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第9曲:REDUNDANT

あれは……俺だ。


暗闇の中で死んだように座る紅髪の少年。


何故だろう?何故泣いている?


一人の女の子が俺をやさしく包む。


ああ、俺はこいつを知っている。でも記憶にない。


抱かれた俺は水泡となって消える。


行ってはいけない。消えてはいけない。おいていってはいけない。しかし連れて行ってもいけない。


なぁ俺は罪深い男か?


こんな闇の中、一人女の子をおいてけぼりにして泣かしてしまった俺は……。












目が覚めた。


いつものベッドの上。


なんか嫌な夢だ……。俺は女を泣かせるようなことはしたことがない。


ふと時計を見るとまだ朝の7時半だ。高校生をやめた俺にとって毎日が休日である。そして俺はふと物思いにふける。


ここは俺が望むような場所なのかと。


しかしすぐに考えるのをやめた。不安は心に恐怖を招く。


ベッドに腰掛けテレビをつけると昨日の立てこもり事件がニュースとなっていた。


「え〜一夜経って今だ犯人等は出てきておらず犯人等の要求、人質の安否も不明。現場周辺では警官と犯人等の緊張した状態が続いております。」


かつぜつのいい女性キャスターがセントラルタワーの前でリポートしていた。周りには野次馬や警官隊、他の報道陣らも集まっている。

まだ龍兵達は突撃していないようだ。


東京から名古屋まで時間はさほどかからないと思う。龍兵たちが向こうに着いたのは突入してもいい時間帯だっただろう。

しかし、向こうの指揮官がとどまらせたか、あるいは単にその時やるのはめんどくさかったのか。一夜明けても現状は変わっていなかった。


俺は着替えて引き出しの中から銃を取り出す。


愚者(フール)』それは並大抵では扱えないであろう重量感と威圧感をかもし出していた。


「……訓練しとくか。」


その時急にドアが開いた。俺は映画のようにとっさに銃を構える。阿防がそこにいた。かなり驚いている。

「…なんだあんたか。」

俺は銃を降ろす。

「っあ〜びびったぁぁ!!いきなり銃構えるなんてさぁ、普通しないって。」


「いきなりノックもせずに異性の部屋に入るのもどうかと思うよ。」


俺はそういうと阿防はくすくすと笑って部屋に入ってきた。

「そだね、わぁるいわるい。あんた起こしに来たんだけどさ、あんた早起きだね。」


「…別に今日はたまたま早く起きただけ。んで何のよう?ここに灰皿はないんだけど。」

俺は阿防に注意をする。いきなり人の部屋で巻きタバコを吸い始めたのだ。

「ん?ああ。ごめんね。てかニュースやってるし。まだ龍兵は突入してないんだ。」

阿防はテレビを覗き込む。まだ動きはない。


「ん。らしいね。まぁあの二人が突入すればラクショーっしょ。多分今日の夜辺りだと思うな。突っ込むのはよぉぉ。んで何の用かまだ聞いてないんだけど?」


俺はテレビを消した。阿防は俺のほうを向く。


「いやさね。あんた、訓練しなきゃ。シュギョー。その銃の。んで今から射撃訓練するから。その射撃訓練場にあんた連れてくように頼まれたの。」


阿防はそういってニカっと笑う。姉御肌な美人の女性。俺も思わず微笑んでしまう。


「分かりました。じゃ行くか。」

そういって俺と阿防は部屋を出て行った。












時同じくして、場所は離れ、名古屋。


「むあ〜。ねみ……。こんなもんよぉぉさっさと突っ込んでさぁ、全員殺して朝飯前ってしたいんだけど。俺としてはさぁぁ。牛頭さんもそう思うっしょ?」


龍兵は眠そうにあくびをして牛頭に話しかける。

現場近くのホテルでつい先ほど起きた龍兵に対し、30分も前から起きている牛頭はモーニングコーヒーをつくっていた。角砂糖を6個も入れる特別製だ。


「文句言うな。俺だって帰りたい。だがここの指揮官殿が夜まで待てというならそれに従うしかない。能無しの臆病者(チキン)は人質が殺されて自分の責任になるのが怖いんだろう。だからまごまごしてるうちに朝になったんだ。コーヒー飲むか?」


そういう牛頭もぶちぶちと文句を垂れている。龍兵の分もコーヒーを入れて片方を龍兵に渡す。


「あ〜なんかめっちゃすみません。コーヒーつくってもらっちゃって。メンドーすね。待つだけってのは。」

コーヒーを受け取りながら龍兵はあくびをする。

「つかテロどもの目的ってなんなんすかね?こんなんやっても何のメリットもねぇってのに。」

「わからん。俺達には関係ないことかもしれん。ん?」

牛頭たちのいる部屋の電話が鳴った。フロントからの電話か?

「もしもし?」

牛頭が電話を取る。

「あぁ!!繋がった!!こちらは大橋です!!指揮官の!!犯人等の要求が出たんですが…!!ああもう説明はこちらでします!!至急こちらに来てください!!」

そういって電話が切れてしまった。

「……牛頭さん。行くの?」


「ああ、まだコーヒー飲んでないのにな。クソ!!」


そういって二人は部屋を出て行った。






その頃、{日輪}本部射撃訓練には陽介がただただ黙々と銃で標的を撃っていた。


一発撃つごとに自分の腕全体に響く重い衝撃。


脳が射撃訓練に拒否反応を出しているのにもかかわらずひたすらに銃を撃ちつづける。


阿防と馬頭はその様子をただただ見守っている。


「……悔しいけど才能か…。」


馬頭は笑いながら呟く。


「そうだね。普通あんな銃、常人なら一発撃っただけで肩が外れる。なのにあの子はそれどころか標的に的確に命中させている。げに恐ろしき御守地の血か…。」


もう何発撃ったかなんて俺は数えていない。何回カートリッジを代えたかなんて覚えていない。


ただひたすらに汗をかきながら精神を集中して、出てくる的に銃弾を着弾させる。



「…すごいね。陽介は。」

阿防は長方形の小さな紙を取り出し乾いた葉っぱをパラパラとその上に乗せ巻きタバコを作りながらいう。


「彼は間違いなく天才だよ。銃の扱いに関してはだけど。」


巻きタバコに火をつけ煙をはく。


「あんたさ、まぁ私がどーこういうのもなんだけどさぁぁ、そろそろ『大麻(ソレ)』やめたら?」


阿防がさっきから吸っていたのはただの煙草ではなく、大麻だった。


「ははっ…、止められる訳ないジャン。頭ン中す〜〜〜っとしてさ。馬頭もやる?」

うつろな表情の阿防は大麻を一本取り出す。


「いいよ。私はこんなんやりたくない。美容の敵だよ。あんたは何故かなんの変化も出てないけどさぁぁ。身体によくないよ。」


「もう戻れないんだよ私も…。そしてこの日本も…。来るところまで来ちゃったから。」


そういって阿防は近くにあった椅子に腰掛ける。顔はさっぱりとした顔だったが、心なしか満たされていないような顔だった。


「なんでかなぁ。最近物足りないんだよね。大麻も、この生活にも。私自身にも……。」


「バカだよ。あんた。」



馬頭はそういって陽介のほうを見る。


足元には数え切れないほどの薬きょうが落ちていた。










「はぁ?なにそれ?」

龍兵は現場の本部でぽかんと口を開いていた。


「ですから説明したとおりです。犯人等の要求。『今から1時間以内に小型輸送機を用意し2億用意して屋上のヘリポートに止めろ。なるべく早く。1時間経ってもこなかったら人質を1人殺す。それから5分ごとに一人づつ殺していく。』犯人等の要求です。ど、どうしましょう?」

指揮官の大橋は汗をかきながらあせったように言う。


「どうしましょうってお前…今更ナニ言ってんだ?突っ込むに決まってんだろ。そのために来たんだ。俺等に名古屋を見物させるために呼んだわけじゃあないんだろ?」


牛頭はそういって本部を出て行く。龍兵も牛頭に続いて出て行く。


大橋はぽつんとそこに取り残された。






「さぁてと。どうします?とりあえず敵の数とかはまぁ聞いたから分かるとして、人質は?」

龍兵は今まさにセントラルタワー最上階へと向かうエレベーターに入ろうとする牛頭に質問する。


「あぁそれについては考えがある。とりあえず仕事をしろ。」

そういってエレベーターに二人は乗る。


「天国に一番近い地獄か。」

牛頭はそう皮肉ると刀を抜いた。



チン!!



ガーという音がしてエレベーターのドアが開く。

皆一斉にエレベーターのほうを見る。人質も、犯人等も。そして皆固まっていた。

刀をもった牛頭がただ一人だけ立っていた。龍兵は透明になっていた。

見回すと人質であったであろう死体。人質に選ばれずに殺された死体が無造作に転がっていた。


武装したテロの一人がおもむろにサブマシンガンを牛頭に向ける。


牛頭は近くにあった死体を掴むとソレを盾にしサブマシンガンの攻撃を防いだ。


そして死体を持ったままサブマシンガンを撃っているテロに近づき死体ごとテロを刀で貫いた。


「死人にくちなし。文句はいえねぇぇよなぁぁ。」

そういって牛頭は死体を捨てる。


「てめぇぇぇぇ!!やりやがったなぁぁぁ!!あろっ!?」


もう一人のテロがハンドガンを牛頭に向けたがその時こめかみに穴が開いた。

龍兵が透明状態からもとの姿に戻り姿を現した。

先ほど牛頭に銃口を向けたテロの死体のこめかみにはナイフが深々と刺さっていた。


「牛頭さん。残りは3人っすね。ラクショー。」


そういって周りを見回すと人質が隅のほうで震えて固まっていた。


他の仲間が来ないということはこの階にはもういないらしい。


そう思っていた矢先、人質の塊の中からテロが一人出てきて銃を乱射する。


龍兵と牛頭は二手に分かれて銃弾を避ける。龍兵は避けながらナイフを投げたがテロには当たらず人質の額に刺さってしまった。


「やっべ。殺しちゃった。」


しかし牛頭の攻撃は当たっていた。投げた刀は円を描き回転しながら正確にテロの腕を吹き飛ばした。


「ぐっぎゃぁぁぁぁ!!うっうっ腕ぇぇ!!腕がぁぁ!!」


テロはパニクっている。どうやら自分に起きた出来事が認められないようだ。

牛頭はテロに蹴りを入れると髪の毛を掴む。

「おい、他の仲間はどこにいる?正直に言えよ。したらまぁ命は助けてやる。」


「はぁぁはぁぁ、ほ、他のやつは、はぁボ、ボスが、お、屋上にいる。もう一人はい、い、いまこっちに呼んだ。もうすぐ来る。」


そういうや否やエレベーターのドアが開いた。龍兵はナイフを投げた。今度は正確に、テロの額に刺さった。


「よ〜〜しよし。おりこうさんだお前は。大丈夫。命はちゃんと助けとくから。お前の根性次第だが。」

そういって牛頭はもう片方の腕も切り落とす。


「ぐぁぁぁぁ!!」

テロは悲痛に泣き叫んでショックで死んでしまった。



「ああ…。死んだ。根性なかったのな。俺屋上行ってくっから。」

そういって牛頭は屋上へと続く階段を昇っていった。





一人の男がヘリポートのど真ん中で死体を椅子に座っていた。

「時間まであと53分42秒、41秒…。」

自分の腕時計を見ながら時間を数えている。牛頭は男に気付かれないよう後ろから忍び寄る。


「とまれ。あんた俺に何の用があってここに来た?」

男は銃を構えながら牛頭のほうを向く。


「……お前の仲間は全員死んだ。人質も解放された。そして俺はお前を地獄に堕とすために派遣された鬼だ。」


男は深いため息をつくと携帯を取り出す。



「計画は失敗だ。グッバイ。」

それだけ言うと男は携帯をきる。


「誰と話してたんだ?」

牛頭は笑いながら質問する。


「愛する妻とだよ。」

男は冗談の入り混じったような笑いをしてスイッチを取り出した。


「賭けよう。あんたと俺が勝負して勝ったら俺だけ逃がしてくれ。もし俺が負けたら殺してくれていい。」


「逃げることは出来ない……か?」

牛頭は辺りを見回す。爆弾らしきものはない。


「ここに爆弾はない。だが威力は大きい。勝負するしかないと思うが?」

そういって銃を捨てる。素手での勝負らしい。


「わかった。どうせ勝つがな。」


牛頭も刀を捨てる。



地面に刀が落ちた瞬間、男は走り出す。牛頭は男の攻撃を迎撃する態勢に入った。

男の右ストレートが繰り出されたが牛頭は身体を右に傾けソレをよける。

しかし男は既に左アッパーを牛頭の顎へと繰り出していて、正確に牛頭の顎へとヒットさせた。


「直撃!!ダウンだ!!」

男はコレで勝ちを確信したと思った。普通の相手だったらソレは叶ったであろう。しかし相手は普通の相手ではない。ましてやその気になれば世界へヴィー級チャンピオンすら倒せるような実力を持った相手だ。

牛頭はその腕を掴むと思いっきり捻った。


メギャゴキン!!ブチブチ!!


骨が折れる音。そして筋肉が断裂する音がして男の腕はありえない方向へと曲がっていた。


男はひるまずに更に牛頭の顔面へ右ストレートを繰り出す。しかし牛頭はソレを首だけ動かして避け、繰り出された右腕を肩の上に乗せて関節を掴んで思いっきり下へと引く。


ベギン!!

男の右腕のひじの関節までもが折れた。男はその場に倒れこみ苦痛の表情をしていた。

もう戦うことは出来ないだろう。


「っよぉ〜。生きてるか?俺の勝ちだ。一つ聞かせてくれ。誰がこの事件の黒幕だ?」

牛頭は倒れている男に覗き込むように言った。

男は牛頭に聞こえるかどうかの小さな声で囁いた。


「……『TYRANT』…。」


牛頭はそれだけ聞くと顔を上げた。


「…なるほどな。あの狂った暴君どもめ。」


それだけ聞けば十分だった。牛頭は刀を拾い男の喉に突き立てて止めを刺す。

男は口からごぼごぼと血を吐き出し絶命した。

牛頭は携帯を取り出し去蝶に電話をかける。


「もしもし。仕事は終わった。なんの滞りもなく問題なく。全く以って順調で仕上がった。そして裏が取れた。『TYRANT』。タイラントだ。やつ等が動いている。」


「なるほどね。しょうがないやつ等。蹂躙して蹂躙されて、殺戮をして殺戮をされ、君臨して君臨され、滅ぼし滅ぼされてもまだ飽き足らない。どうしようもない人外の無法者ども。」


去蝶は落ち着き払った声で『TYRANT』を毒づく。何かしら因縁があるようだ。


「やつ等、ここを吹っ飛ばすつもりだったらしい。爆弾なんか仕掛けてやがった。全く以ってやつ等はイカれてるな。まぁ目的は知らんが。」

牛頭は呆れたように去蝶にいう。


「ふふっ。まぁいいわ。あなた達は帰ってきなさい。そこを爆破させてね。」

去蝶の言葉に牛頭は絶句する。ソレを察したのか去蝶は牛頭に説明をする。


「いいのよ。この日本を裏で牛耳るからには一度脅しをかけておいたほうがいいの。」


「わかった。んじゃ今日中にそっちに戻る。」


牛頭は刀を死体から抜き取ると血をふき取って刀を鞘に納めた。














その日の夜。


本部の射撃訓練場には一人の男がいた。


「……はぁはぁ。腕イッテェ…。」

俺は『愚者(フール)』を台の上において近くの椅子に腰掛ける。

汗の量がすごく、先ほど立っていた俺が先ほどまで立っていた場所には水溜りのようなものが出来ている。つまり一日中ここにいたということだ。

当然龍兵達の動きはわからない。


「お疲れ様。どう?少しは当たるようになった?」

そういって部屋に入ってきたのは阿防だった。りんごをかじりながら『愚者(フール)』を俺に渡しながら阿防は言う。


「ん…。まぁ、ね。そろそろ帰ろうかなって思ってたとこ。」

阿防はフーン、といってかじっていたりんごを標的の出てくる場所へと投げる。



ドン!!


一発の重い銃声。そして無残にも粉々に砕かれたりんご。

俺は一発で正確に動くりんごを打ち砕いていた。


「……恐るべき才能ね。一日でこんなにも使いこなせるとなんてね。」

阿防は心底感心したように言う。俺はふふっと笑いながら席を立って部屋を出て行く。


「陽介、銃の手入れ忘れんなよ。」

阿防は部屋から出て行く俺に向かって一言だけ言った。俺はOKサインのために振り向かずに阿防へと手を振る。





部屋についてテレビをつけると今日事件のニュースがやっていた。

俺は汗をかいていたので個室にあるシャワーで汗を流そうと服を脱ぐ。ニュースは見ない。聞くだけだ。

「え〜昨日から続いていたセントラルタワー立てこもり事件ですが、犯人等が自爆するという

衝撃的な結果で幕を閉じました。」


俺はシャツを放り投げるとテレビのほうを凝視する。


聞き間違いか?自爆だと?


アナウンサーは現場の周辺でリポートしていた。周りには瓦礫やら救援隊やら野次馬やらが見える。朝みたニュースとはうってかわった映像だった。


「この自爆により人質を含め死傷者は60人を超え、現場周辺は救援や瓦礫の撤去などの活動に追われています。」


「…しくじったか?龍兵が?牛頭さんが?…ないな。ありえない。つーことは二人は自爆に巻き込まれて死んだのか?」

俺は部屋で独り言を言う。その時ドアを叩く音がして俺の思考は一時的に中断される。


「開いてるよ。あけるのが面倒だからそっちからあけて入ってくれ。」

俺はそういうとドアが静かに開く。そこには龍兵がいた。


「よぉぉ〜。陽介、お前訓練してたんだってな?少しは上達したか?」


「龍兵!!」

俺は驚きを隠せなかった。しかし当の龍兵は別段驚いた様子もなく首をかしげる。


「ナニ驚いてんのお前?あれか?お前俺が死んだと思ってたろ?ぶっちゃけ俺も牛頭さんも死んだと思ってたろ?まぁ俺は寿命が来るまで死ぬ気は毛頭ないけどなぁぁ。」


「あぁ、死んだと思っていたよ。自爆が起きたからな。巻き込まれたかと思ってた。」


「はぁぁぁ?巻き込まれるかよ。俺等は最初(ハナ)ッから安全圏にいて爆破させたんだ。」

龍兵はさも当たり前に言うと机の上にあるクッキーをつまみ俺の部屋にある椅子に深く座ってクッキーをかじる。


「去蝶さんがよぉぉ。なんか爆破させるようにいったんだと。まぁコレは日本に対する警告だ。これからはこんな事件(こと)を起こすのは容易いってことを政府への警告にしたんだ。まぁ後は俺等の存在が人質にバレたしな。こっちも丁度良かった。」


「なるほど。日本を裏で動かすならこういうことをして脅威を示しておけばこんな事件をいちいち起こされるのも日本としては困るだろう。やり方によっては内閣をも動かせれる。ある意味日本で力を握れる。」


俺は少し考えた後にこの答えへとたどり着く。龍兵はクッキーをすべて頬張った。


「まぁ半分当たりか。そうなったらいいんだけどよぉ、どっこいそうもいきそうもない。この組織に相反する組織がからんでっからなぁぁぁ。」


そういって龍兵はため息を吐いて、あくびをする。


「相反?{日輪}のほかにも組織がいるってぇのか?どんな?」


俺はさっきから質問ばかりしている。それはまだこの世界について詳しく分かっていないということを示している。


「そりゃあオメェェ、似たようなもので相反する組織はあるだろぉよぉぉ。まぁむこうも在るべきではない存在だが俺等とは違う。水と油だ。」


ソレを聞いて俺はしばらく考える。そして一つの答えが頭に浮かんだ。


「……ウァラウァラとか、そーゆう系か?」


「オ〜イエ〜〜ス!!あいつ等は昔から俺等と対立している。見解の相違か、目的の(たが)えか、因縁か、俺等にはわからんがね。一ついえることはあいつ等は狂っている。薬をやってるとかじゃあない。ただ純粋に狂ってるんだ。俺等とはまた違う、危ない狂気だ。タイラントはな。」


そういって龍兵は大きくあくびをし眠そうに目をこすった。時計を見ると既に11時を回っていた。当然龍兵は眠いだろう。なにせ任務が終わって帰ってきたばかりなのだから。


「タイラント……。狂気をまとい、独裁の鉄槌を下す暴君ってことか。ならばこちらも呆れかえるほどの狂気を滲ませ、銃を構え、刀を握り、血で手を洗い、高らかに笑い返せばいいじゃあねぇか。」


俺は笑いながら龍兵に問う。龍兵も笑いながら椅子に深く腰掛けるようにし、人差し指を俺に刺す。


「ソレはいい!素敵だな!!とてもとても素敵だ。歌いながら舞台を血で彩って、死体(かんきゃく)をつくってその中で踊るんだ。身震いする程素敵だ!」


龍兵は話し終えて少しフフッと鼻で笑う。


「だが無理だろうな。あいつ等も負けん気が強い。俺等と同じくらいな。狂気に対しソレ以上の狂気を以って対応すれば、やつ等もそれ以上の狂気をもつだろうな。」


「永遠のイタチごっこか……。でもよぉぉそれはそれでよしじゃねぇか?それはそれできっと素敵だろう?」


俺はバスタオルを手にとって洗濯機の中に服を突っ込む。


「陽介…。考え方が変わったな。どうした?」


「別に…。悟った。というよりただここが俺の望んでいた場所なのかを確かめたくなったんだよ。龍兵は?ここがあんたの望んだ場所か?」


俺は龍兵に問う。龍兵は大きなあくびをし、椅子に座りながら足を伸ばした。


「ん〜〜…。考えたこともなかったなぁ。ただ気付いたらここしかなかった。」


そうか、と俺はそう呟いてシャワーを浴びようと残りの服を脱ごうとした。そして眠そうな龍兵に一言言っておいた。


「おい龍兵。眠いんならよぉ、自分の部屋で寝ろよな。俺のベッドは女の子しか寝ちゃダメなんだよ。」


「へいへ〜〜い。」


龍兵はそういってしぶしぶ部屋を出て行った。俺はそれを見送ると残りの服を洗濯機の中に入れシャワーを浴びた。













同時刻、社長室……



「牛頭、お疲れ。やっぱりタイラントのやつ等も動き出したのね……。これからやつらとは戦争になるかもしれないわ。」


社長室で去蝶は寝巻き姿でくつろぎながら牛頭に言う。牛頭はフフッと笑う。


「何を今更。という感じだな。まぁやつ等が来るというなら迎え撃つ。こないというのならこちらから仕掛けるつもりだったんだろう?」


去蝶も微笑む。牛頭の言うとおりだったのだ。


「狂気に対し、更なる狂気。面白いけど今はそんなことやってる場合じゃないしね。こんなのがきたし。」


そういって取り出したのは一枚の手紙。


「お茶会の招待状。」


去蝶はそれを牛頭に渡す。牛頭は一度封を開けてあるその手紙をよんだ。


「去蝶殿、桜舞い散る季節も終わり日に日に暖かくなってきております。貴殿は如何お過ごしでしょうか?つきましては25日の午後3時にお茶会と密談を催したいと思う次第であります。場所はカフェ『アウェイ』にて。」


「タイラント当主、ハルフォード・エヴァネッセンス。」


「ふふ、ふふふ。やつ等がどう出るか、面白そうでしょ?まぁどんな話になっても最終的にはやつ等には消えてもらうけどね。日本に君臨する狂気と切り札は一つで十分。ふふふ…。」













翌日、つまりは手紙を受け取った次の日。


貸し切り状態のカフェでは一人の男が本を読んでいた。歳は30歳くらいの若さでテーブルには紅茶がある。

そしてその男の護衛であろう男が脇で壁にもたれかかってなにやらぶつぶつ言っている。

身長は180後半くらいのかなりの長身で女顔負けのさらさらの黒いショートヘアー、服装は今風の服装で顔は美形のまさにカッコイイという言葉がピッタリと似合う男だ。


「何をぶつぶつ言っている?ハスカー・ドゥ。」


ハスカー・ドゥと呼ばれた青年はへらへら笑いながら男の問いに答える。


「あ〜暇だから羊数えてたンすよ。今1456頭いったとこっすよ。でも眠くなったから5、6頭数えてなかったかも知れないけど。」


青年は陽気に言う。


男は紅茶を飲んだ。まだ熱いので少ししか飲めない。


「…来ました。来ましたよ。去蝶だ。」


約束の時間に寸分違わず去蝶は現れた。護衛であろう少年が後から続いてきた。少年の服装は黒いニット帽にダボダボで左肩部が露出している服装だった。

背は160後半だったがハスカー・ドゥに比べると小さく見える。


「のと、今何時?」


のとと呼ばれた護衛の少年はストラップの着いた携帯を取り出す。


「ん〜あ〜俺の携帯10分すすんでっから今3時。」


「待たせたかしら?」


相も変わらず妖艶な声で男に話しかける。


「いいえ、とんでもない。全く問題はありませんよ。初めまして、ハルフォード・エヴァネッセンスです。タイラントを束ねております。」


作り笑顔の丁寧な紳士的な口調が逆に神経に障る。去蝶は男の向かい側の席に座り手紙を取り出した。


「去蝶です。今日はお茶会にお呼びしていただき感謝しております。それで、この手紙の意味は?ただのお茶会などではある分けないものね。」


「えぇえぇ。密談ですよ。率直に言おう。我々に下って欲しい。」


男はストレートに去蝶に言う。去蝶はふふふ、と苦しそうに笑う。体全体が揺れて本気で笑っているようだ。


「ごめんなさい。あまりにおかしくて。我々があなたに下れと?ふふふ!面白いわ。そうね。あなたが消えてくれるなら考えるわ。」


男は相変わらず表情を崩さずに去蝶に脅しをかける。


「間違えるなよコレは交渉ではない。あなた方にチャンスをやろうというのだ。本気になれば貴様等を潰すことなど造作もない。ふざけるなよ売女(ビッチ)!!」


その言葉を言うや否やのとは獣のようなすばやさでハルフォードに襲い掛かる。


しかしその襲撃はハスカー・ドゥによって阻まれた。右腕のひじを捕まれ、動かない。


そしてその時右ひじが外された。骨が外されたとかそういうものではない。


まるで簡単に知恵の輪を外すようにするりと腕が外された。当然ひじから先の感覚はない。


「なっ!?」


ハスカー・ドゥはのとの右腕を持っている。血がぽたぽたと滴り、多くの出血はなかった。


「てめぇぇぇぇ!!なに攻撃してんだぁぁ!?護衛の仕事は『護る』んだろうがぁ!!攻撃してきてんじゃあねぇぇ!!あとよぉぉこの腕、いらねぇぇよな?」


そういってハスカー・ドゥはのとの腕を食い始めた。獣の様ににのとの腕を喰っている。


「おれぁぁよ、牛とか豚より人の肉のほうが美味いと思うんだよなぁぁぁ!!去蝶だっけ?お前も食わせてくれ。俺の腹の中にお前を収めたい!!」


ハスカー・ドゥは口の周りを紅く染め、服も紅く染め、ただただ腕を貪りながら軽く発狂していた。


「てめぇ、ナニ人の腕喰ってんだぁぁ!!この食人鬼がぁぁぁ!!」


自分の腕が喰われて激怒するのとを去蝶は制止する。


「腕は後で恩羅(うら)に治してもらいなさい。ハルフォード。契約はなしよ。あんたに下るつもりもないしあんたを下らせる気も幾ばくもない。あんたらには消えてもらうから。」


そういって去蝶は席を立つ。


「交渉は決裂か。それはそれでいい。抗え、仰げ、生き永らえろ!墜ちて、這い上がって来い。戦い抜いたその狂気を我々の狂気が飲み込んでやる。」


ハルフォードは席を立った去蝶を見送りこの言葉を投げかけた。


「おいてめぇ、名前なんつーんだ?」


のとはハスカー・ドゥに名を尋ねた。


「ハスカー・ドゥだ。お前は?名前。教えろよ。名前。」


「『のと』だ。お前ぜってぇぇぇこの腕返してもらうからよぉぉぉ!!覚悟しとけよぉ!!」


そういって店を出て行った去蝶を追いかける。



店の中はハルフォードとハスカー・ドゥの二人だけとなった。



「戦争だ。いいぞ。戦争だ。これはいい。これも一興だ。日本を地獄に変えるぞ。かつてない地獄にするぞ。地獄はここに在る!ハハハハハァ!!」


ハルフォードは大きく笑って顔を抑える。


紅茶は既に冷めていた。

”力”の補足です


ハスカー・ドゥ=関節(ジョイント)のあるものなら何でも外す能力。例えば鉄パイプは部品(パーツ)ごとにバラバラに出来ないが、椅子ならば部品(パーツ)ごとに分けられる。溶接された棒でもそれには関節があるので外すことができる。

人体の場合、関節ならどこでもいい。足の小指の関節から首まで外すことができる。あくまで能力によって外しているので痛みはなく、首を外しても意識はある。

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