第16曲:THE DOPE SHOW
今回もバトルです。楽しんでいただけたら幸いです
時は牛頭がベノムを倒した少し前、牛頭とベノムがまだ戦っている最中、のととドゥーキーは別の棟で戦っていた。
「むぁ…やっぱくせぇ。病院キライだ。大っキライだ。」
のとは顔をしかめ、鼻をズズッとすする。
「なんつーかすぅぅぅっと鼻ン中に入って奥の方でむわっと臭いがひろがってよぉ。口の中にも広がるんだ。くっせぇだけじゃくて口ン中に変な感じがするんだ。」
のとは口の中に広がる不味いような感覚を無くすため、ツバをベッと吐く。
「はっははぁっ!お前も病院キライかぁ!?いいぜぇ。お前の口ン中に新しい『味』を広がらせてやる。お前の『血』でだぁ!!」
ドゥーキーはサイレンサーの付いた銃を取りだしのとに向けて発砲する。
のとはドゥーキーより一瞬早く反応し、横に跳んで弾丸を避ける。
「いい…反応だな。」
ドゥーキーの攻撃はまだ続き、立て続けにのとに発砲しつづける。
しかしのとはその全てを致命傷にならない程度に避け、脚に力を入れ低く、長く跳躍し、曲がり角の廊下に隠れた。
「うぅ…畜生!!いてぇぇぇ!!腕にかすった!畜生、肉が少しえぐれちまった!」
左腕からは血がドクドクと出血している。
のとは唾を滴らせた舌で傷口をベロベロと舐め、血を舐め取り、傷口を消毒する。
のとはドゥーキーの様子を探ると、ドゥーキーは銃を捨て、ナイフを取り出しているところだった。
「接近戦…てやつか?ナイフを取り出したってことは。」
しかしその時のとはドゥーキーの力だろうか、驚くべき光景を目にした。
奇っ怪なことにドゥーキーは『壁』の中に『消えた』のだ。
まるで水の中にゆっくりと、軽く波紋を立てるかのように壁の中に消えたのだ。
なん…だありゃあ!?壁の中に…えと……入った?」
のとは正直少しパニクっていた。そして自分の目の前にある壁に触るが固い壁のままだ。
「つぅことはあの野郎、入れるってことは出てくるってことだよなぁぁ!壁ン中でも移動して俺の所によぉぉ!簡単に殺られるかよ、出てこいよ。お前の攻撃より早く反応してお前のそっ首吹っ飛ばしてやるっ!!」
のとは刀を抜いて柄を柔らかく、力強く握り締め壁から離れた。
これで迂濶に攻撃は出来ない。
少なくとものとにとっては、いや、誰でもそう思うだろう。
しかしのとはここで自分の体の異変に気付いた。
ドゥーキーの力によるものだとすぐに気付いた。
のとの体が『浮き』始めたのだ。
まるで水中でどんどん水面に上がるようにのとの体は天井へ向かって浮き続ける。
「な、なんだぁ!?こりゃ!?体が……浮いてンぞ!あの野郎の…力なンかよ!畜生そーいうことかよ!!そーいう”力”か!!」
のとが向かう天井にはドゥーキーが上半身だけ姿を現し、ナイフを手にしていた。
天井で待ち構えているドゥーキーは迫ってくるのとに自分の”力”の説明をする。
「俺の”力”…理解できたかよ?今、お前の居る空間は『水の中』だ。そして今からお前に止めを刺す。さようなら。」
このままではヤバイ!!
そう直感したのとはナイフをかわそうと体を動かすが思うように体が動かない。
のとは既にドゥーキーの”力”がどんなものなのか理解は出来たが、今理解しても、最早ドゥーキーの攻撃を避けるヒントにはならなかった。
ナイフは空中でもがいているのとの左胸少し上に刺さった。ただもがいていたせいとナイフが小さいこともありぎりぎり致命傷にはならず、ドゥーキーもナイフを離してしまったのでそのままのとはドゥーキーから離れることが出来た。
しかしナイフの傷は決して浅くはなく、もし抜いてしまったのなら血液が大量に出てしまうだろう。
しばらくすると目の前の床からドゥーキーが姿を現した。
「ふ〜む。なんとか避けたかのか。でもまぁお前は勝てないけどね。でもその様子じゃ俺の”力”分かったンだよなぁ?」
ドゥーキーは懐からもう一本ナイフを取り出した。今度のはでかい。アーミーナイフだ。
のとは痛みで息を荒立たせるが、脳から出ているエンドルフィンのおかげで痛みは和らいでいた。
「お前…あれだろ。『空気中』に『水の性質』を追加する”力”。つまりは息が出来る水の中、泳げる空気見たいな感じの空間を作り出すんだろ?」
のとの目の前を傷口から流れ出た血が赤く染める。
「そう、その通り。That'Right。今この病院のこのフロアは『水中』だ。俺の触る壁も水のようになる。えと…お前名前わかんねーけどよ。これだけは言える。お前の負けだよ。水中でお前はサメと戦えるか?答えは『NO』だ。人間が水中でサメに勝てるわけがない。一方的に喰われるだけだ。」
ドゥーキーはそういってまたもや壁の中にもぐりこんだ。のとは先ずは身体の自由を少しでも取り戻すために最低限必要な酸素だけ肺に残し、ほとんどの酸素を吐き出した。
―人間の身体が浮かない方法で水中で肺の中の空気を吐き出すと身体は浮くことはない。プールの中で座る方法がある。肺の中にある空気を吐き出すことによって人間の浮力を軽くすることが出来るのだ。―
空気が泡立つという奇妙な現象をのとは目の当たりにしたが今はそんなことに構っている暇はない。
(これがあの野朗のいうとおり『水中』なら俺なら必ずあの野朗の居場所が分かるはず!近づいて来い近づいて来い!!)
のとは浅く、呼吸をし、一切の音を出さないよう神経を集中させ、ドゥーキーの居場所を突き止めようと眼を閉じて刀を握り締める。
のとの周りから音は消えた。あるのはただ一切の静寂と病院内の暗闇、そして奇妙な感覚だが息が出来る水の中という感覚だけである。
―ドクン………ドクン…ドクン、ドクンドクン。
のとは突然カッと眼を開くと、地面に向かって勢いよく刀を突き刺す。
刀の切っ先はドゥーキーの右肩に深く突き刺さっていた。
水中なので水の抵抗はあるがそれでも致命傷を与えるには申し分ない威力だ。ドゥーキーは床から今まさにのとへ攻撃しようとしたところを返り討ちにされた。
抜き身の刀にもかかわらず慌てて刀を掴み引き抜くとドゥーキーは『空中を泳いで』のとから離れる。
「うごぉっぁ!?あがぁ!なんで…っだ?なんで俺の場所が分かった!?」
周りの空気は血で染まり、肩の傷口からのおびただしい出血を物語るかのように水中を紅く染める。
のとはさきほどの動きで一気に酸素を消耗したため再び酸素を最低限取り入れると口を開いた。
「…さっきお前言ったよな?『人間が水中でサメに勝てるはずがない』。その通りかもしれん。確かに人間じゃ勝てないかもしれんが…。」
そういってのとは頭に被っていた黒のニット帽を取り外した。
そこには人間にはあるはずのない『犬耳』が付いていた。
「『俺は人間じゃない』」
金魚のように口をパクパクさせ呆気にとられているドゥーキーに対しのとは不敵に笑い、続きを喋り続ける。
「俺は…人間じゃない。もともと狼だった。…が今じゃ『獣人』だ。だが人間でもない、狼でもない。半端な存在だ。だがな、だが半端だからといって劣っているワケじゃあない。人間の身体能力と狼の身体能力が合わさった俺は常人離れした能力を得ることが出来た。お前の心臓の鼓動もよぉーっく聞こえるぜぇぇ?」
一旦話を区切り、のとは指でグイッと唇を上げ牙を見せる。爪もとがっているがよく手入れされていて研磨されていた。
ドゥーキーは合点がいったかのような顔をして、肩の出血を気にしながらのとの話を遮った。
「犬や狼の聴力は人間の8倍、だが人間と狼の獣人のお前の聴力は更にアップしているだろう。加えてこの水中…。空気の5倍近く音を伝える水中ではお前にとって俺は音の塊みたいなもンか…。」
「クカカカカ!!お前の”力”は潜んで潜って俺に攻撃するんだろ?ならもう勝てねぇだろ。ナイフを捨てろ、戦意を捨てろ。戦闘不能にはなってもらうが命まではとらん。お前が降参するのならな。」
のとは刀を捨て、爪と牙をむき出す。水中ではでかい獲物は役に立たない。己の五体を武器とし、のとは質問をする。
ドゥーキーはふぅっとため息を吐く。空中でボコボコと空気の泡が現れた。
「降参?アホか。俺の”力”はまだ隠されてるンだよ!」
そういってドゥーキーは肩の傷を抑えていた手をのとに向ける。
のとはそのまま見えない力に押されたように吹き飛ばされ、水中にもかかわらずその勢いはのとを壁に叩きつけるには十分の勢いを持っていた。
「あぐっふぅぁっ!!な…なんだ……?何が…起こった?」
もともと必要最低限の空気しか取り入れていなかったのとは背中を壁に強かに叩き付けられたため呼吸が出来ない状態だった。
体も浮き始め、慌てて息を吐いている所にまたもや先程の衝撃がのとを襲い、のとは薬品室のドアを壊して中へと吹き飛ばされた。
「これが俺の力の応用だ。『浮力』を操った。水が物体を押し戻す力だ。今一点に集中して、即ちお前に浮力を集中させたんだ。水はお前をまるで同じ極同士の磁石のようにお前を吹き飛ばす!」
薬品棚が倒れ、目の前ではふわふわと薬品のビンが漂っている。
(とりあえず…あいつに近付かねぇといかんな。さて…どうすっか…)
今のとの状態はかなりヤバい。ナイフが左胸に刺さっているのだ。
ナイフが刺さったままとはいえ場所が場所だけに戦いが長引けば負けるのは目に見えていた。
「あいつも今右肩が使いもんにならない状態だから死角を突いて攻撃するしかないか。」
のとは目の前を浮遊する薬品のビンをどけ、ドゥーキーに近付こうとする。
ゆっくりと、太極拳の動きのようにゆっくりだが、確実に距離を詰める。
刀を拾い、ドゥーキーに近付くがまたもや浮力がのとの体を吹き飛ばす。
「イーハァハハハ!お前が俺に近付くことは不可能だよ。今なら助けてやらんこともない。馬頭の病室を言え。どっちみちお前はこのまま戦いが長引けば出血多量で死んでしまうからな。命は…大事にしろ。」
「ふざけろっ。お前は必ずブッ殺す!!」
のとは泳いで距離を詰め、捨て身の攻撃を決行する。
自分の胸に刺さっているナイフを抜いたのだ。
「なっ…!?気が狂ったか?さっきの俺の忠告を聞かなかったンかよ!バッカだなぁ!」
「違うな。これは賭けだ。お前に攻撃をするための!俺の『覚悟』だ!!」
のとはそう叫び、おびただしいしい出血がドゥーキーの視界を真っ赤に染める。ドゥーキーは舌打ちし、のとの攻撃に備える。
「血の煙幕に乗じて…攻撃か。浅はかな攻撃だぁぁ!!」
煙幕の中から出てきた刀を避け、のとにカウンターのナイフを刺そうとするが、ドゥーキーの視界にのとはいなかった。
のとは刀を離してたのだ。
刀に気をとられ隙が出来たドゥーキーの左胸にさっきまでのとの左胸に刺さっていたナイフを突き立てようとする。
しかし攻撃は失敗に終わった。
のとのフェイントに気付いたドゥーキーは浮力を操りのとを吹き飛ばした。
壁に叩き付けられたのとは傷口からの出血のせいで体力がかなり消耗されていた。
「がっはぁ…はぁ……はぁ…ち…く…しょう…。イケたとおもったんだけどよぉ…ハハッハッ……。」
ドゥーキーは体力が消耗され、満身創意ののとにトドメを刺すために泳いでのとに近付いた。
「俺の゛力゛にここまで対抗したやつはお前が初めてだ。今からトドメを…刺す。恨むな。そしてサヨナラだ。」
「そいつぁどーかなぁ?やっとお前は俺に『近付いた』!!」
のとは懐から茶色のビンを取り出し、床に思いっきり叩き付けた。
「なん…だぁ?何をしたか分からんが無駄だ。お前はこれから死ぬんだよぉぉぉっ!!」
ナイフをゆっくりと振り上げようとしたとき、ドゥーキーは体がおかしくなったのに気付いた。
「う…ぐぁ…!あァアァァアあ!ぐばぁっ!」
ナイフを捨て、のどを押さえてドゥーキーはもがく。
その様子をみていたのとは、ドゥーキーから急いで離れる。
息を『止めて』いたのとは離れたところでドゥーキーに今自分の体に起きている異変の正体を教えた。
「…去蝶に勉強を教わった時に『コレ』を知った。科学だ。青酸カリを『水』と反応させると、化学反応が起きて、青酸水素を発生させ、大人なら数人は殺せると…なぁぁ!!」
「て…め゛ェェ!まさかざっぎ…薬品室…から…!!」
「そうだ。青酸カリのビンを拝借したんだよ。ほらほら、゛力゛を解除してその場から離れねぇとなぁぁ!?泳いで逃げたんじゃあ間に合わねぇゾ!?」
のとは刀を握り締め、ドゥーキーを嘲笑う。
「ぐ…ぞ……がぁ…あ゛ぁぁ!」
ドゥーキーは゛力゛を解除し走って、窓から外へと出ようとする。
しかし、のとは大きく呼吸をし深呼吸をすると、まるで獲物を追う狼のようにドゥーキーに近付き、後ろから押し倒して体を踏み付ける。
「逃がすかよ。テメェ。苦しいか?苦しいよなぁぁぁ?」
のとはドゥーキーを足で抑え、両手で刀を握り締め、切っ先をドゥーキーに向けて大きく振り上げる。
「あ゛…がぁ…やめろ゛ぉ!待で!待っでぐれぇ!」
力が入らない体であがくドゥーキーにのとは冷めた目で一言吐きすてた。
「悪いな。獲物を前にした狼は『待て』は聞けねぇンだ。」
そういってのとはドゥーキーの左胸めがけ勢いよく真っ直ぐ刀を降り下ろす。
「ま…っ」
−−ドズン
刀はドゥーキーの体を貫いて床にまで達した。
刺したときの振動が刀をビィィ−……ンと震わせのとの手にもその振動が伝わる。
バシャッと血が吹き出てのとの顔に大量の返り血がかかった。
「……っ。」
無言で刀を引き抜いて、血を払い、ドゥーキーの服で、刀についた血を拭った。
「龍兵…悪ぃ。疲れたからお前ンとこに行けそうにないや…。」
のとは刀を鞘に納め、はぁーっと大きく息を吐くと輸血用の血液パックを開けて壁にもたれて座り込んだ。
「飲むしかないよなあぁぁ。血の一気飲みか…」
グイッと傾けて輸血用の血を一気に飲む。
半分くらい飲んでパックを捨て、傷口に包帯を巻いて止血をする。
「うぶ……きっつぅ……。はぁ。あとは頼ンだよ。皆…。」
のとはその場を離れ、しばらく歩いたところにある待合室のホールの長いすで横になった。
ゆっくりと呼吸を整えのとは静かに目を閉じて軽い眠りについた。
ドゥーキー=自分の周りの空間に水中の性質を加える゛力゛。息が出来る水中、泳ぐことが出来る空気て考えた方が早い。またドゥーキーは壁を水化して潜る事も出来るし浮力を操作して相手を吹き飛ばすことも可能。水中なので相手も体の勝手が効かず動きもスローになるので、戦いでは厄介な力である






