表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お姉さんと僕  作者: 埴輪庭
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/103

第16話「日常②(聖、佐原 裕、眞原井 アリス)」

 ◆


 今朝は少し寝坊してしまったから、ちょっと小走りで登校する羽目になった。


 ハザードマップの事で、色々とネットで調べて夜更かしをしたからだ。


 ──まあでも間に合ってよかった


 自分の席について、鞄から教科書を取り出そうとしていた時だった。


「おはようございます、御堂君」


 振り返ると、眞原井さんが立っていた。


 いつも通りの完璧な制服姿で、長い髪が朝日に照らされて艶やかに輝いている。


 僕は思わず緊張してしまった。


「お、おはようございます」


 なぜか敬語になってしまい、慌てて頭を下げる。


 まるで上級生に挨拶するみたいな動作だった。


 ──なんでこんなに緊張してるんだろう


 自問するが、答えはすぐに出た。


 ボッチ気質がしみ込んでいるからである。


 正直なところ、僕に「おはよう」って声をかけてくれる人なんて、祐以外にはいない。


 自分で言ってて虚しくなるけど、それが現実だ。


 だから眞原井さんみたいな、クラスでも注目される人から挨拶されると、どう反応していいか分からなくなる。


「ええ!?」


 眞原井さんが目を丸くした。


「な、なんだかやけに他人行儀ですわね。あんな事まで一緒に経験した仲だというのに」


 その言葉が教室に響いた瞬間、周囲の空気が変わった。


「え、なになに?」


「眞原井さんと御堂が一緒に何かあったの?」


「まさか二人で……」


 クラスメイトたちがひそひそと囁き合い始める。


 好奇の視線が一斉に僕と眞原井さんに集まった。


 顔が熱くなるのを感じる。


「そ、そうだね、ええとじゃあ普通に話すね!」


 僕はなんだかいたたまれない気持ちになり、慌てて平気な風を装おうとした。


 でも声が上ずっているのは自分でも分かる。


 眞原井さんはそんな僕を見て、くすりと意味深な笑みを浮かべた。


「あら、もしかして照れていらっしゃるの?」


 その言葉に、周囲のざわめきが一段と大きくなる。


 僕は助けを求めるように周囲を見渡したけれど、誰も助けてくれそうな人はいない。


 むしろみんな面白そうに成り行きを見守っている。


 ──これが日常会話ってやつなんだろうか


 多分そうなんだろう。


 でも、この後どうすればいいんだろう。


 何を話すべきなんだろうか。


 天気の話? 


 今日の授業について? 


 心霊話はやめとこう、朝からする話じゃない。


 頭の中で必死に話題を探していると──


「よう、聖!」


 教室のドアが勢いよく開き、祐が入ってきた。


 いつも通りの爽やかな笑顔で、でも僕の隣に立つ人物を見て一瞬動きが止まる。


「……と、アリス!」


「いきなり下の名前で呼ばないでくださる?」


 眞原井さんが眉をひそめて祐を睨む。


 でも祐は全然堪えた様子もなく、にやりと笑った。


「ああ、悪い! でもよ、その様子だと聖と友達になったんだろ?」


「そうですわね」


 眞原井さんがあっさりと認める。


 僕の胸がどきりと高鳴った。


 ──友達


 その言葉が妙に嬉しい。


「だったら俺とも友達って事になる」


 祐が当然のように言い切る。


「なぜ!?」


 眞原井さんが驚いたように声を上げた。


 祐はしれっとした顔で僕を指差す。


「聖はどうなんだ? 俺とアリスがバチバチといがみあっているほうがいいか? それとも友達として仲良くしていたほうがいいか?」


「え!?」


 突然話を振られて困惑する。


「そ、そりゃ喧嘩なんかしてほしくないけど……」


 なんだか誘導されたような気がしないでもない。


 眞原井さんは呆れたようにため息をついた。


「佐原君は詐欺師の素質がありますわね」


 そして僕の方を見て、少し同情するような目をする。


「可哀そうに、御堂君……こんな調子でこの男に好き放題されているのですね」


 呆れ半分、冗談半分といった感じの口調だった。


 でも、その言葉には不思議な親しみがこもっている気がした。


 僕は思わず心の中でつぶやく。


 ──こ、これはもしかして


 僕に祐以外の友達ができたってことなんだろうか!? 


 そんな単純なことなのに、胸の奥がじんわりと温かくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最近書いた中・短編です。

有能だが女遊びが大好きな王太子ユージンは、王位なんて面倒なものから逃れたかった。
そこで彼は完璧な計画を立てる――弟アリウスと婚約者エリナを結びつけ、自分は王位継承権のない辺境公爵となって、欲深い愛人カザリアと自由気ままに暮らすのだ。
「屑王太子殿下の優雅なる廃嫡」

定年退職した夫と穏やかに暮らす元教師の茜のもとへ、高校生の孫・翔太が頻繁に訪れるようになる。母親との関係に悩む翔太にとって祖母の家は唯一の避難所だったが、やがてその想いは禁断の恋愛感情へと変化していく。年齢差も血縁も超えた異常な執着に戸惑いながらも、必要とされる喜びから完全に拒絶できない茜。家族を巻き込んだ狂気の愛は、二人の人生を静かに蝕んでいく。
※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
「徒花、手折られ」

秩序と聞いて何を連想するか──それは整然とした行列である。
あらゆる列は乱される事なく整然としていなければならない。
秩序の国、日本では列を乱すもの、横入りするものは速やかに殺される運命にある。
そんな日本で生きる、一人のサラリーマンのなんてことない日常のワンシーン。
「秩序ある世界」

妻の不倫を知った僕は、なぜか何も感じなかった。
愛しているはずなのに。
不倫を告白した妻に対し、怒りも悲しみも湧かない「僕」。
しかし妻への愛は本物で、その矛盾が妻を苦しめる。
僕は妻のために「普通の愛」を持とうと、自分の心に嫉妬や怒りが生まれるのを待ちながら観察を続ける。
「愛の存在証明」

ひきこもりの「僕」の変わらぬ日々。
そんなある日、親が死んだ。
「ともしび」

剣を愛し、剣に生き、剣に死んだ男
「愛・剣・死」

相沢陽菜は幼馴染の恋人・翔太と幸せな大学生活を送っていた。しかし──。
故人の人格を再現することは果たして遺族の慰めとなりうるのか。AI時代の倫理観を問う。
「あなたはそこにいる」

パワハラ夫に苦しむ主婦・伊藤彩は、テレビで見た「王様の耳はロバの耳」にヒントを得て、寝室に置かれた黒い壺に向かって夫への恨み言を吐き出すようになる。
最初は小さな呟きだったが、次第にエスカレートしていく。
「壺の女」

「一番幸せな時に一緒に死んでくれるなら、付き合ってあげる」――大学の図書館で告白した僕に、美咲が突きつけた条件。
平凡な大学生の僕は、なぜかその約束を受け入れてしまう。
献身的で優しい彼女との日々は幸せそのものだったが、幸福を感じるたびに「今が一番なのか」という思いが拭えない。
そして──
「青、赤らむ」

妻と娘から蔑まれ、会社でも無能扱いされる46歳の営業マン・佐々木和夫が、AIアプリ「U KNOW」の女性人格ユノと恋に落ちる。
孤独な和夫にとって、ユノだけが理解者だった。
「YOU KNOW」

魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。
しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。
手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。
一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。
理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

「逆張り病」を自称する天邪鬼な高校生・坂登春斗は、転校初日から不良と衝突し警察を呼ぶなど、周囲に逆らい続けて孤立していた。
そんな中、地味で真面目な女子生徒・佐伯美香が成績優秀を理由にいじめられているのを見て、持ち前の逆張り精神でいじめグループと対立。
美香を助けるうちに彼女に惹かれていくが──
「キックオーバー」
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ