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沙也香の二

                4


『危険な別口が、よけろ』

 頭の中に声が響く。隼人がみれば黒っぽく細い棒を持った敵が迫っていた。

「……スタンロッド?」

 棒の先端から電光。隼人は警告に従い素早く後方に退く。

「死ねや!」「つうっ!」

 男の怒号。隼人の反応は少し遅れた。後ろには沙也香とアスカ。電撃を完全

にはかわし切れない。

「大丈夫なの!」「しっかりして!」

 半分意識のとんだ隼人の耳に沙也香とアスカの悲鳴が届く。警告が聞こえて

いなければまともにスタンロッドを受けていたかもしれない。

『気をつけろ。本番はこれからだ。奴らは普通の人間じゃないぞ』

「分かっているよ。素人相手にスタンロッドを使うなんて」

 今までは出来るだけ認めまいとし続けてきたがここまではっきりとした意志

に、隼人も答えざるを得なくなった。

 隼人は自然に声との会話を始めた。

「こうなったら我々も武器を出す。沙也香さんにアスカさん!」

 清彦が後方の娘たちに指示を出す。ここまで追い込んできた相手、こちらも

対抗策をということで隼人たちもそれそれに得物を用意していた。

「隼人君、木刀」「精二、バット」

 沙也香とアスカが五人の荷物の中から得物を取りだし男の子たちに手渡す。

「こうなったら私も戦います!」

 沙也香が自らの木刀を取りだし隼人の横で半円陣形に加わる。沙也香も剣道

の有段者、その気になれば並の男より戦闘力はあった。

「これはテニスのラケット。でも重い」

「僕の趣味はテニスなんだ。これは腕の鍛錬用に芯に鉄を使った特製ラケッ

ト」

 最後に持ち出された大型のテニスラケットを清彦が握り隼人たちの戦闘態勢

が整った。

「舐めんじゃないぞ、ガキども。ぶっ殺してやる」

 男たちも一斉に木刀やスタンロッドを取り出す。幸い真剣や拳銃のたぐいは

ない。

「沙也香嬢には傷ひとつ付けるな。ガキどもも沙也香嬢の恨みは買いたくな

い。殺すまではするな」

 隼人たちは安心できるかどうか。微妙な言葉を龍司が漏らす。

「行けー!ガキなんぞ、ぶっ倒せ!」

「迎え撃つぞ!ロートルに負けてたまるか」

 男たちと隼人たちの怒号が交差し、再度両者の乱闘が始まった。

「この野郎!卑怯な手を使いやがって」

 隼人の木刀が容赦なく組員の手足を打つ。

「小手!胴!上段!」

 強烈な気合いと共に沙也香も木刀を男たちに叩きつける。

「このくそガキ!大人を舐めるな!」

「上の命令さえなければぶち殺してやるのに」

 組員も木刀を持った男を中心に反撃を加えてきた。

「この野郎!おいらのバットは痛いッすよ!」

「ラケットだと思って甘く見るな!鉄心の威力を思い知れ」

 得物に不安もあるが精二と清彦もバットとラケットをを振り回す。   

「この、近づくな!男なんてこの世から消えてなくなれ!」

 アスカは精二の荷物から何個かの硬球を見つけて投げつけていたがずぐに弾

切れとなり今はただ怒鳴っていた。

「グオッ、このガキども!」

「調子に乗りやがって」

 取り囲む男たちの口から苦悶の声が聞こえ始めた。戦いは隼人たちに有利に

進みつつあった。取り敢えず沙也香の参戦が大きい。女子といえども剣道の有

段者。木刀を握れば戦闘力は並の男を上回る。

 その上に彼女には傷をつけることも許されていない。完全な反則的存在だっ

た。もっとも隼人たちも背後に戦闘力皆無なアスカと沙也香の父親を抱えてい

た。安易にうってでる訳にはいかない。

 争いは膠着状態に陥りつつあった。

「ガキどもが、しぶとい!こんな段階でつまずくとは。こうなったら力を見せ

るのも仕方がないか?いいですか教祖さま」

 歯ぎしりをしながら戦況を見守っていた山上龍彦は息子に卑屈な視線を送っ

た。現世ではともかく教団では上位。自分では決められない重大な選択らし

い。

「だらしない教団員ではあるが、それも教祖の私の至らないところ。宜しいで

しょう。古き血の力、見せてあげなさい」

 父親の言葉に息子が尊大に頷く。

『……もう力を出す気になったのか。我慢が足りないな』

「力って何だ?まだ奥の手を隠し持っていたのか?」

『みていれば分かる。ちょっと驚くことになるかもしれないが』

 頭の中に響く声に隼人は訝しそうに眉を寄せた。

「………?」「………?」

 隼人の奇行。隼人の頭の中だけの声は沙也香たちには届いていない。変人を

見る目で隼人を見てしまう沙也香たちだった。

『さあっ、来るぞ。気をつけろよ』

「敵は何かをしてくる。とんでもないことになるかもしれない」

 隼人の声に焦りの色が混ざる。組員たちの気配が変わった。仕掛けてくる。

「………!」「………!」

 無言のまま教団員でもある龍田組組員が再度襲ってきた。怒号もなになく静

かだが、それがより不気味さを増す。

「やられてたまるか!沙也香は渡さない!」「絶対にお嫁になんて行くもので

すか!」

 隼人と沙也香は声をそろえて男たちを迎え撃つ。

「なんだこれは?おいらこんな感触は初めてッす」

「これは打撃が滑ってる?」

 組員たちを殴りつけた精二と清彦の口からとまどいの呟きが漏れた。ぶつか

った瞬間のグニャとした反応。異様な感触に二人の顔色が青くなった。

「なんだよこれは?」「これは鱗?」

 それは隼人と沙也香も同じだった。組員の皮膚の色が青黒くなり、細かな文

様、鱗状に組員の皮膚が変化してきていた。

『古き血の力が目覚めたのだ。変化はまだ続くだろう。彼らはどこにでもある

単なる血縁的な宗教団体ではない』

「古き血の力って何なのだ?何がどうなっている?」

 隼人は頭の中に話しかけた。どうなっているのかまるで分からない。

「隼人君、何を言っているの?気を確かに持って」

「そうッす。おいらも沙也香さんに賛成ッす」

「何をやっているのよ。これだから男なんて心底から信用できないのよ」

 沙也香、精二そしてアスカが奇異の目を隼人に向ける。訳の分からない独り

言を垂れ流す隼人が不気味な気がして。

「何か秘密があるのか?隼人君には今起こっていることに説明がつくのか?」

 唯一、冷静な視線で清彦は隼人みた。

「俺の頭の中で誰か知らない奴が話しかけてきているんだ。そいつはこの事態

を予測できていたらしい」

「隼人君、頭の中って?」

「こいつはサイコ野郎?」

 不信感も露わに女の子二人が隼人からちょっと距離を置く。

「そんなことよりおいらまで頭がおかしくなッすか?みてみるッすよ。あいつ

ら魚みたいになってきたッす!」

 組員たちの様子をうかがっていた精二が悲鳴を上げた。

 精二の指摘の通り組員たちは皮膚の鱗どころか骨格まで変化してきた。縦に

薄っぺらくまさに魚の顔に。

「実際にこんな変化が起こっているんだ。隼人君の頭の中の誰かも実在かもし

れない」

 冷静に清彦が呟く。自分でも本気で信じてはいなかったが、誰かがみんなを

落ち着かせる必要があった。

『奴らは古代の化け物。血の中に潜む、いっそ邪神と言っていいか。誰か私の

声を聞ける人間がいればな。少しは私が奴らに対抗できる力を与えることが出

来るかもしれない。元々の同調者である隼人君。君にも当然』

「誰か俺の頭の中の声が聞こえる奴はいないのか?聞こえれば少しチャンスが

出来るかもしれない?」

 隼人の言葉に沙也香たちは顔を見合わせる。どうしたらいいのか誰にも分か

らない。

「分かったわ。私は隼人君の言うことを信じる。今まで助け続けてくれた隼人

君を疑う必要なんてどこにもないもの」

 決心したのは沙也香だ。残りのアスカたちは信じたくても出来ない様子だ。

『いいだろう。集中して私の声を聞いてくれ。まずは私ではなくこの少年に同

調してくれてもいい』

「声が言っている。俺と気を合わせてくれてもいいらしい」

「分かったわ。隼人君に気を合わせる」

 言うと沙也香は目を閉じ、しっかりと両手で隼人の右手を握った。

「こんなにのんびりしてていいの?」

 組員たちに目を向け、アスカが焦った声を上げる。

「奴らも変化の途中だから動きが鈍い。ここは僕と精二で護る」

「おいらのバットは痛いッす」

 組員を見据えながら清彦と精二は改めて得物を握りしめた。

『沙也香嬢は古き血の者の血筋と聞く。感受性の高さは半端ではないはず。も

っともその分、暴走する危険性も高いのだが。隼人君、彼女と気を合わせるの

だ』

「沙也香は特別の存在らしい。大丈夫。沙也香なら大丈夫。声はきっと聞こえ

る」

 隼人は言うと握った握った右手を引き寄せ、残った片腕を沙也香の体に回

す。

「………分かった」

 抱きしめられたからだが心地よい。沙也香は額を隼人の方に預けた。

『私の声を聞かなくてもいい。隼人の心を感じてくれ。聞こえるはずだ隼人の

心に同調した君なら聞こえるはずだ。感じてくれ』

「君なら聞こえるはずだ。感じてくれ」

 心の中の声と隼人の声が同調する。

「………聞こえるはずだ。感じてくれ」

 そして沙也香の心も重なっていく。沙也香は隼人の言葉と同時に、頭の中に

直接響く声を感じた。

『少し通じた。今度は沙也香嬢に直接伝える。我は精神に寄生する者。そして

古き血の者に敵対する存在』

「……古き血の者に敵対する存在」

「沙也香、聞こえたな。彼の声が」

 沙也香に通じた。信頼が通じた。隼人は破顔した。

「私にも聞こえた。隼人は確かに誰かと話している。嘘でも幻でもない誰か

と。アスカたちだって本気で聞こうとすれば聞こえる」

「今度は俺たちが護る。清彦たちも声を聞いてくれ」

 沙也香と隼人は言うと自らの木刀を構え組員今や魚人たちの攻撃に備えた。

『少しだが力を与えよう。信ずればいい。もう力は君たちのものだ』

「なんだ木刀が燃えている」

 隼人の木刀にチラチラと炎の舌が宿っていた。木刀が少し焦げて、焦げ臭い

匂いがあたりに漂う。

「これが与えられた力?私は電撃?」

 沙也香の木刀には電光のスパークが走っていた。隼人の木刀同様に少し焦げ

臭い。

「炎に電気だと?」

「おいら自分の目が信じられないッす」

 清彦と精二の目が驚きに見開かれる。

「言葉じゃ信じられないけど、実際にこんな奇跡が起こっている。本当に頭の

中の声っていたんだ」

 信じられないけど、信じるしかない。飛鳥の目もまた大きく見開かれてい

た。

「まさか精神寄生体がきていたとは?」

「まずいな。人間相手なら十分だが、彼らまできていたのなら準備不足だ」

「ここは退くしかないか?」

 山上親子は顔を見合わせると頷きあう。

「魚人ども、ここは退く。命拾いをしたな、少年たち。次にあうときが君たち

の最後だ」

 落ち着いた言葉遣いだったが明らかに悔しさのにじむ声で山上の息子が言

う。

「そっちこそ今度あったらただではおかない。二度と来るな」

 隼人が言い返す瞬間にも化け物たちが退いていく。正直にもうみたくない。

隼人の内心はホッと安堵していたが、退いていく山上たちを見る目は険しいも

のだった。


5


 現在の文明が誕生する遙か以前、現在の文明とは方向性が違う文明が存在し

ていた。物質よりも精神性を重視した文明。

 そこに古き血の者が襲いかかってきた。どこから来襲したのかは分からな

い。宇宙だとか異次元だとか時間の狭間だとか。

 とにかく古き血の者は古代の文明世界を浸食してきた。血を当時の人類に与

え姿を変異させ下僕とした。

 従わないものは滅ぼそうとした。

 当時神として古代文明に君臨していた精神に寄生する者は古代人類に力を与

え古き血の者との戦いに突入した。

 力を与え武器を与え古き血の者とその下僕との戦いに明け暮れた。

 戦いは結局痛み分けに終わった。下僕と共に古き血の者は撤退し、どことも

しれない場所に身を隠した。

 しかし古代文明も力、そして資源を使い果たし衰退の道に陥った。

 それが精神に寄生する者の語った彼らの歴史だった。

「そしてあなたがその生き残り?」

 隼人は低く呻くと頭の中の存在に話しかけた。

『我々は滅んでなどいない。無数に分かれ人々の頭の中に潜んでいるだけだ。

もっとも細分化しすぎて自我を持つ者は滅多にいないが』

 心外だと言わんばかりに精神に寄生する者は憤慨して見せた。

「とにかく古き血の者もどこかに逃げたものの滅んではいないのですね?」

 沙也香は現状を整理すべく精神に寄生する者に話しかけた。

『我々も正直に言って弱体化している。しかし古き血の者は肉体を持つ者。決

して不死ではない。我らと同じく彼らもかなり弱体化をしているのだろう』

 沙也香の実家。篠宮邸での戦いを思い出し、精神に寄生する者は重々しい声

を発した。

 夏休みに突入してから十数日。真夏の太陽が照りつける東陵高校の校庭に隼

人や沙也香たちはいた。

「ちょっと聞きたいのだけど、本当に沙也香たちには精神に寄生する者の声が

聞こえているのよね?」

 風の吹かない校庭。隼人たちの横で体育座りをしていたアスカは時折体操着

の短パンの裾から風を中に送りみつつ隼人たちに聞く。

「実際に隼人たちは超能力を獲得しているのだからいるのだろうとは思うが」

「おいらたちには全然精神に寄生する者の声なんて聞こえないッす」

 清彦と精二は互いをみると小さく息をついた。彼らもアスカ同様に体操着姿

だったし、実のところ隼人と沙也香も白いシャツに短パンの体操着姿だった。

   

 別に体育の授業ではない。

「信じるしかないけど、この耳で聞かないことには」

 アスカは肩をすくめると疑念を隠さない視線を隼人と沙也香に送る。結局精

神に寄生する者の声を聞くことが出来たのは隼人と沙也香だけだった。

 アスカたちはついに精神に寄生する者の声を聞くことはなかった。

『仕方があるまい。精神を重視した先の文明においても全ての者が私の声を聞

いたわけではない。物質重視のこの世界なら声を聞ける同調者が一人でもいた

だけでも有り難いところだろう』

 精神に寄生する者が自嘲気味に漏らす。

「確かに精神に寄生する者の声は聞こえなかったみたいだけど、古代の武器は

アスカたちだってもらったでしょ?」

 沙也香はアスカに向かって小首を傾げる。古代文明がいくら精神重視だって

実際問題として物質を軽視していいわけがない。

 古き血の者との戦いにおいて精神に寄生する者の声が聞こえず力を与えられ

ないからといって戦力として利用しないわけにも行かない。

 古代人も武器は当然利用した。

「それは確かにもらったけど、活用は簡単じゃないわ。あたしの今の力ではう

まく動かせないもの」

 精神に寄生する者からアスカがもらった武器。

 正確には精神に寄生する者の言葉を元に篠宮工業の技術者が開発した武器

は、空に浮かぶナイフ。これを特殊な糸で自在に操れというものだった。

 中国武術にも似た技法があるが、これのコントロールが難しい。重力の影響

を受けない分、操作は楽だというがとんでもない。アスカは刃のついてない状

態で使わせてもらったが、ナイフがどこに行くか見当もつかない。

「おいらも大変だったッす」

「……僕も確かにね」

 男二人がもらったのは炎の剣。

 空気を振動させ、摩擦で炎を生み出すという触れ込みだったが、脈動する空

気の影響で細かく剣自体が振動しているので使いづらいったらない。

「原理はともかく、現代科学では再現不可能。精神に寄生する者がサブコント

ロールしていなければとても使い物にならないんだから」

 あわてて隼人がフォローにはいる。

「でも本当に使いこなすには私たち自身が心と体を強化しなければ、精神に寄

生する者がいくら頑張ってもどうにもならないの」

 沙也香が言う。それは真実だった。結局何かをものにするには自覚が必要だ

った。

「よし休憩終了。ランニングに戻るぞ」

 隼人が号令を下す。やはり力を持ち精神に寄生する者と最初に接触した隼人

がリーダーに相応しい。それは五人の合意だった。

 心と体共に鍛えるのにはやはり運動。ということで隼人たち五人はテニス同

好会を立ち上げた。いつも一緒に運動して心身を鍛え、武器を使いこなせるよ

うにし、同時にチームワークも育てる。

 選択したテニスに特に理由はない。沙也香や清彦のような資産家の子女に相

応しく、よい隠れ蓑になると思ったからだ。

「みんな行くわよ。ランニング五キロ!」

 沙也香が叫ぶ。元々運動部出身の隼人、沙也香、精二には特に長い距離では

ない。清彦もすでにテニスをやっていてランニングは通常のことだ。

 一人アスカの顔が暗い。

「テニス同好会、レッツゴー!走れ、走れ」

 完全にヤケになってアスカは先頭を走り出した。


「効いた。もう死ぬ。死んでしまう」

 アスカは腰を伸ばしながら低く呟く。ザッーと言うシャワーの音。小柄な体

を冷水が流れ落ちていく。

 自慢の大きな乳房が重たくてたまらない。

「大げさです。まだテニス同好会は始まったばかりですよ」

 真夏の太陽にほてった体に冷水が心地よい。東陵高校運動部共同の女子シャ

ワー室だ。

 本来は同好会に使用する権利はないのだが、そこは生徒会長と学校のマドン

ナ。さらに両方の親とも資産家で学校に多大な寄付。

 そんな二人が所属する同好会。無理を通せば道理は引っ込むのであった。

「でも沙也香のスタイルいいよね」

 シャワー室だから当然のこと。二人とも全裸だった。

 目の前の沙也香の肢体。冷水の流れゆく濃く陰った股間にまでさり気なく、

しかししっかり視線をやるアスカはレズっ娘が再燃したかのようだ。

「アスカさんの胸だって大きいじゃないですか。ほかだって十分に細いし」

 負けてならじと沙也香もアスカの体を見返す。

「でも信じられないな。見た目そんなに筋肉ついているようには見えないの

に、あれだけの運動こなして平然としてるし?」

「隠れてはいますけど、お腹の肉の下で筋肉ちゃんと割れていますよ。腹筋だ

って毎日千回はこなしてますから」

 どこのお嬢様だと言いたいことを沙也香は平然と宣う。

「でもどうすればそこまで体を鍛えられるのかな?初日であたし挫折しそうだ

し」

 本気で悩むアスカに沙也香はからかう気になった。

「男の子にほめてもらうといいと思います。男の子の前で全裸で立つとなった

らみっともない姿は見せられませんから」

 クスッと笑うと沙也香はアスカの顔を見る。赤くなった顔を見ようとしたの

だ。

「清彦と精二にさんざん見せているけど、慣れって怖いよ。ちょっとくらいお

腹出ていたりしても、結構平気なものだよ?」

 小首を傾げながらアスカは言う。

 もう二人に全裸を見せるような仲なんだ。既に男女の仲?でも清彦と精二の

二人!三角関係?まさか三人プレー?

 龍田組の襲撃。何回か清彦と精二にかばわれているうちに、アスカの男に対

する抵抗感が薄れてきたのは確か。

「東城さん、清彦君たちと付き合っているの?」

 いくら奥手でも沙也香だって女の子。どうしてもその手の話題に興味は隠せ

ない。

「あたしは基本的に女の子が好きなの。匂いは心地よいし、抱きしめたときの

柔らかさは筆舌に尽くしがたい。でも、やっぱり本能には勝てないもの」

 アスカの唇から沙也香にとって刺激的手な言葉が発せられ、沙也香は思わず

言葉を詰まらせる。

「護られて感じた。男は力強い。清彦君と精二君、二人ともね。女として、い

え雌として子種が欲しくなった。動物のもっとも基本は子孫の存続。分かるか

な?」

 アスカは沙也香の沈黙に言葉を重ねていく。

「それで二人とも付き合っているの?それってどうなのかしら?」

 アスカの言葉は分からないでもない。正直に言って、沙也香だって隼人の子

供なら授かってもいいと思う。しかしそれ以外の男とは。

「男は自分の子孫が欲しい。だからほかの男は邪魔。でも女は違う。この先も

生き抜いていける強い子供が欲しいだけ。清彦君と精二君。二人の優劣が完全

についたら絞れるけど、今は無理。まあっ、所詮は迷ってることの言い訳だけ

ど」

 サラッとアスカは言う。

「二人とも女の子の扱いになれていて夜も気持ちよくしてくれるの。その上若

いから、力強くて参ってしまう。ちなみに、さすが二人同時はないから安心し

て」

 考えてみれば方向性は違うが、清彦も精二も何人もの女の子と付き合ってい

るある意味スペシャリスト。

 アスカだって女の子が相手ではあるが性の伝道者だ。興味はあっても、その

手の事に恥じらいが残る沙也香や隼人とは年期が違う。

「………!」

 アスカの過激な発言に沙也香が真っ赤になった。


「では対古き血の者の対策会議を開く。まずは野々宮から」

 カラオケルームの一室に隼人の声が響く。さすがにカラオケルームだ。音響

効果がバッチリ。平日昼間限定の三時間パッケージ。さすがに夏休み中だけあ

って、普段のこの時間帯よりも多少割高だ。それでも機密が保ちやすく、値段

もリーズナル。ちなみに監視カメラの類はない。

 それは学校内なら只だが沙也香たちは目立つ。生徒の一人でも巻き込んだら

大変だ。

 色々考えて、このカラオケルームを隼人は学生である自分たちにとっていい

チョイスだと思っていた。

「まず現状報告ですが、今のところ山上一派の動向はつかめていません。同業

者も行方は知らないそうです。よほど深く潜っているのでしょう」

 隼人の発議を受けて清彦が現状の説明を始める。情報源は自分の父親と沙也

香の父親。財界に力を持ち各種の情報を集めるのに不自由はしない。裏でつな

がっている暴力団からのたれ込みもある。小さくても妙な力を持ち、目障りな

存在の龍田組。ほかの組にとって潰すのに躊躇はないだろう。

 なのに見つからない。地下で悪巧みを進めているのは間違いなかった。

「正直、不気味ですがどうしようもありません。我々はこの間に出来るだけ我

々のレベルの底上げを図っていきたいと思います」

 清彦は説明を終えた。

「具体的にどう鍛えるッす?今のままでいいのッすか。おいらは鍛錬に慣れち

ゃってるから、そうそうレベルは上がらないッすよ」

 困惑したように精二が挙手をし、訊いてきた。

「あたしはそう無理をしても体をこわすだけだと思う。今まで夜にちょっとだ

け体を動かした程度だし。正直、無茶!」

 首をひねりながらアスカは際どいことをいい、なぜか清彦と精二が赤くなっ

た。

『困ったものだ。私なら直接精神を鍛えることも可能だが、声が聞こえもしな

ければそれも不可能だし』

『聞こえるのは相性もあるからな』


6


『誰だ、君は?仲間か?

 精神に寄生する者は突然聞こえた別の個体の精神波に驚きの念をとばした。

彼にとってもこれは初の体験。その精神波は安堵を遙かに上回る戸惑いに満ち

ていた。

「何だ今の声。おいらの頭の中に響いたッす」

 精二がキョロキョロと周囲を見回す。

「僕にも聞こえた。これが精神感応?」

「あたしにも。本当に頭の中に響くんだ」

 清彦とアスカも周囲に視線を走らせる。今まで精神に寄生する者の声を聞く

ことが出来ず、蚊帳の外に置かれていた三人が驚きの声を上げた。

「二人目か。もしかしたらどこかにもっと?」

「人によってやっぱり感じが違うのね」

 隼人と沙也香は軽く息を漏らす。精神に寄生する者がもう一体、それもアス

カたちにも認識できる存在。これで隼人たちとアスカたち三人はもっと分かり

合えるだろう。

 沙也香と隼人にも嬉しい出来事だった。

『我は甘くないぞ。明日からは覚悟をしておけ』

 第二の精神に寄生する者は低く笑う。

「やったー!これであたしも超能力が使えるんだ!」

 思いっきりジャンプ。自慢の大きな胸を揺らし、アスカは満面の笑みを見せ

た。

「こうなったら前祝いをしないと」

「おいらアニメの曲入れてもいいッすか?」

 清彦は内線を取ると軽食の注文を始め、精二はカラオケ曲集を開く。三人の

喜びが弾けていく。

「こうなったら俺も色々と注文するぞ!」

「甘味はあるのかしら?甘味は」

 三人の喜びに隼人と沙也香も巻き込まれた。隼人が清彦の持つ内線に手を伸

ばし、沙也香は横からくちばしを挟む。

『仕方がないか。私も肉体が欲しいところだな』

『我は初めてだ。このような騒々しい者たちは』

 二体の精神に寄生する者は騒がしい五人の若者に微笑ましいものを感じてい

た。


『この娘はいけない。古い血筋どころか、中に潜むのは古き血の者そのもの。

幸い覚醒はしていないものの、いつ目覚めるか分からない。刺激させぬため、

我らの存在に触れない方がいいだろう。接していて、今まで気づいていなかっ

たのか?』

 沙也香の心に触れたとたん後から出現した精神に寄生する者の口調が険しく

なった。

『気づいてはいた。しかし手が足りなかった。慎重に接すれば古き血の者を覚

醒させず、力だけを利用し、有力な戦士に育てる事も可能だと思ったのだ』

 対して先任の精神に寄生する者が低く漏らす。

「本当に沙也香は危険な存在なのか?俺にはそう思えない」

 二体の精神に寄生する者の論争に隼人も加わった。

『娘の中で眠る古き血の者は強大だ。我にも絶対に目覚めるとはいえない。し

かし目覚めないともいえない。触れぬ方が賢明なのは確かだ』

 後任の精神に寄生する者が隼人に説明する。

「私は隼人君と一緒に戦いたいと思います。私が抜けたら戦士は四人。ただで

さえ数が少ない戦士なのに一人でも抜ければ戦いはどうなるの?」

 沙也香は唇を震わせると顔を昂然と上げた。

「確かに篠宮君は我々の中でも最有力な戦士だ。彼女がいないと正直困る」

 清彦は後任の精神に寄生する者の声しか聞こえない。それでも全体の話を聞

いていれば論争内容くらいは推察できた。

「でも本当に古き血の者は来るの?もしかしたら来ないかもしれないじゃな

い。それに警察や軍隊だっているのにあたしたちだけで戦う必要なんてある

の?」

 アスカはもっとも基本的な疑問を全員にぶつけてきた。いつの間にか流され

ていたが考えれば無理のある設定ではあった。

『気持ちは分かる。しかしまず古き血の者は来る。沙也香という娘に眠る血。

見逃すには貴重すぎる。それに完全に覚醒した古き血の者に並の武器は通じな

い。核まで使えば通用するとは思うが、実際には使えまい。すでに顔を覚えら

れている今。我らが戦うしかあるまい』

 無念そうに後任の精神に寄生する者が言う。

『鍛えるしかない。一度は追い落とした相手だ。勝てる見込みは決して小さく

ない』

 先任の精神に寄生する者が言った。

「戦うしかないのよ。私たちの平穏を護るには戦うしかないの。逃げていても

追ってくるのだから」

「そうッすよ。逃げて後ろから襲われるくらいなら正面から戦う方が安全ッ

す。おいらはそう思うッす」

 沙也香の断言に精二も同意した。すでに駒は振られているのだ。いまさら逃

げるのは無理だった。

『仕方がないか?後には引けない。戦える可能性のある者には戦ってもらうし

かない』

 後任の精神に寄生する者もついに決意を固めた。近い未来に備え、五人と二

体の特訓が開始された。


「おい沙也香、気をしっかりと持て?俺の言葉が聞こえるか?」

 隼人が沙也香の元に駆けつける。いきなりの危機だった。精神に寄生する者

と心を合わせ、それに自分の精神力を上乗せし能力を発揮する二回目の訓練で

沙也香の中の古き血の者が目覚め始めてしまった。

「沙也香しっかりして!分かるアスカよ?まだあなたのバージンもらってない

のに、何おかしくなっているのよ?」

 危ない台詞、全開でアスカも沙也香にしがみつく。

『だから危ないと言ったのだ。我々が接触すれば余計におかしくなる。君たち

で何とか篠宮嬢を押さえてくれ!』

 セカンドの声が隼人やアスカたち四人の頭の中に響く。精神に寄生する者。

彼らには個体名がなかった。直接心で話すので、精神に寄生する者間では判別

は簡単らしい。

 しかし隼人たちには区別が判然としなかったので、後から登場した精神に寄

生する者にはセカンドと名付けた。

 先任者は当然ファーストだ。

「今更そんなことを言っている場合っすか?落ち着いて沙也香さん。落ち着く

っす!」

 無責任な精神に寄生する者の言葉に腹を立てながら、精二も必死に沙也香に

呼びかけていた。

「何とか出来ないのですか?このままではその古き血の者とかが蘇るのでしょ

う?」

『何とかしたい。しかし篠宮嬢の中の古き血の者は敵性種族でもある我々に反

応している。下手に手は出せない』

 苦々しいファーストの言葉。清彦の言葉は必死だが、当面の役には立たなか

った。

「苦しい。何か出てきそう。落ち着け私。こんな事に負けない」

 沙也香は呻く。一番必死なのは当然だが本人だ。

「沙也香、落ち着け。お前の精神力はそんなものじゃないだろ!」

 苦しさに暴れる沙也香。隼人は思いっきり抱きしめると耳元で叫ぶ。

「苦しい。苦しいの。誰か私を、私を!」

 隼人に抱きしめながらも沙也香の苦しみは収まらない。沙也香の頭の中で二

つの意識が激しく争っていた。

「大丈夫だ。大丈夫だから。落ち着け沙也香。お前は強い。大丈夫だから」

 外からではどうにもならない戦いに隼人は自らの精神力を沙也香に注ぎ込ん

でいく。木刀に精神力を注いだ時を思い出しながら。

 しかしなかなか発作は治まらない。

「苦しいの。出てくる。奪われる。誰か、隼人!」

 いつの間に唇を噛み破り沙也香は暴れる。血が滴って服を濡らす。

「頑張れ沙也香。俺がついている。そうだ。誰か俺のドリンクを。許せよ、沙

也香 」

「これでいいのか隼人!」

 言うと隼人は訓練後用に用意してあった強い刺激性の特性ドリンクを清彦か

ら受け取り自分の口に含み、沙也香の唇に己の唇を押し当てた。

「飲んでくれ、沙也香!」

 気付けになるのではないのかと思ったのだ。血とドリンクが混ざり合う。

「……う、ううっ?」

「よし、もっとだ!」

 沙也香の喉がコクッと鳴る。少し飲んだ。唇から力が抜け半開きになった。

今だもっと沙也香の口を開かせるのだと、隼人は自らの舌を沙也香の唇に差し

込む。

 涎と血とドリンク。何ともいえない味が沙也香の口の中に一気に広がった。

「うっ、うえっ、マズ!何これ?」

 自由にならない舌を動かし沙也香は呻く。そして気づく。今の自分の状態

に。

「なっ、何をしているのよ?隼人!」

 状態から言えばディープキッスだった。周囲にはアスカや清彦、精二たちが

固まっていた。みんなに見られている。

 恥ずかしさが怒りに転化した。沙也香の右手が後ろに大きく引かれる。

「ま、待て、沙也香。話を聞け!」

 必死の説得の隼人。沙也香が聞くとも思えない。隼人の口の中が一瞬にして

カラカラになった。水分を求め喉が鳴る。

「……問答無用!」

 涎と血とドリンク。沙也香も飲んだ激マズのカクテル。

 隼人が味わうまもなく、引かれた沙也香の右手が大きくしなう。すごい勢い

で戻された手のひらが隼人の頬を思いっきり打った。

 パァンと言う小気味のいい音が周囲の空気を震わせた。

 隼人の頬はしばらく真っ赤な手の跡が赤々と残ったという。もっともこの後

二人の中はさらに進展したのだが。


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