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第1曲:GOING UNDER

「おい起きろ御守地!!朝だ!!起きるンだよ!!」


野太い看守の声と警棒で鉄格子を叩く音で目を覚ました。

どうやら二度寝した後寝すぎたらしい。看守の爺さんはイライラしながら俺の飯を持って牢の鉄格子の外に立っていた。


「まったく…いい若者がなんてナリだ。」


看守は俺に向かってため息をついた。

この爺さん、もう今年で60近いらしい。

しかし言葉使いと顔の老けようから留置所にいるやつ等からは『爺さん』とか呼ばれている。

無愛想だが心の中ではみなの心配をしてくれている。



そんな今の俺は寝癖で髪が荒れ、頬にはよだれのあとがついていた。

だが起きたばかりの俺はそんな状態など別にどうとも思わなかったし、今は少し腹が減っていた。

時計を見ると8時半を少し回っていた。


「おっちゃん、あんがと。飯そこに置いといて。」


俺はベッドから降り、洗面所で顔を洗った。冷たい水が意識を鮮明にさせる。

目が覚めたら更に食欲がわいてきた。少し遅めの朝食をとりながら俺は看守にひとつの質問をした。


「あのさぁ、なんで俺今日起きるの遅かったんだ?爺さん、いつもはもっとはやい時間に起こしてンじゃん?今日なんかあったっけ?」


 この問いかけに看守の爺さんはまたため息をついた。り深く、そして心底呆れたという気持ちが取れた。

 

「お前さん。今日第一審があるじゃろうが。だから他のやつらとは違う時間に起こしたんだ。不安と恐怖を長く感じさせないためにな。」


爺さんは心配そうに

「お前大丈夫か?」という気持ちで俺に言った。

あぁそうかという俺の表情を見てまたもやため息をついた。


ここで俺、御守地陽介が留置所に入れられた訳を語らせて欲しい。




俺は元々普通の高校生だった。

まだそのときは入学してから二週間ほどしか経っていなかったが友達もそこそこでき始め、いい感じに高校生活をエンジョイできそうな感じだった。


しかしどの学校にも不良っていうのは存在する。

中にはどうしようもない不良ってのも存在するもンなんだ。

俺が廊下でぶつかった相手はまさにそれだった。

セミロングで茶髪、ピアス、鼻ピアスをつけ薬もやっているという噂もある学校1の危険人物。その取り巻きが5人の計6人だ。


当然、お決まりのように相手は俺に因縁をつけてくる。



「おいてめェェェ!!ぶつかっといて謝りもなしか!?いい根性してんじゃん?あ?先輩様に会ったら挨拶、失礼なことしたらすいませんだろおぉぉがぁぁ!?なめてンのかぁ!?」


こういう時はどうするか?

とりあえず俺は無難に…いや、最小限の被害で済むようにとすぐさま謝った。


「すいませんでした。先輩。俺ドジなもんで…マジでスイマセンでした!!」


クソッ!!このゴミども殺してェェ!!

心の中でそう思いつつも俺はこの不良どもに対しひたすら頭を下げた。

だがこういうやつらはすぐに調子に乗りやがる。


「あ!?謝りゃいいってもんじゃねぇゾ!?俺らン前じゃウッカリは通らねぇンだよ!!」


不良の1人がみぞおちに1発綺麗なパンチを入れた。


「あ…グァ……ガッ…」


俺は声にならないような声をあげ、そのまま床に座り込んだ。

たちまち他の不良どもも殴りにかかってくる。

他のやつらはみな見てみぬフリをしていた。先公を呼ぶ気配もない。


 (はぁ……イッテェ……ンだよ、助けろよ。テメェ等うざってぇな…。)



「オラァ!!当たっとイテェぞ!!」


そう思っていると不良の一人がうずくまった俺に更に蹴りを入れ、唾を吐きかけた。



その時だ、俺の頭の中で何かが切れたのは……。



そのあとはもうその場の状況を表すならば、『修羅場』そのものだった。


俺は立ち上がり唾を吐きかけた不良の顔面に右ストレート一閃。

そいつの顔面は陥没していた。

次に最初に俺に因縁をつけた奴のみぞおちに重いブローを入れた。

その不良は血反吐と吐しゃ物を撒き散らしながら床を転げまわった。

その不良は胃に穴が開いたらしい。

ま、俺の知ったことではないが。


残りの不良は全員手足と歯を折った。

特に歯は全部ぶち折って総入れ歯にしてやったし一人は階段から突き落として未だに意識が戻らないらしい。

おまけに止めに入った教師の顎を砕いてしまった。


そんなこんなで今留置所にいるわけで、今日が運命の裁判の日である。

当然正当防衛なのだから刑は軽いはずだ。

執行猶予3年といったところだろうか。俺に非はない。



……はずだ。



一時半になり、俺は面会室で弁護士と話をした。


「大丈夫ですよ。あなたに非はありません。しかし正当防衛を通り越した過剰防衛という見方もありますからまったくの無実では通らないでしょう。でもま、執行猶予付って所ですかね。」


弁護士は軽そうに言った。

俺は弁護士にある質問をした。


「あの……家族とか…………大丈夫なンスか?迷惑とか、かかりますか?親父とか来るンスか?」


俺は家族の心配をしている……という訳ではなかい。

もちろんそれもあるが。

しかし母親だけは別だ。


「ああ、心配要りませんよ。一般にこの裁判は非公開ですし、学校側もこの事件については公にはしていません。なによりあなたはほとんど無罪なんですから。残念ながらご両親は裁判には出席いたしません。」


「そう、スか…。」


俺は安心と、悲しみに覆われた。家族がこない。それは一人で難解な試練を受けていくような、感じだった。

俺の額から汗が落ちた。


「……そろそろ時間ですね。では行きましょう。なぁに、大丈夫ですよ。リラックスして。」


弁護士は声を掛けてくれるが俺は重い足取りで裁判所へ向う車に乗った。


車の中では一言も口を開かず、ただ窓の外を眺めていた。

それほど高くはない建物やマンションが建て並び、俺がボーっと眺めていると後ろに過ぎ去っていく。



その時、突然頭痛がした。

いつもそうだ。


悪いことが起きる前兆に必ず頭痛が起こる。

しかし今回はそれだけではなかった。


頭痛で目を閉じた瞬間脳裏にある女の姿がよぎった。15・6歳くらいだろうか、髪は短かくその表情はどことなく暗い。




……いきなり車が止まった。

ふと我に返り周りを見ると駐車場に停まっていた。

裁判所に着いたらしい。

体中汗でびしょびしょだった俺を見て弁護士は心配そうに声を掛けてくるが、それを無言で手を差し出して制す。


「大丈夫です。少し緊張しているだけですから。落ち着けば治りますから。」


そう言って俺は車から降りた。弁護士も車から降り、鍵を閉め裁判所に一緒にはいっていった。






…………やばい。そう俺は思っていた。

頭痛は良くないことの前兆の俺にとって今の状況はもはや精神的な拷問だった。心臓がバクバクいっている。

緊張と不安で胃がねじ切れそうだった。

4時開廷なので時間はあと10分しかない。

法廷の前にある椅子で俺は気を紛らわすため爪をかじっていた。


「なぁ……刑務所ってどんなとこなんスか?」


俺の突然の質問に弁護士は少し驚いたが。すぐに落ち着き払った声で教えてくれた。


「まぁあなたが想像するところよりはそんなに怖いところではありませんよ。ただルールに従ってください。刑務所内のルールです。」


「それって規則とか罰則とかいうやつか?」


「いいえ違います。まぁ確かにそれもありますがそれよりも大事なのは囚人内でのルールです。いいですか、心に留めておいてください……。刑務所内では決して独りになってはいけません。でもあなたは刑務所には行きませんよ。そんなに杞憂することもありません。」


「だといいンスけどねぇ。」


俺はそう呟きながら時計の針を見た。

針はちょうど四時を指していた。

弁護士も自分の腕時計を見ていた。


「あぁ、そろそろ時間です。それではいきましょう。」


そう言って法廷の扉を開けた。






―思わず息を呑んだ。威圧感がある。汗がだらだらと流れてくる。来るときに頭痛がしなかったらこんなにテンパることなかっただろう。

 壇上には裁判官がいる。想像どうり、堅い頭みたいな……厳粛そうな顔をしている。

俺は裁判官の向かって左側に腰掛け、その隣には弁護士が座った。向かいの右側の席には検事が二人座っている。


「刑事裁判、4月24日開廷。」


裁判官が重々しい声で言った。


「被告、御守地陽介。あなたは御母呂高校で重度の傷害事件を起こし、さらには粛正に入った教諭一人に対し暴行を加え重症を負わせた。相違ありませんね?」


「……はい。」


俺は今にも緊張と威圧感でつぶれそうだったがはっきりと答えた。

隣の弁護士が手を上げていた。


「発言を許します。どうぞ。」




「裁判官、被告は傷害事件を起こしたとはいえ被告の行動は正当防衛に入ります!!それに彼はまだ未成年!!裁判官の寛大な処置をお願いする次第でございます!!」


弁護士の声はしっかりとしていた。

俺はそれを聞いて少しは不安が消えた。しかし隣の検事のやつの発言で俺の安堵は見事に打ち砕かれた。


「発言を許します。どうぞ。」


「被告の行為は正当防衛を通り越した過剰防衛に属するものと思われます。それは相手の戦意が喪失したにもかかわらず更なる暴行加えたとして情状酌量の余地はないと思われます。」


「ちょっとまっていただきたい!!」


弁護士は反論しようとしたが裁判官に制された。


「弁護人。発言は挙手を。」


弁護士は手を上げた。


「発言を許します。どうぞ。」


「刑法では程度を超えた過剰防衛であっても裁判官の情状酌量の余地を考慮に入れてもらうはずです!!」

「しかし検察では『程度を超えた過剰防衛』にはならないと考慮した次第であります。現に粛正に入った教員の顎を砕き一人は頭蓋の骨折。脳にも障害が出ている。そして意識の戻らなかったもう一人は今朝死亡が確認された!!これのどこに情状酌量の余地があると!?」



な……死……?



死亡…………!?

なんだそれ?俺はなンにも聞いてないぞ!!人を殺した?誰が…………?


………………―俺が?




弁護士は口を開かずそのまま座り込んだ。


「オイッ!!?何諦めてんだよォォアンタ!?大丈夫だって言ったじゃンかよ!?大丈夫なンだろォォ!?なぁ!?」


俺は弁護士の胸ガラをつかんだ。

だがそれでも弁護士は口を開くことはなかった。


「ゴホ……ンン……。では弁護人、異議はないようですね。当法廷は被告御守地陽介を10年間、府中刑務所に収容するものとする。以上。」



十年…………!?

ナに……?

待てよ…………オイッ!?


おい!!どういうことだ!なんで俺がこんな目に?どうして…?



検事も弁護士も席を立っていた。


「てめェェェ!!ちょっと待てェェェッッ!!弁護士だろうがァァアァッ!!なんで俺が10年も刑務所に…………!?なんでだよ…?ちくしょう……なんで……」


俺の声は死に行くものの声のそれと同じで。

俺はその場に座り込み涙を流した。

しばらくしないうちに俺の手首には手錠がかけられ二人の男に無理矢理立たされて連行された。




初めて掛けられた手錠の感触は妙に冷たかった……。




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