第13曲:THE REFLECTING GOD
今回はちょっと長いです。アクションが多く、表現が乏しいところもあると思いますがご了承ください。
ニューヨークにあるウィンチェスター社本社の社長室に、一人の女性―ケイティ・R・ウィンチェスターが電話をしていた。
外はまだ暗いが、ニューヨークには消えることのない街頭やネオンが輝いていて欲望渦巻くニューヨークの暗闇を照らしていた。
「お久しぶりですね。『あまてらす』。『日本』での調子はどうですか?」
「ふふっ。まぁまぁと言ったところですわ。そちらもお変わりなくて?」
電話の相手―『あまてらす』と呼ばれた女はウィンチェスターと楽しそうに会話をしている。しかしどこか口調がぎこちない。
「ふふ…。こんな敬語で話し合っても苦しいわ。そっちに陽介たちは着いた?」
急に口調が変わり、まるで懐かしの旧友と話すかのように二人は笑う。
「アハハハ!確かに変ね!まぁ二人とも地位が出来て忙しくなって会えないじゃん?今度こっちに遊びに来なよ。まぁソレはともかく陽介たちは着いたわ。珍しいわ、綺麗な紅い髪に吸い込まれそうな紅い目。いい子ね。あの子。」
ウィンチェスターは本当に楽しそうに話をする。話の内容から察するに相手は去蝶なのだろう
ウィンチェスターはなぜか『あまてらす』と呼んでいる。
「でしょう?あげないわよぉ。ふふ!それとさ、多分陽介達に仕事の依頼をしたでしょう?」
「ええ、ソレを含めて彼らをよこしたんでしょ?」
「そうよ。それでね、もう3人、そちらに使者を送るね。治療のために。」
去蝶は手短に用件を伝えた。
「わかったわ。空港に迎えを行かせるわ。……それと、『タイラント』のほうはどうなってる?」
気楽だった会話をしていたウィンチェスターの声に重みが入る。
「とりあえずは…戦うわ。いずれどちらか消える運命だしね。とりあえず『マートゥリサイド(母殺し)』とも手を組もうかと考えてるんだけど…。」
「『マートゥリサイド』…。『母殺し』の意を持つ欧州の最大にして最凶の組織…。皮肉にもキリスト教発祥の地でイエスの母マリアを殺す意味として名づけた。でもやつ等はタチが悪い。どうしようもなく。」
「だからこそ、早急に手を打つの。やつ等とタイラントが手を組む前に。暴君と母殺しが手を組めば間違いなく最悪の、抜き差しならない状態となる!」
ことの重大さを語る去蝶をウィンチェスターは電話越しになだめる。
椅子をギィッと軋ませ、回転させて机に向かった。
「まぁ落ち着いて、あまてらす。…タイラント…。やつは、ハルフォード・エヴァネッセンスは母国アメリカに敵意を抱いている。でも世界情勢を考えればそう簡単に手は出せない。マートゥリサイドも同じことよ。」
「そう…ね。そういえばあなた、『ダイアナ・ロス』って名を聞いたことある?」
去蝶は唐突に話の内容を変えたが、ウィンチェスターは首をかしげる。
「いいえ、ないわね。それがどうかしたの?」
「いえ、知らないならいいわ。少し心当たりがあるだけ。じゃあその内に恩羅とのとが行くから。ヨロシクね〜!」
「あ、ちょっ!…切れちゃった。」
一方的に電話を切られ、仕方なく他の番号をかけなおす。
「もしもし?『ヌーノ・セクスミス』いる?あ、いる。悪いけど後で社長室来て。ちょっとお客を迎えに行ってほしいの。じゃ。」
そういってウィンチェスターも一方的に電話を切る。
「ダイアナ・ロスか…。」
そう呟くと大きく欠伸をして外を見た。
「大きな戦争が起きるかもね。あまてらす。」
「陽介は…無事か……な…?」
先ほどの戦いでやられた肩の傷口からは血がどくどくと流れている。
阿防はレヴォネッツとの戦闘で負った傷を右手で抑えている。
「とりあえず止血しないと。やばいな。」
既に羅刹から阿防へと戻っていた。
近くの窓にかかっているカーテン生地に手を伸ばし、引きちぎって包帯代わりにする。
豪華な屋敷に豪華な廊下、そしてそれに見合うようにつけられている豪華なカーテン。
少しもったいない気もするが他人の持ち物なので自分には関係ない。
ふと外を見ると暗闇の中にオレンジの明かりが見えた。
多分火災による光だろう。
明かりの規模が大きい。そこへ行ってみる価値はありそうだ。
――向かいの廊下か…。
止血を済ませた阿防は陽介を探すために廊下を詮索し始めた。
「ふぅ〜〜……いってぇ。なんとか……歩ける……な、これ。」
俺は火が広がり車に引火して爆発したガレージから離れた一室で休んでいた。
見た感じ、応接室だろうか。
いや、客間というべきか。ワインやブランデーが棚に置かれている。
途中3人の敵に出会い左太ももに一発喰らったが、的確に3発撃って3人殺した。
俺は椅子に腰掛け、近くにあった布を太ももと左手に何重にも巻く。
「……なんで俺、人殺してンのかなぁ…………。」
腰掛けた椅子に深々と腰掛け、頭を椅子にもたれかけ、天井を見ながら呟く。
今俺の頭の中にはアシャンティの言葉が幾度となく再生されていた。
(お前は運命に逆らっているのか?)
運命に逆らっているのか?と聞かれ、答えるならば否、と答えるしかない。
ただ自然に日輪に入り、仕事ということでアメリカに来て、今自分の意思ではなく他人の意思に代わって人を殺している。
「そもそも抗うって何なンだよ〜。俺は……。決められていることを覆さなきゃいけないのか?」
納得のいかない、もやもやが頭の中に渦巻いている。俺が運命に抗うというのは一体どうすればいいのか?
いや、抗わなければならないのか
そんな中、考え事をしていると不意に扉が開いた。
とっさに銃を抜いて、テーブルを蹴って倒して盾にし、椅子の後ろに隠れる。
「や、陽介。無事だったンだ?だいじょぶ?」
入ってきたのは阿防だった。
阿防はバットを握り締め息を浅く切らしながら俺に話しかける。
「あ〜。まぁなんとか無事かな。敵に”力”を持ったやつがいやがった。倒したけどよォォ〜……。」
俺は体を起こし、はぁっと疲れたような深いため息を吐く。
阿防は棚にあったアルコール度の高い『レモンハート』を掴み、仲の量を確認した。
「奇遇だねぇ〜。私もさ、敵に会ったンだ。倒したけどさぁ。」
阿防は『レモンハート』を見つめ封を開け一口飲んで顔をしかめる。
「っか!うっわ!!ナニこれ!?なんか口ン中ヒヤッてした!!」
「なぁ阿防…『運命に逆らうって』……何だと思う?」
アルコール度90%に近いレモンハートの匂いをくんくんと嗅いでいる阿防に俺は唐突に質問をした。
阿防は真剣な表情となり、そして俺の問いに深く考える表情にもなった。
「いきなり…唐突で、漠然で、面白い質問するね。それは私の意見として出すけどいいの?」
「あぁ、いいよ。」
俺は目を閉じてまた体を椅子に倒し、頭を椅子にもたれかける。
阿防はレモンハートの栓を閉め少し考えて、間を空けてから口を開いた。
「『運命に逆らう』…か。ありきたりでよく聞くような台詞だけど改めて考えると難しいなぁ……。まぁ『寄り道』……かな。」
そう言って客間にあるカウンターに腰掛ける。
俺は顔だけ起こし阿防の方を見る。
「寄り道ぃ?して、そのこころは?」
「つまりさ、運命ってのは決まってると思うんだよねェェ〜。それでさ、決まってるってのはどうしようもないことなんだと思うンだ。例えばさ陽介。陽介の人生はゲームのプログラムみたいなものだとしよう。そういう風に神様が決めたんだ。あんたが今までいつも右足から踏み出すのを左足に変えてみてさ、自分のプログラムを変えてやる!って思っても結局はソレもプログラムされているみたいなモンなんだ。」
「わけわかンねぇよ。つまりはどういうことさ?」
俺は首の骨を鳴らしもう一度ため息をつく。疲れがきているのか、やけに身体がだるく感じる。
「だ〜か〜ら〜、決められたことに逆らうこと自体がすでにプログラムされてて、そのプログラム自体が『寄り道』ってことなんだよ。」
阿防もはぁっとため息を吐く。
俺は頭をかきながら少し考え、俺なりの結論を出した。
それはあまりにも虚しくて、頭ではわかるが納得は出来ない結論。
「……つまりさ、俺らってただ、『生存』しているようなモンなのかな?『生きてる』んじゃあなくてさぁ。そーいうのって……虚しくなるな。」
「あんたがそう考えるのも勝手。あくまで今のはあたしの考えだから。楽にいきなよ陽介。あんたが今考えてるのは『死んだ後に自分はどうなるんだろう』ってこと考えてるのと同じだよ。不安になったり、虚しくなったりするだけ。」
「そう…だな。……そろそろ行こう。」
俺は椅子から立ち上がり足の調子を確認する。
―大丈夫だ。動けないことはない。
俺はそう自分に言い聞かせ、ドアを開けた。途端に目の前が明るくなり、熱気が身体を覆った。
火の手がすぐそこまで来ていたのだ。
「そういやあさ、陽介。何で火事になってるか知ってる?」
阿防は手にレモンハートを持っている。
「俺が…やむなくやった。まぁ人ン家だしいいじゃん?」
俺はとりあえず火の手の反対方向へ―屋敷の奥へと進むことにした。
阿防はポケットからくしゃくしゃになった大麻を取り出し燃え盛る火に近づけ火をつける。
「っふ〜。羅刹は…運命に対してどう思うのかな…。本当の私…。」
大麻の煙を吐き意味深な言葉を呟き阿防は陽介の後ろについていった。
豪華な廊下は今は燃え盛る火がなめている。
「陽介は無事かな?」
時同じくして、馬頭が刀についた血糊をふき取りながら呟いた。
足元には無数の仏が転がっている。斬り飛ばされた腕、切り落とされた足、刎ねられた生首、貫かれた胴体、両断された死体。
そして馬頭とガービッジが血の海の中に居た。
「……無事か?という問いに対して完全に無事とはいえませんがここはとりあえずゴブの命をとりましょう。」
そういって血の海の中をピチャピチャと歩き出す。
鼻につく血生臭い臭い。口の中にまで血の味がする感覚だった。
ガービッジの真っ白のコートは既に下半分が真っ赤に染まっていた。
髑髏も返り血を浴び、一層生々しく、不気味に見える。
「ていうか…殺しすぎたね…。私達。」
そういって馬頭は顔についた返り血をふき取る。
汗が滲み出て血は取れやすかったが顔に広がり、その顔はなんとも哀しい、そして皮肉に笑っているように見える、微妙な顔をしていた。
黒いドレスなので馬頭の服には返り血が目立たなかったが、それでもしっとりと濡れ黒光りしているのが解る。
「私さ……。こんなに一気に人を殺し続けたのって…、初めてだよ。」
馬頭も血の海の中を歩き出す。
ガービッジは歩を止め不思議そうに馬頭を見る。
「どうしました?何を思っています?これは闘争ですよ?あなたはすべてを賭けて、彼らと闘争をした。彼らはすべてを賭して、あなたを殺しに来た。命の取り合いです。彼らとあなたは平等です。そしてあなたが勝ったのです。」
「わかってるけどさ、なんかこう…すっきりとはしないよ。」
首をコキコキと鳴らしながら馬頭はガービッジの抜いて歩きだす。
ガービッジは馬頭の後姿を見て馬頭に聞こえない程度に呟いた。
「…彼女は。精神的にか…、戦いにおいて不安定だ。だからこそ強いのか…。いや、まだまだ弱いといったところか。もっと強くなれる。彼女の『限界』を考えるとまだまだ弱い。」
そう馬頭に聞こえないように囁きガービッジは後ろをついていく。
「あ〜ガービッジ。ちょっと聞きたいんだけどさ、これゴブ殺したらどうするの?どうやって逃げるの?」
不意に足を止めた馬頭はガービッジのほうを振り向いた。
その顔は先ほどまでとは変わり、明るく、艶のあるいつも通りの表情だった。
「問題ありませんよ。『迎え』はちゃんと来ますから。」
ははっと笑って馬頭に答える。
馬頭はそう、と呟き大きなドアの前に足を止める。
明らかに他とは違う豪華な造りのドア。
「間違いない…。ゴブはここにいる。あたしの勘が言ってる。…イクよ?」
馬頭は刀を抜いてドアを斬り刻んだ。
ドアはまるでひっくり返したパズルのようにバラバラと崩れ落ち、中の様子をさらけ出す。
臨んだ部屋の真ん中にはゴブが、周りには屈強なボディガードのような男が2人居る。
「ビンゴォ!!」
馬頭は豪華な部屋の中に入り、ガービッジもソレに続く。
ツカツカとゴブに近づき、刀の切っ先をビッとゴブに向けた。
「ゴブ・ディーヴォ。そっ首貰い受ける。っつーのはめんどいから、シンプルにあんたを殺る。」
「わしを殺しに来たか…。無駄じゃな。」
馬頭は刀を握り締め、確実に距離を縮める。
しかしそれをボディガードの男は許さなかった。
目測、馬頭より30cmは大きい。
馬頭は刀を振り下ろすが男は体格に似合わぬすばやい動きでソレを避け、ケリを繰り出してきた。
舞うように、馬頭は後ろに飛び退き空中で一回転して着地する。
「どうですか?いけますか?」
ガービッジはポケットに手を突っ込みながら馬頭に尋ねる。
着地した馬頭は刀を杖のようにして立ち上がり、鞘に納めて首を鳴らした。
「ん〜〜2:2でしょ?一人はガービッジがやってよ。ていうかあんたもっと働けよ。」
「わかりました。じゃあ私は左の男を。あなたは右でお願いします。」
ふふっと軽く笑いガービッジは軽快なステップで男との距離を詰めたいった。
馬頭も刀を鞘に納めた状態で体勢を低くし、先ほど蹴りを放った男との距離を縮める。
「ちょぉ〜っとスピード上げるね〜。」
馬頭は刀を抜く素振りを見せず、軽く跳躍して回し蹴りを相手の横顔に叩き込んだ。
完全に振り抜いた勢いのある蹴りは男の反応より遥かに素早く、顔面を捉えメキッと鈍く低い音を発した。
しかし男は着地した馬頭にもう一度、サッカーボールを蹴るような蹴りを入れる。
「っとぉ!」
馬頭はその蹴りを止めはせず、繰り出してきた脚に手を乗せ、勢いに乗って身体を浮かせる。
男の頭上で身体を捻り背後に着地し、刀を抜こうとしたが男は床に手を着きソレを軸にして水面蹴りを放ってきた。
足をすくわれ、馬頭は手を突いて着地する。
当然攻撃は出来ない。
顔を上げると馬頭の顔面に蹴りが繰り出されようとしていた。
こんな巨躯から放たれる蹴りなど、馬頭の防御など意味を成さない。
「くっ!!」
馬頭は刀を少しだけ抜いて刀身で蹴りを受け止めた。
男の足に刀身が深く切り込まれる。
「うがぁ!!ガァアァァアアァ!!」
男は痛みで叫び声を上げ、蹴りを止める。
だが男は刀を掴むと、そのまま馬頭の手からひったくるように奪い取った。
「わっ!!ちょ!!」
なす術がなく、刀を奪われ残ったのは鞘だけ。
「ちくしょぉ!!うあぁ、俺の足…がぁあ!」
男の足の甲は真っ二つに切られ、血がドクドクと流れている。
生々しい中の肉が覗き出ていた。
「殺す!!ぜってぇ殺す!!」
「泣き叫ぶだけでさぁ、私を殺せると思ってンの?ほら来なよ、めんどくさいんだからさ。」
馬頭は鞘をぽんぽんと肩で弾ませ、もう片方の手で挑発するように相手を誘う。
男は立ち上がろうと足に力を入れた。
ゆっくりと、痛みを堪えながら立ち上がろうとする男の顔面に、馬頭は容赦ない跳び膝蹴りを叩き込んだ。
「ぐぼっ!」
男は床に膝が着いた状態でのけ反り、馬頭は飛び膝蹴りの勢いを殺すことなく男の膝を蹴って空中へと飛ぶ。
―男の意識が飛ぶ前に見たもの。それは天井に着いている明かりの逆光で黒い影にしか見えない馬頭の姿だった。
馬頭は香港のアクションスターのように跳び膝蹴りからジャンプ、そして真下に全体重をかけた足刀を男の顔面に叩き込んだ。
メギョ!
男は馬頭に踏まれ顔面の頭蓋骨が窪んだまま、床にコレでもかといわんばかりに後頭部を強打した。
倒れた男の顔面に馬頭はバランスよく両手を広げ、まるで舞台の上でスポットライトを浴びてポーズを取る役者のように立っていた。
男の出血は夥しい。それもそのはず、男の顔面は完璧に陥没していたのだ。
「弱い……。だから死ぬ。あなたは私との命の駆け引きに負けたの。」
馬頭は男の顔面から降りると刀を拾い、異常がないか調べると血を払った。
ふとガービッジのほうを見るとまだ戦っている。いや、あれは遊んでいるといったほうが正しい。
「髑髏は砕けない。故に私に当たらない。あなたが勝てる確率は0だ。あなたは攻撃をして傷ついている。」
髑髏はガービッジの周りをふわふわと、男をあざ笑うかのようにカタカタと音を立てて浮遊していた。
陽介の銃でやっと砕ける髑髏は男の拳など優しく、撫でるに等しい。
拳からは皮がめくれ血が吹き出ていた。
「もういいですよ。あなたは頑張った。もう私を倒せないのは分かるでしょう?」
ガービッジは男の拳を掴む。と、同時にものすごい握力で拳を握りつぶした。
常人には到底出来ない芸当。これもまた馬頭と同じく肉体を活性させ、限界を超えたからこそ出来る技だった。
「〜〜〜ッ!?」
男は指の骨がむき出しになった、潰れた自分の拳を見て唖然としている。
「馬頭さん、トドメは刺せそうにないのでやってくれますか?」
ガービッジは刀を握り締める馬頭に頼んでみるが馬頭はだるそうに刀を抜いた。
「自分で殺りなよ。はい。」
馬頭は刀身むき出しのまま刀をガービッジのほうへと放り投げ、刀はガービッジの足元に転がった。
ガービッジはやれやれと刀を拾い、男を真横になぎ払う。
「…やっぱ素人じゃん。ちゃんと殺してあげなよ。」
男は首が半分斬られた状態でヒューヒューと息を吐き、傷口からは噴水のように血が吹き出ていた。
男は何か言いたそうに口をパクパクさせ目を見開きながら絶命した。
「どうやら刀というのは簡単に扱えるものではないンですね。首を刎ねるつもりだったんですが…。」
そういって刀を振って血糊を飛ばすと、馬頭に刀を返す。
「はい、どーぞ。あとは…ゴブ・ディーヴォだけですね。」
そういってゴブのほうに向きなおす。
ゴブは焦りの表情もなく、死への恐怖もなく、ただ椅子に座っているだけだった。
「わしは…殺されるのか?」
「ええ、おじいさま。残念だけど…。殺さなくてはならない。本意でもなく不本意でもない。『依頼人』があなたの死を望んでる。」
「はて、心当たりが多すぎるな。まぁどちらにせよ、どんなに怨まれようとその中の一人がわしを殺すだけのこと。どんなにたくさんの者がわしを怨もうとわしを殺すのはその中の一人だけだしのぉ。」
「違いますね。殺すのは我々。あなたを殺す意思はあれど、その人たちは”銃”を持っていなかった。しかし今、その人たちは銃を手にした。」
ガービッジはポケットに手を突っ込みながらゆっくりとゴブの前に歩み出る。
「すまんが、わしを殺すのはもうちょい後のほうがいい。奴が…『ネメシス』がお前等の相手をする。」
ゴブは口元を緩ませドアのほうを指差した。
馬頭もガービッジも気配を…ものすごく嫌な気配を感じそちらのほうに振り向く。
そこにいたのは、なんとも異様な男だった。
顔はガービッジよりも白く―いや、青白い。
そしてくねくねとした黒い長髪。
眉はなく、目はくぼんではいるが異様に見開いていて、唇は藍色をしている。
痩せてはない。むしろ身体はボクサーのようにがっちりとしている。
「ネメシス…!!タイラントのジョーカー。初めて見た…。でもなんかマリリン・マンソンみたいなやつね。」
馬頭は刀を構えた。そして警戒している。身体が、経験が、本能が告げている。
あいつはヤバイと…。
何故かわからない。でも分かるのはヤバイという感覚だけ。
手が震えている。膝が笑っている。汗がにじみ出てくる。
完全に、初めて恐怖というものを感じ取っていた。
「馬頭サン…。どう思います?」
ガービッジの声がいつもより低い。ガービッジも分かっていたのだ。
「どうもこうも…こりゃ計算外だよ。なんかやばそうだ。外見とかじゃあなくて…。多分強い。」
ネメシスは大きな眼で馬頭とガービッジを見据え、喋りだす。
「『ダイアナ・ロス』の情報ではよぉぉ…。ゴブ・ディーヴォは殺されると聞いた。まだ生きてるって…事はよぉ、ここにいるこの二人を殺せば……いいってことだなぁぁ〜?」
馬頭は背中に悪寒が走った。全身から冷や汗が出てくるのが分かった。
恐怖に駆られた行動からか、とっさにゴブを人質にとる。
「動くな…!あんたがここにいる理由は多分こいつを護ること。動くなよ。こいつのそっ首跳ね飛ばすぞ?」
そういって馬頭は刀をゴブの首元に突きつける。
(くそ!何やってんだ私は!?なんでこんな男に恐怖してる!!なんで人質とるような無様なまねをしている!?)
ネメシスは無言でソレを見つめ何も言わずに歩き出す。
ガービッジは男の前に立ちはだかって男の進行を止める。
「聞こえなかったのですか?『動くな』と言っている…!!」
ネメシスとガービッジは互いに対峙する形となった。
ネメシスは目を細めイラついた感じで一言だけ言う。
「どけ…。死にたくないだろ。邪魔だ。失せろ。肉塊にして…ほしいか。」
「て…めぇ!!」
ガービッジはネメシスに殴りかかる。ネメシスは2発、両手でパンチを繰り出す。しかし当然のごとく髑髏によって阻まれる。
「もう一度言う。『動くな』。次はお前をバラバラにちぎって牛に食わせてやろう……か…?」
ガービッジの言葉が途切れる。そして馬頭は気付いた。ガービッジの足元にあるパチンコ玉程度の小さな丸い白い『玉』を。
そう、先ほどネメシスに殴られた髑髏だった。しかし今となっては丸い塊と化している。
「変な…髑髏だ。お前を護るやつなのかぁぁ〜?」
更にネメシスはラッシュしてパンチを繰り出す。そのすべてを4つの髑髏が受けきるも先ほどの髑髏と同じくすべて小さな玉となってコトンと床に落ちてころころ転がる
「だがまぁ〜壊しちまえばよぉ〜お前にはいずれ俺の拳がよぉぉ〜。当たるぜぇぇ!」
「ガービッジ!!距離をとって!!組むわよ!!そいつも”力”を持ってるわ!!」
ガービッジはバックステップで相手をけん制しながら馬頭のほうへと戻る。
ネメシスはチッと舌打ちして馬頭を睨む。
「女ぁぁぁ。小細工は…やめろ。ゴブを殺せばお前を殺す。しかしゴブを人質にとった状態でも…お前を殺すことは……ウェへハアハハァ!できるん…だぜぇぇ!!」
「つまり…ゴブを殺したほうが良いというわけね。まぁ元々それが目的だったし。」
しかし馬頭はゴブのみぞおちに一発、刀を打ち込み気絶させる。
ぐったりとしたゴブを床に寝かせ、刀を構える。
「ちょいと変更。今ここで殺したらあんたが何するかわかんないし。そしてあんたを殺した後でゴブを殺す!!」
「勝手に…しろぉ。どちらにしてもお前を殺すことに…は変わりはねぇぇ〜!
ネメシスは走り出し、馬頭に大振りのフックを繰り出す。
先ほどの髑髏を見てこいつの『拳』はヤバイと直感していた馬頭は一旦引いて十分な間合いで刀を抜く。
「ぃぃあっ!!」
居合い切りを放ち、スピードは十分あった、タイミングも完璧だったがネメシスは跳躍してソレを難なくかわす。天井まで大きくネメシスはジャンプする。
「ガービッジ!!」
ガービッジは既に空中にいた。空中で身動きが取れないネメシスにガービッジはけりを入れる。
ネメシスは防御のしようがなく、顎に蹴りを入れられそのまま無様に着地する。
「お前の拳が危険なのは分かっている。私の髑髏も破壊したその”力”。どんな”力”か計り知れないが攻撃される前に攻撃すれば意味はない。」
ネメシスはゆっくりと立ち上がり、面を上げる。そして少し後ずさりをして馬頭とガービッジの頭上を指差す。
ガービッジと馬頭は上を見る。
「危ない!!」
頭上を見上げ落ちてきたのは丸まった塊。
馬頭は横に飛んで落ちてきた塊を避ける。ガービッジは髑髏が塊を防いでくれたので難はないようだ。
天井を見るといくつものくぼんだ、いや、えぐられたといった方が正しいか、大きな跡がいくつもあった。
そして落ちてきた塊に目をやると、床にめり込んだりと床を破壊していた。
「なんなの…!?この…”力”は…!?一体どうやったらこんなすさまじい破壊が…!?はっ…!?」
一瞬。馬頭がネメシスから目を放した隙にネメシスは馬頭の視界から消えていた。
そして既に背後に回っていたネメシスの拳を素手で防御する。
「受けた…な、俺の拳を…よぉぉ〜!!お前…の左腕はもう……お終いだぁぁ〜!!」
馬頭は防御をした腕。すなわち左手に激痛が走るのを感じた。
今自分の左手に起こっている出来事。それは『恒星の最後』に似ていた。
馬頭は叫び声を上げる。
「うぁぁぁぁ!!」
殴られた手に自分の腕が『落ちていく』。
分かりやすく表現するならば、その左手に腕が吸い込まれていったのだ。
馬頭の腕は二の腕あたりまでなくなり、先ほどまで馬頭の左腕だったものは小さな塊、肉塊になっていた。
「馬頭サン!!大丈夫ですか!?」
ガービッジが馬頭のほうに駆け寄る。馬頭は脂汗を流し、左腕があったところを押さえている。
息が荒く、激痛のせいか顔を歪めているが、その目はしっかりと相手を見据えていた。
「今…攻撃を受けて…みて、わかった。ハァーアッハァー…。奴の”力”の正体が…!!こいつは…ヤバイ!!こいつの”力”、それは『殴ったものを中心にすべてのものが落ちていく』”力”だ。だから私の腕は左手で防御したのに左腕が飲み込まれていった。そして最後はただの塊になる…!」
ネメシスは笑いながら馬頭の言葉の続きを自分で話す。
「流石だな…。その…通りだ。俺の拳で殴ったところは…そこを中心に半径50cm以…内のものをよぉぉ、すべて飲み込む…!!小さなブラックホール…だ!」
(合点がいった。私の髑髏も星が潰れるほどの重力には耐えられないだろう。さっきの攻撃も天井を飲み込んで塊になったものが落ちてきたのか…。どんなものでも形が変わっても質量は変わらない。しかも質量が大きいほど、そしてそれに反比例して塊の面積が小さいほど圧力は大きくなる。だからさっきの塊は床にめり込んだのか!!)
「どんなやつ…でもよぉ、ウヒハハヘャハハ!!俺の”力”には敵わ……ねぇぜぇぇぇ!!俺のよぉ…、”力”が分かったところで何の意味もねぇぇ!!そして止めだ!!」
ネメシスはうずくまる馬頭に無情な鉄槌を下す。
しかし馬頭は力を振り絞り、なんとかその拳をかわす。
左腕がなく、身体のバランスが取れない。そしてなによりもこの激痛。
いままで何人も、数え切れない程の人を殺してきた。中には楽に殺してはいないものもいる。
手足をとられる痛み。意識が飛びそうで、しかし激痛がソレを許さない。斬られたところが熱い。
――ああ、腕とられるって…こんなに痛いんだ…。
息を切らし馬頭は膝を突く。痛くて涙も出てきた。
――私は平等じゃない…。腕をとられて泣いて、所詮私は女だ…という理由を頭の中に浮かべている…。私は弱い…。腕をとられる覚悟もなかった…。
ガービッジは馬頭を庇うためネメシスと戦っているが、ガービッジの髑髏は残り少ない。
「ウェヘハハハイハハ!!どうし…た?残りの髑髏もよぉー、少なくなってきたぜぇぇ!?」
「くっ…!!」
ガービッジは防御しかできない。攻撃をしてカウンターを喰らえばガービッジもやられる。
時間の問題だった。
二人が死ぬのは…。
(死にたくない死にたくない生きたい…!)
死への初めての恐怖。馬頭は立ち上がろうにも足に力が入らない。血がボタボタと出血している。
「馬頭サン!!立って!!逃げましょう!!今は逃げることです!!このままでは必ず殺される!!立ってください!!」
(逃げる…。そうだ、死にたくない!!生きたい!)
馬頭は目を閉じ、大きく深呼吸をする。
「えぇ、逃げましょう。生きながらえる。こんなところで死にたくはない。」
馬頭は刀を口にくわえ、懐からデリンジャーを取り出す。
ゆっくりとネメシスの頭に狙いを定め、引き金を引く。
パンッ―
「ああっ!!」
こんな軽い衝撃でも馬頭の左腕に響く。
弾は外れた。しかしそれは頭に当たらずともネメシスの左腕に直撃した。
「うぬぁっ!!」
一瞬の隙が出来た。ガービッジは軽く跳躍し、回し蹴りをネメシスに叩き込む。
普通なら吹っ飛ぶ。しかし相手はタイラントのジョーカー。
そのままガービッジの足首を掴む。
「潰れ…ちまいな!!」
パンッ―
馬頭は2発目を発砲し、ガービッジの足首を掴む腕を撃つ。
ネメシスは思わず腕を放し、その隙にもう一撃、ガービッジは反るような形で顎に蹴りを入れ、そのままバク転して距離を置く。
流石のネメシスもよろけ、その場に倒れる。
馬頭は弾を装填し、ドアとは反対方向にいる、気絶しているゴブに止めを刺そうと歩み寄る。
「何をしているんです!!早く逃げるんです!!」
「こいつに…止めを刺す!!任務を遂行するのよ!!」
口にくわえていた刀を手に握り締め口から離す。長い間くわえていたので刀がよだれの糸をツゥーッと引く。
しかし背後で誰かの気配がする。
「貴様ぁぁぁ!!この…くそビッチがぁぁ!!」
ネメシスが起き上がり今まさに攻撃を加えようとしていた。
馬頭は刀をもう一度くわえ、空いた手でゴブを掴み盾にする。
メキョメキョと音を立て、ゴブの心臓あたりを中心に周りの肉は集まっていく。
おそらく馬頭の見てきた死体の中でもかなりの変死体であろう、ゴブの左胸半分はごっそりとえぐれていた。
馬頭は手についたゴブの血をネメシスの顔にかけ、目潰しをする。
「うぅ…畜生!!なめやがっ…てぇ、死にぞこないがぁ!!」
所構わずこぶしを振り回すも、馬頭がいくら負傷しているとはいえ、こんな攻撃をかわすのはわけなかった。
「逃げるよ!!ガービッジ!!早く!!」
馬頭は刀を握り締め、走り出す。
「馬頭さんたちどこにいるんだよ〜。もうゴブ殺しちゃったのか〜。」
ブチブチと文句を言いながら俺は馬頭とガービッジを探し続ける。
阿防もイライラとしながら大麻に火をつけている。
「だいたいさぁ、別行動とった後にどうやって合流するか考えてなかったじゃん!!ったくさぁ〜。」
「あ、いた。うわっ!!」
俺は驚愕した。ちょうど突き当たりの廊下にはガービッジが居る。そして左腕のない馬頭が壁に手をつき今にも倒れそうだったのだ。
「え!?馬頭!!どうしたの!?あんた誰にやられたの!?」
さすがの阿防も驚きを隠せないようだ。俺は着ている上着を脱いで馬頭の身体に巻いて止血をする。かなり顔色が悪い。
「うっ…。よう…すけ……。早く…逃げな…きゃ。あいつが……ネメシスが来…る。」
呼吸が浅く速い。かなり危険な状態だった。
「畜生!!死なせてたまるかよ!!畜生が!!」
俺は馬頭を抱え歩き出す。
阿防はバットを構え周りを警戒しながら俺の護衛をしてくれた。
「ネメシスか…やばいよ。あいつは。相手が悪い。この今の状態で勝てるかどうか…、いや多分負ける。」
阿防は警戒を怠らない。それほどやばい相手だというのが分かる。
しかし今はそんな奴のことなどどうでもいい。早く脱出しなければ、馬頭の命が危ない。
馬頭はぐったりとし俺の耳元で浅く呼吸をしている。体が熱い。
「出口はどこだ!!くそ!!」
突き当たりの廊下で俺は周りを見回す。そして俺の眼に入ったものは一人の男。
「どうしたん?陽介?ん…誰だあれ?」
阿防は俺と同じ方向を見る。
「見つけた…ぞ。女ぁ!!そして…お前は…誰だ?あと白髪の女!!お前を…知っているぞ!!」
「陽介…。先に行きなよ。ここはさ、私に任せてさ。」
「でも…阿防サン!!あいつは…ネメシスですよ!!馬頭さんを倒した。危険です!!逃げましょう!!」
ガービッジは阿防を連れて行こうとしたが阿防は頑として動かない。
目つきは鋭く阿防ではない、別人の雰囲気が漂っている。
「いいから!!行け!!後で追いつく!!行けよ!!」
俺は阿防の気迫に押されて、なすがまま行くことにした。ガービッジは俺の護衛として付いてきてくれた。
阿防は右手で顔を覆い、紙を掻き揚げる。
そこには阿防はもういない。もう一人の人格、『羅刹』がいた。
「久しいね、ネメシス。」
「ふん。お前か。何故俺の邪魔をする?」
羅刹とネメシスは互いに対峙する。どうやら二人は顔見知りらしい。
羅刹は後ろポケットに入っていたレモンハートを取り出すとそれを一口、口に含んで飲み込む。
「はぁ〜。それが私の『任務』だからだよ。いつもは阿防に『身体』任せてるんだけどね。でもあんたをこの先に行かせることは出来ない。私の『任務』を全うできなくなる。」
そういってもう一口口に含む。
羅刹はバットを握るとビンを落とし、床に落ちて割れる前にバットで思いっきりビンを打った
。
ビンは正確にネメシスのほうへ飛んでいく。
「解除。割れろ。」
レモンハートのビンが空中で粉々に割れる。エネルギーを操作し、打ったときの衝撃を保存しておいたのだ。そして途中で”力”を解除し、ビンが割れ中の酒が四散しネメシスの身体にかかる。
阿防ジッポを取り出し口に含んだ少量のレモンハートを霧状に噴射する。
ジッポの炎はレモンハートに引火し、その火はネメシスの身体中に引火する。
「うおぉぉああぉあっ!!」
ネメシスは身体に引火した火を消そうと転げ回る。
そして身体についた火を消化したときにはすでに羅刹は消えていた。
「くそがぁぁあ!!あのアマぁぁ!!うぐぐ!!なめやがって…よぉ!ぶっ殺してやる!!」
俺は馬頭を抱えた状態で外に出る。そこには一機のヘリが置いてあった。すでにエンジンもかけてありプロペラも回っている。
「まぁまぁ早かったな。ガービッジ。時間通りだ。」
そういって男が降りてくる。
「『トッド・ラングレン』か。すいませんね。迎えに来てもらって。でももう少し待ってください。もう一人中にいるのです。」
屋敷にはすでに火の手が回っていた。
と、その時、窓を突き破って阿防が出てきた。
「阿防!!無事だったんだな!?よかった。早く乗れ!!脱出するぞ!!」
「わかった!!離陸させろ!!時間がない、奴が来る!!私は乗り移るから!!」
俺は馬頭を後ろの座席に寝かせ、離陸するように操縦士―トッド・ラングレンに促す。
屋敷からは轟々とオレンジ色の火の手があがっている。
「逃げれる…とでも!!思ったかぁ!お前等!!」
玄関ドアを”力”で破壊してネメシスが姿を現す。その手にはスティンガーが携えられていた。
「早く!!乗れ!!阿防!!」
俺は身を乗り出し、手を差し出す。
阿防は既に離陸し始めていたヘリにジャンプし、俺の手を掴むと俺は阿防をそのまま引き上げる。
「今日の仕事だ。」
俺は『愚者』を取り出しスライドを引いてもう一度ヘリから身を乗り出す。
ネメシスはスティンガーを構え狙いを定めてヘリに発射する。
迫り来る弾頭に狙いを定め俺は『愚者』を発砲する。
―ドンドン!
二発、正確に弾頭に当たり空中で爆発する。なんとか機体に直撃するのを防いだ。
ネメシスに目をやると、スティンガーを叩きつけ、ただただヘリを睨みつけているだけだった。
「今回の仕事は…なんとか成功だな。」
俺は座席に戻り深く腰掛ける。大きく息を吐いて外に目をやると自由の女神が目に入った。
阿防は大麻に火をつけ、ガービッジは馬頭の様態を気にしている。
馬頭の顔色はさっきよりも一層悪くなっている。
「だいじょうぶっすか?」
俺は馬頭の顔を覗き込む。
馬頭はうっすらと目を開け、微笑んだ。
「あたしが死んだら、あたしの貯金、全部寄付してくれていいよ。」
「…OK。大丈夫そうだ。」
俺は再度座席に深く腰掛け、眠りに落ちた……。
ネメシス=殴ったところを中心に半径50cm以内に存在するすべてのものがその中心に落ちていく。
落ちていくという表現を使ったのは、重力が関係しているためである。
本人曰く、この拳は小さなブラックホールを作り出すのだという。本人が巻き込まれるという危険はない。
スピードなどは関係なく、ただただ絶対的な破壊力がある恐ろしい”力”。故にネメシスはタイラントのジョーカー的存在として君臨する。