆と違うところ。それは『予知夢』を見れることだ…
「…というわけで今朝もそーいう変な夢見ました。」
私は学校の昼食中クラスの友達と机を繋げてソレを囲んで談笑していた。
真ん中には皆が自分で作った弁当を広げてそれを交換し合っている。
「ミコ、あんた欲求不満?」
友達の一人が箸を私に向けて言う。
私の名は天浪琴那。
親しい間柄では『ミコ』と呼ばれている。苗字の最後の一文字の『ミ』と名前の最初の『コ』を合わせ、不思議な力(予知夢のことだが)を持っていることから『巫女』と掛け合わせそんな風に呼ばれるようになった。
なかなか理にかなったあだ名で私自身もこのあだ名に慣れてきている。
「いやいや、ちゃうよ。これほんとに見たんだって。私を助けに来てくれる人の話。」
私はお手製の卵巻きを口に運びながら言う。
「でもコーコーセーにもなって…さらわれた自分を助けに来てくれる男の人の夢なんてねぇ。」
そう、私が見た夢はさらわれた私がとある男性に助けてもらう夢というなんとも乙女チックな夢。男性の顔は覚えていない。ただうろ覚えなのだ。
もちろんそれが完全な予知夢で有るとは断定できない。実際これまでただの夢もみてきたのだ。
すべてを予知夢だとしたら今頃この世は崩壊していてもおかしくはない。
「そーいやぁさぁ〜ミコ、あんたまた指導部に引っかかってたじゃん?また髪のこと?」
そういって友達は私の髪の毛をやさしく触る。私の『真っ白』な髪の毛を。
「うん。また捕まった。てかこの髪の毛直ンないのにさぁ〜!何回言ってもわかんないのあの石頭は!!」
私はそういって荒々しくウィンナーを突き刺しながら言う。
私が他のみんなと違うことはまだある。
私の髪の毛は白いのだ。髪の毛だけではなく瞳も白いというなんとも奇妙な色。
物心付いた頃には私の髪の毛と瞳は白かった。これもまた別に生きていく上では何の支障もなかったが高校の先生方はどうやらこの髪の色が気に入らないらしく何度も私を指導してきた。
「大体さぁ!!黒く染めても気付いたらすぐに白に戻っちゃうんだよっ!?無理だって。
この髪直すのはさぁぁ〜!!」
「しっかしホント凄い髪だよね〜。私入学式ンときあんた見てビビッたもん。」
友達は私にそういう。
確かにこの髪の色は異常だ。そして予知夢。
何か関係があるのだろうか?
いや、あるのだ。これは私の運命を大きく変え、世界のバランスを崩しかねないことなのだから…。
そして私の頭にある単語がよぎって消えた。
―――『白い華』と―
御守地家一家惨殺事件から2ヶ月ほど経った。
既に季節はあの暑苦しい夏へ代わり、7月はじめだというのにその不快さは100を超えるほどだった。。
湿気が多くジメジメし、なおかつ暑いので日本の夏は不快なのだ。
だがそんな中で俺は日輪のトレーニングルームで体を動かしている。
「……ッはぁ!!!」
俺は重いバーベルを上げ、ソレをゆっくり元に戻すと状態を起こし、サンドバックに蹴りやパンチを繰り出す。
サンドバックはくの字に曲がったり大きく天井に着きそうなくらい吹き飛ばされたりしている。
トレーニングルームには他にも龍兵と牛頭がいて、リングの上で二人でスパーリングをやっていた。
と、牛頭の放った跳び膝蹴りが龍兵の鼻に直撃するが、龍兵はそれを身を捻ってよけ、勢いと同じ方向に顔を動かしダメージを激減させる。
龍兵の鼻からは鼻血が垂れ、龍兵は片手で押さえながらもう一方の手で、タンマをかけた。
「タンマ!!ちょい俺休憩。牛頭さん、休むは俺。お〜い陽介、ちょっと代わってくれ。」
俺は二人のやり取りを無言で見ていたが、龍兵とタッチし、ロープをくぐって構える。
―とにかく倒せばいい。
俺達3人がいつも決めているここでのルールだ。
実践と同じ形式。ここで金玉潰れようが目ン玉えぐれようがそれは仕方のないことだ。
「今度は勝ちますよ。牛頭さん。」
「お〜お〜来いよ。目覚ましたらベッドの上だぜ。」
牛頭は軽やかなステップで距離をつめ、俺の懐にもぐりこむ。
アッパー?違う!?レスリング!!
牛頭は俺の顎を狙うわけでもなく、正確に俺を倒すため足を狙ってきた。
タイミングも、スピードも申し分ない。
しかし既に俺は”力”で先を予見していたためソレを交わし、屈んだ牛頭に蹴りを繰り出す。
「っらぁあ!!」
蹴りは牛頭の顎を正確に捉えた。
しかし牛頭はその足をがっしりと掴み片手で俺を振り回すとそのままマットにたたきつけた。
―なんつー怪力だよ…。
人並みはずれた筋力で俺を振り回し、まるで穴が開くくらいの勢いで俺は叩きつけられた。
当然、動けるわけもなく、息を荒立てそのままマットに沈んでしまった。
「中々…動きは良くなった。蹴りも鋭くなったしな。」
牛頭は口に手を突っ込んで折れた歯を取り出すとソレをゴミ箱の中へと捨てる。
「龍兵。俺帰るぞ。」
「うす。お疲れ様ッス。」
体育会系の挨拶をし、その場を出て行く牛頭を俺はマットの上で見送った。
龍兵はリングに入り、俺の意識があるかどうかを確かめる。
「生きてっか〜?」
「何とか。」
俺はゆっくりと起き上がりよろよろと歩いてリングを出て、タオルで身体を拭く。
ここ2ヶ月で身体を鍛えた俺は随分とたくましくなってきた。
毎日プロティンを飲み自分の体をいじめ鍛練を積んできたのだ。
「あっちぃ〜〜!!てか体いてぇ!!牛頭さん本気で叩き付けたぜ俺を!」
俺は用意していたアクエリアスを飲んでふぅっと溜め息をつく。
「でもま、十分だろ。あの牛頭さんにガチンコで蹴り食らわしたんだ。やるよお前。」
龍兵はそういいながら俺の横に腰掛ける。
「テコンドーはいいな。なんつーか足だから。銃を使う俺にはピッタリだ。」
「……なぁ。マジでお前ウァラウァラに……復讐する気か?」
龍兵は話の流れを遮るかのように話題を変える。
俺はタオルで顔をの汗をふき取り息を吐いた。
「なんだよ。復讐はよくないってお前は言うのか?綺麗事を言うのか?」
「別にぃぃ〜〜、俺は復讐は悪いと思っちゃいねぇぇ〜。むしろまだいいンじゃねぇの?大抵人間は生きるための目的が見付かってねぇじゃん?大抵の人間は有ってもソレは夢みたいなもんで無理なら諦めきれるからな。でもさ、良かれ悪かれお前にそれがあるならよぉ、俺はイイことだと思うぜ。お前のは生きる目的っつぅよかお前の『運命の使命』みたいなもんだからな。必ず達成しようとする執念があるからな。」
俺の肩をバシバシと叩きながら龍兵は語る。
俺はその言葉を頭の中で考え龍兵に質問してみる。
「…じゃあそれを達成したら次はどうすりゃいいンだ?生きる目的失くしたみてぇじゃん。」
「さぁ…ねぇ〜。探しゃいいンじゃね?………なぁよぉ、俺からも質問すっけどよぉぉ、お前俺が神を信仰してるって知ってるよな?」
龍兵は急に話を変えた。
俺はトレーニングルームに置いてある10Kgのダンベルを片手で持ち上げながら答える。
「よっ…と、あ〜ンなこと言ってたな。あれだろ?『人殺しは重罪だ。だから神に祈っとけば地獄に落ちることはない。その神は自分を助けてくれる。』だろ?言ってたなぁ。確かに。」
「そうそう。ンでよ、ちょっと思うんだよ、ほんとに。でも俺にとっちゃすっげぇ〜重要なことなんだ。」
「いいから話せって。遠まわしに焦らさンでよ。」
「まぁさっきの質問の続きみたいなもんだけどよ。ほら、世の中では人を殺しちゃダメだ、って言われてンじゃん?人が人を殺すのはいけないことだと思うよ。確かに。でもそれって漠然としかわかんねぇから、なぁ?納得できる答えがないよなぁ?」
龍兵は前傾姿勢で座った状態で顔の前で手を組み、それに顎を置いてはぁっとため息をつく。
よほど悩んでいるのだろう、龍兵は真剣な表情で俺のほうを見る。
俺は重いダンベルをふっと後ろに放り投げる
ゴドンッ!!!と重い、大きな鈍い音を立てる。
「…ソレは世の中で出回っているごく一般的な最も道徳的な答えでいいンか?それとも俺の考えでいいンか?」
「お前の答えだ。俺はお前がどう思っているのかを知りたい。」
俺は大きく深呼吸をし、先ほどダンベルに使った腕の筋肉をほぐす。
俺はしばらくして自分の答えを出した。
「ニュースとかでさ、よく子供が殺されてさぁ、キャスターがこんなこと言うじゃん。『幼い命が』とか『未来ある子供が』とかさぁぁ。でもそれって平等じゃねぇよな。老人が殺されても何故殺すみたいな感じだけじゃん?なのに子供は殺したら同じ殺人でも罪深く思えてくる。そう考えると無意識に命の重さが違ってくる。そんなの道徳的じゃあねぇぇ〜。だから俺はこう思う。『人間を殺していけないのはその人間の持つ人権を侵害するから』と。実際憲法ではそう決まっている。人を殺してはいけないのはただ単に命を奪ってはいけませんという曖昧な理由ではなく憲法でさだめる基本的人権を侵害したからと。そう考えれば俺は命を奪っても幾分楽に思えてくるしな。逃げの口上だ。苦しい言い訳だよ。」
「なるほど…な。…プッ…クハハハハ!!ア〜ッハハハハッ!!ヒ〜ヒヒヒッ!!あ〜なるほど!!それいいな!初めてだぜそんな風に答えた奴!!あ〜腹イテッ!!」
龍兵は一人で笑い腹を抑える。
俺も自分の答えに苦笑しサンドバックに蹴りを入れる。
「そうだよな。確かにそうだ。人間は人間。命に重さはない。それは命全般だからな。よし!俺もソレで行こう。」
龍兵はよっこいしょとジジ臭い掛け声とともに椅子から立ち上がりトレーニングルームを出て行こうとする。
「あ〜そうだ、さっきの復讐だけどよぉ〜。程ほどにしとけよ。それにとらわれて大局を見失うやつなんてごまんといるからな。それにだ、復讐だけを目的にしてっとお前の人生はウァラウァラのために使っているのと変わんねぇぞ〜。じゃあな。」
龍兵はそれだけ言うとトレーニングルームから出ていった。
「復讐ができずに引き下がるのは生きる意味がない。俺の人生がウァラウァラを殺せと運命に決められたならウァラウァラの為に人生をくれてやる。そして代わりにあいつの人生を奪ってやる。」
俺は独り言を呟くとサンドバッグにおもいっきり蹴りを放つ。
サンドバッグは中身をぶちまけ下半分がない状態でぶら下がっている。
俺はそのままにしてトレーニングルームを後にした。
俺は自室でトレーニングウェアを脱いでシャワーを浴びて汗を流す。
「出かける…か。」
私服に着替え少しお洒落をした格好で町へと繰り出すことにした。
外は日が照って暑苦しい。開放的な格好をした奴らがダベッている。
特にアテもなくブラブラと出歩き、 アイスを買ったりアクセサリーを買ったり昼飯を食べたり可愛い子に声をかけたりして過ごした。
「…つまんねぇ……。」
俺はファミレスで先程声をかけた可愛い女の子と一緒にいる。
「わりぃ。やっぱ俺帰るわ。つまんねぇわ。」
「はぁ?ちょっとソレどーいうこと!?」
俺は怒る女の子を無視して支払いをして店を出る。
適当に歩いているとゲーセンがあったので暇潰し程度に中へ入ってカーゲームをすることにした。
タイムレコードを1位を叩き出し、飽きた俺はガンシューティングのほうに移動した。
200円入れて二丁拳銃でトライする。
−−−簡単だな。
俺の後ろには既に何人ものギャラリーが出来ていた。皆口々に
「お〜」
など
「は〜…」
やら感服している。
まぁそうかもしれない。
俺は1発も外すことなく全ての的を撃ち抜いているのだ。
ウザくなった俺は途中の状態にも関わらず銃を元に戻しゲーセンを後にした。
「あっづ〜…。帰るか。」
日輪のビルへと足を進めようとした時後ろから声がした。
振り向くと4〜5人のギャングチームのやつらしき不良がいた。
後ろには先程店で分かれた女の子もいる。
「……なんだお前ら?俺今暑くてムカついてんだ。どっかいけよバカ野郎。とばすゾ?」
「あ゛?おめぇ何デカイ口叩いてンの?いいからちょっとそこ行こーか。」
一人が人目のつかない路地裏に誘いこんだ。
大方あの女のしょうもない仕返しみたいなものだろう。
「お前さぁ、調子こいてない?髪も紅いしよぉ?あ?」
不良は俺にニラみをきかせる。
−−暑いな。早いとこ済ませとこう。
そう考えるや否や、俺はローキックを放ち、目の前に居たヤンキーの膝を蹴った。
「げっ!?」
骨の折れる生々しい音がした。不良の足は普通は向かない方向へと折れていた。
そのままもう一人の延髄にハイキックをかまし壁に叩き付ける。
「なっ!?てめっ!!」
残りの不良が一斉に俺に襲いかかるが全て蹴りでそれぞれ喉を潰したり股間を蹴り砕いて全員潰した。足腰が立たないようにした。
皆うめき声を上げて怪我をしたところを押さえて倒れ込んでいる。
「……お前さ、仕返しはいいけど『やられる覚悟がない』なら仕返しとか考えンじゃあねぇよ。」
俺は泣いて震えている女に冷たく言い放つと路地裏を後にした。
「そうだ……復讐…覚悟……。あいつは必ず殺る。」
俺はそう呟くと一人の男性とぶつかった。
「あ…スンマセン。」
「いえ……」
ぶつかった男性は奇妙ないでだちだった。
髪も眼も蒼く服はノースリーブハイネックの黒のラバー性のコート。
前は上だけ開けるというなんとも露出の多いいでだちだった。
「……。」
俺は無言で立ち去る男性を見送り本部へと帰った。
−−蒼髪の男は後ろ姿の陽介を見て一言呟いた。
「……久しぶりだ…な。」
帰ったのは午後6時だ。
既に『日輪で表の仕事をこなす会社員』が帰り支度をしていた。
日輪の収入の約7割をまかなっているのがこの日輪の表の顔、貿易会社と言う顔なのだ。
「おう陽介、ちょうどいい。去蝶さんが呼んでっぞ。」
「カーっ!!仕事か?仕事だよなぁぁ。めんど…。」
俺は頭を掻きながら社長室へと向かう。
「失礼しやっす。なんスカ?仕事すか?」
社長室では去蝶がいつも以上にはだけた格好で寝そべっていた。すでにもうほとんど胸が見えている。
「そ…。お・し・ご・と。明日ね、龍兵と一緒にとあるところに行ってほしいの。場所は…。」
そういって去蝶は囁くように、しかししっかりと言った。
俺はその目的地を聞いて驚愕した。
「マジかよ!!タチ悪いぜ去蝶さん!!」
「明日、よろしく頼むわね〜。」
人事のようにからからと笑いながら去蝶は言う。俺はその言葉を受けながら社長室を後にした。
「ようジェイデッド、どうだ?久しぶりの外の空気は?」
場所は変わり、ウァラウァラはジェイデッドという男と話をしている。
ジェイデッドは特に表情を変えることなく淡々とウァラウァラに答えた。
「…暑い。もう7月…だもんな。」
ジェイデッドは髪が蒼く眼も蒼い、陽介が町でぶつかった男だった。
そして頬にはウァラウァラのように『13』と数字が彫られていた。
「まぁそうだわな。そして、だ。お前にも新しく『お仕事』が入ったぜ。そして今回の仕事はかなりデカイ。俺とお前だけじゃなくて『シャキーラ』、知ってるよな?ンでシャキーラはもちろん、『ダイアナ・ロス』も今回参加するかもしれねぇ。」
ここでウァラウァラはくくくっと笑いを堪えるような表情になった。
ジェイデッドはソレを見て訝しんでウァラウァラに尋ねる。
「何笑ってる?仕事の内容ってのを聞かせてくれ。」
「ぎゃっはっはっは!なんとまぁ俺らの今回の仕事は『女一人さらうこと』なんだと!い〜っひっひっひっひ!!どっかのお姫様かっての!!…捕らえて、俺好みの女だったら犯っちまうかもな。ぎゃっはっはっはっは!!」
ウァラウァラはさも面白そうにツボにはまったように笑い出した。
「ウァラさん、場所は?」
「あぁ?場所?場所はなぁ……。」
「美母呂高校…か。」
俺は日輪の自室で銃弾の確認をしながら呟いた。新しく新調した銃、『サイレントマジョリティ』は反動が小さく中々使いやすかった。
「俺の…元居た高校…。何考えてんだ…?いや、ナニがあるんだ?」
俺は銃を置いて疑問を抱えつつベッドに横になった。
明日が俺の運命に大きく影響を与える日になろうとはまだ思ってもいなかった……
今回は短めでしたので次の投稿は早めになると思います。