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お姉さんと僕  作者: 埴輪庭
第3章

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第19話「日常㉟(御堂聖、牧村綾香)」

 ◆


 僕らは一旦マンションへと引き返す事にした。


 隣を歩く牧村さんの姿は痛々しい。服はボロボロになってしまっているし太ももと脇腹の傷からはまだ血が滲んでいる。僕が貸したパーカーを羽織ってはいるけれどこのまま「じゃあ後は気を付けて帰ってくださいね」なんて言えるはずもなかった。


 それに、なるべく表には出さない様にしているけれど僕も結構疲れていたりする。傘の子やお姉さんが力を貸してくれた反動かもしれない。ただ以前のように立っていられないほどクタクタになるわけではない。少しずつこの異常な状況に慣れてきているのかもしれない。


 紫色の空の下瓦礫の散らばる道を二人で歩く。沈黙が重い。


「……ありがとうね、助けてくれて」


 しばらく歩いた後牧村さんがぽつりと呟いた。


「いえ……」


 僕はそれしか答えることが出来なかった。


 ──色々見られちゃったなぁ


 傘の子の大暴れは確実に見られた。あとはお姉さんの事も見られちゃったのだろうか。あの尾崎という男の首がありえない方向に曲がったあの瞬間。あれはお姉さんがやったことだ。


 僕が普通じゃないということだけはバレてしまっただろう。でも牧村さんの様子を見る限り僕を拒絶しているようには見えない。余り気にしていないみたいで良かった。


 そういえば最近気づいた事がある。なんというか傘の子もお姉さんもはっきり言って容赦がない。でも二人から感じる感情は全然違う。


 傘の子は良くも悪くもフラットだ。感情がないわけじゃないけれどなんというか例えるのは難しいけれど……。しいて言うなら虫の駆除だ。それも例のあの黒いやつとかじゃなくて例えばコバエとか。


 もし部屋の中を飛んでいたら手で追い払ったりはするかもしれない。一匹とかだったら何もせず無視するかもしれない。ただ腕にとまってきたらパチンと潰してしまったりする。コバエが可哀そうだとかそんな事は思ったりしない。傘の子はそんな感じなのだ。


 でもお姉さんは違う。


 お姉さんの行動には明らかな意思が感じられる。もしコバエがいたらお姉さんはきっとハエ叩きを取り出し執拗に追い回すだろう。一度叩くだけじゃなくて何度も何度も叩く。そんな感じだろうか。


 昔何かあったのだろうか? お姉さんの事をもっと知りたいけれど、どうにも聞きづらい。人それぞれ、つつかれたく無い過去っていうものがあるはずだ。


 ちなみにクロはうーん。よくわからない。


 クロは僕とか悦子さんとかはともかく他の人達に関しては視界にもはいってないって感じがする。まるで空気のように。


 そんな事を思っているといつの間にかマンションについていた。道中牧村さんは全然喋らず僕も話題を振れなくてほとんど無言で気まずかった。


 部屋の前で牧村さんが立ち止まる。


「御堂君、その、今日は本当にありがとう。おかげで助かったよ、あと、服も……」


「いえ、気にしないで下さい。僕も牧村さんにはお世話になってますから。あと、パーカーはあげます。僕のじゃなくて、部屋にあったものだし……」


 そういうと、牧村さんはもう一度お礼をいって部屋の中へ入っていった。


 ドアが閉まる音を聞いて僕は深く息を吐いた。僕もなんだか疲れちゃったし少し休もうかな。


 ◆


 いつの間にか眠っちゃったらしい。でも起きていないのが分かる。これは夢だ。でもここはいつもの場所じゃない。


 ……というかさすがに僕もこれがただの夢じゃないのは分かるけれど起きたらほとんど忘れちゃっているのが残念だ。夢の中の事は夢の中でしか思い出せないっていう事なのだろうか。


 ここは……なんというか一言で言うなら「田舎」だろうか。動画とかでよくみる感じの田舎だ。昔の農村って感じがする。


 でも大分さびれているというか荒れている。


 周りには田んぼが広がっているけれど稲……なのかな? 見る限りしおれてしまっているし土もぱさぱさだ。まるで長い間手入れされていないみたいに。


 ここはどこなのだろう。何をどうすれば“起きる”事が出来るのかわからないし僕はとりあえず周囲を調べる事にした。

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― 新着の感想 ―
牧村さん両太ももに銃弾ぶち込まれたんですよね?流石に歩くの無理では
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